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夢を追うワイン

「だって、二人きりの暗闇で顔を見つめられて、目を閉じろって言われたらそう思うじゃないですかっ。それなのに私を捨てて行ったんですよ」


「アッハッハッハッハ。セイあんたそんなことしたのかい?酷いやつだよ全く」


「行くときもそうだったんです。私が怖いと言って腕掴んでたら離せって言われて離したら捨てて行ったんですっ」


ワインを飲んで下水道での出来事をアンジェラに大声で文句をいうオルティア。


「あのなあオルティア。あそこは臭い下水道の中だぞ。そんなロマンチックな事があるわけないだろうが」


「じゃあなんで目を瞑らせたんですか」


「お前が鬼だからだ。俺は鬼から逃げる役。鬼ごっこの始まりは数を数えるか目を瞑らせるんだよ」


「そんなの知りませんっ」


「お前鬼みたいな顔して追い掛けて来たじゃないか」


「そもそも鬼ってなんですか?そんなの知りませんっ」


「あー、そうか。鬼を知らないか。鬼という種族がいてな、鬼の頂天がサカキだ。アネモスに行ったら普通の鬼に合わせてやるよ」


「そんな種族がいるのかい?」


「そうだよ。希少な種族で皆強いよ。体もゴツいし力も強い。オーガ肉とか普通に噛みちぎって食えるからね。オルティアなんか頭からバリバリ食われるぞ」


「ヒィィィッ」


「セイ、ヒョウエ達はそんなことしねぇだろうが」


「まぁね。鬼の王様というかそこを治めているやつはヒョウエと言ってね。気の優しいやつなんだよ。会えるのを楽しみにしとけ」


女神ズはウェンディ以外は本気で怒ってはいなかったがウェンディだけは結構本気で怒っていた。いつもなら自分が背負われている場所を奪われたような気がしていたのだ。


「しかしお前のやることはフィッシャーズより酷ぇな。下水道とかに捨ててやるなよ」


とヘスティアが言う。


「何言ってんだよ。お陰で物凄く速く走れるようになったんだぞ。こいつ今まで本気で走ってなかったんだよ」


「本気で走ってましたっ」


「嘘つけ。街道走ってる時と今日とで全然スピードが違ったじゃないか。帰りなんか俺も結構本気で走ったのに追いついただろうが」


「怖かったからですっ」


「ほう、オルティアは怖いと全力を出せるのかよ?」


「えっ?」


「セイ、明日外に出ようぜ」


「何するつもりだよ?」


「こいつは強く育ててやるんだろ?俺達も手伝ってやるよ」


「えっ?」


「喜べ、神が直接鍛えてやんよ」


オルティアは明日からフィッシャーズが来るまでヘスティアに可愛が(しごき)られるのか。


「は、はひ」



帰りは寝てもいないウェンディがさっと背中に乗ってくる。


「お前起きてるだろうが?」


「この前は無理矢理おぶろうとしたじゃないっ」


「はて?」


酔って寝た日がな?


