孤児院の視察
楽しかった温泉旅行も帰宅の日になった。
朝昼兼用でうなぎを食べる事に。
「これはなんですの?」
「うなぎと言って魚料理になるのかな?俺の国では人気の料理なんですよ」
「アネモスにこのような料理はあったかしら?」
「元々は日本という島国の出身でしてね。遠く離れているのですよ」
「まぁ、そんな国があるんですね」
「大国以外にもたくさん国はありますよ。あまり知られていないだけで」
と、モリーナには説明しておいた。
「甘じょっぱくて香ばしくてフワフワで旨いのだっ」
「だろ?たくさんあるからな」
「むむむっ、妾の腹が恨めしい。これを食べたらお腹いっぱいになってしまうのじゃ」
モリモリ食う女神ズ。テルウスも来て食っている。ヘスティアに力を落とす方法を教えろと言ったみたいだががんとして教えなかったのでお互いにそっぽを向いて食べているのだ。非常にうっとおしい。
「職人街まで帰って解散だけど、姫様とモリーナ様は教会の孤児院に行くのでいいね?」
「うむ。公務もせねばならんしの」
と、視察という事で行くことにしたのである。
皆がお腹いっぱいになったところで出発。姫様はとても名残惜しそうに窓の外を見ていた。気軽に外に出られる立場ならちょくちょく遊びに連れてってやるんだがな。
ゆっくりめに飛んで職人街に到着すると皆がワラワラとよってくる。その人達の相手はビビデ達に任せよう。
「ウェンディ達も来るのか?」
「そうよ」
と、女神ズも一緒に来るらしいけど大丈夫だろうか?
もう人目に付いても構わないのでそのままフヨフヨとゆっくり飛んで教会前に到着。下に人がいるけどゆっくりと降りたら避けるかな?
そーっとそーっと降りていく。
飛行機の周りに人集りが出来ているけど近くまでは来ない。遠巻きに見ているのだ。
「サカキ、クラマ、ぬーちゃん。外に出て元の姿に戻って。それで警戒宜しく」
ガチャとドアを開けてサカキ達が外にでて元の姿に戻るとヒィィィッと悲鳴が上がる。セイは姫様をエスコートして外に出て、タマモはモリーナを連れてきてくれた。
そして女神ズが出て来た。
「神官達が突然来訪した姫様とモリーナに跪く」
「よい。今日はお忍びじゃ」
どこがだと突っ込みたくなる。
「妾達よりヘスティア様達に挨拶をせよ」
「あっ、肉のにーちゃん」
「よぉ、今日は姫様と元王妃様、あとは女神様達を連れてきたぞ。お前らがどんな生活をしているかの見学だ」
と、言うと神官が慌てて中に入っていく。今から体裁を整えようとしても遅いぞ。ありのままを見せろ。
姫様がヘスティアだと言ったもんだから観衆達も土下座ばりに頭を下げる。
ウェンディ、君が拝まれている訳じゃないぞ。ない胸を反らすな。
「セイ、どうすんだよこれ。もう街の中歩けねぇじゃねぇかよ」
「しょうがないだろ?お前はボッケーノの神様なんだから」
「ちょっ、ちょっと俺様のそばにいろよ。皆の目が怖ぇよ」
と、ヘスティアは皆から狂信者の目で見られて怯える。確かにあの目は怖いな。怯えた目の方が可愛げがあると初めて知ったわ。
ヘスティアがセイの腕にしがみつき離れない事でセイも神のような拝まれ方をする。
「神官さん、孤児院に案内してもらえるかな」
「はいっ」
ここの神官達は昔にウェンディを可哀想な目で見た人達だ。あの時の事は本当だったのだと今理解したようだ。まぁ、そう仕向けたのは俺だけど。
慌てて片付けをしているが孤児院は前のままだ。寒い冬だというのに孤児達は薄着である。
「セイ、孤児達は寒くはないのか?」
「寒いに決まってるだろ?孤児院にまで寄付金が行き渡らないんだよ。これ国としてどう思う?」
「・・・・・」
「肉のにーちゃん、その綺麗な人は本当にヘスティア様なのかよ?」
と、顔見知りの孤児が話し掛けてくる。
「そうだぞ。今俺にくっついてるのがヘスティア、お前達の神様だ。で、こいつは前に来て一緒に遊んだろ?風の神様のウェンディ。で、この娘が水の神様のアーパスだ。みんなでお前達の生活を見に来たんだ。姫様と元王妃様も一緒だからいつもどんなものを食べてるかと教えてやってくれるか?あと寝てるとことかも見せてくれ」
「わかった。寝てるところはこっちだよ」
と、ぞろぞろと孤児院達が出て来てヘスティアを拝んでいく。教会併設の孤児院だからこういうのはちゃんと出来るんだな。
寝床は二段ベッドに硬い敷物と薄い毛布。部屋に一応暖炉みたいな物があり、自分たちで薪を取ってきて使うらしい。隙間風とか入ってくるからあんまり暖かくならんだろうな。
姫様は色々と見て黙っている。
「昨日の晩は何食った?」
「じゃがいものスープとパン」
「冬は肉はあまり食えんのか?」
「うん。じゃがいも、にんじん、玉ねぎとかそんなのばっかりだよ。でも3食食べられてる」
