ちょっとの間のお別れ
翌日から空馬に乗ってアネモスの地方都市を回っていくセイ。貧しい農村には肉や魚を与え、病気や怪我をしているものに神の慈悲として万能薬をウェンディから渡させる。こういう人達がいる所はすぐに神の奇跡だと信じてくれるからありがたい。
領主がいるところには魔導兵器を実演し、ガーミウルスと戦争になることを伝えて守って欲しければ神に祈れと言っていく。信じない領主は放置して、民衆に向けて街頭演説をしていった。当然衛兵ともめるが圧倒的な力を見せて黙らせていく。多少強引でも時間がないのだ。
そしてリーゼロイ家投当主が反逆罪で捕まったとの知らせを受けた。
「救出しにいくよ」
サカキ達を元の姿に戻らせて正面から牢へ乗り込んでいく。
「貴様ら何をするつもりだっ」
「我々は神の使者。神の伝道師が不当に捕らえられたと聞いて救出にきたまで。大人しく引き渡すならそれでよし。歯向かうなら神に仇なす者として天罰を下す。控えよっ」
「おらっ、避けろ」
サカキ達が恐怖を撒き散らす。
「ヒィィィィッ」
「良いか。アネモスは風の神であるウェンディが庇護する国だ。それをよく理解しろ」
衛兵達は職務を全うしているだけなので傷付けることはしない。
「衛兵達。これからアネモスはもっと苦境に陥っていく。城壁を超える魔物も出てくるだろうし、不作は酷くなる。神を捨てた結果がそれを招いている。この事をよく覚えておけ。神を信じ、神への感謝を捧げるものだけが救われるということを」
カルト教団のようなセリフを言ったセイはリーゼロイを救出してリーゼロイ家に行った。
「ふぅ、ラームに感謝だな」
「そうだね。奥さんとか巻き込まれそうだからオーガ島に非難しとく?アネモス王家ともめ続けると思うから」
「私は主人と共に戦いますわ。娘のレームだけお願いできますでしょうか?息子たちは共に戦わせたいと思いますの」
「了解です」
「セイ殿。この後の展望をお聞かせ願いますかな」
「アネモスは一度この体制を崩そうと思っているんだよ。そうしないと災害に耐えられる街作りとかできないだろ?」
「セイ殿が政権を乗っ取るおつもりですかな?」
「まぁ、そんなところだね。と言っても政権運営の知識も経験もない俺が出来る話ではないからそれはもっと後の話。今の貴族でちゃんとやってくれそうな人を中心に再興することになると思うよ」
「誰か心当たりがあるのですか?」
「一応ね。本人にはまだ了承を得てないからそれも先の話だよ。まずは国民の大半にウェンディを信仰してもらう。その次は災害に強い街作り。それが終わってからだね。目処は5年後。神あり国に戻った新生アネモスが立ち上がるのは5年後からだと思って」
「5年後ですか。その間にガーミウルスが侵攻してくるでしょうな」
「それは俺がなんとかするよ。事前に食い止める事も考えたんだけど、実際に侵攻してくるところを見ないと今やってることを疑う人も出てくるだろうからね。ガーミウルスは来てからなんとかするよ」
「それまで王と対立を続けるおつもりか?」
「王はウェンディに刃を向けたからね。だからもうアネモス王にこの国を任せる事は出来ないんだ」
「承知した。しばらくは内戦状態になるわけですな」
「そうだね。教会にウェンディの慈悲というポーションをおいておくからウェンディ信仰をしてくれる人には無償で与えて。怪我人も病人も治るから」
「そのような物があるのですか」
「そう。なるべく国民同士で戦うのは止めて欲しいんだけど王派の人とイザコザは出てくると思うから。冒険者達はすでにこちらの味方に付いてるから連携してもらったほうがいいと思う」
「承知した。私がその役目を果たそう」
「ありがとうございます。これ先に渡しておくので怪我したりしたら飲んで」
と、リーゼロイに万能薬をドサッと渡しておいた。
「ウェンディ様が身に着けている宝石のような薬ですな」
「口の中で噛むだけでいいからね。即死じゃなきゃ助かるから」
翌日、セイはレームを空馬に乗せてオーガ島に渡った。レームはラームによく似ていたので鬼達にモテモテになるだろう。ヒョウエ達にもアネモスが暫くゴタゴタすることを伝えておいたのだった。
