移住者達の準備
その後、沖田から連絡が有り、ガーミウルスは移住を決めたとのことだった。
快速空馬でガーミウルスにいきノーマル空馬に乗り換えて沖田を含め科学者達を連れて来て戦艦から転移装置の取り出しと修理を行ったのであった。
「まずは重機類をこちらに持ってきてから開拓して移住者の引受だな」
「そうだね。いきなり移住者が来ても受け入れ態勢がね」
崩れた王都の壁の修理や水路の整備などもあるのだ。インフラを整えないと共倒れする。
避難地域各地には冒険者達に戦争終結を知らせてもらい、農地の拡張をそこで手伝ってもらうことにした。セイはアネモス全体に加護の雨を降らせて魔物の弱体化と土地に栄養を与えていく。
「よぉ、なんとかなったみてぇだな」
「ヘスティア、だから乗ってくるなってば」
王城で王族たちのこれからの処遇や今後のスケジュールをギルマス達、リーゼロイ、ヨーサク、沖田達を含めて打ち合わせているとヘスティア達がやってきた。
「いいじゃねーかよ。もう終わったなら遊ぼーぜ」
「あのなぁ、今からが大変なんだよ」
「ちぇっ、早く終わらせろよな」
「アーパスとヘスティアの加護ばっかり使って私の加護は使わないのかしら?」
テルウスはせっかく授けた加護の力を使わないセイに不満げだ。
「こんな耐震対策の取れてない国で地震なんて使えるわけないだろ」
「アースクエイクは魔物を浄化するのに使うものなの。私はなんの神様だと思ってんのよ」
「地震の神様だろ」
「違うわよっ。土の神様なのよ。一番使える力なのになんで使わないのかしら?」
「ん?他になんか使えるの?」
「土を操作出来るわよ」
「土の操作?」
「そ、地面を掘り起こしたりとか削ったり固めたりとか」
「そんな事出来んの?」
「やってみればいいじゃない」
それが本当ならめちゃくちゃ助かる。
「セイ、女神様たちが来てんのか?」
ギルマスは独り言を話しだしたセイを見て女神達が来たことを悟った。
「うん、みんな来たから飯にしようか。食べながら説明するよ」
魔導鉄板を出してお好み焼きにする。自分で食べる分は自分で焼いてくれ。
セイは女神ズのをせっせと焼いていく。ウェンディとテルウスのは豚玉、ヘスティアのはカレー風味、アーパスのはイカ玉だ。
「で、女神様たちはなんて言ってんだ?」
「テルウスがさぁ、加護の力で土の操作が出来ると言ってんだよ。土を掘り起こしたり削ったり固めたり出来るらしい」
「マジかよ」
「それが出来たら水路を掘ったときの土を固めてブロックにしていけば一石二鳥だよね。土を掘り起こせるなら木も簡単に根こそぎ重機で抜くことが出来るかも」
「ミナモトくん、そんな事が出来るなら移住者用の開拓を一気にやってから王都の整備をしていくほうが早いんじゃないか?」
「そうだね。アネモスの住人は避難先でまだなんとかやっていけるからそっちを先にしようか」
第一陣のガーミウルスの輸送船で重機の類を持ってきているのだ。畑を一気に開拓出来れば麦の植え付けに間に合うかもしれない。
「リーゼロイさん、俺が王をやるのはこの混乱期だけだから貴族達の取りまとめをしておいて貰えないかな。初めにウェンディを信じてくれた人を中心に考えておいて」
「王派の処罰はどうするのかね?」
「別にしなくてもいいよ。同じアネモスの人間だし。ガーミウルスからも人を出してもらうから」
「アネモスに攻め込んで来た敵国だった国の人間を中枢に据えるつもりか?」
「そうだよ。移住者を引き受けるのはアネモスだけど合併だと思って。幸い死者は出てないし、これでガーミウルスからの人達を下にするような制度にしたら禍根を残すじゃん。それから今後は家柄とかだけでなく能力のある人は身分関係なしに中枢にいれていくからそのつもりでね。条件はウェンディを信仰してくれる人で」
王都の復興作業は瓦礫の撤去から始めるのでヒョウエたちにも協力を依頼した。鬼達は重機並みの力があるし、熱心なウェンディ信者になってくれているので布教活動にもなるだろう。
セイは初級ダンジョンで肉を大量に出してもらってからガーミウルス移民の開拓をすることに。
「まず土を掘り起こすから、木を重機で避けていって」
テルウスに教えてもらった通りに土を掘り起こす。
ゴゴゴゴゴゴゴ
地震に似た地響きが起り土が隆起して崩れていく。それに伴い木が根本から倒れるので重機を使ってひとまとめにしていく。かまいたちとクラマの風で枝払いをしたあとに木こり達が材木に使える物と使えない物に仕分けしていった。
「この大量の枝と葉っぱはどうすんだ?」
「穴掘るからそこに放り込んで。燃やしてから掻き混ぜるよ」
毎日この作業の繰り返しだ。小麦を植え付け出来るまでに農地を広げておかないと移住者の食料が持たないのだ。
加護の力を借りる使うときはウェンディと必ず手を繋いでいる。ウェンディが姉妹の力を借りていることにしているのだ。
