魔導具の買い取りはどこに?
フィッシャーズ達はワイバーン討伐の指導と組織改善をしたことで依頼達成となり、報酬の金貨6枚とワイバーンの皮3つを売った報酬の銀貨90枚を手に入れた。ワイバーンの皮の買い取り価格は1/3以下まで落ちたみたいだ。これからボッケーノの防具はワイバーンが主流になって行くのかもしれん。それでもダブついたら荷馬車の幌とかにも使えるかもしれんな。
「ここが試練の間につながるダンジョン。入るのには鉱山ギルドの許可証が必要だから今日は入れないよ」
いつも宝石をもらいにいく隠れた入り口は他にあるけどそれは内緒にしておいた。フィッシャーズ達には正攻法で攻略してもらいたいのだ。なんとなく頼べばあの入り口から試練の間まで繋げてくれるような気がするのだけれども。
下山したあとは自由行動にした。フィッシャーズ達は準備を整えてから試練に向かうそうだ。
「ヘスティア」
「なんだ?」
「サラマンダーは他の人にも見えるんだよな?リザードマンは見えなかったみたいだけど」
「おう、リザードマンの方が格上なんじゃねーのか?サラマンダーは元は普通の魔物だったしな」
なるほど。
「ま、相手にするまでもねぇやつの時は出て来ねぇから見えないのと同じだけどな」
リザードマンは精霊に近い存在なのかもしれんな。神は力が減ると皆から見え、精霊は力を与えると見えるようになるのが不思議だ。女神ズも力を戻して見えなくなったあとに更に力を注いだら見えるようになんのかな?皆が神に戻っててくれると楽なんだけど。
「アーパス、ちょっと試していいか?」
「何を?」
「力を注いだら神に戻るだろ?」
「うん」
「そこから更に力を注いでいけば神のままで皆から見えるようになるんじゃないかなって」
「試してダメだったら責任取ってくれる?」
なんの責任だよ?
「いや、なんかその責任重そうだからやめとく」
嫌な予感が過ぎったのでやめておくことに。
セイはオルティアを連れて洋服を買いに行くことに。買うのはパールフのズボンだ。
「ほら、ズボンを脱げ」
「セッ、セクハラですか」
「違うわバカ。着替えろって言ってんだよ。そのズボンは返せなきゃならんだろうが。それと新品のを返すからさっさと脱げ。それ持っていけばサイズがわかるだろうが」
「わかりました」
「ここで脱ぐなっ。向こうで着替えてこいっ」
なぜ俺の前で着替えようとするのだ?
バビデの家でそんなやり取りをして洋服を買いにいくと春物が出ていたのでまた皆の服を買うはめになってしまった。ついでに自分の春物も買っておくか。それにカントハウスにも行くつもりだから、ケビンとラーラの服も買ってみる。大体覚えているサイズより上のサイズがいいかな。子供はすぐに大きくなるからな。
女神ズがいつものごとく長々と服を選んでる間にモリーナに呪いを掛けた術者の所に式神を忍びこませてみる。おっ、ラッキー。誰もいないじゃん。
調べるのは本だ。ここに呪いの事が書いてあるかもしれない。
本を出して中身を見るが文字がさっぱりわからない。なんだろうこの文字は初めてみる。自動翻訳の特典も及ばないようでどれも読むことができなかった。が、重要な物を発見してしまう。文字は読めないがこの魔法陣は悪魔召喚のものだ。この世界の呪いは悪魔から伝わったものなのか、それともこいつが悪魔召喚に関わりのあるやつなのか・・・。
ちっ、まだ途中なのに術者が帰って来やがった。
慌てて本を元に戻して式神を隠して見つからないようにしてから外に出して元に戻した。
「お金払って」
とアーパスが言ってきたのでお支払い。
「私の分まで買ってもらってありがとうございます」
と、オルティアはちゃっかりたくさん自分の分も選んでいた。別にいいんだけどチーヌに甘やかすなと言われてたのにバレないようにしておこう。
飯屋で辛い飯を食べてま街中を散策すると生活魔導具の大型店を発見。ここで買い取りをしているか聞いてみる。
「すいませーん。ここって魔導具の買い取りはしてます?」
