お前は嫁か?
「お帰りなさいませ」
宝石店にもお帰りなさいませと言われる。一番関係の薄い街はアネモスかもしれん。
「調子どう?」
「お陰様で社交界シーズン前にたくさん注文を頂きましてホクホクでございます」
「それは良かったね。今回来たのはこの娘にアクセサリーのフルセットを作ってもらいたいのと、ダイヤモンドでフルセットも作ってもらいたいんだよ。宝石はこれね」
「かしこまりました。ちなみにダイヤモンドを着けられる方はどのような方ですか?」
「金髪美人って感じ。身長は165cmくらいかな」
「かしこまりました」
「あとね、この3つのダイヤモンドを複雑なカットにしてもらいたいんだけど、タマモ説明してくれる?」
タマモは絵に描きながら説明をしていく。複雑すぎて全くわからん。
「これだけ削るとかなり小さくなりますが宜しいのですか?」
「元が大きいサイズだから大丈夫さね。その代わりダイヤモンドの真髄という輝きが増すのさ」
「かしこまりました。難しい仕事でございますのでお時間を頂戴しますが宜しいでしょうか?」
「どれぐらいかかるかな?」
「春には出来あがります」
「じゃ、大丈夫。あとガラスでこの娘の像とか作れる?」
「こちらのお嬢様の像でこざいますか?」
「そう。これは3〜5年後になると思うから急ぎじゃないよ。アクアの村に教会を作る予定にしていてね、そこに設置しようと思って」
「あの、その・・・。お嬢様のお名前は・・・」
「アーパス。水の神様だよ。ダイヤモンドのアクセサリーは土の神様テルウスの分。これでこの宝石店は女神様のアクセサリーコンプリートだね」
「ははぁーっ。ありがとうございます」
支払いは宝石と貴金属の仕入から差し引き。それでもプラス金貨700枚も貰ってしまった。どうやら王室御用達店にもなったらしく社交界にむけて貴族からピンクゴールドゴールドと宝石の組み合わせがめちゃくちゃ売れたらしい。また追加で仕入れをお願いしますと言われたのでダンジョンに貰いに行かないとな。
いつの間にかウェンディはちゃっかり新しい髪飾りを発注してやがった。
皆の元に帰り宴会。雑魚寝するには場所が足りないので裏庭にテントを出してそこで俺たちは寝ることにした。いびきとか聞かなくて済むからいいだろう。
それに今日はこっちの方が都合がよい。夜中にこそっと抜け出して教会の裏にぬーちゃんで行かねばならないのだ。
「爺、ごめんね」
「いえ、重大事項と思われましたので」
「うんそうなんだよ。モリーナ様のことなんだけどね」
「はい」
「体調が悪いのは病気じゃなくて呪いをかけられてるんだよ」
「え?」
「モリーナ様に直接じゃなしに銀のグラスにかけられてる。今でもあれ使ってるんだよね?」
「はい。あのグラスは毒が入っていると輝きを無くすグラスでして、毒見をしなくても飲めるとずっと使われております」
「そうか・・・。モリーナ様は何か実権握ってる?」
「いえ、ご子息様が王位を継がれたあと、全ての実権を王妃様にお譲りになられました」
「ならもう呪う必要はないはずなんだけどな。今回のことから想像すると亡くなられた王様も呪いが原因だったんだと思う。後継者争いとかあった?」
「いえ、現王に王位を継ぐことが決まっておりましたので王位争いは起きてはおりません」
「うーん。でも確かにグラスに呪いが掛かってんだよ。ポーションを毎月飲まないとダメなのはそのせいだよ。恐らく体力を奪う呪いなんじゃないかな」
「あれを贈られたのは現王と現王妃でございますよ」
「あの呪いを祓う事は出来るけど、呪いを祓うと呪いをかけた術者と依頼した人に跳ね返るんだよ。もしも王様と王妃様が呪いを掛けた人なら王家が大変な事になる。でもあのままだとモリーナ様はポーションを飲み続けてなんとか現状維持って感じだよ。どうする?ポーションはいくらでも渡すけど」
「先代王が呪いで亡くなったとのお見立ては確かにございますか?」
「はっきりとした病気か事故だった?」
「いえ・・・」
「仮に王様が早くに亡くなられたらなんかメリットある?」
「王位を継ぐのが早くなります」
「それかなぁ。それとも第三者が仕掛けて・・・、いやモリーナ様にまだ掛かっているところをみると、呪いをかけ続けているのか、一度かけたら持続するタイプの呪いなのかわからないね。呪いの術って公になってないからどれだけ種類があるかわからないんだよね」
「モリーナ様はポーションを飲み続けたら天寿を全う出来るのでしょうか?」
「今の呪いだけならね。でもモリーナ様が邪魔な理由があれば他の呪いや毒、事故を装うとか違う事をされる可能性がある。時間もらえるなら犯人は探せるけど」
「本当ですか?」
「一週間くらい掛るよ。でも爺が先に術者を見つけても殺したりしないでね、呪いが解けなくなる可能性があるから」
「かしこまりました。ではセイ様に調査をお願いしても宜しいでしょうか?」
「了解」
「このことは姫様には・・・」
「もちろん言わないよ。王様と王妃様が関わってたら姫様の親だからね」
「セイ様にはお世話になりっぱなしで何とお礼を申し上げたら良いか」
「別に気にしなくていいよ。俺は冒険者よりこういうのが本業だから任せておいて」
と、調査依頼を受けたので行動開始だ。
爺と別れた後にタマモ呼び出す。
「今の話を聞いてたろ?」
「セイは術者を特定、あたしは動機を調べればいいんだね?」
「うん。宜しくね。式神は5体ぐらいでいい?」
「いいさね、じゃ借りとくよ。とりあえず一週間後に戻るよ」
と、タマモはすぐさま消えて、セイも別の式神を飛ばしてモリーナの部屋に忍び込ませるのであった。
「どこに行ってたのよ?」
「起きてたのか?」
「だって起きたらいないんだもん」
「ちょっと人と会ってた。言っとくけど女の人じゃないからな」
「誰もそんなことを聞いてないわよっ」
プリプリ怒んな。嫁かお前は?
