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海は後回し

漁師ギルドは大きな港にある建物だ。


「すいませーん」


「なんじゃいっ」


随分と柄が悪いな。


「自分は冒険者のセイと言います。冒険者ギルドのギルマスにこちらのギルマスを紹介してもらったんですけど」


「はぁ?なんの用件だ?こっちは忙しいんだ」


「海の復活に付いてです」


「復活?」


「近海に魚がいなくなってるでしょ?それを解決するのに相談に来ました」


訝しがるオッサンに紹介状を見せて漁師ギルドのギルマスの元へと案内してもらった。


「親方、変な奴が来てまして。冒険者ギルドの紹介状を持ってます」


「通せ」


と、部屋に入る。



「は?海を生き返らせる?」


「そう。で、海に暴風を吹かせるので船を退避させて欲しいんですよ。難破したら不味いので」


セイはここでも同じことを説明する。


「暴風が海を豊かにしているとでも言うのか?」


「らしいです。自分も聞いた話なので」


「で、どうやるんだ?」


「俺達は風の神様、ウェンディの加護を受けたパーティなんです。仲間がやりますから船を退避させてくれるだけでいいです」


「紹介状があるとはいえ胡散臭い話だ。全部の船を止めたら商売上がったりなんだぞ」


「このままずっと商売上がったりになるよりいいと思いますけどね」


「これをやってお前らにはなんのメリットがある?ギルドから金は払わんぞ」


「俺達は風の神様へ信仰心を持ってもらいたいだけなんですよ」


「はっ。風の神さんのせいで何人漁師が死んだり船がダメになったと思ってんだ。神は神でもあいつは疫病神だ」


ここでも疫病神か。


「なら、やめておきますか?」


「あぁ、いらん」


「わかりました。ではオーガ島付近だけでやります」


「は?オーガ島付近だけ?あんな危ない島に何があるんだ?」


「まぁ、ちょっと。あの付近で魚が捕れるようになっても近づかないで下さいね。いきなり暴風に見舞われるかもしれませんので」


「あんな所に誰も近付かん」


セイはここでもウェンディを疫病神呼ばわりされてムカついたので近海全般に暴風を吹かせるのはやめておくことにした。それに無理矢理やっても反感を買うだろう。しかも海が復活するとは限らないからな。


時間があるので今度は商業ギルドに向かう。



「こんにちは〜」


「はい、いらっしゃいませ。どのようなご要件でしょうか?」


受けつけは綺麗なお姉さんだ。物腰も丁寧でさすが商売人の受付だな。


「何か異変が起こってないか情報を聞きたいんだけど」


「どういったことでしょうか?」


「山が死にかけてるとかそういう異変はないですか?」


「は?」


セイも暴風が吹かなくなった影響がどう出るのかわからないので上手く説明が出来ない。


「いやあの〜ですねぇ」


「冷やかしならお引取り下さい。こちらは忙しいのです」


商売の話ではないとなると物凄く冷たくあしらわれた。さすが商売人相手の受付だ・・・


弱ったな。何も進まないや。


そう思って商業ギルドを後にしようとするとちっこい毛むくじゃらの親父に呼び止められた。


「おいあんちゃん。山が死にかけてると言ったな」


「あ、はい。あなたは?」


「ワシは木工ギルドのヨーサクじゃ。ちょっとこっちへ来い」


腕をむんずと掴まれて引っ張って行かれる。ちっこい親父の癖に物凄い力だ。



「で、山が死にかけてるとはどういうこった?」


「暴風が吹かなくなって10年近く経つでしょ?それまでと今とで何か変わって無いかなと思って」


「あぁ、ウドーがやたら増えたな。それと・・・」


「それと?」


「木の成長が遅い気がする。枯れる木も増えておるしな」


「魔物はウドーだけですか?」


「いや、今まで居なかった強い魔物も出るようになったから木を切り出すのに苦労をする。冒険者ギルドは潤っておるみたいじゃがこちらは商売上がったりじゃ。まぁ、家の修理も減ってるから木が足りないということはないんじゃがの」


