オルティアの過去
「悪かった。元気な打ちに死ぬ話なんてするべきじゃなかったな」
と、女神ズの雰囲気を察したマモンは謝った。
「そうだね。俺よりギルマスの方が早くに逝くんだし」
「てめえっ」
「ま、神たちからしたら誤差の年数だよ。それより温泉とカニはどうする?ボッケーノのビビデバビデとポーション研究者のティンクル、それにアクアの防具職人のアンジェラとフィッシャーズ達が行く予定にしているよ」
「私は行きますっ」
とリタ。
「もちろん私も行くわよ」
「行くに決まってんだろうが。冬なら俺たちがいなくてもなんとかなるだろうしな」
「でも掲示板に依頼たくさん出てたね」
「まぁな。喜んでた奴らにせいぜい稼がしてやれ」
「未調査ダンジョンの調査依頼はまだ生きてる?」
「一応な」
「フィッシャーズ達がヘスティアの試練を乗り越えたら調査してもらおうかと思ってんだけど」
「やってくれんのか?」
「言ってあるからやってくれると思うよ。オルティアも行けよな」
「え?」
「未調査ダンジョンの調査とか勉強になると思うぞ。俺も中に入った事がないからどんなのか知らないけどね。行くのは春とかになるからそれまでクラマとチーヌに剣の稽古を付けてもらえ」
「セイ、この駆け出しは物になりそうなのか?」
「潜在能力は高いと思うよ。ただ本気出してないだけで」
「出してますっ」
「嘘つけっ。クラマ、さっきどうだった?」
「話にならんの。剣の修行より基礎体力を付けさせるのが先じゃ」
「だって。良かったな、走り込みと筋トレがお前の課題だ」
「えっ?」
「お前、クラマの稽古を手を抜いてすぐにギブしたろ?だからまたヘスティアに見てもらって走り込みだな」
「手なんか抜いてませんよっ」
「お前は気づかないうちに自分で手を抜いてんだよ。本気出してやってたら次のステップに進めたのに」
「本当に抜いてませんっ」
走らさせれるのがめっちゃ嫌そうなオルティア。
「あんたオルティアだっけ?」
グリンディルが何かを言うようだ。
「はい」
「セイ達が拾って稽古を付けようとしているぐらいだから可能性はあるんだと思うよ。ちょっと私が見てあげようかしら」
もう酒飲んでるのにトレーニングさせるのか。大丈夫かな?
嫌です嫌ですと言うオルティアをグリンディルはズルズルと引っ張って砂浜に連れていく。暗いので狐火をたくさん出して見学出来る位に明るくした。サカキとクラマとヘスティアはそれを肴に飲むようだ。
「はい、ここまで全力ダッシュ」
100mくらいの距離を走らせるグリンディル。
ずどどどど
結構本気で走ったオルティア。
「うーん、遅くはないけど速くもないわね」
「オルティアが本気出したらもっと速いよ」
「本気出してましたっ」
「ヘスティア、頼む」
「オルティア、もう一回だ。ヘスティアは酔ってるから手加減が上手く出来ないかもしれんぞ」
「ほらっ、ケツを燃やしてやんぜっ」
「いやぁァァァ」
ドドドドドドっ
「おー、セイの言った通りね。本気出したら速いじゃない。はいもう一度っ」
10本位100mダッシュをやらされたオルティアはオロロロっと吐いた。酒飲んでるの忘れてたよ。
「ほら、これ飲め」
「いっ、嫌です。それ飲んだらまた走らせるんですよねっ」
「今日は終わりだ。だから飲め」
うっうっうっ
と、泣きながらポーションを飲むオルティア。
「オルティア、あんた過去になんかあったろ?」
「ありませんっ」
「そう?じゃ、飲みながら話そうか。もう元気になったみたいだし」
これからは酒を飲まされて尋問されんのか。グリンディルは自白剤みたいに酒を使うつもりだろう。
フグ雑炊を食べてヒレ酒を飲む酒飲み達。フグとヒレ酒の組み合わせをかなり気に入ってしまったらしい。何度もつぎ酒をして飲んでいる。少しもらうとアチアチの酒。少量でも酔いそうだ。
そして酔ったオルティアはグリンディルに愚痴を吐き出す。
「セイさんはズルいんです。酷い目に合わせてから優しくしたり、冷たくしてから優しくたりして心を揺さぶるんです」
そんなつもりは一切ないぞ。
「この前なんか暗闇で二人っきりになったときに顔を近付けて目を瞑れって言ったんですっ」
「チューされたの?」
「そう思いますよねっ?そう思いますよねっ?でもセイさんは暗闇に私を捨てていったんですっ」
「それは可哀想ね」
「そしたらまた抱き締めて優しくしてくれて・・・」
(セイ、お前そんなことしてんのか?)