「はい。中古品の買い取りと販売もしておりますよ」
魔導具は高価なので捨てるということがほとんどない。メンテナンスをして再販されているみたいだ。
「中古品ではなくてガイヤの魔導具ダンジョンから出たものなんですけどね、表記が古代語のままなんですよ」
「えっ?オリジナルの魔導具ですか?」
「これとかなんだけどね」
と、試しにオーブントースターを見せてみる。これはたくさんあるのだ。
「こ、これは・・・」
「パンとか焼き直したりする小型オーブンみたいなものだよ」
「お客様、もしかして古代語を読めるのでしょうか?」
「簡単なものならね。これを回すとタイマー兼スイッチなんだよ。これが数字で例えばここにダイアルを合わせると5分間動くってやつ」
元の世界なら2〜3千円も出せば買えるとてもシンプルなものだ。この世界に来てからは見ていない。オーブンとかあるから簡単に作れると思うんだけど。
「うぉぉぉっ。これは版権ごと売ってくださるのですかっ」
「版権?」
「はい。新しい機能の付いた魔導具には版権というのがございます。オーブン機能には版権はございませんが、この時間を任意で設定する機能は初めててございます」
あー、確かに見たことのある魔導具はスイッチのオンオフしかないな。
「その版権は各国共通?」
「いえ、ボッケーノ内で生産する物に限られます。生産出来る国は大国だけですし、他国とは離れておりますので共通にはなっておりません」
国を行き来する商人は魔導具を買って他の国で転売するだけだそうで、同じものが他国で生産されても他国産がボッケーノ内で運送費分が高くなるから売られる事はないからとのこと。ただ新しい物は商人から版権付きで生産出来る魔導具店が買い取るらしい。
「そういうことならまだ売るのをやめておくよ。これは仲間と一緒にゲットしたやつだから皆と相談しないとダメだからね」
ボッケーノなら他にも魔導具を生産出来る店がありそうだから高値を付けた方に売る方がいいし買い取り相場もわからん。
「ほ、他の店に売るおつもりですか?」
「まだ未定。それも仲間と相談してからね。他の魔導具もあるから」
「みっ、見せてくださいっ」
「面倒だからまたね」
「そんなぁ・・・」
自分だけの事ならちゃっちゃと売ってもいいんだけど。このシステムが他国にもあるならめっちゃ儲かりそうだ。
他の魔導具店を探して訪ねてみる。
「あなた魔導具売る?私高く買うわ」
ここはハナーテン中古魔導具専門店。生産はしていないようなのでパス。
次はここ。中心から少し離れた店。
驚くほど安い魔導具キホーテ。生産もしているそうだが安く買い叩かれそうな感じがする。買い取り担当のグイグイ来る押し方も苦手だから退散。
「オリジナルの版権付で買い取りですか。魅力的なお話ですね。実物を拝見しても宜しいでしょうか?」
と言われたの出てオーブントースターを見せる。
「なるほど、任意で時間を設定出来る所が版権になりますね。ちなみにビッグ魔導具店にはこのお話は?」
ビッグ魔導店とは一番初めに行った店だ。ここはヨドーバシ魔導具店。
「したよ。まだ買い取りに出すか決めてないけど」
「わかりました。ビッグより高く買い取りさせて頂きます。もし同じお値段なら銅貨1枚でも高く値付けます」
これ、多分ビッグも同じ事を言うだろう。何回もちまちま店を往復するの面倒だな。
「了解。ちょっと考えるね」
あちこちウロウロしたのでもう晩飯の時間になったのでバビデの所に戻る。
「へぇ、魔導具の買い取りってそんなふうになってんだな」
晩飯の唐揚げを食いながら今日の話をシーバス達とする。
「似たような値段なら近いほうが楽でいいだろ?」
と、チーヌ。
「俺は別にどこで売ってもいいんだけど、チーヌ達は宿を作るだろ?金はいくらあってもいいぞ。建築費以外に利益が出るようになるまで皆の給料や食材や仕入れのお金も必要だし」
「あー、そういうことも考えなきゃならんのか」
「そうだよ。いきなり満室になるわけじゃないからしばらくは赤字になると思うよ。それとアクアの税金の事はよくしらないけどそれも払わんとダメなんじゃないのか?」