なるほど。暴風で建物に損傷が出たら持ち主は困るけど大工は儲かる。経済はこうして回るものなのかもしれん。


「仕事が減って大工を廃業するやつも増えておるでな。一人前の大工を育てるのに時間がかかるというのに。で、お前さんは何をしにきたのじゃ?」


「俺は冒険者のセイ。風の神様ウェンディの加護を受けたパーティの一員なんだよ。風の神様への信仰心を集めろって使命を帯びているんだ」


「風の神様か。信仰心を集めるとはどういう事だ?」


「この国は暴風被害で神様を捨てただろ?だから暴風が吹かなくなった。その影響が出だしているんだよ。ただ俺達もどういう影響なのかよくわからくてね。冒険者ギルドのギルマスは魔物が増えてるのはその影響じゃないかって」


「なるほどな。ウドーが増えたのも強い魔物が出だしているのもそのせいかもしれんな」


「信じてくれるの?」


「暴風は風だけの時もあるし豪雨を伴うものもある。今でも普通の雨は降るが豪雨はない。じゃから山から流れる川も年々水流が減っておるんじゃ。ワシはそのうち干上がるんじゃないかと思っておる。すでに湧き水が出る所が何箇所か枯れたからの。夏場の気温が年々上がっておるのもそのせいかもしれん」


水か。元の世界でも台風が来ないとダムが干上がったりしてたからな。この世界にはダムは無さそうだし、山が蓄えている水分がかなり減っているのかもしれない。


「海も暴風でかき混ぜないと死んじゃうらしいんだよね。漁師ギルドのギルマスは信じてくれなかったけど」


「近海で魚が捕れなくなったのはそのせいなのか?」


「そうみたい。でも暴風を吹かすから船を退避させてくれと言ったら断られたよ」


「暴風を吹かす?どうやって」


「俺達は風の神様の加護を受けているからそれが出来る仲間がいるんだよ」


「山に吹かせる事はできるか?」


「風だけならね。豪雨は海で暴風を吹かせないと無理だと思う。山だけに風を吹かせても雨は振らないんじゃないかな」


台風と同じ原理なら温かい海の水蒸気を持ってこないとダメなはず。どこからやらないとダメかは調べないと無理だ。


「魔物は減るか?」


「多分。加護の風らしいから魔物よけにはなると思う。でも下手したら木がなくなっちゃうんだよね」


ウェンディのやつ、ゴブリンの時に木を吹き飛ばしやがったからな。しかしあれは土地が乾いて木が弱ってたのか?


「山だけに吹かすのは良くないかもしれんのじゃな」


「明日、山に詳しい仲間を連れて来るからどの山か案内してみてくれない?」


「山に詳しい仲間?」


「そう。元々地元の山を守ってたんだ。今は配下に任せて俺達と一緒にいる。魔物が発生する場所も見つけられるかもしれないよ」


「よし、分かった。明日の朝にここに来てくれ」



屋敷に戻ったセイ。


「は?海はどうなったんだよ?」


酒を飲んでるサカキにそう聞かれる。


「漁師の親玉は信じてくれなかったんだよ。だから海はオーガ島付近だけでやってみよう。それで魚が増えたら向こうから頭を下げてくるんじゃないか?」


「なんだ、機嫌悪いじゃねぇか?」

 

「別に」


チラッとウェンディをみるとご機嫌で酒を飲んでやがる。ヒョウエがウェンディを神様だと敬ってくれているのが嬉しいらしい。うちの仲間は誰も敬ったりしないしな。


「クラマ、明日山の様子を見に行くから一緒に来て」


「何をするんじゃ?」


「風が吹かなくなって海が死にかけてるだろ?山はどうなってるか見てほしいんだ。川の水量が減って湧き水が出るところもいくつか枯れているらしい」


「そういえば前にゴブリンとやらがいた山も乾いておったの」


やっぱりそうなんだ。


「ウェンディ、お前暴風と台風ってどう使い分けてたんだ?」


「知らないわよそんなの」


コイツ・・・


何かを考えて風を吹かせてたわけじゃないんだな。適当に吹かせてるから恨みだけが残ってるんだ。



セイはベッドに入って考える。神が4柱。風・火・水・大地、水と大地は神の恩恵がわかりやすい。でも落ちこぼれたのはウェンディだけ。風は恩恵がわかりにくいから信仰心を失ったのだろう。火はわかりやすい恩恵ってあるのだろうか?どうやって信仰心をキープしてるのかな?


一度他国に行って他の神がどうやってるか見てみたほうが良いかもしれないな。この世界はわからない事が多すぎる。



その夜、セイはうなされていた。ウェンディが暴風を吹かせてこの国が壊滅してしまう夢を見て。

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