ガーミウルスの船団
4月になりオーガ島は田んぼの準備を始めていた。漁師関係の人が多く避難してきているオーガ島は魚とご飯の相性に目覚め、米作りを教えて欲しいと女性陣や子供といった漁に出ない者が田んぼ作りを手伝っていた。
「いやぁ、鬼さんたちのパワーはすごいわねぇ。こんなの私達だけでやっても出来るのかしら?」
「元住んでいるところが落ち着いて戻れたら俺達が手伝ってやろう」
「本当かい?あんた達見た目は怖かったけど本当に優しいねぇ」
「顔が怖いは余計だぞ」
「あーはっはっは。そりゃそうだねぇ」
避難した人達は面倒見がよく優しい鬼達達と仲良くなっていた。ここに連れて来てくれたウェンディへの感謝を込めて毎日入れ代わり立ち代わりウェンディ神社にお参りをしにいく。
パンッパンっ
「ウェンディ様。今日も楽しく暮らせますように。加護をありがとうございます」
ウェンディ神社はひっきりなしに手を叩く音が聞こえる。漁師たちも捕ってきた魚をお供えしてから食事を取るようになっていた。異世界に根付く神社。ステンドグラスはないけれどウェンディはちゃんとここで神として祀られていたのであった。
セイは快速空馬で海を見回る日々を続ける。ガーミウルスの船が来ていないかの確認だ。
「今日も異常なしと」
時はすでに5月になり、早い所は麦の刈り入れを始めていた。
「もう収穫してんの?」
「はい、今年は実りも良いし早くに始められました。避難民達も手伝ってくれるので早めに終われそうです。夏野菜の植え付けも始めてますよ」
避難民達はストレスを抱えているのではないかと思っていたが畑仕事や学校にいけない子供たちに勉強を教えたりと王都に住んでいるときより仲間意識が強まり楽しそうに過ごしていた。
そして6月に入り、実りは少ないものの刈り入れ時になった加護無し領地も総出で作業を開始した頃。
「来た。あの船団は間違いなくガーミウルス」
セイは上空からガーミウルスの船団を発見した。黒い煙を吐きながら進む大型の船。いくつもの艦砲が見える。明らかにこちらの木造船とは違う作りだ。
セイはギルマスに連絡を入れる。
「ギルマス、避難して。ガーミウルスが来た。教会の神官にも逃げるように言って。教会に残ると言ったら担いででも逃げて」
「わかった。いつ頃こっちに来る?」
「まだ距離があるから3日後くらいかな。早ければ2日後」
「了解」
セイは王都に残ると人々の避難をギルマスに任せ王城へと向かった。
「貴様・・・っ」
城に残る者達は恨みの目をセイ達に向ける。
「ガーミウルスが来たぞ」
「なんだとっ」
「恐らく3日後、早ければ2日後にここに来る。船団は鉄の大型船が12隻。大きな艦砲をいくつも備えた戦艦だ。王と直接話すから通せ」
門を守る兵士は王に使いを出した。
「お前は兵士か?」
「・・・・」
「王は魔導兵器への対策はしてあると言ったが鉄の盾と鎧だけじゃないだろうな?」
「・・・・・」
返事をしない兵士。
そして使いの者が戻って来た。
「陛下は会いたくないとのことだ」
「ならちゃんと伝えろ。もし魔導兵器の対策が鉄の盾と鎧しかしていないなら逃げろと。相手は想定しているより遥かに強大な武器を備えた戦艦だとな。鉄の盾はおろかこの城まで吹き飛ばされるぞ」
「去れっ」
「逃げるのも兵法の一つだ。かならず上申しろ。無駄死にするぞ」
「くどいっ」
セイはもう一度上申しろと言ってその場を去った。加護無しの領地は王都に近い場所が多い。戦闘に巻き込まれないうちに他の領地に避難させた方がいいからだ。
ルーク達が守る領地に行く。
「ルーク、領主に取り次いでくれ」
「どうなさいましたか?」
「ガーミウルスが来た。2日後か3日後にアネモスに到着する。大きな魔導兵器を備えた戦艦が12隻。こっちの木造船なんか木っ端微塵にされる。上陸されたらここも巻き込まれるから今のうちに全員避難させろ」
「かしこまりました。誰か領主に伝えろ。私は皆を先導する」
「任せていいか?」
「はい」
セイは後2箇所に向かった。
「領主、早く皆を避難させろ」
「これはこれは。ご忠告痛みいります。我々は神を信じてはおりませんのでお引き取り下さい」
「ならお前は残れ。皆は避難させろ」
「お引き取りを」
くそっ
しかしこのまま見捨てる訳にもいかない。信じる人だけでも逃さねば。
セイは広場で皆に避難を呼びかける。
「刈り入れ時に嫌がらせかっ」
「違う。ガーミウルスが侵攻してきたんだ。アネモスの軍では防ぐことは不可能なんだよっ。いいから逃げろ。子供達を見殺しにする気か」
ざわつく住民たち。
失せろ疫病神とか罵られるのを我慢するセイ。
「いいか。今逃げないと間に合わないぞ。子供や奥さん達が無残に殺されたり蹂躙される姿を想像してみろ」
