宿との交渉とワイン
このままここでテントを張り、そのまま宴会になる。
酒、米、醤油の話をしながらだ。
「全部やろうと思うと人手が足らねぇな。柚子とかスダチとかはここでも植えられるか?」
温州ミカン、柚子、スダチ、カボスとかはこの世界に来てから見ていない。
「苗木を用意してやるのは可能じゃ。植えるのは日当たりが良ければどこでもええぞ。それにこれは酒にも合うからの」
と、砂婆は焼酎のお湯割りにスダチを絞る。
「あっ、美味しい」
ウェンディ達も飲みたいというのでハチミツを入れて甘めにしてやる。
「脂の多い焼き鯖に掛けても旨いしの。ここらはサンマは捕れぬのか?」
「どんな魚だ?」
と、説明しても知らないから居ないのだろう。あれは冷たい海の魚だからな。
飛行機があるから探しに行く旅もいいかもしれん。サンプルがあればオーガ島のダンジョンに食わせたら出してくれるようになるだろうし。ウニとかアワビとかも探そう。昆布もマーメイに聞いて取りに行ってもいいな。
「後は醤油か・・・」
「大豆はあるよね?あれから作れるからここでも作ってみる?」
「作れんのか?」
「砂婆、里では誰が作ってんの?」
「醤丸じゃ。あやつは話せんから米を作るならマダラに通訳させてやればええ。酒はクラマが教えるじゃろ」
この漁村は日本化していくかもしれないけどそれはそれで嬉しい。ラーメンとか教えたら作れるようになるかな?
一度帰ったらここに入り浸って色々と手伝おうか。
構想だけがどんどんと出来ていく。後は人手だよな。アクアよりガイアの宿場街の人の方が来てくれる可能が高いかもしれんな。
セイ達はある程度の方向性が固まったので翌日にアクアに移動することにした。
「じゃ、良いお年を〜」
「おう、年明けてしばらくしたら王都に行くわ。宿はあそこだよな?」
「空いてたらね。まぁ、なんかあったら電話して」
と、皆に挨拶をしてから出発。オルティアにぬーちゃんに乗って行こうと言ったら走りますと言うので、予定より王都に到着するのが遅くなってしまった。
「お帰りなさいませ。お部屋をご準備致します」
何も言わないうちに一番良い部屋に案内される。扉の上に神の間と書かれており、もうアーパスしか使わせないらしい。
「こ、こ、こ、この宿は何なんですかっ」
「アーパス御用達の宿。めちゃくちゃ高いからその辺にあるもの壊さないでね」
そう言うとオルティアはカチコチになって動かなくなってしまった。
メイドさんに支配人と話が出来ないか聞いてみる。気になった事があるのだ。
「お呼びでございますか?」
部屋の応接室で支配人と話をする。
「わざわざこの部屋を専用にしてもらって大丈夫なのかな?」
「もちろんでございます。いつまでもこちらでお過ごし下さいませ」
「ありがとうね。いくつか聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「ハイ、何なりと」
「アーパスプレートの宝石どうしたの?もしかして盗まれた?」
「は、あの、いえ・・・」
「いや、怒っているわけじゃないんだよ。資金繰りの為に売ってもらっても構わなかったから」
「そっ、そんな訳ではございませんっ」
「じゃどうしたの?」
「実は王室の目に止まってしまいまして・・・」
「献上させられたの?」
「申し訳ございません」
「ならしょうがないね。アーパスにバチでも当ててもらう?」
「とっ、とんでもございません」
「じゃあ、ちょっとの間我慢しといて、ボッケーノに行ってからまた戻ってくるよ。その時にもっといい宝石にしてあげるから。今度それを献上しろと言ってきたらアーパスにバチ当ててもらうわ」
「王室にそんな・・・」
「無理矢理献上させるとか神に逆らうのと一緒だからね。そうならないようにプレートの下にアーパスからの警告を書いてもらうよ」
「そんなの事をして下さるのですか?」
「事前にこう決めておかないといきなり怒りのスイッチが入るともっと大変なことになるからね。ガイヤでは悪さしていたSランク冒険者とその仲間がテルウスの怒りに触れてバチ当てられたからね」
「どのようなバチでございますか?」
「採石場にいたところに直下型地震だよ。それで山が崩れて石の下敷きになった。アーパスならウンディーネに言って水牢獄にするんじゃないかな。いきなり水の中に入れられて死ぬとかになると思うよ。神の怒りに触れる=死だから」
アーパスはそんな事をしないだろうけどこう言っておこう。
「ひぃぃぃぃつ」
「アーパスにそんなことをさせたくないから警告があった方がいいでしょ?」
「は、はい。では宜しくお願い申し上げます」
「2つ目は今すぐじゃないんだけど、デザートを作ってる人に新しく出来る宿の指導とかお願い出来る?」
「新しい宿ですか?」
「こことは競合にならないから心配しないで。漁村に宿を建てるかもしれないんだよ
。料理はなんとか漁師町のもので工夫するつもりなんだけど、デザートはそうもいかなくてね」
「何かそちらに思い入れがあるのですか?」
「アクアのSランク冒険者の出身地なんだよ。結構貧しい村だから観光地化するつもりにしているんだ。アーパスの立ち寄る村として」
「そうなのですか」
「そこで珍しい酒や調味料も作る予定にしているから、協力してくれるならこの宿の分も作ってもらうよ」
