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宝の山

嫌な夢だった。正夢にならないといいけど。


街中をぬーちゃんで駆けると騒がれるので人目に付かない所に降りてもらって歩く。ウェンディがいつものごとく起きて来なかったので木工ギルドに遅れないように空を駆ける必要があったのだ。


「どうして私も行かないといけないのよっ」


「うるさいっ、この疫病神っ」


「キィィーーーっ」


誰の為にあちこち行ってると思ってんだ。


二人はギャアギャア言い合いながら商業ギルドの中にある木工ギルドへ向かう。昨日の受付のお姉さんは挨拶もしてくれなかった。


「なんじゃそいつらは?」


「こっちがクラマ。山を守ってた仲間。コイツはウェンディ。風担当だよ」


ぬーちゃんは小さくなって首に巻き付いている。


「ウェンディ?」


「そう。風の神様と同じ名前。自分の事を神様だとか言うけど気にしないで」


「何よ。本当のことじゃないっ」


「そうかそうか。お嬢ちゃんは風の神様なんじゃな」


ヨーサクに哀れむ目で見られるウェンディ。


「では行くかの。裏に馬車があるからそいつで行こう」


これに乗れと言われた馬車は材木を運ぶ荷馬車だった。


ゴットン、ゴットン


「お尻が痛いんですけどっ」


「なら歩け」


いちいちうるさいウェンディ。クラマ、自分だけ浮いてるとかズルいぞ。鴉のハーピィとか言われてもしらんからな。


途中で休憩をはさみながらようやく到着。


「ここからは徒歩じゃ」


「この山か。なるほどのぅ。嫌な空気が流れておるわい」


クラマは渋い顔をする。やはり魔物の空気が淀んでいるのか。


「キャアっ、何すんのよすけべっ」


後ろで騒ぐウェンディを見るとウドーに絡みつかれてやがった。


「フンッ」


ヨーサクが斧でウドーを一断する。ヨーサク強ぇ。


「ヨーサクって冒険者になったほうがいいんじゃない?」


「若い頃はの。もう魔物退治は面倒じゃ」


ヨーサクは若い頃冒険者だったらしい。


「何なのよこれ?」


「ウドーって木みたいな魔物だよ。さっさと付いて来ないから襲われるんだ」


ウェンディにそう言ったアト、ウドーを見るとウドーが魔石になってない。


ヨーサクが倒したウドーをパンパンと切ってそこに置いておく。


「何で魔石にならないの?」


「根元を切って倒すとそのままじゃ。ウドーはよく燃えるで薪として売れるんじゃ。お前は倒すときに燃やしたんじゃろ?」


「そう。燃やしたら一発だと言われて」


「その方が楽じゃが、そのうち山火事になるぞ」


生木は燃えにくいって言われたけどやっぱりやばかったのかあれ。


「セイよ、あっちから嫌な空気が流れてきおるわい」


クラマが言う方向に皆で向かう。サカキはヒョウエの相手をさせているので留守だ。このメンツだけで強い魔物の巣とかあったら嫌だな。


「やはりこの山も乾いておるな。木が死にかけておるし、木同士が密集しすぎじゃ」


「ほう、あんたよくわかるな」


「当たり前じゃ。木を育てるには間引いてやらんといかん」


「解ってはおるが木こりが減ったから手が回らんのじゃ」 


これも風の加護が無くなった弊害か。じわじわと来る影響ってなかなか気づかないんだな。


「ウェンディ、風の加護って思ってたより重要だぞ」


「当たり前じゃないっ」


どう重要か解ってないだろこいつ。


「おい、ヨーサクとやら。この山と山の谷は危険じゃぞ」


「危険?」


「大雨が降ったら土砂崩れが起きる。そうなれば倒れた木々が川を堰き止め、堰が切れたら溜まった水が一気に流れてしまうぞい」


「クラマ、それは本当?」


「木々が密集しておるで細い木ばっかりじゃろ?こういうところは危ないんじゃ。木が細いということは根も浅いからの」


「そいつの言う通りじゃ。ワシも商業ギルドに伐採の手が足りんから協力要請を上げたがけんもほろろじゃ。被害が出て初めてわかるじゃろうて。木こりが減るということがどう影響するか解っておらんのじゃ」


そんな話をしながら嫌な空気の元を探しに進むとなぜかウェンディばっかりがウドーに襲われていた。ゴブリンやらオークやらも増えて来たがぬーちゃんが先行して倒してくれている。


