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アネモスへの思入れは薄い

「夏頃にお戻りになると伺ってましたのに」


「用事が早く済みましたので早く帰って来たんですよ。これ良かったらお土産です」

 

と、高級ワイン、蒸留酒、バルサミコ酢を渡した。アクア産の美味しい奴だ。


「まぁ、アクア産ですの。それは嬉しいですわ」


さすが貴族はこういうの知っているんだな。アネモスでアクア産の物を手に入れようとしたら死ぬほど高いんだろうなと思う。どうやって入ってくるのかと聞くと船で持ってくるらしい。船で取引してるとか知らなかったな。


そしてどんな旅だったのか軽くおしゃべりをしたあとに、教会の事や魚料理の店の報告を受ける。順調ではあるようだが信仰心に繋がるまでには至ってないようだった。


「あれ?このお茶・・・」


「教会のハーブティーです。教会に農地を貸し出して栽培数を増やしてもらいました。教会に来る方に振る舞われてますわ」


そんな事もしてくれていたのか。


そして当主が戻るまで話を続けると当主が帰ってきた。前に見たときよりもやつれているようだ。


「セイ殿が来ていると・・・、おお、良く来てくれた」


以前と違い来訪を歓迎してくれる当主。


「お邪魔しています。予算無理だったみたいですね」


「力が及ばすまない。王に直訴したのだが国が特殊な状況に陥っておってな・・・」


「その感じじゃ事情は話せないみたいですね」


「すまない」


「よほどの事情だと思っておきます。でもアネモスは国としてどうしていくんでしょうね?山も確認してきましたけどかなり渇いてますから夏辺りから木々が枯れていくんじゃないですか?水の魔法使いは畑の水やりで手一杯で山は放置だと伺いました。それに魔物の数と強さが加速してますよ。冬でも結構いましたし」


「うむ、それも含めて直訴した上での結果なのだ」


「まぁ、国がそう判断するなら仕方がありませんね。我々はアネモスでの仕事が終わればしばらくアクアに行くことになりました」


「アクアに?」


「はい。アクアのSランク冒険者と仲良くなりまして、出身地の村を観光地化する手伝いをするんですよ」


「そうか・・・。アネモスは見捨てられるのだな」


「見捨てるというかウェンディを欲してくれないので仕方がないですね。それにウェンディの力もかなり落ちてしまったので神に戻してやれないかもしれないんです。信仰心を失った期間が長すぎたのかもしれませんね」


「ではもうこの国は・・・」


「大国と呼ばれる国全部を回りましたけど、どこも元々豊かな土地が発展したようですね。でもアネモスはウェンディの風で豊かさを保っていたようです。定期的に湿度を含んだ台風が海をかき混ぜ、陸地に雨を降らし、魔物を弱体化させていた。それがなくなったので今の状況があります」


「そうなのだろうな。神を失った国はこんなに脆く崩れるのかと私も実感している」


「それでも予算も避けない状況なのですね?」


「そうだ」


「わかりました。ちょくちょくアネモスにも帰ってきたり来ますけど我々はあまりいないと思って下さい」


「承知した」


リーゼロイ当主はそれでもなお予算を避けない理由は言わなかった。王に直訴した時に何かを聞いたか命令されたのかもしれん。


「では失礼致します」


「力が及ばす申し訳ない」


と、もう一度謝られた。



屋敷に戻り、セイはタマモにアネモスの事を聞こうかと迷ったがやめておいた。なんとなくアネモスの内情を聞くと国政に絡らまないといけないような気がしたからだ。タマモもその覚悟はあるかと聞いたのはその為だろう。