「どのようなものでしょうか?」
「じゃ、ちょっと試そうか」
と、魔導具の鉄板を出して肉と魚を焼く。味付けは醤油バター。
「この黒いソースが醤油。これをベースに他の調味料も作れるんだよ。ちょっと食べてみて」
と、食べさせると目を丸くした。
「肉にも魚にもこんなに合う調味料とは・・・」
「スープにも使えるし、塩の代わりだと思ってくれていいよ。酒はこれとこれね」
と日本酒と焼酎を飲ませる。
「この日本酒とはまろやかで芳醇な酒でございますね。焼酎は透明感があるというか癖がないというか」
「レモンとかハチミツとか何にでも好きなものと組み合わせて飲めるからどの料理にも合うよ」
「なるほど」
「どうする?早くても3〜5年先にはなると思うけど」
「ぜひ協力させて下さいっ」
「ありがとうね。ちゃんと決まったらまた相談するから。最後は明日のことなんだけど、中庭を借りてもいいかな?」
「何かなさるのですか?」
「もう明日は年明けだろ?餅つきをしようと思って。支配人さんたちも時間があれば食べにおいでよ」
「何かよくわかりませんがかしこまりました。中庭はご自由にお使い下さませ」
支配人との話が終わり部屋に戻るとオルティアは直立不動のままだった。
「飯どうする?外は今年最後だからお祭りみたいになってるけど?」
「外っ、外に行きたいですっ」
オルティアはこの部屋で息が出来ないようだ。
外に出ると最終売り切りとかで何でも安くなっているので服を買うらしい。
「オルティアも好きなもの選んでいいよ。靴とか全部買え」
「いいんですか」
「いいよ。安くなってるし」
服を選んでいると防具職人のお姉さん、アンジェラがやってきた。
「あ、戻って来てるのか」
「ツバスとパールフはまだだけどね」
「アイツらの防具まだ出来てないんだよな」
「年明けてからでいいと思うよ」
「なら今日明日はもういいか」
「服を買いに来たの?」
「そうだぞ。安いときに買いだめせんとな」
「明日も休み?」
「そのつもりだ」
「宿の中庭で餅つきするからきなよ。他の料理も酒もあるから」
「ならお邪魔しようか」
ということでウェンディ達と混ざってたくさん買い漁っていた。アンジェラの分もついでに払っておく。
「いいのか?」
「ウェンディ達の防具のお金も払ってないしね」
「素材や道具をもらったじゃないか」
「まぁ、そうだけど。これからご飯食べるつもりなんだけどおすすめの所に連れてってよ。一緒に食べよ」
「おっ、なら安くて旨い酒の出す店にいこうか。サカキ達はいないのか?」
「店の近くになったら出てくるよ」
そしてアンジェラが案内してくれたのはスタンドバーとでもいうのだろうか?腰はかけられるようになってるけど安くて気軽に飲める小洒落た居酒屋って感じだ。
カウンターが好きな料理をすぐに頼めて出てくるのでオススメのようだ。女神ズにはちとカウンターが高いのでワインの空き箱を借りて足場を作った。
オルティアはツバスと同じぐらいだから165cmあるか無いかぐらいだな。
色々な種類が食べられるように一皿の量は少ない。それを山程頼む女神ズ。酒のオススメはワインらしい。
「しかし、駆け出しを拾ってくるとはな」
「まぁ、成り行きでね」
「セイさんの女神様パーティに助けてもらいました。それに答えられるように頑張ります」
「ならガンガン稼いでうちの店で防具を作れ。お前はなんの武器を使う?」
「一応短剣を持ってますけど全然上手く使えません」
「まぁ、誰かに稽古を付けて貰わんとそうだろうな。その前にもっと身体を鍛えろよ。冒険者にしちゃ女の身体付きだぞ」
「アンジェラは引き締まってんね?」
「女が冒険者相手に商売するなら自分の身は自分で守らんとな。こっちが弱いと思われたらナメられるだろ?良からぬ事を考えるやつもいるからな」
「武器使えんの?」
「まぁな。と言ってもナイフだ」
「へぇ。俺もナイフ持ってるけど、武器というより道具でしか使ってないや」
「あのドラゴンの皮を切ったやつだな。あれで剣の防御とかしたら危ないな。剣も切れるだろ?」
「多分ね」
「まぁ、その装備で防御するなら問題ないのか」
「サカキ達がいるからそういう機会もほとんどないんだけどね」
サカキはワインをジョッキで飲んでやがる。ここのワインは喉越しがいいらしい。
「ここのワイン飲みやすいよね」
「今年のワインだから若いんだよ。ジュースみたいだろ?」
ヌーボーってやつかな?
「ワイン作ってる奴らが自分たちのワインを売り込むのにこういう店に出すんだよ。それで飲んだ奴がこれはもっと旨くなるとか判断したら買付に行ったりするから試飲みたいなもんだな」
宣伝か。それに新しくワイン作りを始めた人とか顧客を獲得するのにちょうどいいんだな。
アンジェラに言われて周りを見ると真剣にワインを飲んでいる人が結構いる。お宝探しみたいでいいなこういうの。
サカキは色々と試してから一つの銘柄をジョッキで飲んでるようだ。
「サカキ、それなんて銘柄だ?」
「ん、知らねぇぞ。そこの樽の奴だな」
店の人にその樽を扱っている所を教えて貰うおうか。ワイン作りとしては無名なんだろうけど良いのを作ってるかもしれないからな。
そしてセイも結構飲んでご機嫌になり、ウェンディの頭をヨシヨシしていたのであった。