「陛下」
「その呼び方やめてくんない?取り敢えず王の代行しているだけだから」
騎士達が俺の事を陛下とか呼び出しやがったのだ。
「申し訳ございません。ワイバーンが現れて冒険者達が苦戦しております」
ピリリリリっ
「セイ、ヘルプを頼む」
「ギルマス、今ワイバーンが出てるって聞いた。王都だけ?」
「いや、避難先にも来やがった。王都の奴は俺達がなんとかするから避難先の奴を頼む」
ということで騎士達に万能薬を持たせてワイバーン討伐に向かわせる。フェンリルをグリンディルにお供させているのでまぁ大丈夫だろう。地上の魔物たちはアーパスの加護の雨で成長が止まってるからなんとかなっている。
セイはぬーちゃんに乗って避難先まで飛び、ワイバーンの群れに向かってヘスティアの加護の炎で消滅させていく。どうせアイテムに変わらないのなら消滅させても問題ない。
下で見ていた避難街の人達はあっという間にワイバーンを消し去るセイ達に拍手喝采だ。
「いやぁ、神様ってやっぱりすげぇな。あんな空飛ぶデカい魔物が一瞬で燃え尽きたぜ」
口々にセイ様ばんざーい、ウェンディ様ばんざーいと喜んでいるの姿が上空のセイ達にも見えていたのであった。
王都に行くとグリンディルは自分で倒さず冒険者や騎士達に倒させようとしていた。ギルマスも冒険者達を指導しながら立ち回りをしている。
「グリンディル、もうあれで終わり?」
「そうよ。空中から襲って来る魔物にも慣れておいてもわらないとね」
「じゃ、あれ任せておくね」
「任されたわよ」
ということでまた開拓地に向かう。100万人の移住者の受け入れは一つの国を作るのと変わらない作業だ。取り敢えず農地や牧場を優先するように開拓を進めていったのであった。
小麦の植え付け時期ギリギリに間に合った開拓。
「こんな短期間に開拓できるとは思ってませんでした」
と、言ってきたのは降伏勧告に来てきた使者だ。名前はタットラン。
「タットラン、お前初めて会ったときと随分と雰囲気が変わったな。あんなに偉そうにしていた癖に」
「もうそれは言わないで下さいよ。まさか侵攻してきた我々を処罰も何もなしに受け入れて下さる慈悲に心から感謝しているのです」
「それもウェンディの慈悲だ、皆でウェンディに感謝してくれ。あとは任せておいていいか?俺はこの冬の食料を他国に支援願いを出してあるから取りに行かないとダメなんだよ」
「はい、お任せ下さい」
開拓したときに出た木材で簡易住宅の建設も進み、なんとか生活が出来るようになってきた。あとは農作業だけだし、農機具もあるからなんとかなるだろう。魔石はセイが神の力だと言って充填を繰り返している。沖田と科学者達は魔石充填装置を水力でなんとかするために研究をしていた。ダムは持山の所でなんとかなるだろう。クラマとも話をしてダムはあそこの一箇所だけにしておこうとなっている。
セイはガイヤ、アクア、ボッケーノから支援を受けた食料を配布し、冬の間は王都の水路改良を設計士達の指示を仰ぎながら作って行くのであった。
デイスラルによるとガーミウルスも夏野菜や穀物の収穫がかつてなく豊作だったようでこの冬は問題なく越せるとの事。春になれば順次移住を開始することになった。
「おー、だいぶ出来てきたね」
アクアの漁村に来てフィッシャーズ達を交えて開発の進み具合を見ていた。
「来年の春には完成するようだ。教会は今年の夏には完成するってよ」
シーバス達にそう教えてもらう。
「教会は思ったより時間掛かってるね」
「なんかめちゃこってるらしくてな、建物よりその仕掛けというか装飾というのに時間が掛かるみてぇだぞ」
「うむ、皆と力を合わせて何かを作り上げていくのは面白いのじゃ」
姫様も順調に進んでいる開発に充実感がおるようだ。
「セイさん、アネモスはどうなってますか?」
リタ達も村に連れてきているのでアネモスの様子を知りたがっている。
「今年の春からガーミウルスの人達が移住を開始するよ。人数が多いから何年か掛かるだろうね。その間はアネモスは目まぐるしく変わって行くと思うよ。来年の春には一応帰れるけどどうする?」
「お父さん達はどうするの?」
「父さん達はこのままここに住もうかと思っている。アネモスも発展するなら仕事も多いだろうがここの建築はとても凝っていて面白いんだ。人生いくつになっても新しい事を知るのは楽しいぞ」
リタのお父さんはアクアの建築様式がアネモスとは違うのが楽しいらしい。
「じゃあ、私もここでこのままいようかな。ガッシーさん、あの家はいつまで使ってていいですか?」
「いっ、いつまでも使ってくださいっ」
ガッシー、リタの為に新しい家を建てますとか言えばいいのに。
セイは漁村で皆と海鮮鍋を堪能したあと、もう一日ゆっくりしたあとにガイヤとアクアから支援品を受け取りアネモスに戻ったのであった。