人に言われると腹が立つ
「ここは?」
「俺達の家だ。そこの岩場に船を停められるか?」
「問題ない」
船から降りて屋敷に入る。
「黒鬼、お前の名前はあるか?」
「ヒョウエだ」
「ヒョウエ。お前達はここで待ってろ。今からこの娘さんを家に連れていく」
「ここで?」
「島で待っていると気が気じゃないだろ?この人が島に行けるように許しが出たら連れて帰るといい」
「お、お前・・・」
「サカキ、両親の対応は俺がやるからコイツらの面倒をみててくれ。飯は砂婆に頼んでくれ」
「セイ様・・・」
「どうするかはあんたが両親と話し合って決めてくれ。俺達は救出の依頼を受けただけだからな。その後の事はあんた達の問題だ」
ウェンディが来るとややこしくなるのでセイと貴族の娘と二人でぬーちゃんに乗って屋敷に向かった。少し離れた所に降りてもらい屋敷へと向かう。もう夜なので人目には付かないだろう。
「ちょっとここで待ってて。ご両親の所に報告に行ってくるから」
セイは式神を飛ばして両親の部屋に侵入する。
「こんばんは」
「貴様っ。またどこから来たのだっ」
「それより娘さんは無事でした。いま近くに連れて参りましたが正面の門番に伝えればいいですか?」
「何っ?それは本当か」
「はい。門番が事情を知っているかどうか分かりませんでしたので確認に参りました」
「本当に娘は無事なんだな?」
「ご自身の目でご確認下さればよろしいのでは?」
「わ、分かった。本当に娘が一緒なら抜け道の扉を知っているはずだ。そこから入ってくれ。執事を中で待機させておく」
ということで式神を戻して娘にそれを伝えるとこちらへと案内された。
別の家が抜け道なのか。
ドアをノックすると執事がドアを開け、地下道が屋敷へと繋がっているのであった。
「こちらでお待ち下さい」
屋敷の地下室で待てと言う執事。他の使用人にも内緒のようだな。
しばらく待っていると両親が入って来た。
「お父様、お母様!」
「よくぞ無事で・・・」
両親は娘と抱き合い無事を喜んだ。
「えー、これで依頼達成ということで宜しいでしょうか?」
「クッ、や、約束は守る・・・」
「はい。これで私を闇に葬ろうとされるならどうしようかと思っていましたがお約束を守ってくださるようで安心いたしました。報酬金額を決めていませんでしたがおいくら請求しましょうか」
「この悪魔の使いめ、いくら請求するつもりだっ」
今の借金が金貨12枚だからそれは解消したいな。値切られてもいいようにちょっと上乗せして請求するか。
「金貨15枚頂きましょうか」
「何っ?金貨15枚だと?」
あー、はいはい。値切ってくるんですね。
「ではオマケして・・・」
「150枚の間違いではないのか?」
は?そんなくれるの?いや、これで金貨150枚相当の宝石だとか言われても困るしな。
「いえ、15枚ですよ」
「何か企んでいるのか?」
「いえ別に。あと教会に感謝のお祈りをして頂くだけで」
「くっ、やはり悪魔信仰をさせるつもりなのか」
「悪魔?」
「疫病神ウェンディは悪魔なのだろうっ」
酷い言われようだ。
「ウェンディはそんなものじゃありませんよ。あと娘さん。あいつが待つのは一週間。それまでに結論を出して下さい。一週間後に報酬を頂きに来ますのでその時にお返事を頂ければ」
「お父様、お母様っ。私は魔物に殺された事にしてくださいっ」
「お前は突然何を言い出すのだ?」
「私は・・・、私は・・・嫁ぎたいと思います」
「どういうことだ?」
娘は事の初めから事情をすべて話した。
「魔物に嫁入りするだとっ?何を考えているのだお前はっ」
「鬼は魔物ではありませんよ。鬼族です。まぁ、獣人とかと似たような者だと思って下さい」
「お父様、お母様。私はヒョウエ様を愛してしまいました。兄弟は他にもおりますので私は亡くなったものと・・・」
「なっ、ならんっ。どんな奴かもわからんところに嫁にやれる訳がないだろうっ」
「で、でもヒョウエ様は・・・」
「一度会って話をしてみますか?今内の屋敷にいますので」
「会うだと?」