ウェンディの隣に寝ると背中を向けて寝やがる。いつもは起こしても起きない癖に。
式神で銀のグラスを調べるとやはり呪いが掛かっている。じっくりと妖力を込めて見ていくと細い呪いの線が見えた。それを手繰っていく。呪いの線は王城の横に出てさらに奥へと続く。こんな所に階段があるのか。
植木でカムフラージュされた階段の扉。これ庭師も噛んでるのか?
階段の下に続く呪いの線。地下一階、二階、三階・・・その奥の部屋か。
居た。分かりやすい黒いローブを纏った老婆。こいつだ。
老婆の死角に周りながら部屋を調べる。本棚にある書物は何かわからんけどかなり古そうだな。こいつが外に出たときに調べようよう。今気付かれたら証拠がなくなる。
セイは式神を外に出してモリーナの部屋で待機させた。
「どうして知らん顔してんのよっ」
「わっ、寝たんじゃないのかよ?」
「何コソコソしてんのよ?」
「してねーし。もう遅いからちゃんと寝ろ。また朝起きれんぞ」
「ふんっ」
何拗ねてんだよ?
訳も分からずに拗ねられ、なんかムカついたセイはウェンディに背中を向けて寝る。
しばらくすると背中をポカポカ殴ってきやがった。
「なんだよっ」
「ふんっ」
ムカッ
また向こうを向いて寝るウェンディ。ムカつくから頭をクシャクシャしてやったが無反応。そのまま手に頭を乗せてこちらを向かない。
もう知らん。
セイは手を抜かずにそのまま目を瞑るとしばらくしてウェンディがスースーと寝息を立ててコロンとこちらに転がって来た。
全くもう。
セイはそのまま妖力を流しながら寝たのであった。
翌朝
「さ、ワイバーンの巣に向かうぞ。ビビデ、ウェンディ達を頼む。ちょっと危ないから置いていくわ」
「何言ってんのよ。わたしも行くわよ」
「俺様も行くぜ」
「私も行く」
「何しに来るんだよ?危ないからここで待ってろ」
「いつもの事でしょ。それとも何?私達が来たらまずいことでもあんの?」
「なんだよ、まずいことって?」
「コソコソなんかしてるじゃない」
「あのなぁ、シーバス達も一緒だろうが」
「途中で別れるかもしれないじゃない」
「セイ、お前がいつもみたいに守ってりゃいいだろ?ワイバーン討伐の手本は俺たちがやるからよ」
と、シーバスが言うので女神ズを連れて行くハメになってしまった。
俺たちはぬーちゃんで、フィッシャーズ達とオルティアは走る。お留守番してますと言ったオルティアをチーヌがペシペシして連れて来たのだ。
「山道をそんなに速く走れませんっ」
「セイ、ヘスティア様に頼んでくれんか」
「俺様に直接言えよ。オルティアを走らせりゃいいんだな。おらっ、本気出せっ。ケツ燃えんぞ」
今日は顔の近くではなく尻の近くに火の玉を出すヘスティア。
「やめて下さいっ。本当に燃えちゃいますっ」
「燃えたら今日一日、ケツ丸出しになんぞ」
「ヒィィィ」
おー、速い速い。
オルティアはシーバス達を追い抜かさんばかりの勢いで山を登っていく。それでも火の玉をケツに近付けるヘスティア。
「熱いですっ。お尻が熱いですっ。」
あ、焦げた。
ワイバーンの穴に着く頃にはオルティアのお尻がおはよう仕掛けていた。
「酷いんですぅ。神様が酷いんですぅ」
「オルティア、しゃがむな。ケツが破れるぞ。着替えは・・・、ヘスティアのが一番マシだな」
と、ヘスティアのズボンをはかせるとお尻がぴちぴち過ぎる。仕方がないのでスカートをはかせてみるとウエストが止まらん。
「これはセクハラですか」
と閉まらないスカートのホックを持って半泣きになるオルティア。
「ヘスティアの方が小柄だからな。俺のズボンを貸してやる。こっちの方がマシだろ?」
「赤ちゃん出来たりしませんよね?」
「出来るかアホっ」
「何やってんのよ。私のスボンを貸してあげるわよ。オルティア、これ新品なんだから破いたら弁償させるわよ。高かったんだからね」
と、パールフのスボンを借りて裾を折って丈を調整する。
オルティアは汚してもダメと言われて座ることも出来なくなるのであった。