「そうか。なら今から肉を焼いてやろうか?」
「マジでっ」
「おう。鉄板があるからな。みんなで食うぞ」
と、業務用の鉄板を出して肉を焼くことにした。緑の野菜も食べた方がいいだろうと砂婆にほうれん草を持ってきてもらう。
コカトリス、角有り、魚とか色々と焼いて好きに食べさせていった。
「もう食えんっ。もっと食いたいのにーっ」
皆は腹を押さえて動けなくなった。
「肉とか魚は置いてってやるからなんか作ってもらえ」
どんっどんっと肉の塊を出していく。この時期なら多少多くても腐る心配はないだろう。
「セイ、お主はいつもこのような事をしているのか?」
「たまーにね。ボッケーノの事はボッケーノの人達がなんとかするのがいいと思うぞ」
「そうじゃな」
ヘスティアが孤児達に集られ出したので帰ることに。男の子とかがいたずらで胸やお尻を触ったりするのでヘスティアがブチ切れかけているのだ。なぜかウェンディやアーパスの胸には触りにいかない。
「こら、バチ当てられんぞ」
「セイっ、コイツらエロいことしてきやがんだよっ」
「エロい格好をしてるからだ」
「ちゃんと服着てきただろうがっ」
「それでもだ」
白の薄手のセーターだから神服のビキニが透けて見えているのだ。知らない人には下着が透けているようにしか見えん。
「姫様、もういいか?」
「うむ・・・」
サカキ達は空馬に人が近付かないように見張ってくれていた。ヘスティアと姫様、モリーナが現れると大歓声が起きた。サカキ達も恐怖の対象から神を守る者として認知されたようで拝まれる対象となっていた。
サカキがモリーナを車椅子から抱き上げて先に空馬の中に入ったタマモに渡す。姫様は乗り込む前に歓声をおくる皆に手を振り、ヘスティアはセイの腕にしがみついたまま操縦席に一緒に乗り込んだのだった。
サカキとクラマは合体し、ぬーちゃんと共に空馬の横を飛ぶ。
そして王城前に到着すると城の人達は騒然となった。
フワフワと下に降りてドアが開くと姫様の登場。そしてタマモがモリーナを抱えて出てくる。
「姫様っ、モリーナ様」
「控えよっ。ヘスティア様が顕現されておられる」
と、モリーナが一声言うとザッと跪ついて頭を下げる。
操縦席から恐る恐る顔を出すヘスティアはセイの袖を話さない。
「大丈夫だって。ここは城だから」
「だってよぉ」
仕方がないので腕を組まれたままドアから出る。
「ヘスティア様並びにウェンディ様、アーパス様じゃ。皆、加護の感謝を込めて挨拶をせよ」
姫様がそう言うと皆が日頃よりお守り下さりありがとうございますと声を揃えた。
「セイ様。ありがとうございました」
と、爺が現れた。
「ごめんね、大事にして。どうせバレるなら派手にしてもっと人目に付いた方が安全かなって」
「お心遣い感謝申し上げます」
モリーナと姫様は城の者達に出迎えられたのでこれでお役御免だ。
「姫様、モリーナ様。お疲れ様でした。また機会があれば護衛致しますね」
「セイ様、本当にありがとうございました」
「セイ、立ち寄らんのか?」
「ヘスティアが疲れたみたいだから帰るよ。姫様も疲れが出ると思うからちゃんと寝ろよ」
「うむ、次はいつ来るのじゃ?」
「また近いうちに来るよ。この辺では手になる入らない魚介類とか探してくるから、見つけたら持ってくる」
「うむ。楽しみにしているのじゃ」
と、挨拶もそこそこにサカキ達をひょうたんの中に戻して空馬を発信させたのであった。
セイ達が去ったあとも城内は騒がしい。
「皆のもの、仕事に戻るのじゃ。サボっておるとヘスティア様に申し訳ないぞ」
「ハッ」
姫様にそう指示されて皆は持ち場に戻っていく。
その夜。
「母上、お身体の調子はいかがですか」
「グリコーゲイ、あなたがここに来るとは珍しいわね」
「本日、神の空飛ぶ乗り物でヘスティア様とお戻りになられたと伺いました」
「えぇ、セイ様のご厚意に甘えてしまいましたわ。本当に楽しい時間でしたこと」
「本当にヘスティア様が顕現されたのですか?恐ろしい魔物を従えた者が一緒だったと」
「恐ろしい魔物ではありませんよ。あれは神様達を守護するものたちです。それを従えているのがセイ様なのよ。私とマリーの味方であることを知らしめた方が安全だとわざと力を誇示してくださったの」
「本当の話でしたか」
「えぇ。セイ様はマリーの面倒もよく見てくださっているのよ。そうだ、グリコーゲイ、あなたに一つお願いがあるの」
「なんでしょうか?」
「アネモスの王宛に親書を送って欲しいの」
「アネモスに親書を?」
「えぇ、中身は警告になりすますけど」
「警告?」
「神を忘れた国は滅びますと警告をして頂戴」
「詳しくお聞かせ下さいますか」
モリーナはセイとの話を王である息子にし、アネモスは風の神様に見捨てられつつあることを知らせる警告文を送ることにしたのであった。