眷属の反省
屋敷に戻って寝る時にウェンディは水着に着替える。
「みっ、見ないでよね」
と、お互いが照れながら妖力を注いでいく。
「少し浮けそうな感じとかあるか?」
「ないわよ」
そんな確認をしながら寝ていく二人。
翌日にギルドに行く前に教会に行ってみる。
「あ、セイさんとウェンディ様」
と、教会にいたのは神官見習いのケネル。神官である母親のファンケルも一緒だ。
「避難してないの?」
「はい。我々は教会と共にあります。ここはウェンディ様の教会ですから」
「もうすぐ王都内にも魔物が出るようになるから避難しなよ。建物なんて後からどうとでもなるから」
「ここはウェンディ様を信仰していた方々のお墓もありますのでそれを守らねばなりません。それに怪我や病気になった方がここに来られますので」
「信者以外の人来るの?」
「申し訳ございません。信者の方だけにと預かったポーションを使ってしまいました」
「別にそれはいいよ。目の前に怪我人や病人が来てるのに信者じゃないから帰れとか言えないだろうし。薬は足りてる?」
「はい。たくさん預かっておりますので」
「食料は?」
「なんとか・・・」
セイは奥に案内してと伝え、業務用の冷蔵庫と冷凍庫を出す。
「そのうち王都内は食料が足らなくなると思うからここに肉と小麦とかおいていくね。たくさんあるとバレたら盗みに来る奴がいるかもしれないから公にしないでね」
「こんなにたくさんいいのですか?」
「大丈夫。冒険者の誰かをここの護衛におくように伝えておくからその人達にも食べさせてあげて」
「ありがとうございます。早くこの騒動が収まる事を祈ります」
セイは教会周りに結界を張っていく。そのうち魔物が王都内に出だしたら逃げ込んで来る人達もいるだろう。ウェンディを信じないからといって見捨てるとかも違うからな。
ギルドに行き、ギルマスに教会に何人か護衛に付いてくれる冒険者の派遣をお願いする。食料は用意してあるので常駐で派遣をお願いした。
「お、飯付きか。なら喜んで行くやつがいるだろうよ」
「肉と小麦とかはたくさんおいてきた。そのうち食料が減ると盗みに来る奴が来るだろうし、教会なんだから食わせろとか言う人も出て来るだろうからね」
「そうだろうな」
「あと教会にも結界を張ってあるから護衛に付いてくれる人は魔物というより人から教会を守ってくれと言っといて」
「わかった」
「ここにも飯を食いに来る冒険者はまだたくさんいる?」
「いるぞ」
「なら肉とか置いていくよ」
ドサドサと冷蔵庫と冷冷凍庫が満タンになるまで渡しておく。小麦やパスタとかもだ。
「仕入れて来たのか?」
「ガイヤとアクアからの支援。他にもテントや寝具とか国として支援してくれている。ギルドからは魔石も大量に貰った」
「そうか。他国の方が色々としてくれるんだな」
「うん、各地のギルマスや総長も連携して国とやり取りしてくれているみたい。ボッケーノからも支援があると思う。俺は避難地に回ってこれらを配って行くよ」
「おう、こっちの事は俺とグリンディルに任せておけ」
セイはそう報告したあとに人の多い場所からテントやらを支給してはガイヤ、アクア
ボッケーノからの神への感謝を込めた支援だと伝えていく。
「他国からこのような支援をしてくださるのですか」
「そうだよ。他の国は庇護してくれている神への感謝が強い。アネモスもそうなるとようにとの気持ちを込めた支援だ。神は加護を与えるけれどもこういう支援は人にしか出来ないからな。それに大国を庇護する神達は姉妹なんだよ。ということはウェンディを信仰するアネモスは大国から見れば姉妹国ということだね」
「ウェンディ様、今まで恨んだり蔑ろに致しまして申し訳ございませんでした」
支援を受けた人々はこれまでの自分達のしてきた事をウェンディに頭を下げて謝っていく。
皆がテントを張り終えたのを見計らい夕方を待ってウェンディと手を繋ぎ雨を降らせていく。日差しが強いので土地が乾くのも早いのだ。アーパスは水の加護は魔物を弱体化させるだけとは言っていたが、野菜の育成にも効果があるような気がする。農民たちもいつもより野菜の成長が早く美味しくなっていると言っていた。
アクアの飯って何でも旨かったからな。料理スキルが高いのもあるだろうけど、アーパスのお陰ではないだろうか?
