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心からの祈り

「おいお前ら。弱ぇくせにセイに喧嘩売るとかいい度胸してやがんな」


「なっ、我が弱いだと」


捕縛されながらもヘスティアに弱いと言われて吠える犬。


「あーん?俺様にまで楯突くつもりかよお前」


ゲスっ


ヤンキーヘスティア復活だ。捕縛されたままのフェンリルは腹を蹴飛ばされて悶絶する。


「ゴフッ ゴフッ。ヘスティア様に楯突いたつもりは」


ゲスっ


「口答えすんなっ」


再び蹴られたフェンリル。まるでイフリートを見ているようだ。犬の躾として正しいのだろうか?


「おう、シルフィード。お前生意気なんだってな。イフリートの話すら聞かなかったそうじゃねーかよ。羽を毟りとったら素直になるんじゃねーか?」


「痛いですっ 痛いですっ」


ヘスティアはシルフィードの羽をギリギリと引っ張る。ピリッとか聞こえたけど・・・


「セイ、今日の飯は焼き鳥にしようぜ。ちょうどいいのがここにいやがるからよ」


「ヒィィィっ」


ヘスティアにいたぶられるウェンディの元眷属達。


「ヘスティア、もういいよ。俺も落ち着いたから」


そう言うとヘスティアはシルフィードにビシッとデコピンを決め、そのまま気絶したのであった。



「はぁ、やれやれ。セイはまた変なもんが混じっちまったみたいだねぇ」


「いいじゃねーかよ。おい村長。もう避難の準備はしなくていいぞ。村の奴らを集めろ」


サカキは飲みながら村長に命令する。


「ジジイ、この辺をウェンディの代わりに浄化してやれよ。それで暫く持つだろ」


「ワシに小娘の手下みたいな事をさせるつもりかっ」


「ちいせえこと言うな。セイの野郎が不安定なままだろうが。このままだとすぐにブチ切れんぞあいつ。ちょっとでも不安を取り除いてやれ」


村長の家でそんな会話がされていることを知らないセイ。



「セイ、飯食ったら帰るからよ。なんか食わしてくれよ」


「ならカレーでも食うか?」


「おっ、やったぜ」


「私は魚が食べたい」


「私は揚げ物がいいわね」


「ハンバーグっ」


ヘスティアはカレー、アーパスは魚、テルウスが揚げ物でウェンディはハンバーグ。ものの見事にバラバラだ。


「砂婆、シーフードカレーにカツとハンバーグ乗せ作って」


「面倒なやつらじゃの。どれぐらい作るんじゃ?」


「サカキ達も食べるかな?」 


伸びているフェンリルとシルフィードの捕縛を解除して放置したまま村長の家に戻ると村人が集まっていた。


「セイ、クラマがウェンディの指示でこの辺を浄化するってよ」


ブスッとクラマの機嫌が悪いからサカキに無理矢理やらされるのだろう。


「クラマの爺っちゃん。マギョロの刺し身と日本酒用意しておくよ」


「イカと鯛もじゃ」


「ハイハイ」


「村人の皆さん。さっきは避難しろと言いましたが、ウェンディの加護でこの辺一帯を浄化しますので避難は無しです。この加護はずっとは続きませんが暫くは持つと思います。ウェンディに感謝を込めて祈りを続けてくれることで元の穏やかな土地に戻りますので神への感謝を忘れないで下さい」


そう言うとクラマは大天狗になり空に飛び上がった。


ぶあっさ ぶあっさ ぶあっさ


羽団扇で浄化の風を吹かせる大天狗のクラマ。村周辺には風が吹き荒れる。


「ヒィィィ」


粗末な家の屋根が飛びそうになるがクラマはギリギリ飛ばないぐらいに加減をしてそれを続けた。


目を覚ましたフェンリルとシルフィードはその様子を見ていた。


小一時間ほどそれを続けたクラマはいつもの大きさに戻って降りてくる。


「お疲れ様」


「まったくじゃい」


「ありがとう」


と素直にお礼を言ったウェンディ。


「仕方があるまい。お前はセイの女神じゃからな」


クラマはセイに聞こえないぐらいの声でウェンディにそう言った。


「あーっ、何ワシの刺し身を食うておるんじゃっ」


「いいじゃねーかよ。減るもんじゃねぇんだからよ」


「減っておるではないかっ」


魚なんていくらでもあるのにしょーもない事で喧嘩するなよ。


セイはカレー作りを手伝いながら喧嘩する二人を見ていた。


カレーは給食用みたいな大鍋だ。村人も集まっているから自分達だけで食べるわけにはいかなくなってしまった。


「ほれ、食いたい奴は皿を持ってこんか」


村人達は嗅いだことのない匂いのするなべを何が出来るのか興味津々で見ていたが砂婆に皿を持って来いと言われてみな走って家に取りに帰った。


「飯は食えるだけ自分でよそえ」


白飯を見たことがない村人はこうか?これぐらいか?と互いに聞きながらよそって並んでいく。砂婆がカツとハンバーグを乗せたらセイの前に来てカレーを掛けてもらう。ウェンディ達のは大盛り盛り盛りだ。



