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未熟者

「やらかすなよ?」


今日はアネモス王との謁見の日だ。ギルマスに同行してもらうことになっている。ぬーちゃんは首に巻きついていて女神ズの中で連れて行くのはウェンディのみ。神が顕現していると教えなければならないのだ。なので結婚式の時の神様衣装とアクセサリーを着けさせている。


「これで乗り付けるのか?」


「そう。王に神だと信じて貰わないとダメだからね」 


空馬に乗ってアネモス王城に乗り付けるのだ。


ギルドの近くに空馬を出した物だから物凄く人が集まる。


セイはスピードを出さずにフヨフヨと浮かせてゆっくりと王城に向かって飛んで行った。門も通り越して中庭に着地。騎士達が武器を構えて臨戦態勢を取った。


セイは先に外に出る。


「控えろ。神が顕現している」


ざわざわざわざわ


「これは神の乗り物だ。触るとバチが当たるぞ」


ぬーちゃんに元の姿に戻ってもらって空馬の前にスタンバイしてもらっておく。


ギルマスが近くの騎士に本日謁見予定のセイが来たと伝えろと言ってくれたのでしばしこのまま待つことに。


「ウェンディ、お前はしゃべるな」


「なんでよっ」


「神らしくないからだ。黙ってりゃ美少女女神だからな」 


「キィーーっ」


「それ止めろって言ってんだよ。サル神とか言われんぞ」



迎えの騎士が来て先導されて王城内へと進む。


「こちらでございます」


ここは謁見の間らしい。大きな扉を開けると長い絨毯が有り、奥に大きな椅子に座っている王が見えた。


「王の御前である控えよ」


と、王の隣りにいる人に言われてギルマスは控えるがセイとウェンディはそのままだ。


「どうしたっ。控えぬか」 


「ここにいるのはウェンディ。アネモスを庇護していた風の神様だ。神が控えるのはおかしいだろ?」


「何っ?」


「俺はウェンディを守る者でセイという。今日は王から会いたいと言われてここにやってきた。本来であればそちらから来いと言いたいところだが王も忙しいようだからこちらから来た次第だ」


(セイ、やらかすなと言っただろうが)

(ごめん、でもウェンディを跪かさせるわけにはいかないんだよ)


「お主がセイか?」


「そうです。初めましてアネモス王」


「そちらの少女は誠にウェンディか?」


「信じないのは勝手ですがウェンディを呼び捨てにされるのは少々無礼では?」


「これは失礼した。ボッケーノ王に親書を出すように頼んだのはソチか?」


ん?


「ボッケーノの姫様と元王妃様とは面識がございますが王とは面識はございません。親書の事も存じません」


「そうか・・・、ならばこの親書はモリーナ殿からの意向であろうな」


「で、本日はどのようなご用件でお呼びになられたのでしょうか?」


「宰相、皆を下がらせろ」


と、謁見の間にいるものを下がらせる王。


「セイ。アネモスは現在危機に陥っておる」


「そうですね。魔物が増え、不作はこれ以上進んで行きます。とある貴族の方にその忠告を申し上げたのですがアネモスは対策を取られないと伺いました」


「そうか、リーゼロイにあの宝石をもたらせたのはソチであるのだな」


あー、愛人用に渡した宝石を献上して上告したのか。やることはやってくれてたんだな。


「さぁ、なんの事かは存じませんが、私は神を捨てた国の行く末をお知らせしたまでです」


「では風の神を信仰すれば魔物が減り、不作は改善されるのだな?」


「すぐには無理でしょうね。アネモスは10年近く神を見捨てました。その反動が今に来ています。ウェンディを国民が強く信仰するようになってから少なくとも数年から10年は元には戻らないでしょう。それにウェンディの加護は暴風と大雨をもたらします。それが海を豊かにし、大地に恵みの雨を降らせます。が、災害に備えていない街は被害も出るでしょう。祈りながらその災害に備えて頂かないと加護の風は吹かせられません」


「そうか。しかしながらその少女が神であること、そしてソチが神の使者であるという証拠はどこにもない」


「神に証拠を求めるとは愚かな考えですね。王自らがそのようなお考えでおるから現状があるのではないですか?」


「ふん、ああ言えばこう言う奴じゃ」


「ご用件は終わりですか?」


「ガーミウルスがアネモスに攻め入ろうとしている」


と、唐突に王がこんな事を言い出した。


「神無しの帝国のことですか?」


「さよう。これも神を捨てたからと申すか?」


「初耳ではありますね。神の加護は国同士の争いを止めるものではございません。それは政治の仕事ではないですか?」


「今一度問う。その少女が本当に神であるならばすべての脅威から守ってもらわねばならん。聞けば空を飛ぶ乗り物で来たとか?それでガーミウルスを追い払ってくれるなら神として信じ敬おうではないか」


は?


