似てなくても恥ずかしくはない
「暴れんなって言っただろうがっ」
屋敷に戻ってウェンディとクラマに説教をするセイ。
「だってカラスジジイが貧乏神って言ったからじゃないっ」
「なんじゃとっ」
「まーたやってるのかい?」
セイに説教を食らってるクラマとウェンディを呆れたように見ているタマモ。
「あぁ。また借金背負ったセイが激怒してるからな。クワバラクワバラ」
サカキは他人事を決め込んでいる。
「まったくしょうがないねぇ。セイ、いい加減にしておやり」
「ったく。いい加減にしないと本当に封印するからな」
「セイ、まぁ、お金なんてどうでもなるさね」
「もうダンジョンでも稼げないんだからどうすんだよ」
「いいコトを調べて来てやったからそれでなんとかなるさね」
タマモは街で式神を使って何かを調べている。もしかして金策を練ってくれていたのだろうか?
「いいコトって?」
「金持ちの娘が拐われたそうだよ。それを解決したらお金になるんじゃないかねぇ」
「誘拐?」
「誘拐よりヤバそうだね。明日行ってみるかい?娘がまだ生きてるかどうかはわかんないけどね」
翌日タマモの案内で街の中心地区へ移動する。
「ここの娘だよ」
この前の別荘の持ち主よりデカい屋敷だ。
門番に声を掛けてみる。
「あのぅ」
「なんだ貴様らは?」
「冒険者のセイというものですが、何かお困りの事はございませんか」
「無い。とっとと立ち去れ」
けんもほろろに追い返されたセイ。
「タマモ、本当にここか?」
「間違い無いさね。娘が拐われたのは内密みたいだから正面から行っても無駄じゃないかねぇ」
どういうことかタマモに聞いてみると、娘を乗せた馬車が襲われて護衛やお付の者は全滅。人間の所業ではない殺され方をされていた。護衛たちの遺体だけ残っておりその中に娘の遺体が無かった為、魔物に拐われたのではないかとなっているらしい。
その魔物の正体はわからず、ゴブリンやオークなら娘は慰み者になっている可能性が高く、助け出せたとしても貴族としてはなんとしても隠しておきたいらしい。
「月読の盤があればどこにいるかわかるじゃろ?」
クラマがそう言う。
「だから持って来てないんだってば」
「これも未熟者のせいか」
「なんですってぇぇ」
「やめろ。封印すんぞっ」
まったくコイツらは学習せんのか?
ウェンディとクラマにチョップを食らわすセイ。
「直接親に聞けばいいさね」
「式神を使えってのか?」
「セイはこういうの得意だろ?」
夜を待って式神を飛ばすセイ。式神を自分の分身にするのはとても面倒臭い。かといって簡易の姿だと信用されるのはまず難しいだろう。
式神にブツブツと長い陰陽術を唱え、屋敷の中に飛ばす。まだ人型になっていないヒラヒラと薄っぺらい式神は扉の隙間からスルッと中に入り、屋敷の中を詮索する。
偉そうなオッサンと豪華なドレスを着たオバサンが暗い顔をして頭を抱えている。これが両親かな?
「お邪魔します」
「だっ、誰だっ」
「忍び込んで申し訳ございません。娘さんが拐われたと聞いてお手伝いが出来ないか伺いに参りました」
いきなり目の前に現れた少年に驚く夫妻。
「どうやってここに入った」
「門前払いを食らったもので致し方がなく扉の隙間から」
「貴様、悪魔かっ」
悪魔?
「いえ、人間ですよ。これは私の分身みたいなものです。娘さんのことが間違いであればご依頼はないようですね。それでは」
と、一度引いてみる。
「娘の事はどこから聞いた?」
「壁に耳あり障子に目あり。隠し事は出来ぬものなのですよ」
「障子?」
障子を知らないこの世界の人はなんのことがわからない。セイは時代劇で見たセリフを言ってみたかっただけだ。
「私は冒険者のセイと申します。風の女神ウェンディの加護を受けたパーティー、ウェンディーズのメンバーです。風はどこからでも入れますから」
「疫病神ウェンディが私達を助けると言うのか」
ここでも疫病神と言われてやがる。
「疫病神になるか女神になるかはあなた達次第。さて、どうされま・・・。くっ、苦しい。首しめんなっ」
セイは式神とリンクしている。ウェンディを疫病神といったことはセイの本体が発した言葉なのだ。横で聞いているウェンディはそれを聞いてセイ本体の首を締めたのだった。
リンクしている夫妻の目の前にいる式神が妙な動きをする。今本体がウェンディにチョップしているのだ。
「大人しくしとけっ。いや、失礼しました。こちらの話です。どうしますか?依頼されますか?」
「信用出来るのか?」
「して頂かないと依頼は受けられませんけどね」
「何が目的だ?」
「冒険者ですから報酬ですよ。ご心配ならギルド経由でご依頼頂いても構いませんが」
「これは内密事項だ。外部に依頼など出来るか」
「そう思いましたので直接伺ったのですよ。どうされます?」
「報酬とはなんだ」
「まぁ、お金です。屋敷とか宝石はいりません」
また騙されても嫌だからかな。嫌らしい話、現金が一番安心だ。
「わかった。娘を無事に連れ戻す事が出来たら払おう」
「あともう一つ」
「なんだ?」
「教会、ウェンディを祀る教会に毎週感謝のお祈りを捧げて下さい」
そう、金も必要だけど、目的は信仰心を高めることなのだ。
「貴様ぁっ。それが真の目的かっ」
「えっ?あ、はい」
「この悪魔めっ」
「あなた、娘が無事に帰って来るなら国の人を敵に回してでも・・・」
ん?