(下水道のネズミ退治している場所だぞ。そんなロマンチックな想像をする方がおかしいだろうが)
(なんだそりゃ?)
マモンはどういうシチュエーションか理解出来ていない。
そしてフィッシャーズ達がしたことやヘスティアがしたことをどんどんと聞き出していってはそれをウンウンと聞いてやるグリンディル。
「小さな頃はどうだったの?両親は?」
「うちは貧しい農村で食べるものも少なくて人減らしに私は捨てられんです」
「あら、可哀想に。それまでも疎まれてたの?」
「それまでは優しかったんです。でも変な男の人がやってきて・・・」
「やってきて?」
ガタガタガタガタと震えだすオルティア。
「いゃぁぁぁっ お父さんっあ母さんっ」
そう叫び出して一気に魔力が吹き出すかのようになるオルティア。
ドンッ
グリンディルはオルティアの腹を殴って気絶させた。吐かないだろうな?
「この子、記憶がすり替わってるんじゃないかしら?」
「どういうこと?」
「この子の両親は変な男ってのに殺されたんじゃない?」
「殺された?」
「今の魔力暴走だったわ。賊かなんかが押し入って来て両親を殺される所を目撃。そして無意識に魔法でその賊を殺したとかだと思うわよ。それが怖くなって力をセーブするようになったんじゃないかしら?」
「それ本当?」
「推測よ。でもね、相当な魔力があるのは確かね」
「オルティアは魔力あるよ。風と火魔法に適正がある」
「どうやって調べたのかしら?」
「鑑定機を手に入れたんだよ。それで魔力とか調べられる。どれだけあれば多いのか少ないのかはわかんないけど、Sランクパーティの魔法使いより多かったよ」
「じゃあ無意識に攻撃魔法を出した可能性が高いわね。起きて今の記憶が残ってるか消えているかわからないけど、覚えてないならこのまま記憶を封印して普通に捨てられたと思っておくか、思い出させて過去をちゃんと受け止めて生きていくかのどちらかね。選ぶのは難しいけど」
「どっちにするか決めろとも言えないしね」
「冒険者を続けて大成させるなら過去の事を精算したほうがいいわ。冒険者を続けていたら何かのきっかけで思い出す可能性が高いし。このままなら冒険者をやめて普通に働くほうがいいわよ」
「わかった。ありがとうグリンディル」
これはフィッシャーズ達とも相談しようか。
「セイ、暴走するとこはお前に似てんじゃねーのか?」
「やめろよサカキ。俺はちゃんと自力で全力出してんだからオルティアと一緒にすんな」
「へいへい。グリンディル、トウモロコシの酒飲もうぜ」
「何よそれ」
「いいから飲めよ」
と、また樽を出さされた。
オルティアはこのまま寝かせるか。汗臭いからウンディーネに洗ってもらってから寝室に寝かせる。
「もう皆泊まるだろ?」
「そうだな」
「リタも風呂に入っておいで。一人で露天風呂が怖いなら内風呂に入ればいいし」
「露天風呂に入りますよっ」
と、一人で露天風呂に行った。ギルマスもトウモロコシのお酒を飲みだしたので女神ズと共に少し付き合う。ウンディーネにも妖力を注いでギルマスにも見えるようにしておいた。
アーパスとグリンディルももう大丈夫そうだな。なんか嫌味の応酬をしてるけど本気で怒ったりはしていないようだ。