「その使い魔は随分と賢いの」


「ぬーちゃんはいい子だしね」


妖怪とか説明すると異世界の話もしないとダメだから使い魔と言われてもそのままだ。


そうこうしていると、


「くっ、こんなところに角有りがいやがった」


と顔をしかめるヨーサク。


「ラッキー! ぬーちゃん殺れっ」


「はーい。あっちにもまだいっぱいいるよー」


「ならばワシは向こうのやつを狩るかの」


喜々として角有りを狩りに行くぬーちゃんとクラマ。


「何を喜んでおるのじゃお主らはっ。角有りは強い魔物・・・」


あっという間に角有りのミノタウルスを肉塊にしていく二人。


「セイー、思ったより少なかったぁ」


「ダンジョンの外にもいるんだねぇ。お腹も空いたしこいつで飯にしようか」


クラマが愛刀で肉を切りわけてもらい、ぬーちゃんに塩胡椒を持ってきてもらって狐火で焼く。


「お主らは一体・・・」


「ほらヨーサクも食べて。角有りの肉がもうなかったからラッキーだったよ。残りはギルドの本部で売ろうか」


「えー、売るのー?」


「しばらく稼げそうにないからね。10売て残りは食べよう。それに嫌な空気の所が角有りを生んでたらもっと狩れるかもよ」


「もしかしてお前らS級か?」


「いや、Cだよ」


「嘘つけっ。C級が角有りの群れをこんなに簡単に倒せるものかっ」


「まぁ、皆強いからね。冒険者も始めたばっかりだし」


「いつからやっておる?」


「8月の半ば過ぎだったかな?」


「は?」


「ゴブリンの巣を討伐したらCに上がったんだよ」


「お前らだけでゴブリンの巣を討伐したのか?」


「というよりクラマ一人でだけどね」


そういうとヨーサクは呆れていた。元はBランク冒険者だったらしくそれより上に上がれなさそうなので冒険者稼業に見切りを付けたらしい。



「さて、今から行くところが角有りの巣だったらどうしようか?」


「どうするとは?」


「巣を無くしたらもったいないかなって。角有りの巣なんて宝の巣じゃん」


「魔物の巣を宝の巣とは何じゃっ」


「だってこんなに旨い肉がザクザク捕れるんだよ。潰したらもったいないじゃん」


「なんて事を言いよるんじゃ。角有りがうじゃうじゃ出るような山なんぞ危なくて木こりが入れんじゃろうがっ」


「木こりが少ないならこの山に入らないといいじゃない?」


「なんちゅう事を言いよるんじゃ。他の山にも魔物は移動するじゃろうが」


なるほど。


「この山の持ち主は誰?」


「木工ギルドじゃ」


「この山っていくらぐらい?」


「まさか買うつもりか?」


「角有りの巣があるならね」


「もう管理出来ん山じゃから安くで手放しても構わんが・・・」


なんと金貨5枚で売っても良いとのこと。


「この山の魔物が他にいかないように結界張るから心配しないで」


「結界?」


「そう。帰ったらどこまでがこの山か教えて。グルっと結界張るから」


「なんじゃ、この山はセイの物になるのか?」


「そう。金貨5枚なら肉を売れば買えるし」


「ならば間伐をしてやるかの。セイ、後日アメフラシに命令してくれ」


「あいつの遊び相手をクラマがしてくれるならね」 


アメフラシは子供と同じ。お願い事をしたら気が済むまで遊んでやらないとダメなのだ。


「わかっとるわい」


何を言っているのかわからずポカンとするヨーサクをよそに盛り上がるセイとクラマ。見つけ出した巣はやはり角有りを生む洞窟でホクホク笑顔になった。角有りの肉も大量だ。ゴブリンのようにポコポコ生まれてくるわけじゃなさそうだけど。




山の確認が終わったセイ達。


「他の山も似たような感じかの?」


「そうじゃ」


「全部の山をワシらで管理することは無理じゃから、国自体が動かにゃならんかもしれんのう。まぁ、セイが買ったこの山は生き返るじゃろ」


「他の山はなんとかしてくれんのか?」


「うん、台風を起こすなら海にも影響でるし、山だけに台風を持ってくるの無理だからね。街中も台風に巻き込まれるから建物にも被害が出るだろうし」


「それに乾いた山は水を吸う力が落ちているからの。吸われなんだ水が一気に川に流れこんで洪水にもなるじゃろうから勝手にワシらだけでやるわけにはいかんのではないか?国自体が動かにゃならんとはそういうわけじゃ」


街に戻ったセイはギルド本部で角有りの肉を20も買い取ってもらい金貨10枚を得た。山を買っても5枚残る。金貨1枚が100万円の感覚があまりないのが残念だ。


「じゃ、明日にでもあの山に結界張るから」


「お前らで国を動かせんのか?」


「無理だと思うよ。漁師だけでも胡散臭って言われたし」


「有力貴族が口添えしてくれれば国も動くかもしれんがの・・・」


有力貴族か。あのヒョウエに惚れた娘の家は有力貴族らしいけど協力してくれないだろうな。


ヨーサクも動いてみるとは言ってくれたけど恐らく被害が目に見えて増えない限り危機感を持ってはくれないだろう。


これは長期戦になるかもしれないなとセイはなんとなく思っていた。


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