温泉旅行二日目
雪が溶けてびちゃびちゃになったセイとウェンディは風呂に走っていく。
「お前はいい加減にしろよっ」
「セイが悪いんでしょっ」
「俺のどこが悪いんだっ」
衝立越しに言い合う二人。
「いい加減にしろよなお前ら」
とヘスティアが呆れている。
風呂から出てもぎゃーぎゃー言い合う二人。
「セイのバカッ」
とウェンディは言い負かされてどっかに行ってしまった。
「セイとウェンディは仲が良いのぅ」
「姫様、今のを見て仲が良いと見えるのは異常だぞ」
「喧嘩するほど仲が良いとも言いますわよ」
「モリーナ様までそんなことを言わないで下さい。ウェンディはいつもああやって我が儘な子供みたいな ブホっ」
ウェンディがいきなり出て来て雪玉をぶつけやがった。
「こらっ、待てっ」
セイはウェンディを追いかけて二人で雪合戦。
「本気で投げないでよっ」
「許さんっ」
雪玉を投げるスピードも数もセイの方が圧倒的だ。
次第に雪まみれになっていくウェンディ。
「やめてよっ やめてよっ」
「いーや、許さんっ」
ボスボスボスボスっ
「うっ、ひっく ひっく」
あ、やりすぎたか・・・
「泣くなよ」
とセイが近付くと
ボスっ
「引っかかった へへーん」
こいつしばくっ
「待てっこらっ」
「きゃーっ」
逃げるウェンディを追いかけるセイ。
ズボっ
皆から離れたところまで来て深みにハマったウェンディ。
「フッフッフッ、覚悟しろよ」
うごけないウェンディの近くで雪玉をどんどん大きくしていく。
「やめてよっ、そんな大きな雪玉投げないでっ」
「泣き真似なんて卑怯なマネをしたお前には雪だるまの刑がお似合いだ」
「いやぁぁぁぁっ」
と、本気で泣きかけたのでやめるセイ。
「ほらっ」
深みにハマって抜けないウェンディに手を貸すセイ。
「エイッ」
「うわっ」
ボサッ
ウェンディに引っ張られてそのまま抱き付くような形になった。
お互いの顔が目の前だ。
見つめ合って真っ赤になる二人。セイも深みにハマったのでそのまま動けないのだ。
「近いわよっ」
「お前が引っ張るからだろうが。俺も動けないんだよっ」
ドキドキドキドキ
「ウェンディ」
「なっ、何よ」
「目を瞑れ」
「えっ?」
「早くっ」
・・・
・・・・
・・・・・
ウェンディに目を瞑らせたセイは脱出して逃げた。
「お前が鬼な」
「キィーーーーーっ」
深みにハマったはずのウェンディも怒りのあまりフルパワーで脱出してセイの事をぽかぽか殴っていた。
また雪まみれになった二人は風呂に入りに行く。
「さっきなんで目を瞑らせたのよっ」
「お前が鬼の番だからだ」
と衝立越しに言い合う二人。セイも自分でさっきウェンディに何をしようとしたのかよく分からなかった。目を瞑れと言ったら素直に目を閉じたウェンディにドギマギして逃げたのだ。
とっさにオルティアとの事を思い出して鬼ごっこだと言い訳をしたのであった。
夜はフグのフルコースとヒレ酒を堪能する。モリーナ達も他のメンバー達と打ち解けフィッシャーズ達の冒険譚を楽しく聞いているのであった。
皆で風呂に入って雪見酒。
「セイ、アネモスの未調査ダンジョンって貴金属が出るんだよな?」
「そうだと思うよ」
「お前そのダンジョンに潜ったことねぇのにどうしてわかるんだ?」
と、シーバス達に聞かれる。
「ギルマス、シーバス達には話していいかな?」
「そいつらには構わんが腰抜かしても知らんぞ」
と許可が出たので教えることに。
「俺はダンジョンと交渉出来るんだよ」
「は?」
「元々はサカキがダンジョンを脅したら金塊を出してきたんだ。それでダンジョンと交渉するのを思いついたんだ」
「意味がわからんぞ」
「ダンジョンってスライムの最終形態でね」
と、今まであったことを話す。
「マジかよそれ・・・」
「そう。これが知れ渡ったら誰もダンジョン探索しなくなるだろ?だから秘密なんだよ。相談しようと思ってたの件は村にダンジョンを作るかどうかなんだよね」
「村にダンジョンを作る?」
「ダンジョンって、そこにあるものをお宝として出すみたいなんだ。鉱石が取れる所は鉱石とか宝石とかを出す。魔物の巣穴近くとかだったらそれをお宝にとかね。オーガ島のダンジョンは魚類を出すんだ。そいつにフグを食べさせたらフグも出せるようになってね、そのフグほ無毒なんだよ」