「はい。一週間うちに滞在します。迫力のあるやつなので怖いかもしれませんが大丈夫ですよ」
「お父様、ヒョウエ様他皆様は私を本当に大事にしてくださいました。私をう、う、美しいと」
そう、ポッと頬を染める娘。
「本気なのか?」
「はい」
「貴様、報酬を安くしたのは娘をたぶらかして連れていくつもりだったからか?」
「・・・あのですね、私は娘さんがヒョウエの所に行こうが行かまいがどちらでも良いのです。私の仕事は娘さんを救出したところで終わってます。この後どうするかは当事者同士で決めてください。話がまとまらないようなので今日は帰ります。依頼を受けてから寝ていないのでもう帰りたいんですよ」
「寝ていない?」
「島に到着してから延々とオーガ討伐、その後は夜通しカニの魔物を倒して、ヒョウエ達とも初めは戦闘になりましたからね。明日から漁師達と話し合いもしないといけませんので忙しいのです」
「漁師と話し合い?」
「はい。暴風が吹かなくなって海に異変がおきているらしいんです。近海で魚が捕れなくなってるのそのせいらしいんですよね。これはヒョウエが教えてくれたんですけど。だから暴風を吹かせて海をかき混ぜる予定にしています。暴風を吹かせる間は漁師達に船を出さないようにしてもらわないといけませんから」
「海をかき混ぜる暴風?誰がやるのだ。そんな風魔法を使える魔法使いなぞ王宮魔道士でも無理だ」
「風の神様、ウェンディがやるんですよ」
「疫病神が・・・」
何度もウェンディの事を疫病神と言われて少し頭に来たセイ。自分が言うのは良いけど人に言われるのはなんか腹が立つ。
「まぁ、暴風の被害に合われていた方々はそう思われるかもしれませんがこのまま暴風が吹かなくなればこの国はもっと不幸になるかもしれませんね。近海で魚が捕れなくなったのはその前兆かもしれませんよ」
「な、何を馬鹿なことを。暴風なぞ吹かない方がいいに決まってるではないか」
「まぁ、今回は海だけに吹かせるように言ってみますよ。それならば街には影響ないでしょうから。街の人が風を望まない限り止めておくように言っておきますので」
セイはそう伝えて屋敷を後にした。ここに来るのは一週間後だ。
「ようどうだった?」
サカキ達はヒョウエを交えて宴会をしていた。タマモは帰って来ていないようだ。
「どうだろうね。とりあえず送り届けてきたわ。一週間後にまた行った時に結論を聞くよ。ヒョウエ、あまり期待しないでくれ。娘さんはお前の所に行きたいようだが親御さんは大反対だからな」
「そうなのか・・・」
「明日、海に暴風を吹かせる件で冒険者ギルドに行ってくる。一週間はここでゆっくりとしていってくれ」
ヒョウエは鬼の癖に繊細なのかもしれん。酒や飯にもほとんど手を付けずに渋い顔をしていた。
翌日冒険者ギルドでギルマスに相談する。
「なに?オーガ島に他の種族がいるだと?」
セイはオーガ島での経緯を説明した。
「そうか。行方不明の漁師はもう食われてるか」
「確認したわけじゃないけど、オーガ島に上陸して無事だとは思えない。鬼達も船しかなかったからこっちへ届けに来たみたいだし」
「そうか。律儀な奴らなんだな」
「そうだね。今回はそれが仇になったんだけど」
「あと海が死んでるとは本当か?」
「これは鬼達が人魚から聞いた話らしい。海が暴風で荒れないと海が死ぬらしいよ」
「人魚か・・・。人魚のいる海は豊漁といわれているからな」
「でさ、漁師たちにこの説明をしたいんだけどどうしたらいい?」
「なら漁師ギルドにいけ。そこのギルマスとは知り合いだから紹介状を書いてやる」
「これ海だけの問題かな?」
「どういう事だ?」
「加護の暴風が止んで10年近く経つんだろ?他にも影響でてくるんじゃない?魔物が増えている以外に」
神話では山も死ぬらしいからな。
「ここは魔物の事しか情報が入らんからな」
「他にギルドってどんな種類があんの?」
「商業ギルドってのがあってそこが一番様々な情報が入る。中央の役所の中に入ってんぞ」
「了解。漁師ギルドが終わったら一度行ってみるよ」
セイは冒険者ギルドを出てそのまま漁師ギルドに向かったのであった。