「うおっ、そりゃそうだ。誰がそんな金の管理やるんだ?おりゃ無理だぞ。学ねぇし。ガッシー、お前できるか?」
「ばっか、俺たちゃみな同じだろうが」
とガッシー。皆もウンウンと頷く。
「それ出来る人も雇わないとダメだね。そこそこ給料を高くしないと村に来てくれないと思うよ」
「かー、そうだよなぁ。あの村にそんな金の計算出来るやつなんているわきゃねーよな。セイ、お前やってくれよ。お前なら出来そうじゃねーかよ」
「あのなぁ・・・」
そして、大体どれぐらい必要か試算する。恐らく実際にやりだすと見えなかった経費がたくさんでてくるはずだ。この試算より3倍くらいみておいた方が良いな。
「金か。稼いでも稼いでも出ていく一方だなこりゃ」
「宿が軌道に乗ったらちゃんと増えて返ってくるよ」
「ならチマチマ2つの魔導具店を行ったり来たりして値を吊り上げんとならんのだな」
と、チーヌが言うとダーツが別案を出す。
「面倒臭ぇなそれ。2つの店に分かれて電話でやりとりしたらいいんじゃねぇのか?」
「電話も売れと言われるぞそれ。あれは売るつもりがないんだよ」
「どうしてだ?」
「一般に売り出されたら軍事的に使われる可能性があるからね」
「軍事利用?」
「そう。指揮するものと現場にいるものが瞬時に情報をやりとり出来る国の方が圧倒的に有利になるだろ?こういうものを手にしたらそれに気付いた奴がおこらなくていい戦争をおこすかもしれないじゃないか」
「なるほどな・・・」
しかし、ちまちま行ったり来たりしなくて済む方法か。オークションが出来たら・・・。あっ、
「買い取り担当者を呼んでオークションみたいにしようか。買い取りに出す魔道具を決めてお知らせしておいて資金を用意させる。そしてオークションをしよう」
「おっ、さすがセイだ。ズルいやりた方を考えやがる」
どこがズルいのだ。
「じゃ、先ずはこのオーブントースターを売って、他は何を売る?」
「全部売るんじゃねーのか?」
「全部いっぺんに出したら値段下がるんじゃないかな?買う方の資金にも限界があるだろうから買う商品を分けられて買われたら安値になるよ」
「かーっ、さすがだな。ずる賢いぜ」
だからどこがズルいのだ。
「あのなぁ、これは宿の為だろうが。俺は別に買い取り金額なんてどうでもいいんだよ」
「セイも報酬山分けだろ?」
「俺は別にいいよ。飛行機貰ってるからあれだけで俺の報酬は貰いすぎているぐらいだからね。版権の収入は全部フィッシャーズに渡すよ。これ、ボッケーノだけじゃなしにアネモスとガイヤかアクアで同じ事出来るからね」
ガイヤとアクアは流通が盛んだ。しかもガイヤは魔導具のメッカだからおそらくアクアは魔導具をガイヤに依存している。版権買い取りは・・・ん?
「版権って絶対に売らないとダメなのかな?」
「どういうこった?」
「版権を持ったまま生産販売したらその売上の一部はフィッシャーズに入ってくるんじゃないのか?」
「え?」
「ボッケーノがどうなってるかは調べておくよ。ガイヤはまた行った時に調べようか。ガイヤなら魔導具ギルドとかあるかもしんないし」
「なるほどな。なら任せておいていいか?」
「いいよ。みんなが試練を受けている間は暇だし。でも2月前半までに帰って来なかったら温泉にはおいていくからね」
「どうしてよ。待っててくれてもいいじゃない」
「ツバス、いいことを教えよう。カニ鍋と温泉は冬とセットなんだ。カニ鍋を食べて雪景色を見なら入る温泉。寒い雪の中、温泉で温まった身体に染み入る冷たい酒」
そう言うと皆はゴクッと唾を飲んだ。
「だから待つのは約一ヶ月。2月10日まで待つよ。温泉旅行は2月11日出発ね」
「絶対にそれまでに帰ってくるからな」
「ま、頑張って。魔導具の事はその間にやっておくよ」
フィッシャーズはメラウスを鉱石を手に入れるという目的より、カニ鍋温泉旅行までに帰って来ることが目的になってしまったようだった。