「本当にそうなるのですか」
「あぁ、間違いない。もし嘘だったらその時は好きに神を恨むなり蔑むがいい。フェンリル、シルフィード。ここから避難する人達を護衛しろ」
呼ぶとその場に現れるウェンディの眷属達。
「皆は逃げる準備もあるだろうから夜には出発してくれ」
「はっ」
「コイツらはウェンディの眷属である神獣のフェンリルと大精霊のシルフィード。避難する人の護衛をさせる。夜には出発するから避難するものはコイツらに付いて行け」
次の領地にはサカキとクラマに同じ事をさせた。
「タマモ、王に交渉を頼めないか?」
「セイ、無駄さね。敵の力を見ないと理解しないんだよこういうときは。力ずくでやるなら別だけどね」
「力ずく?」
「王を殺すかい?頭をとっちまえばやりようはあるさね」
「ウェンディはそんなことを望んでない・・・」
「なら後はケツを拭いてやるだけさね。もうあんたはやれる事はやった。そもそも神は人間同士の争いには関わらないもんだろ?」
「タマモ・・・」
「人は何かを失って始めて気付くのものなのさ。失う前に警告しても無駄さね。その痛みが知恵となり知識となり未来に繋がっていくんだよ」
「タマモはこういう経験があるのか?」
「どうだかね。あたしが見てきたのはどこの世界も時代も人間のやることは同じだよ」
歴史の教科書には載っていない本当の歴史を知るタマモはそう言ったのだった。
王に交渉するのはもう無駄だと言われたセイはオーガ島に飛ぶ。ヒョウエ達にガーミウルス侵攻が間もなくだから漁師たちの船をすべて入り江に隠せと伝えた。進路からするとここは大丈夫だろうけど念の為だ。
「セイ殿、王都に残った者達はどうなりますか?」
「リーゼロイさん、もう一度避難を募って逃してはいるけど逃げない人もいると思う。神を信じない領地にも伝えたけど同じだろうね」
「そうですか・・・。アネモス軍は・・・」
「壊滅する。人が素手でドラゴンに向かっていくような状況だよ」
「そんな」
「王や兵士は信じてくれなかったけどね。おい海坊主」
と、セイは海坊主を呼び出す。
「人魚達は遠くの海へ避難させろ。その後はお前は俺を手伝え。戦いが始まって海に投げ出された人間を岸まで運べ」
「セイ、俺達も手伝うぞっ」
「サム、お前はマーメイ達をちゃんと守っててくれ。お前らが戦争に巻き込まれてなんかあったら俺は暴走するかもしれん」
「しかし・・・」
「兵器はお前らが見たことがないような威力を持っている。オーガ島がまるごと吹き飛ばされてもおかしくないほどのな。だから避難しておいてくれ」
「わかった。マーメイ達は俺らが必ず守る」
「うん、頼んだよ」
「俺たちは何かできるか?」
「ヒョウエ達はウェンディに祈りを捧げておいてくれるか?もし敵がオーガ島に向かう航路をとったら俺がなんとかするから」
「わかった。頼んだぞセイ」
「おう」
セイは夜を待ってガーミウルス船団に近付いてよくみることに。レーダーを積んでいて捕捉されたらヤバいなとか思うが艦砲は動きを見せないので大丈夫だろう。
12隻の内2隻は型が違う。後ろが開くようになっているから上陸船を積んでいるのだろう。後は同じタイプか。しかし、これらは戦争映画で見たのとよく似た戦艦だ。元の世界では存在意義が失われたタイプだがこの世界では驚異的だな。世界が違っても似たような歴史を辿るのだろうか?
アネモスの兵力なら2〜3隻で決着が付くだろうけどこれだけの数で来ているということはアネモスを軍事拠点にするつもりなのは間違いないな。
ペンの九十九神に船をスケッチさせてセイはガイヤと快速空馬を飛ばした。
まだ夜が明けてない総本部に行く。
「悪いけど緊急事項だから総長と話がしたい」
警備担当に冒険者証をみせて伝えると総長の家まで案内してくれた。場所は知ってたから直接来たら良かったな。
暫くしてから中に通された。
「どうした?」
「ごめんこんな時間に。まもなくガーミウルスがアネモスに来る。船はこんなやつで」
と、概要を総長に説明し、もしこれがアクアに来たら撃退を試みるより逃げる事を進言する。
「これがすべて魔導兵器なのか」
「魔導兵器かもしれないし鉄の弾を飛ばしてくるやつかもしれない。攻撃されたら防ぐのは無理だから」
「わかった」
「これ渡しておく。通信機だから緊急なら俺を呼び出して」
と電話を渡して使い方を教える。
「今まで隠してたな?」
「緊急の時しか掛けてこないでね」
なんかあるとすぐに呼び出されそうなので渡すのは嫌だったのだ。
それだけを伝えてすぐに出発。念の為にガイヤとアクアの近くにガーミウルスの船がいないか確認してからアネモスに戻ったのだった。