もうすぐ春ですね
「毛布足りてる?」
テント暮らしの人々は寒さに耐えなければならない。全員に配れるほど暖房の魔導具も無いからな。
各国からの支援品である毛布を配布し、皆で協力して共同風呂を作っておいて正解だ。お湯の出る魔導具を設置して清潔保持と身体を温めてもらうの使ってもらう。各村の共同風呂の周りは自然と人が集まる憩いの場となり、皆で炊き出しや宴会のようなことを行い避難しているストレスを発散していた。
「飲むのもほどほどにしておけよ」
「セイ様、こんな上等な酒が飲めるって元の生活より良いってもんだよ。なぁ皆」
「おぅ、そうだ。肉の鍋も美味いし白菜とかも旨いわ。子供らも腹いっぱい食ってるからでっかくなりやがるぞ」
冬の間は出来る事も少ないから飲んで食べててくれ。
魔物も出てはいるが冬は数がぐっと減る。加護無し領地も少しは休めるだろう。
加護無しの領地からは食料を買い付けに来る。ぼったくらずに普通の値段で売れと言ってあるが肉は高級品の角ありと黒豚が主だ。買える肉はコカトリスぐらい。畜産の牛や豚は増やす方に力を入れてくれと伝えてあるので肉にはなっていない。買い付けに来た加護無しの人達は制限無しに旨そうに鍋を食べている人達を悔しそうに見ていた。
そして子供を抱えた庶民が夜逃げをするかのごとく頭を下げて加護有りの領地や農村に逃げてくるものが増えてきた。大人は我慢出来ても子供を飢えさせるのは出来ないからだ。
「嬢ちゃん腹減ってんのか。なら先に風呂に入って温まってこい。その間に飯を用意しておいてやるからよ」
「ありがとうございます、ありがとうございます」
「これは神からの慈悲だ。俺たちには礼はいらん。礼は神様にしてくれ」
と、人々は言う。こうなるだろうとセイはテントや寝具も予備をたくさん置いてあったのだ。
「神様は何でもお見通しみてぇだな。どんどん人が増えてくるわ」
「だな、物や飯が取り合いにならないようにとこんなにたくさん用意してくれてあるから誰も人が増えても反対もしねぇ。元の村だと考えられんかったわ」
「そうだな。分ける余裕なんて無かったからな」
「ギルマス達は避難しないの?」
「ガーミウルスが侵攻してきたら残ってる冒険者達を連れて避難するわ。そんときゃ王都に残ってる奴らも連れてかにゃならんだろ」
「殿か。その時にはフェンリルとシルフィードを付けるよ。最後まで残るのは王に付いた貴族と兵士達になるかな」
「そうなるだろうな。しかしガーミウルスは上陸出来んのか?大型船が入れる港は着岸出来んように潰したらしいぞ」
「うーん、どんな船で来るんだろうね?大型船であるのは確かだろうけど、そこから小型船に乗り換えて砂浜とかから分散して上陸するんじゃない?」
「そんな事をしたらこっちの船に撃退されんじゃねーのか?」
「こっちの船は帆船と手漕ぎだろ?話にならんと思うよ。ガーミウルスのは何らかの動力を使って進む奴だと思うから」
「クラマの風で飛ばすみたいなもんか?」
「そう。元の世界の船は油を燃やして動かすんだよ」
と、異世界人であることを知っているマモンにはエンジンとかスクリューの説明する。
「そんな仕組みがあるのか」
「こっちの世界は魔法があるからこういうのが発展しないんだと思う。俺のいた世界は魔法がないから科学というのが発展して船も飛行機も普通にあったからね。戦争にも使われてたんだよ」
「どんな攻撃をするんだ?」
「世界大戦というのがあったときは弾を直接飛ばして攻撃をしてたんだけど、俺のいた時代はミサイルというのがあってね、ここからガイヤまで敵地を破壊する物が飛んでいくんだよ。威力のある物は一発でガイヤの王都が灰になるぐらいだと思う。アネモスなら周りの領地ごとなくなるよ」
「まるで神の力じゃねーかよっ」
「力だけで言えばね。神は人を殺す為にそんなことはしないから」
「そうか、神のような力であっても神ではないか」