牧草もよく育ち、家畜達もよく食べて健康そうだった。
テントを配った所に水の出る魔導具を設置し使い放題にしておく。空になった魔石は捨てずに集めておいてくれと伝え、予備も準備。魔導テントとかにも必要になるしな。
1日一箇所のペースで同じ事を繰り返していく。肉が足りなくなればダンジョンで補給していった。
ん?あの避難集団やばそうだな。
守ってるのは騎士じゃなかろうか?
ぬーちゃんで上空を飛んでいると下の方で魔物と戦っている鎧を着た者達。なんとか頑張ってはいるが魔物の数が多い。やばそうだなあれ。
助っ人に入ろうとしたセイだが、いきなり魔物が吹き飛ばされ、魔物にやられそうな騎士は助け出された。
「ぬぉっ。神の加護か?」
訳も分からず助かった騎士たちは口々にそう言い合う。
「ようルーク」
「あっ、セイ様、ウェンディ様。今のは助けて下さったのですか」
「いや、やったのは俺達じゃない。コイツらだ」
「コイツら?」
あ、そうか。皆には見えないんだな。
今騎士達を助けたのはフェンリルとシルフィードだった。
「お前達、何をしに来たんだ?」
「ウェンディ様、セイ様。誠に申し訳ございませんでした。眷属であったにも関わらず何もして来なかった我らをお許し下さい」
「なんだよ反省したのか?」
「はい。ウェンディ様が力を失っても神の使命を果たそうとされているのに我らは何をしていたのだろうかと悔いました」
「だって、ウェンディどうする?」
「ほっ、本当に反省してんのっ」
「誠に申し訳ございませんでした」
「な、なら許してあげてもいいけど、次に噛んだらチョップするわよっ」
ということでフェンリルとシルフィードは再び眷属の契約を交わしたのであった。
「セイ様達は今何を?」
「ちょっと待って。皆にも見えるようにするから。フェンリル、シルフィードちょっとこっちに来い」
と、二人をこっちに呼び、妖力を流していく。
「おぉっ」
「この犬はフェンリル。羽の付いた小娘はシルフィード。ウェンディの眷属だ。今ルーク達を助けたのはコイツらだよ」
「我は犬では・・・」
「フェンリル様、シルフィード様。危ない所をありがとうございました。お陰様で避難民は無事でございます」
騎士たちが跪きお礼を述べると避難民達も跪いて同じようにお礼を述べた。
フェンリルとシルフィードは始めて人間から感謝を込めた言葉を貰い心をギュッと掴まれたような気がしていた。
「ルーク、見えない物が守ってくれるということは実感したろ?」
「はい」
「ウェンディはこれまでずっとそうして皆に加護を与えて来たんだよ。皆が知らないだけでな」
「はい。ウェンディ様。本当に申し訳ございませんでした」
「で、騎士達がなんで避難民の護衛なんてしてんの?王城の守りは?」
「セイ様」
「はい?」
「国とは人でございますから」
ルークは前にセイが言ったことを口にだした。
内部でも色々な意見が出たが結論は国とは人であると一致し、それならば騎士が守らなくてはとなったそうだ。
「王と揉めなかったのか?」
「新生アネモスの為に国民は必要であると申し上げたところ、戦えない者は避難させてよしとなりました。ただ、避難先は王派の領地でございますが」
それでこの避難民達は女子供ばかりなのか。服も綺麗だし馬車も上等そうだ。
「ルーク、王派の領地はウェンディの加護がないから住む家も食料も少ないぞ。大丈夫か?」
「仕方がありません。王都内にも魔物が出始めていますので」
「何が出ている?」
「今はネズミの魔物です。猫程の大きさで強さはそうでもないのですがすばしっこくて難儀しております」
「お前らこの人達を送り届けたあと戻るのか?」
「はい」
「そのうちゴブリンとかも出ると思うけどそれより厄介なのは病気だ」
「病気ですか?」
「ネズミの魔物が出で来てんのは下水とかからじゃないのか?魔物のネズミが出たなら普通のネズミも逃げてたくさん出で来ると思う。そいつらが病原菌を持っていたらあっと言う間に病気が広まるぞ」
「本当ですかっ」
「あぁ。もし同じ症状で苦しむ人が出てきたら伝染病だからな。注意しておいてくれ。どうしようもなければ教会に助けを求めろ」
「かしこまりました。ご忠告ありがとうございます」
そうか。街中に出る魔物はネズミから始まるのか。数が出ると厄介そうだなとセイは嫌な予感がしているのであった。