「どうしてそんな難しい顔をしてんのよ?まだ怒ってんの?」


「ん?いや怒ってないよ」


飯を食い終わってリビングで考えごとをしているとウェンディがそう聞いて来た。


「お菓子は?」


「あっ、ごめん。忘れてたわ」


「もうっ」


「プリンでも作るか?」


「なんかプリンの気分じゃない」


「じゃあどら焼きでも作ろうか?アンコはあるだろうし、皮だけ焼けば良いから」


と、砂婆にアンコと皮の材料を持ってきてもらって魔導コンロの鉄板で焼くことに。


「俺様のはもっとデカく焼いてくれよ」


「お代わりしろお代わりを」


お好み焼きサイズのどら焼きとか土産もんか。


「これはなんですか?」


「オルティアは初めてだったか。てかお前砂浜ダッシュさせられている割に元気だな」


「寒中水泳よりマシです」


「本気で走ってたか?」


「いつも本気で走ってますっ」


「おう、こいつなかなか倒れんくなってきたぞ」


と、ヘスティアが補足する。こんな短期間でそこまで成長してんのか。


「なら明日は俺が見てやろうか?」


「いっ、嫌ですっ」


ヘスティアの方が厳しいと思うけど俺にやられる方が嫌なのか。



「ほら焼けたぞ。熱いから気を付けろ」


ホイホイと女神ズとオルティアにどら焼きの皮を渡していく。アンコは好きに挟んでくれ。ぬーちゃんにはアンコを挟んで皿に入れていく。


俺はちょっとバターを入れよう。


「自分だけ何入れてんのよ?」


「バター」


そう答えるとウェンディが食べかけのどら焼きをパカッとめくって来るのでバターを乗せてやる。ヘスティア、アーパス、オルティアまで・・・


「ここに置いとくから自分で入れてくれ。俺は風呂に入ってくるから」


と露天風呂に入りに行った。


ゴボゴボゴボゴボ


アネモスはどうすべきかなぁ。リーゼロイが頑なに予算を割けなかった理由を聞くと、覚悟を決めて国に関わらないとダメな気がする。それでアネモスがウェンディを信仰してくれるなら自分に出来る事はやるけどそうならない気がするんだよな。ならやるだけ無駄なんだろうし。


コボゴボされながら湯に潜る。アネモスという国自体にはそんなに思い入れはない。が、関わった人達の事は気になる。ギルマスとか知っている人だけアクアかどっかに移住させるとしてもその人達にも繋がりはある。その繋がりを全部とかなると結局はアネモス全員となるだろう。


潜った湯から顔を出してふぅーっと息をついた。


「なんか悩んでるの?」


とウンディーネが聞いてくる。


「うーん。どうして良いかわかんないんだよね」


「なら何もしなくていいんじゃない」


「そうかな?」


「わかんないことなんてやりようがないじゃない。やりたいこととやらないといけないことだけすれば?」


「やらないといけない事に関わることなんだよね。俺が一番やらないといけないのはウェンディを神に戻すことなんだよ」


「そうなの?」


「そうだよ」


「ウェンディを守る事が一番やらないといけないことなんじゃないの?」


「それはやりたいことかな・・・」


自分で言葉に出したことで実感する。ウェンディを守るということは義務でもなんでもない。単に自分でそうしたいだけなのだと。 


ふとセイがアネモスに思入れを持てないのはウェンディに対して冷たいからだという事に気付く。他にも色々とあるけれども。


その夜、隣に寝るウェンディがコロンとくっついて来たがなんか気恥ずかしくて抱き締めるのをためらったセイなのであった。


そしてオルティアの稽古をし続けて2/10を迎える。



「これに乗るのか」


「そう、あとさ、ボッケーノの第三王女と前王妃も一緒に行くことになったから」


「は?」


「姫様はビスクマリー、前王妃はモリーナ。モリーナ様は長い間寝たきりだったからリハビリと療養を兼ねて温泉に行くんだよ。姫様は息抜きってところかな」


「王族と一緒なんて聞いてねーぞっ」


「今言ったからね。さ、夜のうちに移動するよ。俺は姫様達の護衛を受けているから朝一に迎えに行かないとダメだから」


ギルマスのマモンはえらいことになったと騒いでいたが、グリンディルとリタは凄いねとしか言わなかったのだった。



ボッケーノに移動してバビデの家に行くとフィッシャーズ達が今日帰って来たとのこと。


ギルマス達を紹介する。


「試練を無事に乗り越えたんだね」


「これ返すわ。これとポーションが無きゃ無理だったぜ」


「強かったろ?」


「あぁ。お陰で俺達は丸腰で帰ってきたから大変だったんだぜ」


と、シーバスが折れた剣を見せる。帰り道はツバスの火魔法とパールフの支援魔法でなんとかやり過ごして帰って来たとのこと。


「温泉から帰って来たらメラウス製になるから楽しみだね」


「おう、その間丸腰ってのはちょっと不安だけどよ」


と、言うとビビデが代わりの剣を貸しといてくれるらしい。これはこれで今まで使っていた剣より遥かに良いものである。ダーツのレイピアはなかったので普通の剣だった。


その夜はいつもの如く宴会となったがセイは護衛があるので早めに寝たのであった。




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