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強引に事を進める

「うわァァァァん。良かったのじゃー、母様が助かってよかったのじゃー」


ビスクマリーは命を取りとめた王妃に泣いて抱き着いている。王妃はその頭を撫でていた。


「ヘスティア様の奇跡か」


「さようにございます」


王にそう問い掛けられた爺はセイの能力であるということを隠蔽した。


「陛下、少々お話がございます」


と、爺は王と別室で話をする。



「姫様をセイ様にお預け下さいませ」


「マリーを?なぜだ」


「社会勉強にございます。可愛い子には旅をさせよという諺がございます。城にいるよりセイ様のなさることを目の当たりにされた方が良い勉強になるでしょう」


「神の共をさせよというのか?」


「いえ、セイ様の共にございます。私も同行致しますので」


「しかし・・・」


「そうなさいませ」


爺は王に威圧を放った。


「う、うむ。お前がそこまで言うなら任せよう。ただし嫁がせんぞ」


「それは大丈夫でございます。セイ様には女神様がおられますゆえ」


爺は根回しを先に済ませてから姫様邸に向かった。



「セイ様、お話をお聞かせ願えますか?」


「実はアネモス王ともめてね、信徒を募って独立しようと思ってるんだよ」


「国おこしですか?」


「そう。実際にはアネモスを乗っ取るような形になると思う。恐らくアネモスはガーミウルスと戦争になる。アネモスに勝ち目はないから国民を避難させたいけど全員は無理だろうね。だからウェンディを信仰してくれた人だけでも助けるつもりなんだ。その数が多ければアネモスを乗っ取るし、少なければ避難させる」


「どちらに避難をされるおつもりですか?」


「それはこれから探すよ」


「現実的ではありませんな」


「だね。だからアネモスの国民にこの事を正直に話して信仰してくれる人を増やすよ。それでアネモスを乗っ取れたら王様をしてくれる人が必要なんだよね」


「姫様を王に?」


「成人したらね。そうなればボッケーノとアネモスは兄弟国になるし間の土地を開発していけば交流も流通も盛んになるだろ?ガイヤとアクアも流通が盛んでね。こっちもそうなればいいなって」


