蟹と温泉と雪
晩飯のカニ鍋は大好評だ。
テルウスも呼んだら来たので女神が勢ぞろいだ。皆には見えていないけど隣にいる。
「雪が降ってないのが残念だね」
モリーナの食べる分はタマモが世話をしてくれているのでこちらは姫様のを世話する。テルウスにはアーパスが食べ方を教えている。
「雪を降らせればいいの?」
「アーパスは雪も降らせられるのか?」
「寒いから勝手に雪になる」
力をくれというのでアーパスと手を繋ぎ妖力を注ぐとそれを雨に変換していく。
「あ、雪だね」
「もう後は勝手に降るから」
「おーっ、流石は神様じゃ。天候まで自在に操れるとはのぅ」
と姫様ははしゃぐ。
「天候は操れない。私は雨だけ」
雪を見ながらのカニ鍋は最高に旨い。が、モリーナが寒そうなのでヘスティアが隣に座り熱を発してくれた。
「ヘスティア様、ありがとうございます」
「気にすんなよ。お前身体が弱いんだろ?」
「セイ様が下さった薬のお陰で大丈夫でございますよ」
「あれ飲んでんのか。なら大丈夫か。ほら酒も飲めよ。カニとこいつは旨ぇぞ」
と、熱燗を渡すヘスティア。まぁ、ヘスティアのはぬる燗だけど。
「本当。美味しいですわね」
「なっ」
ウェンディは自分がカニを食うので必死で二人に構う暇がない。
「ようセイ、これも宿で出せんのか?」
シーバスがそう聞いてくる。
「あの村はカニの魔物は出る?」
「いや、出ねぇな」
「俺がいる間は運搬してもいいけど、延々と続くわけじゃないからね。名物にするのはやめた方がいいよ。フグならなんとかなりそうだけどね」
「あれ客に出すのヤバいからやめろと言ってたじゃねーかよ」
「なんとかなる方法を見つけたんだけどね。ここから帰ったら相談するよ。今日は飲み食いを楽しもう」
「そうか、わかった。なら飲みまくってやるぜっ。サカキ勝負だっ」
ビビデバビデ達を含めて飲み勝負とか無謀な・・・
ふと皆をみるとチーヌはオルティアを構い、ガッシーがテレテレしながらリタに話し掛けている。パールフはダーツと、シーバスはツバスとか。そしてティンクルはビビデと、アンジェラはバビデと仲良くやっている。このままカップルになりそうだな。
「モリーナ様、ビスクマリー様。セイがいつもお世話になっております」
と、ギルマスとグリンディルがやって来た。
「マモンさんとグリンディルさんでしたわね。お世話になっているのはこちらの方よ。こんな開放的な場所で美味しいものを食べて楽しい時間を過ごせていますもの」
「それは良かったです。セイをこれからも宜しくお願い申し上げます」
「はい。でもセイ様はアネモスの住人ですわよね?」
「セイとも話はしたんですが暫く離れるとのこと。アネモスはこれから大変になっていきます。本当ならセイ達にも手伝って欲しいところなのですが・・・」
「モリーナ様。アネモスはウェンディを欲していないのですよ。だから特に手伝う必要はないんです。ボッケーノはヘスティアを強く信仰していますし、それはアクアもガイアも同じ。アネモスだけが違うのです」
「それはアネモスの国の方々はご存知なのかしら?」
「一部の人は話を信じてはくれましたけど、国民全体には程遠いですね。感謝どころか恨んでいる人の方が多いですから」
「そうなの・・・」
「今は皆が気付いてくれてるのを待つばかりです。ギルマス達は大変だと思いますけど」
「全部押し付けやがって」
「しょーがないじゃん。魔物が増えて強くなったのを俺達が討伐しても、冒険者が冒険者の仕事をしただけとか言われそうだし」
「それはそうかもな」
「でしょ?」
「セイ、ならばボッケーノに住むのじゃ。屋敷は用意させるでの」
「姫様、そんなお金があるなら孤児達の生活改善をしてあげなさい」
「孤児院があるじゃろ?」
「どんな所か知ってるか?」
「いや、知らぬぞ」
「じゃあ、ここから帰るときに連れてってやるよ。子供達がどんな生活をしているか知っておいた方がいい」
「では私も連れて行って下さいませ。もう実権はありませんけど」
「ぜひお願いします。今は冒険者達が肉を差し入れているので少しマシだとは思いますが冬場でそれも少ないでしょうからね」
「アネモスも孤児院に何かをしてやれりゃいいんだけどな」
「アネモスにもあるの?教会には孤児院はなかったけど」
「民間の孤児院はあるぞ。まぁ、ボッケーノとかより人数はすくねぇだろうがよ」
アネモスの街はあまり見歩いてないから知らなかったな。てっきりアネモスには孤児院なんて無いと思っていた。
「今年から税金も上がったし色々な予算が削られたからな。民間の孤児院にもその余波が来てると思うぞ」
「わかった。ギルマス達を送って行くときに見に行ってみるよ。場所教えてね」
「モリーナ。そろそろ湯に浸かりな。かなり冷えてきたから温まってから寝たほうがいい」