「じゃ私は前」


「じゃ俺様は肩車だな」


「もうっ、それならヘスティアは神服を長ズボンにしろ」


「そんなの出来ねぇよ」


「アーパスは出来るぞ」


「知らねぇよ。この前もこのまましたじゃねーかよ」


これはもう俺が慣れるしかないのか・・・


抱っこひもとおんぶ紐で二人を縛るとヘスティアが肩に乗る。アーパスが靴のまま背中に足を乗せないでと言うのでヘスティアはブーツを解除して全部生足になった。


「セイ、ブーツ解除したからって興奮すんなよな」


「するかアホっ」


「どうしてブーツを脱いだら興奮するの?」


アーパスは意味がわからない。


「こいつフェチなんだよ。俺様がブーツを解除したらまじまじと見たり、触ったりしやがんだ」


「じゃあ部屋に戻ったら見せてあげる」


「そんな必要ありませんっ。ヘスティアも変な事を教えんな。というか嘘を教えるな」


女神ズに集られるセイの後ろをオルティアはトボトボと付いて行ったのであった。



翌日からヘスティアの可愛いがり(しごき)が始まる。


「ほら、もっと速く走れ、燃えるぞ」


刑事ドラマの爆発シーンのようにオルティアが走る後ろがドーンっ ドーンと爆発する。


「ヒィィィ」


「ほらスピード落ちてっぞ」


ドーンという音と熱がオルティアの背中に伝わって来る。


「死んじゃいますっ」


「じゃあ死ねっ」


ドカーンっ


「キャァァァァっ」


「おー、本当だあいつあんなに速く走れんのかよ。おもしれぇ」


ヘスティアは次に火の玉を出してオルティアに近付ける。


「ほらスピードが落ちたら燃えるぞー」


ヘスティアは久々の可愛いがりを楽しんでいた。鬼だなこいつ。


あっ、倒れた。


無呼吸で全力疾走を続けたオルティアはぶっ倒れた。


「軟弱だよなこいつ」


「あほか。イフリートと一緒にすんな」


目を回してチアノーゼを起こしているなこれ。仕方がない。


万能薬を口に入れて噛ませると復活していく。


「さ、続き行くぞー」


「ヒィィィィィィ」


オルティアは倒れるまで全力疾走して倒れては薬を飲まされを繰り返していく。



「さ、飯食いに行こうぜ」


「足が痛くて歩けません」


と上目遣いでセイに甘えてみる。


「ポーションを飲んだからそれはない。さ。王都まで走るぞ」


と、乙女の上目遣いをスルーされ、おぶってくれる事なくぬーちゃんに女神ズと乗って走って行った。


「ズルいですっ」



そして5日にヘスティアに可愛がられているところにフィッシャーズ達が到着した。シーバス達を見るなり泣きつくオルティア。


「どうしたんだよ?」


「ここ3日ほどヘスティアが特訓してたんだよ」


「あんなのいじめですっ」


「なんでぇ、短期間で随分と速く長く走れるようになっただろうが」


「そうですけどっ」


「セイ、何やったんだ?」


「飯食いながら話そうか。ギルマスも誘いに行こう。しばらくアクアを離れる挨拶しなきゃなんないだろ?」


「そうだな。じゃギルドに行くか」



「ギルマスいる?」


「はいっ」


ギルマスの部屋に案内されて明日発つことを伝える。


「時間あるなら昼飯食いに行こうぜ」


「なら夜にしてくれ。たまにはお前らと酒を飲みたい」


「じゃ、いつもの店に行くか。そこにいるから仕事が終わったら来てくれ」 


と、ギルマスと約束をしてアンジェラの店にいく。



「よし、これを着てみろ」


「うわっ、滑らか。それに軽いわ」


「ふふん、会心の出来だ。それぞれ金貨3枚でいいぞ」


「げっ高くない?素材持ち込みなのよっ」


とパールフが値切る。


「あのなぁ、こんな特殊な素材をここまで加工したんだぞ。糸から専用の生地にしてな。それからもどれだけ苦労したと思ってんだ。嫌なら返せっ」


「ムムムムムッ」


ここで返したらこの素晴らしいローブは手に入らない。


「わかったわよ、はい金貨3枚」


「ったく、こんな逸品を値切ろうとするなっ。ツバスはどうするんだ?」


「ちゃんと払いますよ」


とツバスは素直に金貨を払う。


「アンジェラ、明日出発するから今日一緒に晩ごはん食べる?ギルマスも来るんだけど」


「そうか。もう出るのか。それなら晩飯を一緒に食おうか」


宿には今のうちに明日出発することを伝えておいた。街中で晩飯までに酒、食料、お菓子を買い込んでいく。前に買ったバルサミコ酢とかもまた買占めた。


「服買ってくれるんでしょ」