「もしアネモスの国民がウェンディ様を信仰してもガーミウルスの侵攻は止められないのではありませんか?」


「アネモスがウェンディを信仰するなら俺が国を守る。ガーミウルスの進行は責任を持って食い止めるよ」


「お一人で戦争をなさるおつもりですか?」


「俺には仲間がいるからね。なんとかなるよ」


「そうですか。なんとかなりますか。わかりましたその話に乗りましょう。モリーナ様も一緒でも構いませぬか?」


「来てくれるかな?」


「はい。モリーナ様は姫様の良き後見人になって下さいますでしょう。ボッケーノを切り盛りされていたのはモリーナ様でいらっしゃいますからな」


そう言ってアッハッハッハと笑う爺。王妃が姫様の事をモリーナと似ていると言ったのは容姿ではなくこのことだったのか。



爺は姫様とモリーナを呼びに行った。


「なんじゃとっ。妾達をセイの仲間に入れてくれるじゃと?」


「アクアの漁村を観光地化するんだけど手伝ってくれないかな?何も無い村を発展させるんだけどね、姫様にもいい勉強になるかなと思って」


「うむうむ、良いぞ。が、妾が勝手に決めることは出来ぬしのぅ。ボッケーノ内ならなんとかなろうかもしれぬが他国であろう?」


「姫様、陛下の許可はすでに頂いております。モリーナ様、姫様の後見人になって下さいませんか」


「あら、老体にムチを打つのかしら?」


「ハッハッハ、ご冗談を。まだまだ働いてもらわねばなりません。私こそ老体にムチをいれますゆえ」



こうして姫様を巻き込んだセイ。ゴタゴタするアネモスはこちらでなんとかする。その間にアクアの漁村を手伝ってもらおう。


「じゃ、準備をしていくから。一ヶ月後くらいに出発予定にしていいかな?」


「うむ。楽しみにしておるぞ」




「セイ、マリーとモリーナとずっと一緒にいるつもりかよ?」


「ヘスティア。俺はこれから修羅の道を進む。ヘスティアとアーパスは近々神に戻れ」


「なっ、なんだよそれっ」


「神は神であらねばならないということだ。寂しくなったら会いに来てくれ」


「いっ、嫌だっ」


ヘスティアは怒って嫌だと言う。


「わかった。いつ会いに来てもいいのね」


アーパスは素直に帰るようだ。


「いいぞ。俺からは会いに行けないからな」


「いつ神に戻ればいいの」


「姫様と合流する時ぐらいだ。だから一ヶ月ぐらい後だな」


「アーパス、本気なのかよっ」


「皆からは見えなくなるけどセイに会えないわけじゃないから仕方が無い」


「だってよぉ」


「ヘスティア。セイはやらないといけない事がある。それが片付くまでどうせあまりかまって貰えなくなるから」


「セイ・・・。本当に天界に帰らないとダメなのかよ」


「ボッケーノはすでに魔物が結構進化してるだろ?このままヘスティアが下界に居たらドラゴンになる日も早いと思う。まだここの人達はドラゴン倒せないだろ?そうなったら噴火させなきゃならんくなるぞ。そうなったらビビデ達も困るだろうが」


「お前はいいかよ?」


「会えなくなるわけじゃないだろ?寂しかったら毎晩寝に来い」


「毎晩来てもいいのかよ?」


「それで魔物の進化が早まるようなら考えるから」


「・・・わかった」


そんな顔をするな。こっちも辛いんだよ。


バビデのところに行き、アンジェラに一ヶ月後くらいにアクアに戻る話をする。


「そうか。どうするかな」


「ん、まだ帰りたくない?」


「そうだな。アクアとここは何度か行ったり来たりするのか?」


「そうだね。確実ではないけど年内はそうなると思うよ」


「なら次の機会にしようか。悪いが年内は店を閉めると店の前に貼っておいて貰えないか?」


「それはいいけど大丈夫?」


「うむ。防具作りは奥が深い。ここだと武器の話も聞けるしとても参考になるのだ」


「おう、アンジェラの技術も深くてな。女性冒険者にも評判になり始めてんだよ。俺としてももう少しいてくれると助かるってもんだ」


「わかった。ならフィッシャーズ達を送って行ったときに店に年内お休みの事を書いてくるね」


「飯は食ってくだろ?」


「ごめん、ちょっとやることあるから帰るよ」


「そうか。なら気をつけてな」



と、バビデの家を出て屋敷に帰った。


「どうだった?」


「姫様を貰った」


「は?」


「姫様とモリーナ様に漁村の観光地化の手伝いをしてもらうことになった。フィッシャーズ達を送る時に一緒に連れて行く」


「意味わかんねーぞっ。まさか嫁に貰ったんじゃねーだろうな」


「そんな訳ないだろうが。姫様の実地研修を兼ねるんだよ。あの娘は支配者層の人間だ。いずれその立場に立った時の為に民がどう苦労して努力してるのか知ってもらう為に村の手伝いをしてもらうつもりだ」


