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飴と鞭

「食料を出せ」


「これは神の加護で賜った物でございます。税は既に支払っておりますのでお渡しする言われはございません」


「貴様っ、農民の分際で逆らうのかっ」


加護を受けた農村が近くの王派の領主率いる衛兵達に脅されていた。


「良い、セイ様から脅されるなら食料を差し出せと言われておる」 


「しかし村長、ここにも多くの避難民が」


「領主様、神の使いであるセイ様より、国民同士で争うなと命ぜられておりますので食料は渡します。が、不当に奪われるのであればバチが当たりますぞ」


「なんだとっ、なぜ我々にバチを当てられねばならんのだ」


「先程村の者が申しました通り、税はきちんと納めております。ご購入という事であれば問題ありませんが取り上げるというのは不当な・・・」


ガスッ


「いちいち偉そうに指図するなっ。不敬罪で叩き斬るぞっ」


「村長っ」


殴られた村長に村人が駆け寄る。そして横暴を働いた領主に村人だけでなく避難民達も一斉に恨みを持った目で睨み付ける。


「貴様らもその目は何だっ。全員叩き斬るぞっ」


村人と避難民達はお互いをかばい合いながら村の食料を強奪されて行くのを見ているしかなかった。


そして根こそぎ奪い去った領主。ここの護衛にあたっていた冒険者が王都ギルドにすぐに知らせに行ったのであった。



ピリリリリっ


「もしもし」


「セイか。東にある農村が王派の領主にから暴行を受けて根こそぎ食料を奪われたらしい。テントとかもだ」


「了解、すぐに向かうわ」


セイはぬーちゃんでその村に行く。


「セイ様っ、ウェンディ様っ」


「大丈夫?」


「はい。頂いたポーションですぐに治りました」


「そうか。こりゃまた遠慮なく持って行きやがったな」


「はい。購入するのであれば食料を分けると申し上げたのですが」


「あいつら村長を殴って俺達まで脅しやがったんだっ。クソッ」


「わかった。そんなに怒るな。加護の無い所は食料が尽きかけてるんだろ。ま、バチは当たるからお前らはそんなに怒るな。食料とテント以外に奪われた物はあるか?」


「い、いえそれだけです」


「わかった。とりあえず代わりの食料とテントはおいていくから仕返ししようとか考えるなよ」


「はい・・・」


「いいか、憎しみは持つな。今は神を信じる人と信じない人が混在している。王に付いた領主街だがそこに住む人達は避難すらさせて貰えなかったりするし飢えているかもしれん。食料やテントを奪った行為は憎むべきだが人は恨むな。国が立て直った時には皆同じ国の人間だからな」


「はい・・・」


「あと、そこの領地から逃げて来た人が来てもちゃんと受入れてやってくれ。困った時はお互い様だと思ってな」


「しかし・・・」


「ウェンディは人同士が争ったり憎しみあったりするのを望んでないんだよ。今は我慢しないといけないこともたくさんある。ちゃんと明るい未来が来るから俺たちに任せておけ」


「ウェンディ様、セイ様。ありがとうございます。これからも宜しくお願い申し上げます」


と、村人も避難民達も改めて感謝のお祈りをくれたのであった。



セイはサカキ達に元の姿に戻らせてその領主街に行く。


「神の庇護下にある村に狼藉を働いたのは貴様らか?」


ざっと武器を構える衛兵達。


「神に武器を向けるとかいい度胸だな?それは領主の命令か?それとも自分の判断か?」


セイはウェンディに武器を向けられた事でヒートアップしていく。


「おっと、セイ落ち着け。俺たちがやってやるからよ」


と、サカキ達は恐怖を振りまいていく。


「おらっ、信仰しねぇのは自由だがよ、武器を向けんのは許せねぇな」


サカキは爪を伸ばし、ぬーちゃんは尻尾で威嚇、クラマは真っ赤な顔で威嚇する。


「ヒィィィ」


腰を抜かす衛兵達。


「おら、領主を連れてこい」


サカキが一人の衛兵の頭を掴み爪を喉に突きつける。


それを見た他の衛兵が腰を抜かしながらも領主の所にいった。それを見ていた領民たちもヒィィィと声をあげて逃げていく。


「領主様っ、か、神様がっ 神様がっお怒りにっ」


「なんだとっ。疫病神が来ただとっ」


領主は窓の外にいる黒尽くめの男、見たこともない恐ろしい大男に衛兵が頭を掴まれて失神している姿を目の当たりにする。空には鳥の化け物と何かわからない獣まで・・・


「あ、悪魔かあいつらは・・・」


領主は慌てて逃げ出そうとする。


「どこに行くつもりだ貴様」


いきなり現れた大きな犬?狼?