「ウェンディに戦争に加担しろとおっしゃるのですか?」


「本当の神であれば国を守れともうしたのだ」


ダメだ。話しにならん。


「わかりました」


「おぉ、やってくれるか」


「滅べ」


「な、なんじゃとっ」


「ウェンディ、ギルマス。帰るぞ。この国はもうダメだ」


「貴様っ。アネモスを見捨てるつもりかっ」


「ウェンディを見捨てたのはお前らだろうがっ。ウェンディは遥か昔からアネモスの為にずっと1人で加護の風を吹かせ続けて来たんだっ。それを感謝もせず、挙げ句の果てに疫病神呼ばわりをしやがったくせに。それに他国の侵攻から守ったら信じてやるだと?何様だお前らっ」


王に暴言を吐いたセイ。宰相が合図すると護衛達が入ってきて武器を向ける。


「お前ら神に刃を向けやがったな」


セイはヘスティア達を天に返さないといけない事を悩み、精神がやや不安定な状態で今日の謁見を迎えていた。そこにこの王の言い草にキレかけたとこにウェンディにも武器を向けられたのだ。


セイから妖力が溢れ出す。


「落ち着きな」


タマモ、サカキ、クラマが元の姿に戻って出てくる。


「セイ、こんなところでブチ切れるんじゃないよ。だから政治に首を突っ込むなら相談しろと言ったんだよ。力ずくで何でも解決出来ると思うんじゃないよっ」


と、セイはタマモに叱られる。


「おっと、お前ら。セイをキレさせるなよ。手が付けられんくなるからよ」


と、サカキが向けられた槍を素手で曲げる。


「まったくじゃ。セイ、お前はウェンディの事となると頭に血が上るのが早すぎじゃ。滝修行からやり直さんかっ」


クラマは軽く仰いで武器を向けていた者たちを吹き飛ばした。


「ごめん」


「もういいさね。他にも考えがあるんだろ?」


「あぁ、まあ」


「じゃ、帰るよ。アネモス王。あんたはセイを敵に回したと自覚しな。もうこの国は終わりだよ」


「なんじゃとっ」


「風の神様、ウェンディはセイが一番大切にしている者さね。それをコケにしたんだ自業自得だよ。ほら、お前達道を空けな」


タマモは妖狐の姿で凄む。サカキも恐怖を振り撒き皆を近づけない。


「みんなごめん」


「いいさ。セイの未熟さはあたしらがカバーしてやるさね」


その場にいた者たちは腰を抜かして動けなくなり、セイ達は王城を後にしたのであった。


屋敷に戻ってから散々タマモ達に叱られるセイ。


「ごめん。ウェンディを綺麗に着飾ったら信じてくれるんじゃないかと」


「そんな事で信じるならとっくにそうしろとアドバイスしてるさねっ。もう取り返しが付かないじゃないかまったく」


タマモは色々と調べてガーミウルスがアネモスに侵攻を企んでおり、それに備えた軍備拡張をしていることを調べてあった。


「で、なんでそんなに精神が不安定なんだい?」


「ヘスティア達を天界に帰らせないといけないんだよ」


「テルウスの言っていたやつかい?」


「聞いてたの?」


「聞こえたんだよ。でもいつでも会いに来れるんだろ?」 


「そうなんだけどね、ほら、他の皆からは見えなくなるから寂しくなるんだろうなと思って」


「セイ、俺様に帰れっていうのかよ」


「しょうがないだろ?そのうちボッケーノもアクアも手に負えないような状況になるみたいだから」


「アネモスの状況を見ていたらそうなるのは確実」


「アーパス、お前は帰りたいのかよっ」


「そんな訳ない。でも私達は神。使命は果たさないとダメ」 


「だってよぉ」


「セイ、私は一足先に戻るわ。こんなしんみりしたところに居たくないの」


と、テルウスが言うので手を首に当てて力を注いでいく。吸い取られるかのように力が注がれていく。少しずつ皆から見えなくなり、浮かべるようになっていく。ヘスティアよりも充填されるスピードが遥かに多い。ガイヤはダントツに信仰人口が多いからだろう。数時間これを続けることで神に戻った。


「もう帰れそうよ。またね」


ヒソヒソっ


「えっ?」


「頑張ってね」


テルウスはセイの耳元でこそっと囁いて天に帰っていったのであった。



「終わったのか?」


と、ギルマス。


「ごめんね巻き込んで」


「こんな気はしていたからな。この件は総本部に報告をしていいか?」


「総本部に?」


「あぁ。総長はお前の事をえらく気に入ってるみたいだからな、きっとギルドはお前の味方になってくれる。なんか考えあんだろ?それやれよ」


「簡単に言うなよ。夢物語みたいなことなんだぞ」


「いいじゃねーかよ。手伝ってやるよ。俺も王とはいえウェンディへのあの対応はねぇと思うぜ」


シーバス達も今日の概要を聞いて心配そうにしていた。



寝室で皆がくっついてくる。


「セイ、帰りたくねぇよ」


と、グスグス泣くヘスティア。アーパスも本当はこうしてずっと一緒にいたいはずだけどぐっとこらえて耐えていた。


セイはいつも上に乗られて重くて寝苦しいとか一人でゆっくり寝たいなとか思っていたがいざ本当にこうして一緒に寝ることが無くなるのかと思うと心が削られて行くような気持ちになっていたのであった。



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