「先程の風は加護の風か?お前も神なのか?」


フェンリルがシルフィードを乗せてクラマに話しかける。


「ワシ等は神ではない。セイのお守りじゃ」


「あのセイという人間は何者だ?」


「お前達、ヘスティア達が来てなかったら本当に殺されてたさね。セイの前でウェンディを蔑ろにするなんて馬鹿な奴らだよ全く」


タマモがフェンリル達に呆れた顔でそう言う。


「いいから教えろっ。奴は何者だっ」


「セイは神のお守りだよ。見りゃわかるだろ?皆子供みたいにセイに纏わりついてんだからよ」


サカキにそう言われてセイを見るとヘスティアとアーパスが嬉しそうに纏わりついてお代わりをせがみ、テルウスはカツだけ頂戴とかしている。ウェンディはヘスティア達にベタベタすんなと怒っている状況だ。


「なぜ奴が我らの眷属の契約を解除出来た?」


「セイがウェンディの主人だからだろ?子分の子分をクビにしただけだ」


「神が人の下にだと?いくら落ちこぼれたからといってそんな事があるかっ」


「セイは特別なんだ。それぐらい見りゃ分かんだろうが。お前らも何も出来ずに縛られたろ。あれは神ですら拘束出来る術なんだ。もうお前らどっかに行け。クビになったんだからよ」


サカキにそう言われたフェンリルとシルフィード。ふと見るとウンディーネもセイに纏わりついていた。イフリートはヘスティアに正座させられ、涙目でセイに救いを求めていた。


神もその眷属までも支配下におくセイという人間。ここにいる仲間も自分よりも強いと悟ったフェンリルはそのままシルフィードと共に消えていったのだった。



「久しぶりのカレー旨かったぜ」


「魚介のカレー美味しかった」


「このカツ貰って行くわね」


と、神たちは天界へと帰っていく。



「あいつら帰ったのか?」


「うん」


「そんな顔をするな。またすぐに飯食いにくるじゃろうが」


「そうだねクラマ。ありがとうね」


「別に構わん」


「ウェンディ様、皆様方。本当にありがとうございました。神の食べ物まで分け与えて頂きまして村人も久しぶりにお腹いっぱい食べられました」


「不作は酷いの?」


「はい。野菜の実りも悪い上に税があがりましたので」


「しょうがないな。ちょっと試してみるわ」


「は?」


セイはウェンディを連れて外に出る。


「何すんのよ?」


「ヘスティア達が加護をくれたと言ってたろ?それを試すんだよ。俺がやったら俺が拝まれるからお前と一緒にやったように見せる必要があるんだよ」


やり方はいまいちわからないが、メラウスの剣を抜いて反対の手はウェンディと繋いだ。


「雨よ降れ」


そう願いながらメラウスの剣に妖力を注ぐと剣が水を纏い雨が降ってきた。妖力を弱めると雨も弱まるのでそのまま暫く妖力を注ぎ続けた。


「おぉ、なんと神々しい・・・」


メラウスの剣は光り輝きセイとウェンディを照らし出す。雨もその光を反射して二人に光の雨が降り注ぐように村人達には見えていたのであった。


乾いた土地にあまり一度に雨を降らせても良くないかと思い程々で止めておく。濡れた二人をウンディーネが纏わりついて水を吸い取ってくれた。


雨の中でびしょびしょになったはずの二人はまるで何事もなかったように戻って来ると、村長をはじめ村人達が二人に祈りを捧げる。


セイにはなんとなく理解できた。これが本当に感謝を込めた祈りなのだと。


「俺達はこれからアネモスを立て直す。数年掛かるとは思うけどそれまでは辛抱してね」


「はい。宜しくお願い申し上げます」


村人達からの心からの祈りを受け取ってセイ達は屋敷に帰ったのであった。


その夜の妖力注入はまた少し多く流れるようになったのは言うまでもない。



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