「なんだと?」
「フグは元々毒を持っていない魚で、餌から毒を取り込んで体内に溜めて毒魚になる。だからダンジョン産のフグは毒がないんだと思うよ」
「それじゃ・・・」
「村の海の近くにダンジョンを作ったら魚介類を出すダンジョンになると思う。村近海で取れない魚介類や海藻、それから加工した鰹節も出せるようになる」
「ウハウハじゃねーか」
「でもそれをすると皆働かなくなると思うんだよね。それにダンジョンと交渉出来る事は公表するつもりもないし」
「なんだよぬか喜びかよ」
「ダンジョンの事を極一部の人だけに知らせて、フグだけそこからもらうとかにするとかなら大丈夫かなぁとかね。相談ってのはこのこと」
「そうか。楽に魚が手に入る分人をダメにするってことだな」
「そうだよ。将来的によくないでしょ?」
「そうだな。ダンジョンの中に魚を捕りに行くのも危ないんだよな?」
「そう。人がダンジョンの餌になるからね」
「ちょっと考えるわ」
「うんそうして。スライムをダンジョンにまで成長させられるの俺ぐらいしか無理だとは思うから」
そして暫く沈黙の後にもう一つの相談をする。
「オルティアのことなんだけどね」
「ん?」
「この前オルティアが酔ったときに自分の過去を少し話したんだよ。前に聞いていた捨てられた話とはちょっと違ってね」
と、この前の話をする。
「マジか?」
「うん。だから無意識に自分の力をセーブするんだと思う。グルンディルからは冒険者としてやっていくなら過去の事と向き合って乗り越えないと力をセーブするのは抜けないだろうって。それにひょんな事から昔のことを思い出して心が壊れる可能性があるから、過去をこのまま封印するなら冒険者はやめさせた方がいいって」
・・・
・・・・
・・・・・
「シーバス、その件は俺に任せてくれねぇか」
とチーヌ。
「どうすんだ?」
「俺はセイからオルティアの教育係を任されてるからな。俺が話してみるわ。どうしたいかは本人が決めた方がいいだろ?このまま理由も言わずに冒険者をやめさせたらそれも心に傷が残るってもんだ」
「なら任せるね」
「おうっ」
「セイ」
「なにガッシー?」
「おまえ、リタのことをどう思ってる?」
「良くしてくれる女の子」
「恋愛感情はないんだな?」
「無いよ」
「わかった。なら俺がアタックしても問題ないか?」
「当人同士の問題だからね。ギルマスいいよね?」
「俺に聞くな」
「だってお父さんみたいじゃん」
「そりゃそうかもしれんが俺が口を出す問題じゃねぇだろ。お前が相手なら口を出すがな」
「なんだよそれ」
フィッシャーズの男共はみな結婚して子供がいてもおかしくない歳だ。冒険者以外の働く道が見えて来たことでそういうのも意識しだしたのかもしれん。
「で、未調査ダンジョンで貴金属が取れりゃこいつをプレゼント出来るって訳だな」
と、男共は宝石を持っていた。あのダンジョンでヘスティアの試練を受けに行くときにこっそりと確保していたらしい。
「未調査ダンジョンには手加減するなと言ってるあるから死ぬなよ」
貴金属と宝石をゲットしてプロポーズするとかフラグにしか思えないので忠告をしておいた。
「セイ、いつの間にそんなことをしてやがったんだよっ」
「成長はさせてないから頑張ってね。俺は他のことをしているから」
「他のこと?」
「そう。冷たい海にしかいない魚介類を探しに行ってくる。そうすれば食べたい物はダンジョンから出るからね」
「それ、俺たちにも食わせろよな」
「了解。シーバス達はダンジョンで死なないでね。フィッシャーズ達はダンジョンにとって最高の餌になるから必死に罠に掛けようとしてくるよ」
「嫌な事を言うなよっ」
と、冗談めかして言っておいたが、お宝を取ろうとすると罠に掛かりやすくなるからちょっと心配かな。
風呂から出て火照った身体を夜風に当てて冷ます。女性陣も出てきたので酒飲み組と寝る組に別れた。今日で温泉旅行も終わりなのでテントの中でおもちゃで遊び、お菓子の取り合いをしたのであった。
ウェンディが一人負けしてふて寝したのは言うまでもない。