神あり領、神無し領
「そうか。もう一度アネモス王に会いに行くのか」
セイはギルドでマモンと話をしていた。
「うん。昨日行った農村近辺は想定していたよりかなりまずい状況になってた。今まで魔物は巣穴から出てきてたんだけど何もないところから生まれたからね」
「マジかよ・・・」
「多分アネモス全体が魔物の巣穴みたいになってきているんだと思う。クラマがそう言ってたから間違いないと思うよ」
「ウェンディはいつ神に戻れそうだ?」
「それがわかんないんだよ。女神の中で一番力を持ってるのがウェンディらしくてね。どこまで注げば戻れるか全くわかんない」
「急げねぇのかよ?」
「昨日の村人は心の底から感謝して祈ってくれたんだ。それでわかったんだけど、多分表面的にウェンディに感謝とか思ってくれてもダメなんだと思う。本気で心の底から感謝して祈ってくれないと」
「心の底からか。そいつは自分でもコントロール出来んからなぁ」
「そうなんだよね」
「で、王には何を話しに行くんだ?」
「もう王都の塀の中も安泰じゃないということと、税の引き下げ提案。このままだとガーミウルスが来る前に国がダメになるかもしれない。王がそれを理解してこちらの話に乗ってくれるなら内乱にもならなくて済む」
「そんな話を聞くか?」
「聞かないだろうね。でもちゃんともう一度話してみるよ」
セイは自分が暴走しないようにタマモをサポートに付けて王城へと向かう。
「王に会いに来た。通せ」
門番に威圧を放ち有無を言わさないセイ。
「ほら落ち着きな。こっちが喧嘩ごしなら向こうもまともに相手しないってなもんだよ」
頭では理解しているが一度ウェンディに武器を向けられた記憶があるのでキレるスイッチが敏感に反応する。
「門番、非常に重要な話なんだ。王へ取り次いでくれ」
「か、かしこまりました」
「ウェンディ、セイに手を繋いでやりな」
タマモに言われてウェンディはセイの手を握る。セイが何かに変わりそうな雰囲気はウェンディにもわかったのだ。
日頃ぎゃーぎゃー言い合うウェンディの手は小さくか弱い。セイはウェンディを守ってやりたいと改めて思う。
「お待たせ致しました。ご案内致します」
迎えに来たのは騎士だ。
「ウェンディ様、セイ様」
「何?」
「アネモスは滅びるのでしょうか」
騎士は前を向いて案内しながらそう聞いてくる。
「今のままならね。ガーミウルスに侵略される前に飢饉か魔物に埋め尽くされる」
「そうですか。まだ王都は安全にございますが塀の外は酷くなっていると伺いました」
「魔物ってどうやって出てくるか知ってる?」
「いえ」
「通常は魔物が生まれてくる場所があってね、冒険者の間では巣と呼んでるんだよ」
「巣ですか?」
「そう。生まれてくる場所が決まってたんだよ」
「決まっていた、ということは今は違うのですか?」
「そう。昨日農村の魔物討伐に行ったら巣じゃ無いところから魔物が生まれた」
「ど、どういうことですか?」
「アネモス全体が魔物を生む巣になりつつあるんだと思うよ」
「えっ?」
「だからここも安全じゃ無くなる日も近いんだ。だからそれを王に伝えにきたんだよ」
「なんとかならないものなのでしょうか」
「なんとかするにはウェンディの力が必要だ。それにはアネモス国民が心からウェンディを信仰して祈ってくれないとダメなんだよ」
「では、本当に我々が神を捨てた報いを受けているのですね」
「そう。手遅れにならないうちに皆が信じてくれるといいんだけどね」
と、騎士にその話をしていると謁見の間に到着した。
「何をしにきた疫病神め」
ブワッと妖気が膨れ上がるのをウェンディがギュッと手を握って押さえる。
「アネモス王、今回はセイの話を心して聞きな。ガーミウルスが来る前に国が滅びるよ」
と、先にタマモが王を牽制する。
「反乱を起こしている分際で偉そうな事を申すでない」
「アネモス王よ。自分は反乱を起こしたい訳じゃない。しかしこのままでは民が死ぬ」
「疫病神に殺された者もおる」
カチン
落ち着け、落ち着け、俺。
ヒッヒッフー
ヒッヒッフー
フーーっ
「アネモスは今魔物の巣となりかけている。ガーミウルスが来る前に魔物で国が埋め尽くされる。それを伝えに来た。王が皆に号令を掛けて協力してくれるなら今ならなんとか俺たちでそれを食い止められるかもしれない」
「ええい、戯言を申すな。今は魔物にかまっている暇等ないのだ。ガーミウルス侵攻に備えて軍拡をせねばならんだ」
「王よ。アネモスでいくら軍の準備をしてもガーミウルスには敵いません。ガーミウルスは魔導兵器を開発しています」
「知っておる」
「え?」
「使者の護衛が持っておるものであろう。奴らにもそれを見せて脅しをかけおったわ」
「なら敵わない事は理解できたでしょう」
「対策は抜かりない。アネモスとて大国。そのような備えはしておる。宮廷魔道士達の攻撃部隊もな。神様ごっこをしておるお前らには理解出来ぬ世界じゃ。余計な口を挟むでないっ」
「では魔物はどうするつもりですか?それに不作の対策はっ」
「多少魔物が増えた所で軍の良い訓練相手じゃ。不作も戦争終わるまで辛抱すればなんとかなる。話はそれだけかっ」
「アネモス王、本当にウェンディとセイの力は不要なんだね?」
と、タマモが口を挟む。
「くどいっ」
「そうかい。セイ、ならもういいさね。あれだけ自信があるんだ任せておきな」
「タマモ、でも」
「いいさね。信じる者だけ助けりゃいいさ。残りはアネモス王に任せておきな」
タマモに言われてセイは引き下がった。
「タマモ、どうすんだよ?」
「ウェンディを信じた領地だけ結界を張りな。王都内で信じた奴も分散させてそこへ逃がせばいい。誘導はあたしらでやってやるさね。冒険者達もみなそこに避難させるんだよ」
「領地?」
「領主には私が話すから安心しな。なぁに、数年ほど避難させるだけさね。ガーミウルスが来るのは早くて来年の春。魔物と農作物の対策が先だよ」
「もしかして領主には話を付けてあんの?」
「あんたが政治に首を突っ込む時に味方が必要だろ?」
「タマモ、いつの間に・・・」
「ほらぼさっとすんじゃないよ。マモンのところで計画を立てて順序よくやらないと間に合わないからね」
タマモはどこまで手を回してたのだろうか?