ブワッと部屋の中で風が吹き窓がバンッと開いた。


「掴まえたよーっ」


そうセイ達に叫んだのはシルフィードだった。


フェンリルは領主の首を噛んでセイの元へと飛ぶ。


「こいつが領主です」


首を噛まれて窓のからここまで連れて来られた領主は恐怖の余り声が出ない。


「お前が神の加護の村から強奪した張本人か?」


セイは領主に顔を近付けてそう聞く。


ガタガタ震える領主は何も答えられない。


「神を信じないのはお前の勝手だが歯向かうのは違うだろ?神に逆らった者がどうなるか見せしめになるかお前?」


ジョロジョロジョロジョロ


恐怖のあまり配下の者達の前でお漏らしをする領主。


セイは領主をズルズルと引っ張って公衆の面前に連れていく。


「お前達の領主は神に逆らい農村から食料とテントを強奪した。これより神の裁きを受ける」


「ヒィィィ、お許しをっ お許しをっ」


サカキ達もセイの横に来た。クラマが領主の肩を掴んで空に浮かぶ。


それを見ていた領民たちも恐怖のあまり動けなくなった。


「あなたっ」

「父上っ」


領主の家族だろう者が出て来てそう叫んだ。


「来るなっ」


クラマに肩を掴まれ、そこから血を流す領主は家族に叫ぶ。


「お許しくださいっ。お許しくださいっ」


奥さんと子供が泣いて土下座をする。


「クラマ降ろしてやって。セイ、もういいじゃない」


と、ウェンディが言った。


クラマはバサバサと降りて領主を離した。


「あなたっ」

「父上っ」


奥さんと3人の子供が肩から血を流した領主に駆け寄る。


「これを飲みなさい」


ウェンディはポケットから万能薬を出して領主の口に含ませた。


「噛みなさい」


と、ウェンディ言うと恐る恐る万能薬を噛んだ。


途端に収まる肩の痛み。血も止まったようだ。


「こ、これは・・・」


「ウェンディの慈悲だ。良かったなウェンディが止めてくれて」


「慈悲・・・」


「ウェンディは人同士で争うのは望んではいない。お前は王に付いているが敵ではない。同じアネモスの人間だ。今のはお前が農村に働いた狼藉の戒めなんだよ。食料がやテントが足りないならちゃんと買え。お前のやったことは盗賊と同じことだろ?」


「は、はい・・・」


「どれだけ食料は不足している?」


「このままだと冬を待たずに食料は無くなります」


「お前らは健康そうだが領民達は腹を空かせているみたいじゃないか。ちゃんと分け与えてんのか?」


「も、申し訳ございません・・・」


「奪った物はそのままやる。ちゃんと領民に分け与えろ。そのうち領民に殺されんぞお前」


「は、はい」


庶民の子供達はみなお腹を空かせてそうな感じが伝わってくる。


セイはドサドサと小麦や肉や魚を出していった。


「まだ足りなければ農村に頭を下げて譲って貰え。金があるなら払え」


「こ、これは・・・」


「育ち盛りの子供を飢えさすな。税金で食ってるお前らは領民を守る義務があるだろうが。今はなんともならないだろうから食料はあげるけどな。そこのお前らは病気になってるやつとか怪我人がいるなら連れてこい」


もう恐怖は十分に振りまいたので脅しは十分だろう。


「ウェンディ様、この者はお許しになるのですか?」


と、フェンリルとシルフィードもこちらにやってきた。


「あっ、あの時の・・・」


と声を上げたのは貴族らしき御婦人。


「避難中の危ない時にありがとうございました」


と、こちらにお礼を述べる。ルーク達が護衛していた貴族か。


「領主様、この方は我々が危ない時に救って下さった方たちです」


「なんですと」


「我々は目に見えない物に守られているとおっしゃれておられました。騎士たちが魔物と戦っているときに突然風が吹き魔物達が吹き飛び、この大きな犬が助けて下ったと。そちらの黒い服の男性が何かをしたらその姿が見え・・・」


(我は犬ではない)


とぽそっと呟くフェンリル。


「こいつはフェンリルとシルフィード。神獣と大妖精でウェンディの眷属だ。目に見えない物に守られていると言っても信じられないだろうから見えるようにしたんだよ。これまでもウェンディがずっとこの国の魔物を弱体化させ土地を豊かにしてきた。神を信じなくなって蔑んだ結果がこの状態だ。この国はそうして滅びに向かっている。信じるか信じないかはお前らに任せるが、そのうちガーミウルスが攻めてくる前に魔物に滅ぼされるという事を改めて忠告しておく」


ウェンディはこちらの話には知らん顔で、体調の優れないものや怪我をしている者に万能薬を分け与えていた。


「じゃ、ウェンディ。今日の予定の領地に向かうぞ」


「うん」


「お、お待ち下さいっ」


「なんだ?」


「あ、ありがとうございました」


「別に礼はいらん。それより避難民にテントの配布、領民達にちゃんと食料を分けろ。次に他の村から強奪したりしたら本当のバチを当てるからな」


そう言い残したセイは皆と共にこの領地を去ったのであった。



その後、領民達から領主は詰め寄られる。


「領主様っ、ここは神の加護を与えられないのでしょうかっ」


口々にそういう領民達。


「我々は・・・」


それ以上答える事ができない領主なのであった。



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