と、タマモが促すので姫様も連れていってもらった。
「ウェンディ、お前達も眠くなる前に一緒に入って来い。俺も入って来るから」
テントに寝床を用意して風呂に行く。モリーナと姫様は同じテントで寝るだろうから後はみな勝手に寝てくれ。飛行機の中でも寝られるしな。
風呂で雪見酒を少し楽しんでから出るとテルウスが寂しそうにしている。
「どうした?」
「アーパス達はこうして皆と楽しむ為に力を落としたのね」
「そうだよ。神が見えるのは俺達だけだからね」
「どうやって力を落とすのかしら?」
「うーん・・・」
ヘスティアに教えんなよと言われてんだよなぁ。
「ヘスティア達に聞いてみればいいんじゃないかな」
と、丸投げしておいた。姉妹でなんとかしてくれ。
女神ズが定位置に寝て、モリーナと姫様はダブルの掛け布団で一緒に寝るので、ヘスティアとアーパスもダブルの掛け布団。セイとウェンディがシングル。
ダブルの掛け布団をもう一枚買っておけば良かったなと後悔する。
「セイはいつも女神様と寝ておるのか?」
「そうだよ。女神達は食べ物だけだとエネルギーが足りなくてね。俺のエネルギーをあげてるんだよ」
「それは妾ももらえるのか?」
「人間には無理だよ。神達とぬーちゃんとかサカキ達だけに必要なものだからね」
「そうなのか。神力というやつじゃな。そのようなものを与えられるとはセイも神みたいなのもじゃな」
「いや、俺は人間だよ。さ、明日は雪合戦でもやるから早めに寝ろよ。昨日もあんまり寝てないだろ?」
「楽しみで寝られなかったのじゃ」
「せっかくの遊びが眠たくて遊べなくなるから早く寝ろ」
「う、うむ」
そして就寝。雪が降っているのでかなり冷え込んで来た。モリーナと姫様が寒いんじゃないかと掛け布団の上からも毛布を掛けておく。
さむさむっと布団に潜り込むとウェンディに加えてヘスティアもくっついて来たのでシングル掛け布団では狭い。そのままアーパスも引っ張ってきてシングルとダブルの両方で寝たのであった。
翌朝はご飯を食べたら雪合戦。
「ブホッ」
ヘスティアの雪玉をくらう姫様。
「やりおったなぁっ。テイッ テイッ テイッ」
姫様の雪玉をひょいひょいと避けてまたぶつけるヘスティア。なんて大人気がないのだ。
こっちはカマクラを作ろう。
「何作ってんのよ?」
「カマクラだよ。あとで中をくり抜いて部屋みたいにするんだよ」
「なんのために?テントがあるじゃない」
「うるさいな。出来ても中に入れてやらないからな」
「なんでそんな意地悪言うのよっ」
「お前がテントがあるとかいうからだろ。これは雪の醍醐味なんだっ」
アーパスはいい子で手伝ってくれているのでちゃんと中に入れてあげよう。
砂婆はせっせと団子をこねてくれている。餅は時間が掛るので団子をぜんざいにするのだ。
ようやく出来たカマクラは4人入れるぐらい。モリーナと姫様、セイとアーパスが入り中で団子を炙ってぜんざいに投入。
「美味しいのじゃっ」
「ずりぃぞっ」
とヘスティアが入り込んでくる。
「テントでも食べられるだろうが」
「そんなこと言うなよ」
と、膝の上に据わりやがった。そしてウェンディも無理矢理はいってくる。
「狭いって」
「そこのきなさいよっ。セイは私の下僕なのよっ」
「俺様が先に座っただろうがよ」
「暴れんなって。カマクラが壊れるだろうかっ」
「キィーーーーっ」
グシャっ
ウェンディとヘスティアが暴れるもんだからせっかく作ったカマクラが壊れてしまった。ぜんざいも台無しだ。
「モリーナ様と姫様が雪まみれだろうがっ」
慌ててタマモがやってきてモリーナを救出し、セイは姫様を救出する。
「出してよっ。冷たいじゃないっ」
「お前はそこで反省してろっ」
雪に埋もれたウェンディヘとスティアはそのままにしておくとヘスティアは熱で溶かして脱出。アーパスは入口近くにいたのですぐに脱出していた。
「おーほっほっほっほ。雪まみれなんて初めの経験だわ」
と、モリーナは大笑いし、姫様もセイに抱っこされて大喜びだった。
「風邪引かないうちに風呂に入って来い。ヘスティア、アーパス。姫様を連れて行ってくれ」
そして雪に埋もれたウェンディだけが取り残される。
「出してよっ」
「お前はいつもいつも問題を起こしやがって。ほら手を出せ」
とウェンディの手を掴むとグイッと引っ張りやがった。
「うわっ」
ボスっ
「キャーハッハッハ。セイも雪まみれぇ〜」
「こいつっ、こうしてやるっ」
バサバサと雪をウェンディにかけるセイ。
「やっ、やめてよっ。冷たい冷たいーっ。エイッ!エイッ!」
そして反撃してくるウェンディ。
「ばっ、バカやめろっ。ぶふっ」
崩れたカマクラでじゃれ合っている二人を見る他のメンバー達。
「仲がいいなあいつら」
と呆れていたのであった。