素直に言われると照れくさい
「もう出るのか?」
「うん、ガイヤに行けとギルマスに言われたからね。やることは先に済ませるよ」
セイは海水浴の翌日にガイヤの総本部へと向かう。
すぐに通されてマッケンジーの所へ。
「おう、大変みたいだな」
「俺の交渉術はしょぼくてね、アネモス王家と対立をするような感じになっちゃんだよ」
「日頃から繋がりがないと王と交渉なんぞ誰でも無理だ。向こうもお前の事を知らんだろうからな」
確かに。なんのツテも無しに会いにいって揉めたのだ。
「ま、もう交渉決裂した事をぐだぐだ言っても仕方がないな。アクアから連絡があったからテントは集めている最中だ。魔石も集めてあるから明日持って帰ってくれ」
「お手数をお掛けします」
「総長はバタバタしてて留守だからなんかあったら俺が対応をする。腕利きの冒険者連れて行くか?」
「いや、もう魔物討伐はあまりしてないからいいよ」
「魔物が溢れかえってんだろ?」
「アネモス軍が訓練で倒すらしいよ。アネモス王都は王派が残ってて、ウェンディを信仰してくれる人は地方に避難させてる」
「地方だと壁とかないだろ?それともアネモスはどこも壁で守られんのか?」
「王都程高い壁は無いね。柵とかそんなんだよ」
「なら危ないだろ?」
「魔物避けの結界張ってるから大丈夫。冒険者達は避難する人の護衛をしてくれてるよ」
「お前結界とか張れんのか」
「まぁ、どちらかと言うとそっちが本業。ここまで大規模にやったのは初めてだけど」
「そうか。随分と疲れた顔をしてると思ったわ。自分で何でもやろうとすんなよ。人を使え人を」
「ちゃんと皆手伝ってくれてるって」
「それでもだ。任せられる事は任せろよ」
ここでも疲れている顔と言われた。そんなに酷いのだろうか?
「総長は忙しいってなんかあったの?」
「アクアとなんか協議事項が持ち上がったらしくてな。国の仕事には関係ないはずなんだが呼び出されたみてぇだ」
「へぇ。二足のわらじってやつかな?総長も大変そうだね」
「まぁ、お前ほどじゃないだろ」
と、笑われた。
ーアネモス王城謁見の間ー
「陛下、我々は王に付いて参ります」
「うむ、疫病神の戯言を信じたバカどもはガーミウルスを撃退したあとに粛清を行う。静粛された領地はここに集まった者達で割り振りを行う。宰相に希望を出しておくがよい」
「おぉー」
「陛下、すべての兵士達の対魔導兵器の防具は揃いました。これで上陸を防ぐ港を破壊すればあちらもどうすることも出来ぬ手筈です」
「船はどうなっておる?」
「はい。あちらは大型船だと思われますのでこちらはスピードで勝る小型船を手配済にございます。魔法攻撃を仕掛け、ダメージを与えた後に離脱を繰り返します。これでガーミウルスも撤退するしかなくなりましょう」
「うむ。訓練を繰り返して行うのだ。この戦いは追い返せば勝ちであるからな。しかし総指揮者を乗せた船は必ず確保するのじゃぞ。賠償金を取らねばならぬからな」
「はっ」
「陛下、恐れながら申し上げます」
「なんじゃ?」
「我が領地に軍の応援をお願い申し上げます」
「魔物が来ておるのか?」
「はい。冒険者ギルドは空になり、我が領の衛兵だけでは手が足りません。また農作物も不作が続いており・・・」
「えーいっ、そのような報告は聞きとうないっ。宰相、兵士は訓練を兼ねて派兵せよ。食料は自分達で考えろっ」
「はっ」
王城で王派として残った貴族や領主達はこのような報告と会議を続けていたのであった。
「ウェンディ、ケーキでも食べに行くか?」
「うん」
と、カフェに入って冷たいジュースとケーキを食べる。アクアやガイヤは平和だ。少し前のアネモスもこうだったのにな。
改めて上手く交渉出来なかった自分の未熟さを悔やむ。初めからタマモに相談しておけばもっと上手くやれたのだろうと。
カフェの後はスパイスや酒を買い込んでいく。ガイヤ王都中を回って小麦や日持ちしそうなものもだ。避難先で全部食料を賄えるとは思わないからな。
翌日に本部に行くと大量のテントや寝具、そして小麦等の食料まで山積みになっていた。
「こんなに貰っていいの?」
「これはガイヤ王国からの支援だ」
「国から?」
「そうだ。総長から国へ支援要請をしてくれてあるからな。まだ集めておくから取りに来てくれ。ガイヤからはこれぐらいしかしてやれん。ギルドからも魔石をごっそりだしてもらった。
このお礼はアネモスが落ち着いたら必ずさせてもらおう。