「あんな小さいうちからそこまでさせるのか?」


「モリーナ様が後見人に付いて直接指導してくれるって。税金の計算とか原価計算とか教えてくれると思うぞ。今の漁村に最も足りなかった部分だ」


「そ、そっか。しかし他国の姫様にそんなことをさせていいのかよ?」


「他国だから気兼ねなく出来るんじゃないかな」


「まぁ、任せるけどよぉ」


「ダンジョンはいつから潜る?」


「明日からだ」


「了解。それから帰ったらアクアに一度戻ろうか。一応一ヶ月後を予定しておくから」


「わかった。それまでに帰って来れるようにするわ」



その夜もヘスティアとアーパスがくっついて離れなかったのだった。


翌日ギルドに行ってギルマスとグリンディルと話をする。


「そうか。王妃が姫様をな・・・」


「姫様とモリーナ様にフィッシャーズ達の漁村の開発を手伝ってもらうことにしたよ」


「その後はどうすんだ?まさかアネモスの王にするつもりじゃねーだろうな」


「さすがギルマス。察しがいいね」


「お前なぁ・・・」


「俺はこれからアネモスの住人に戦争が起こる事を告知する。そして魔物が強くなりここの冒険者では対応出来なくなること、ウェンディの風が吹かない限り衰退していくということを含めて」


「信じる奴少ねえだろうな」 


「信じる者は救われるってやつだよ。全然人数が少なければここから移住させる。多ければアネモスを乗っ取る」


「ガーミウルスはどうすんだ?どっちにしろ攻めて来るだろ?」


「アネモスを乗っ取られたら俺が撃退する。移住出来るぐらいの人数しかウェンディを信じてくれなかったら占領された後に俺が攻める」


「お前、一人で戦争すんのか?」


「ウェンディを守るにはもうこの方法しか残ってないんだよ」


「ったくしょうがねぇな。アネモスのギルドは今日からセイの支配下に入る。本部に行くぞ。リタ、冒険者共が帰って来たらそのままギルドに残せ。飲み食いしてても構わん。支払いはこっちでする。セイ、冒険者共はお前がねじ伏せろ」


「わかった」


セイはギルマスとグリンディルと共に本部に行く。そしてこれからの予定を伝えて冒険者で賛同、すなわちウェンディを信仰するもので他にもこの情報を流すように決定された。


「ギルマス、ありがとう」


「これがアネモスの未来に通じると信じてるぞ」


「うん」


セイは木工ギルドに行きヨーサクに同じ話をした。


「よし、木工ギルドもお前に乗る。知り合いにも声を掛けておくからな」


「ありがとう」


次は漁師ギルドだ


「おう、話はわかった。ガーミウルスってあの黒い煙を吐いたデカい鉄の船に乗ったやつらだな?」


「知ってるの?」


「あぁ、何だあの船と思って見ていたからな。あれが大挙して侵攻してきたらアネモスの船だと太刀打ち出来んのは明白だ」


「ありがとう。宜しくね」


「おう、漁師は全員お前の味方だ」


リーゼロイ家にも行く。



「セイ殿、王に楯突いた話は聞いた。その後はどうなっている」


「それなんだけどね、アネモスはガーミウルスに絶対に勝てない」


「ガーミウルスの事は陛下から聞いたのか?」


「ウェンディにガーミウルスを追っ払えとか言ったからブチ切れた。ウェンディには人間の戦争には加担させない。あいつの力は人を守る為のものだからね。だから俺がやる」


「何をするつもりだ?」


「アネモスの住人に戦争が起こる事を知らせる。そしてその戦争に勝てないことも。ウェンディを信仰するものは神が守ると伝えるよ。信じないものまで救えない。信じてくれる人が少なければ移住させる。多ければアネモスを乗っ取るつもり」


「ガーミウルスはどちらにしても侵攻してくるのだぞ」


「俺がなんとかする。リーゼロイ家はどうする?」


「決まっているだろう。リーゼロイ家はウェンディ信仰をしているからな。貴族には私から伝えよう」


「大丈夫?反逆罪に問われるよ」


「大丈夫だ。ウェンディ信仰者は救われるのだろう?」


「都合のいい救済はないからね。その代わり俺がなんとかする」


「それは神の代行者としてか?」


「いや、友人の義父だからね。俺は手の届く範囲の人は守る主義なんだよ」


「ラームに感謝だな。では検討を祈る」



セイは自分の気持ちを押し殺し、ウェンディを神に戻す為に強引な手段を取るのであった。




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