「あと、娘さんが無事かどうかはわかりませんよ。魔物に拐われて時間経ってるみたいですし」
「貴様ぁっ・・・」
鬼のような形相でセイを睨み付ける主人。
なんかまずいこと言ったかな?しかしこういうことは事前に言っておかないと後でもめるしな。
「とりあえず依頼をされるということでよろしいですね?」
「この悪魔めっ」
酷いやつだ。娘を助け出してやると言っているのに悪魔呼ばわりするとは。まぁ、事件が解決したら誤解も解けるだろ。
「では、また参りますので。お約束はお忘れなきよう」
そう言い残したセイはペラペラの式神に戻って扉の隙間から出ていった。
「あなた・・・」
「まずは娘の事が先だ。その後はなんとかする」
「あれが悪魔だったら大変な事に・・・」
「くそっ。疫病神ウェンディはやはり悪魔なのか。どこまで私達を苦しめるつもりだっ」
防風災害に何度もあったこの国の人々は信仰心を失っただけではなく、あれは人を苦しめる悪魔なのではないかと思っていた。その事を知らないセイは報酬は悪魔信仰だと告げたように思われていたのだ。
「お前、式神使って複雑な事をしてる時になにすんだよ」
「誰が疫病神なのよっ」
「疫病神が嫌なら貧乏神だっ」
「キィィーーー」
セイとウェンディは夜の街をギャアギャア言いながら帰って行くのであった。
翌日、馬車が襲われた所に行き痕跡を辿る。ここもタマモが調べておいてくれたのだ。
「さて、私は街に戻るさね」
場所の案内が終わったタマモはまた式神を連れて消えて行った。九尾の妖狐に姿を変えたタマモは街までひとっ飛びだ。
「ぬーちゃん、緑のやつか豚の臭いする?」
「人間の血の臭いと他のがあるけど緑のとも豚とも違うよ。どっちかというとサカキの臭いに似てるかもー」
サカキの臭い?
「酒臭いのか?」
「お酒の臭いもするけどそれだけじゃないよー」
サカキと似たような臭い。もしかして鬼か?この世界の鬼はオーガだっけ?
ぬーちゃんに臭いを追って貰うと海岸で臭いが途絶えた。海に住む魔物だろうか?水の中に引き込まれてたら確実に終わりだ。
「ぬーちゃん、さっきの場所は海の臭いした?」
「してないよー」
というとこは違うのか?海の魔物に襲われたらなら現場にも海の臭いが残っているはずだからな。
「ちょっとギルドで魔物の事を聞こうか」
手掛かりを得るため、セイはギルドに向かうのであった。
「ギルマスいる?」
今日はリタがいないみたいなので他の人に声をかけるとギルマスを呼んでくれた。
「どうした?」
「魔物の事で教えてもらいたいんだけど」
と、いつものごとくギルマスの部屋に。
「内密の依頼受けたんだけどさ、オーガってどこにいる?」
「そうだな。一番多いのはオーガ島だ」
「もしかして船で渡る必要ある?」
「そうだな。しかしオーガ島のオーガが船を・・・・って待てよ。漁師が行方不明になってる事件があるんだがもしかしてそれを追ってるのか?」
「いや、別件だね。漁師のことは初耳」
「そうか。どんな依頼だ?ギルド通してねぇんだろ?」
「ちょっと極秘ってやつでね。ごめん、どんな依頼かは言えないや」
「いいから俺には話せ。絶対にお前の事だから後から面倒な事になるに決まってる。特に貴族絡みならな」
そう言われたセイはひっくり返ったような声で、絶対に誰にも言わないで下さいね。実は〜と変なモノマネをして話したのであった。