漁村に戻り、皆にもガイヤからも支援があった事を伝えるとモリーナが手紙をボッケーノ王に渡してくれと託された。
「モリーナ様、これ・・・」
「ボッケーノも支援の準備はしていると思いますわ。でも念のためにね」
「ありがとうございます」
セイは深く頭を下げる。アネモス以外の国は色々な人との繋がりが出来ていた。そしてこうして支援をしてくれるまでに。
その夜テントでウェンディと話す。
「ごめんな」
「何が?」
「一番重要なアネモスにはあまり何もしてこなかったからこうして他の国まで巻き込んで大変な事になったんだよね」
「別にいいじゃない」
「ん?」
「わたしが助けを求めたのがセイじゃなかったらここまで他の国の人がなんかしてくれたとは思わないわよ」
「そうかな?」
「そう。ヘスティア達も出てこなかっただろうし、そもそも他の国に行くとこもなかったんじゃない」
「それはそうかもね」
「それにわたしにエネルギーくれるのセイだけでしょ」
「まぁな」
「だから良かったと思う。セイが来てくれたの」
ウェンディに憎まれ口でなく、こんなふうに言われるとなんか照れくさい。
セイは照れ隠しに頭をウェンディのクシャクシャする。
「何すんのよっ」
クシャクシャクシャクシャ
「キィーーーーっ」
ふぅーっ ふぅーっ
「うひゃひゃひゃひゃ。やめろっ」
「セイ達は楽しそうじゃの」
「マリー、邪魔をしてはダメよ」
「うむ・・・」
テントから丸聞こえのセイとウェンディのやり取りは姫様達でなく、フィッシャーズ達にも聞こえ、いつものセイに戻ったようだなと安堵したのであった。
「もう帰えんのか?」
「アクアで酒とか日持ちする食料買ってから帰るよ。ボッケーノにも行かないとダメだし」
「そうか、こっちはこっちでちゃんとやっておくからよ」
「姫様達を宜しくね。あとチーヌ、オルティアの基礎訓練の合格が出たら教えてくれ」
「わかった。基礎体力は順調だぞ」
「後は剣だね」
「おう、この辺の虫討伐をやらせてみるわ。一人で」
「なっ、なっ、なんでそんな意地悪を言うんですかっ。私を虫の巣に捨てるつもりでしょっ」
「ちゃんと付いてってやるよ」
オルティアが冒険者を続けるかどうかはまだ聞いていないらしい。チーヌの合格が出たらCランク程度の実力になってるはずなので、それからどうするか確認をすると言っていた。冒険者を続けるなら魔法の事を教えてやらないとな。
セイは皆に礼を言ってからアクアで買い物をしてボッケーノに向かい王城へと向かった。
「かしこまりました。陛下にお届け致します」
門番にモリーナからの手紙を託してバビデ達の所へ。
「そうか、随分と大変な事になったな」
「うん」
「しかし、魔導兵器の対策とかどんな防具を用意したんだろうな」
「バビデは知らんのか?」
「何がだ?」
「アネモスから鎧と盾の発注が前に結構あったと他の奴らが言うておったぞ」
「ありゃ、普通の鉄の鎧と盾だろ?」
「セイ、魔導兵器とはどれぐらいの威力じゃ?」
「ファイボールとかと違ってね、エネルギーの塊みたいな物が飛ぶんだよ。持ってるからどっかで試してみる?」
ということで山登り。何も無い所で試してみることに。
「ほら、鉄の盾に撃ってみてくれ」
と、バビデが作った一般的な鉄の盾を岩に立てかける。
「鉄の盾ってこんなに重いの?」
「槍や剣を防ぐものだからな。こいつを持った部隊が前に出でジリジリと前線を押しあげていくんだ」
盾持ちは盾しか持たないのか。
剣士が持つ盾はもっと小さく片手で持てるやつとのこと。
まずは拳銃サイズの物を撃ってみる。
ドウッ
バンッという音と共に防いだ鉄の盾。
次はライフルサイズの物も防げたがバズーカタイプのはなんとか防いだものの盾はひしゃげ、後ろの岩も砕けた。
「最後の奴を何発か撃たれたら総崩れするだろうな」
「アネモス王は二番目の奴位を想定してるのかな?」
「これより強力なのは想定しておるじゃろうが、遠距離から撃たれても防げると思っておるんじゃないのか?」
確かに今撃ったのは20m程度しか離れてなかったからな。距離が離れたら威力は落ちるだろう。
「ま、セイが気にすることじゃねぇぞ。お前の力は不要と言われたんだろ?」
「まぁね」
「なら気にすんな。お前はウェンディを信じだ奴らだけをちゃんと守れ」
「うん」
サカキ達が出て来て宴会となり、少し付き合ったセイは早めに寝たのであった。
翌日にアネモスに移動したセイは誰もいなくなった初級ダンジョンに行き、妖力を餌にして黒豚と角あり、コカトリスの肉を延々と出し続けてもらったのであった。