アネモス騎士団離脱
「ヘスティア様にバチを当てられたのですか?」
「はい、恥ずかしながら」
騎士団を率いていたのは姫様直属の護衛をしていた団長であった。
「どのようなバチを?」
「鎧を瞬時に溶かされ大火傷を負いました。火傷はセイ様のポーションで治りましたが溶けた鎧は誰にも解体することが出来ず、このまま死ぬのだろうと思いました。セイ様がその後いとも簡単に鎧を解体して下さり助かりましたが」
「セイ様は姫様と面識をお持ちなのですか?」
「姫様はまだ幼くておられましてな。我儘で庶民の店からアクセサリーを献上させ、それを諌められたのがセイ様なのです。我々はたかが冒険者が姫様になんて無礼なと武器を向けましてバチを食らったしだいです」
「そうでしたか」
「セイ様に諌められた姫様は自分の我儘が庶民の生活を苦しめるというのを理解され、素直にお詫びをおっしゃいました。その後から姫様をとても可愛がられたセイ様はとてもよくして下さり、姫様も素晴らしい成長をされておられます」
「今回はその姫様からのお声掛けでございますか?」
「いえ、王自らでございます。前王妃様からも支援の手紙もございました」
「手紙?」
「はい。姫様と前王妃様はセイ様のご提案によりアクアで社会勉強をされておられます」
「アクアでですか」
「はい、どうやらある地区の再開発と申しましょうか、市井に混じってイチから新しい街を作りあげる仕事をお任せになられているとのことであります。私も護衛に参りたかったのですが不要であると置いていかれてしまいました」
ルークは今の話を聞いてピンと来た。セイはその姫様に新生アネモスを任せる気なのだと。
「そうでしたか。現場を見ながら街の皆と共に作りあげていかれるのですね」
「はい。今までにない発想でおどろいております。執事と前王妃様がご一緒でございますので学ぶことは城内では話にならないぐらいたくさんあるものと思われます。事実、前王妃様はボッケーノを仕切っておいででございましたから英才教育をなさるのでしょう」
騎士団は任務中ということもあり、余り酒には手を付けずにセイの帰りを待った。
そして3時間を過ぎた頃に上空から見慣れぬ乗り物が降りてきた。以前姫様を送ってきた乗り物より随分と小さい乗り物だ。
「お待たせ」
そう言いながらセイはウェンディを降ろす。急いで飛ばしたので操縦が荒くウェンディはぐったりしていたのでそのまま抱っこしている。
「セイ様、ご無沙汰しております」
「あっ、姫様の。わざわざ荷馬車で持って来てくれたんだね。ありがとう。こんなにたくさん大変だったね。ありがたく頂くよ」
と、セイは荷物をヒョイヒョイとひょうたんにしまっていく。
「この馬って人は乗れたりする?」
「えっ、あ、はい」
「じゃ、荷馬車は俺が運ぶよ。馬は申し訳ないけど誰か乗って帰ってくれる?」
何を言っているのか理解出来ない騎士団達。
「馬はそこに繋いで皆中に入って。飯とか食った?」
と、全員を中に入れた。
「改めて皆さんありがとうございます。ボッケーノ王には改めてお礼に伺いますので」
もう護衛任務はいいよと伝えて飯と酒を提供していく。
「えっ?ルークはアネモス王と揉めたの?」
「はい。ウェンディ様への支援を奪おうとされましたので」
「食料の供給が滞ってるからね。だいぶ困ってる?」
「はい」
「加護のある領地から買えるようにはしてあるんだけどね」
「他の領地はそのようにしております。王都や軍の食料が足らなくなる可能性が高いのです。備蓄倉庫もネズミに荒らされましたので」
「そうなんだ」
「セイ様、アネモス王は段々と正気を失われているような気がします」
「精神的に追い詰められてるだろうからね。王派の貴族はどうしてんの?」
「もう引くに引けない状況なのです」
あれから寝返った貴族はいるけれども領主はいないからな。
「俺がもう一度話に行ってもいいんだけど余計に意固地になる可能性が高いよね」
「おそらく」
「本当に皆が飢えそうならここか教会に頼って。食べ物もポーションも置いてあるから」
「はい。ありがとうございます」
「セイ様、他国の者ではありますが今後どのような展開をお考えでしょうか?」
「帰ったらボッケーノ王に伝えておいて欲しいんだけどいいかな?」
「はい」
「ガーミウルスはアネモスを足掛かりにボッケーノへ侵攻するつもりらしい。同時にアクアとガイヤにもちょっかい掛けているような動きをしているみたいなんだよ」
「そんな事が可能なのでしょうか?」
「恐らくかなりの威力を持った魔導兵器を開発したんだと思う。まずアネモスを占領してここを拠点にして体制を築いてボッケーノへの侵攻だろうね。剣では敵わないと思っておいて」
「アネモスは侵攻を止められるのでしょうか?」
「アネモス軍では無理だと思う。王都は破壊されると思うよ。アネモス王が諦めたら後は俺がやる。その前に政権を放棄してくれたらいいんだけどね」
「兵士たちは見殺しにされるのでしょうか?」
「戦争前に皆逃げてくれたらいいんだけど、自分達は勝てると思ってるでしょ?」
「先にセイ様が勝てないとお力を見せればいいのではないですか?」
「それも考えたんだけどさ、ウェンディの事をもっと恨むようになるでしょ?形の上では降伏するだろうけどそれじゃ後々ずっと恨みが残るからダメなんだよ。兵士達がいやいや戦わされるなら話は別なんだけど、自分達が勝てるのを邪魔されたとか思うだけなんじゃないかな?」
「確かに、軍部はやる気満々なのです」
と、ルークは言う。
「ね、だから避難してくる人を守って見てるしかないんだよ」
「そうですか・・・」
「早ければ来年の春にガーミウルス侵攻があるから、非戦闘民はすぐに逃げられる体制を取っておいてね。まだ王都に残ってる人もいるし」
「かしこまりました」
「ルーク達は戻ったら拘束されたりしない?」
「わかりません。牢に入れられる可能性もあります」
「なら戻らない方がいい」
「そのような訳には参りません」
「今牢に入れられたら餓死させられるよ。俺達が救出しに行ってもいいんだけどまた揉めるしね。もう王から離れておきな。守るべき人は外にいるから」
と、アネモス騎士団を説得した。そのうち残るのは利権を強く持っていた貴族と軍部のみになるだろう。
セイは翌日野営した騎士と冒険者を二回に分けてボッケーノへ送り届けた。馬組は申し訳ないけどポコポコと帰ってね。
ボッケーノ王に謁見するのは時間が掛かりそうなので礼状を渡しておいて貰った。すべてが終わったら改めてお礼に伺おう。
オーガ島に行き、リタと話すと家族全員でアクアに行くと言ったのでまずは漁村に行く。
「おっ、リタじゃねーか」
と、フィッシャーズ達。
「お、お久しぶりです。リタさん」
ガッシーは嬉しそうだった。
「今日は妾の家に泊まるが良いぞ」
と、マリー姫様がリタ達の家族を泊めてやるようだ。
「明日王都に移動して様子を見て決めたらいいよ」
その夜はリタの家族を交えて宴会。オルティアが狩ったという毒キノコのバターソテーや村で捕れた魚介類、リタは肉を食いたそうだったので角あり肉も焼いておいた。
リタの両親たちはとても恐縮していたが弟は物怖じせず肉をもりもりとくっていた。ガッシーも自分の弟のように構い、弟もすぐに懐いたようだ。そのうち本当に弟になるかもしれないなとセイは思ったのである。