ギルドに戻って今日の話をする。
「決裂か」
「うん。だから協力してくれる領地に人を避難させる事にしたよ。その領地には結界を張って雨を降らせる」
「漁師たちはどうするんだ?」
「ヒョウエに頼んでオーガ島に避難させてもらうよ」
地図を見ながら振り分けを考える。
「冒険者達はどうすんだ?」
「各領地で農作業とか避難した人達の世話とかだね」
「魔物はどうすんだ?」
「アネモス王曰く、軍の訓練相手にちょうどいいらしいよ。ボッケーノからの応援は戻ってもらったほうがいいね」
「移住はいつまでに終わらせるつもりだ?」
「最悪は来年の春。ガーミウルスが侵攻してくるのが早くて来年春になるんだって。魔物はそれより早く増えると思うから避難はなるはやだね。避難するときは冒険者が護衛に付くとか必要だと思う」
「報酬はどうすんだ?」
「ないよ。それが不服なら王都に残ってればいいんじゃないかな。今は有事だから皆色々と我慢を強いられるけど仕方がないね」
そして各自のやる順番を決めていく。セイはぬーちゃんと協力領地を周り結界を張って雨を降らせる。ギルマス達本部系の人は避難を募って冒険者に護衛をさせながら順次避難していく事に。タマモは領主たちに決定事項を伝える。当面の食費等の費用は領主にもたせるとのこと。
このことはリーゼロイにも伝えに行った。
「リタ、あんたはどこに避難したい?」
と、セイがリーゼロイ家に行った後にグリンディルが聞く。
「家族とオーガ島に行けますかね?あそこなら知ってる人たちもいますから」
「じゃ、そうしようか。あんた達は希望ある?」
と、グリンディルはギルドの職員達に希望を聞いて行くのであった。
「そうか、もうそこまでになっているのか」
「うん、避難先はこれらの領地なんだけど貴族同士で貸し借りとかになるから難しいそう?」
「それはあるが費用は領主持ちなのだろ?なら避難する貴族は金を負担するだけで貸し借りはなくなるだろう」
「どれだけ避難するかな?」
「貴族にとっては賭けになるからな。いいところ半分ってところだろうな。職務を放棄するわけにはいかないというものもいるだろう」
「そうだね。リーゼロイさんには初めにウェンディを信じて避難した人、信じても職務を放棄出来ないと避難しない人の把握をお願いしておいていい?」
「残る者はわかるだろう?」
「初めは王側に付いた人でもそのうち避難するハメになると思う。そういう人と区別したいんだよ。新生アネモスの為に」
「王側に付いた者は切るのだな?」
「命は助けるようにしたいとは思うけど信用は出来ないからね。どれだけ不利になっても最後まで王に付いた人は信用してもいいけど」
「了解した」
木工ギルドではヨーサクが木こりと大工達は簡易の家を作ると言ってくれた。避難先の領主街を教えると誰がどこを担当するか決めてくれるようだ。ついでに商工ギルドにも商品提供を募ってくれ、荷馬車やなんやらの手配もやってくれるとのこと。護衛の冒険者はギルマス達としてくれるように頼んでおいた。
漁師ギルドはオーガ島に避難する人達の運搬をしてくれることになった。
そしてオーガ島へ移動。
「おう、受け入れられるだけ受け入れよう。寝る場所とかを増やさんとな。お前ら木を切り出せ」
と、すぐに指示を出すヒョウエ。
「あの家族はここに避難してくるのでしょうか?」
「お父さんは後になると思うけどそのつもりだよ」
「宜しくお願い申し上げます」
ラームとレームにそう伝えた。
さ、俺達は領地にウェンディの加護を与えに行くとするか。
こうしてアネモスは神あり領地と神無し領地で明暗が別れて行くことになっていったのであった。