リタがほこほこになって出てきたのでシャンパンを出した。俺もトウモロコシの酒よりこっちの方がいいのだ。
ウェンディがウトウトしているのでもう寝に行くことに。
「じゃあ先に寝るね」
と挨拶してウェンディを抱き抱えて寝室へ。ヘスティアも酔ってるのか肩に乗りアーパスもおんぶされに来た。
「セイさんと女神様達ってあんなに仲良くなってるんですね」
と、リタがサカキに聞く。
「おう、毎日あんなんだ。セイの野郎もよく世話してやがんぜ」
「人間と女神様って結婚したりするんですか?」
「どうだろうな?セイの野郎はウェンディに一生守るとか言いやがったから覚悟を決めてんじゃねーか?結婚云々はわからんがずっと面倒はみるつもりなんだろうよ」
「ギルマスにもそう言ってましたよね?」
「セイは前に比べたら随分とウェンディに優しくなりやがったよな?」
とマモンもそう感じたようだ。
「初めはわがままクソ女神みたいな感じだったがよ、ウェンディが真面目に神の仕事をしてたの知ってからだな」
「惚れてるとかじゃねーのか?」
「どうだろうな?ま、あいつらの世話を焼いちゃいるが最優先はいつもウェンディだな」
「そういやセイはウェンディが神に戻らなくてもいいとか言ってたしなぁ」
「本音はウェンディを手元から離したくねぇんじゃねぇの?」
と、サカキはトウモロコシの酒をグイッと煽る。
「セイはウェンディを傷つけられたときに暴走したしね。あれ凄かったわよね」
「だろ?神や俺達にまともに付き合えるのはセイの野郎だけだし、セイにまともに付き合えんのも神や俺達だけだ。リタ、お前セイに惚れんなよ」
「わかってますよ。ギルマスにも散々言われてますっ」
「ならいいがよ」
「そのお酒下さい」
「おう、飲め飲め。飲みすぎても心配すんな。セイの持ってるポーションがありゃ二日酔いも一発で治るからよ」
「さっきオルティアに飲ませてたやつか?」
「明日お前らにも渡すんじゃねーか?万能薬とか言ってたぞ。なんにでもよく効く薬だってよ」
「あれを使ってやがんのか」
「おう。大量に持ってやがるから心配すんな」
「なら飲んじゃますっ。カーーーっきっつう」
「それがいいんじゃねーかよ。ほらギルマス、お前も飲めよ」
と、サカキは上機嫌で飲ませていった。
寝室ではヘスティアが眠る前からくっついて来る。
「どうしたんだよ?」
「お前が死ぬ話なんてするからだろうが」
「まだ先の話だと前にも言ったろ?死ぬ前から死んだみたいに思って泣くなよ」
「だってよぉ」
アーパスもあの話が嫌だったのかくっついてくる。
二人にトントンしながら妖力を少し注ぎ寝かせて定位置に戻す。
二人を寝かせた後にウェンディがぱちくりと目を開けた。
「死んでないでしょうね?」
「今ここにいるだろうが」
そう言うとじっと見つめて近付いてくる。
「何?」
ペロン
「何やってんだてめぇはっ」
ウェンディはセイのほっぺたを舐めた。
「猫にもされてたじゃない」
「あれは猫の習性みたいなもんだっ。マネすんなっ」
「ふんっ」
後ろを向いたウェンディ。
クシャクシャクシャ
セイはウェンディの頭をクシャクシャする。
「何よすんのよっ」
ふーっふーっ
「うひゃひゃひゃっ。やめろっ。おんなじ事をしてやる」
「きゃあっ」
二人は耳に息の吹き掛け合いをぐったりするまでやっていたのであった。