「そういうこと」
セイ達は魔石の交換やら食料の配布を冬の間に続け、今年は蟹鍋温泉に行ける事はなかった。
そして春を迎えようとしていた時にシーバス達から連絡がはいる。
「いつこっちに来る?」
「なんかあった?」
「宿の建設が始まったぞ。教会の建設もな」
「もう着工したんだ」
「おう、それでよオルティアもそろそろチーヌが合格出してもいいかなと言ってんだよ。もうすぐ虫の魔物が出だすだろ?それの討伐具合を見て決めるってよ」
「そうか、オルティアも頑張ってたんだね」
「おう、リタの弟のカミュも冒険者デビューしてな、ネズミ退治とかやってんぞ」
「ガッシーが付いてんの?」
「いや、あいつはああいう細かいのは不向きだからな、ほらコームって覚えてるか?」
「ああ、本部の人だよね」
「アイツらのパーティに面倒見てもらってる。虫の魔物が出だしたらこっちで面倒みるけどな」
「そうか。あのパーティは将来有望みたいだから良かったね」
「コームもそろそろCに上がるみてぇでよ、上がったら冒険者やめるそうだわ。で、その後はそのパーティは俺達が指導することになってんだよ」
「コームは冒険者辞めてどうすんの?」
「知らねぇ」
「宿の運営に誘ってみたら?本部にいた人だから中の仕事は出来ると思うよ。姫様達もずっとそこにいるわけじゃないから引き継げる人を雇った方がいいと思う」
「なるほどなぁ、あっ、お前初めからそのつもりだったのか?」
「まぁね、コームって結構面倒見いいと思うんだ。決めるのはシーバス達だから任せるけど」
「おう、カミュ達の事もあるしちゃんと話してみるわ」
「うん、お願いね」
「あとよ」
「何?」
「俺、ツバスと結婚することになったわ。じゃ、またな」
カチャ、プープープーっ
なんだよ、照れくさいからって切んなよ。
ピリリリっ
「な、なんだよ」
「おめでとう。こっちのケリが付いたらそっちに行くよ。じゃな」
「セイはなんて?」
「おめでとうだってよ」
「いつこっちに来るの?」
「アネモスのケリが着いたらだってよ。向こうはどうなってんだろうな?」
「セイなら大丈夫よ。さ、私達も頑張らなきゃね」
「おう」
ダーツとパールフ、シーバスとツバスは故郷の村に新居を建て始めていたのであった。
「シーバス達も結婚するの?」
ウェンディと二人でご飯を食べながらその話をウェンディにした。
「じゃ、わたしも準備しないとね」
「なんの?」
「結婚式の神様に決まってんでしょっ」
「あのなぁ、シーバス達はアクアの人間だろうが。アーパスにやってもらうよ」
「なんでよっ。オーガ島でやればいいじゃない」
「あの村に海の見えるアーパスの教会を作ってんだよ。そこでやるに決まってるだろうが」
「ずるいっ。アーパスは王都にも教会があるし、美術館にもステンドグラスがあるじゃない」
「お前も風の教会もオーガ島に神社もあるじゃねーかよ」
「ステンドグラスないもんっ」
「ヘスティアもないだろが」
「わたしのステンドグラスも欲しいのっ」
「そんなことは神に戻ってから言え」
「キィーーーっ。なら早く戻しなさいよっ」
「お前が戻らんのだろうが。どんなけ底なしなんだテメーはっ」
「知らないわよそんなのっ」
ウェンディに流れる妖力の量は増えている。注射針から流れるような量だったのがホースぐらいまで増えたのだ。水着になって流した時はグンとその量が増えたのだがお互いに恥ずかしくてあれ以来やってはいない。
「なら毎晩水着で寝ろ」
「バカっ、変態っ」
とまあ、こんな調子が続いていたのであった。
もうすぐ冬が終わる。ガーミウルスはいつ来るのだろうか?もしこのまま来なければ避難疲れで皆の気持ちも持たないだろうし、緊張に耐えられなくなった人々からまた信仰心が薄くなっていってしまうかもしれない。
こっちの気持ちも擦り切れていく。そんな感じで春を来るのを待つセイなのであった。