「アクアで買えと言ったらガイヤで買ったろうが?それに年末にも山程買って全然着てないだろ?」


「春物が欲しいのっ」


服は着るものではなくコレクションするものになっているウェンディ達。


ツバスとパールフも買うと言うのでガールズ達だけで行かせた。オルティアにも好きなものを選べと言ってお金をアーパスに渡しておく。


「セイ、女供が買い物している間に軽く飲もうや」


と言うのでアンジェラに連れて言ってもらった店に行くことに。


「よくこの店知ってたな」


「アンジェラに連れて来てもらったんだよ。ここのワイン飲みやすくていいよね

。サカキが気に入った銘柄があるんだけど買いに行く暇なかったわ」


「どれだ?」


「あの樽の奴」


「へぇ、知らねえ奴だな。なら俺達もそれにするか」


つまみはクラッカーにチーズやオリーブとか乗った奴だ。軽く飲むのにちょうどいい。


「なぁ、このワイン作ってるのは新人か?」


と、シーバスが店のマスターに聞く。


「おー、さすが目の付けどころが違うな。新人だけど頑張ってんぞ」


「どこの奴だ」


「お前らの村の隣だ」


「へぇ、そんな奴いたんだな」


「会いたいならもうすぐ納品に来ると思うぞ。気に入ったら買ってやってくれ。良いのを作っても日の目を見ずにブレンドに回されるやつも多いからな」


そして納品に来たワイン作りの新人はまだ18歳だった。


「お前、ワインはどれぐらい作ってる?」


「今は年にタンク1本です」


「在庫は?」


「5年分ほとんど丸々残ってます」


タンク1本は10樽、300リットルぐらいらしい。


「それ買うから置いといてくれ。何年か持ちそうか?」


「はい、貯蔵を始めた初めの奴が5年後ぐらいに飲み頃になります」


「成人前から作ってたのか?」


「親父がやってたんですけど、身体を壊したので自分がやってます。今貯蔵しているのは自分が作ったものです」


「分かった。言い値で買ってやる。いくらだ?」


タンク一本に付き銀貨50枚です。


ワインは一樽30リットルで銀貨1枚程度からある。それを考えると少々割高だけど年収にしたら死ぬほど安い。あと10倍は欲しい所だな。


「お前、そんな値段で暮らしていけんのか?」


「無理ですねぇ。それまではタンク30本くらい作ってたんですけど人手もないし、自分でやると決めた時は葡萄も厳選して質の高いワインを作ろうと思ったんです。そうしたらタンク1本が限界で」


「どうやって生活していた?」


「使わなくなったタンクとか設備を売って凌いできました。身体を壊した親父も母親も亡くなりましたので今は一人ですからなんとかなります」


と微笑む青年は貧乏だけど夢を追っている青年の顔をしている。


「セイ、お前も買うつもりだったんだよな?」


「まあ何樽かはね」


「共同購入しねぇか?俺もこのワインは寝かせたらもっと旨くなると思う。この値段で買うなら全部買ってもいいんだがこいつがまともに生活出来るぐらいの値段で買ってやりたいと思うんだ」


「じゃ半分こしようか?宿で扱うつもりなんでしょ?」


「そうだ。いくらぐらいで仕入れたらいいと思う?」


「俺たちが飲む分は原価考えなくてもいいけど、売るなら最低売値の半値以下ぐらいに抑えないと利益は出ないよ。ボトル1本で銀貨1枚として樽で銀貨30枚。タンクで金貨3枚の売上だから金貨1枚と銀貨50枚が上限。それに熟成させると量が減るでしょ?まあ、金貨1枚かな」


「そうか。1本銀貨1枚で売ってもそれぐらいか」


「ハーフボトル1本で銀貨1枚にしたらタンク1本で金貨2枚払っても良いけどね」


「そんな高い酒売れるか?」


「貴族向けにしたら?アーパスの恵みとか名付けて」


「勝手に名前使っていいのかよ?」


「アーパスもこのワインを気に入ってたからいいんじゃない?高くても宿独占で売ればいいんだよ。そうしたらその内ワインメインで来るお客様がいるかもね」


ということでタンク1本金貨2枚、計金貨10枚のお支払い。セイはシーバスに金貨5枚を渡しておいた。


「こっ、こんなに・・・」


「不味くなったら買うのやめるからな」


「毎年品質をあげるように努力しますっ」



ということで契約成立になった。本来は今飲むのはもったいないとのことで、試飲として卸すのもやめてもらったのであった。




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