そしてフィッシャーズ達がダンジョンから出て来る日が来た。
「どうだった?」
「おう、ゴーレム達がウヨウヨ出やがったぜ。トロールから三つ目もな。ありゃここの奴らじゃまだ無理だ」
「報告はギルドにした?」
「一応な。1人金貨1枚の報酬はもらった。しかし、ギルドの様子が変だぞ。いまなにやってんだお前?」
「国家転覆」
「は?」
「もう時間がないから強引に進めている。暫く内戦みたいになるからシーバス達を送って漁村の教会とかの準備が終わったらアネモスに戻るよ」
「お前本当に大丈夫か?」
「そうだね。この1〜2年で決着付けるよ。そうすれば漁村の再開発にも力を入れられるからね」
翌日にシーバス達を連れてボッケーノに移動。女性陣が買い物をしている間にシーバス達はアクセサリーを発注する。急ぎで作って貰えるように頼んだ。
「頑張らせて頂きます。あと、こちらはご注文頂いておりましたアクセサリーでございます」
「ありがとうね」
新しいアクセサリーを受け取り、シーバス達と分かれて姫様邸に向かう。
「3日後に出発なのじゃな」
「本当にいいのか?」
「もちろんじゃ。楽しみで仕方がないぞ」
「モリーナ様も本当に宜しいですか?」
「ええ。身体の調子も凄くいいし、ほらご覧になって」
モリーナは杖が必要だが自力で立てるまでになっていた。
3日後の朝に迎えに来ると約束して姫様邸を後にした。
その夜からヘスティアに妖力を注ぐことに。効率をあげる為に抱き合って妖力を注ぐ事にしたのだがウェンディがその姿を見たくないというのでアチアチ温泉に移動した。
セイは服を脱ぎ上半身裸になって半裸のヘスティアを抱きしめる。
「はっ、恥ずかしいじゃねーかよ」
「どれぐらい妖力が必要かわからんからな。俺も恥ずかしいから我慢しろ」
真っ赤になってうつむくヘスティアを抱きしめて妖力を注いでいく。
「本当にいつ行ってもいいんだよな」
「暫くは天界にいろ。それで魔物の進化が止まってるのを確認してから来い」
「ちょっとだけなら大丈夫だろ?」
「ちょっとだけならな。飯食うぐらいだぞ」
「わかってるよ」
・・・
・・・・
・・・・・
「セイって温っけぇな」
「ヘスティアの方が温いだろうが」
「俺様は暑いのは嫌だけどよ、これはいいもんだな」
「温泉とか人が入れない温度を好むくせに服は暑いとか猫舌とか不思議だなお前は」
「しょうがねーだろ。そう感じるんだからよ」
二人は照れくささを誤魔化すかのように話をし続け、丸一日と半分でヘスティアは神に戻ったのだった。
「ヘスティア、これ新しいアクセサリーだ」
「おぉ、めっちゃ綺麗じゃんかよ」
「そうだな。よく似合ってるよ」
「どうせなら皆から見える時に渡せよな」
「そうか。それもそうだったな」
「ちえっ」
「どうする?皆と飯食ってから帰るか?」
「いや、話せなくなったからやめとくわ」
「そうか」
フィッシャーズ達やビビデ達と飲んでも自分の事が見えなかったら余計に寂しくなるか。
「セイ」
「なんだ」
「またな」
チュッ
ヘスティアはセイのほっぺたにキスをして天界に帰って行ったのであった。
会えなくなる訳でもないのにセイの目からは涙がこぼれていた。
皆の元に戻る。
「ヘスティア様は帰ったのか?」
「あぁ。これでボッケーノは安泰だな。魔物の進化具合を見て落ち着いてたらまた飯を食いに来るよ」
「もうワシらはヘスティア様に会える事はないんじゃな」
「落ち着いたらまた力を落として会えるようにするよ。で、また魔物が活発化したら天界に戻ればいいんじゃないかな」
「そうか。ならええんじゃがの」
ウェンディとアーパスはヘスティアの淋しさが伝わったのか終始無言でご飯を食べていたのであった。
そして姫様達を迎えに行く日になった。シーバたちは宝石店に寄ってから合流する。
「セイ、ヘスティア様はどうしたのじゃ?」
「神の仕事をする為に天界に帰ったぞ」
「そうなのか。ならば妾も社会勉強を頑張らねばの」
「そうだね。よろしくね姫様、モリーナ様」
空馬はふわっと浮いてアクアに向けて出発したのであった。