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宵越しの金は持てない

「随分とご機嫌でどこに行くのよ?」


ギルドで金塊の買い取り金を貰ったセイ。なんと金貨101枚とちょっと。借金と税金を払っても十分足りる上、貯蓄までできてしまった。


「いゃぁ、金の心配がないなんて幸せだよなぁ」


借金奴隷にならずに済んだセイは超ご機嫌だった。


この前見たダンジョンにゴミを運んでいたのは借金奴隷らしい。王都で出るゴミを集めてダンジョンへと運び有機物をダンジョンに食わせているのだそうだ。有機物をダンジョンが食ったあと無機物がその場に残るのでそれをまた持って帰り、売れるものは売り、売れないものは穴を掘って埋めるのが仕事だそうだ。売れたお金で借金を返していき完済したら釈放らしい。借金奴隷の仕事でこれはまだ割の良い仕事だそうで極稀に宝石や貴金属がゴミに混ざっているらしく、当たりゴミを引いたらすぐに釈放されるからだとのこと。



「だからどこに行くのよ?」


「お金があるうちに税金を払っておくんだよ。またなんか賠償とかになって払えなくなったら大変だからな」


王都の中心地区へと向かい税務署へいくのにウェンディは留守番しているかと思ったら付いて来た。一人で屋敷に残ってじゃがいもを生で齧るのは嫌らしい。砂婆も俺がいないと飯作ってくれないからな。



「確かに本年分の税金を受け取りました。これが受領証となります」


「ちなみに来年も同じ額?」


「建物と土地が同じであれば当然です」


無機質に答える窓口の人。役所とはどの世界も同じだ。この人達に感情はあるのだろうか?もしかしたらこの人がダンジョンで死んても食われないかもしれんな。


「来年の分も先払い出来きます?」


「可能です」


ということで来年の分も支払っておく。5年先まで払えるそうだが、それ以上はここにいるかどうかわからないのでやめておいた。



「セイっ、あそこ何?」


「お菓子とかを出す店かな?」


ウェンディが指をさしたのはカフェみたいな店だ。


「行くわよっ」


「おいっ」


ウェンディは店で片っ端から注文していく。


「お、お持ち帰りでしょうか?」


「何を言ってんのよ。ここで食べるわよ」


「は、はぁ」


そりゃそう思うよね。


「甘い匂いがするぅー」


運ばれて来たケーキの匂いにつられてぬーちゃんが出ようとするので、ちいさくなってから出てこいと言った。


セイの首に纏わりつく猫サイズのぬーちゃん。


「これ何ー?」


「ケーキというお菓子だよ。ぬーちゃんも食べたいか?」


「食べるー」


店員を呼んで追加注文するとドン引きされた。そりゃ、全種類のお菓子を頼んだ上に追加注文だからな。


運ばれてきたケーキをぬーちゃんが食べる。


「うーん、砂婆のおはぎの方が好きー」


ぬーちゃんはお好みではなかったらしい。一口貰うとバタークリームケーキだった。給食のクリスマスメニューで出てきたケーキみたいなやつだ。


「おはぎか。そういやもうお彼岸かな」


この世界に彼岸なんてないだろうがそういう時期ではある。残念ながら曾祖父、曾祖母の墓参りに行ってやれないな。というか向こうは今いつなんだろうか?


ケーキを食い散らかしたウェンディは満足そうだ。


屋敷に戻ると砂婆がおはぎを持って出てきた。


「やっぱりお彼岸の時期なんだね」


「そうじゃ。小豆とぎのやつもてんてこ舞いじゃわい」


みな妖怪の里で大量におはぎを作っているらしい。


「うむ、やはりこのおはぎが一番旨い」


クラマが砂婆のおはぎが一番旨いと褒めると砂婆はご満悦だ。ウェンディは両手におはぎをもって嬉しそうにかぶりついてやがる。さっき、カフェで銀貨5枚くらいスイーツ食ったよね?


「セイ、酒はどうした?」  


サカキはおはぎより酒だ。


「あっ、忘れてた」


「さっさと買いに行け」


「明日でもいいだろうが」


「もう待ってやったろうが。早くいけ」


俺はお前の召使いか。しかし稼いだのはサカキだから文句も言えない。


「砂婆、おはぎをお土産用に包んでくれる?」


包んで貰ったのは2箇所分。ギルドと教会用だ。こっちの世界の人はアンコ食うかな?




「セイよ、どこに向かうんじゃ?」


「先に教会に行くよ」


クラマとサカキも付いて来たから教会に連れて行く。仲間を連れて行くと約束したからちょうどいい。


「ここはなんじゃ?」


「ウェンディを祀っている教会という場所だよ。この世界の神社みたいなもんだ」


教会は今日も扉が開いていたので中に入いる。ウェンディ達は下に敷き詰められた墓石を気にせず踏んでいく。死者への気遣いとかまったくないよな。


「ガーハッハッハ。なんじゃこれが小娘の像か?」


ウェンディ像を見て大笑いするクラマ。


「おう、随分と違うじゃねーか。ここをもっと削ってやらねーとな」


サカキが台座に乗って胸を削ろうとする。やめたれ。


「何すんのよっ。私にそっくりじゃないっ」


ウェンディ、申し訳ないがサカキの方が正しい。


「サカキ、やめろ。また弁償させられたらかなわん」


「そりゃそうか。こんな下らん像を弁償するより酒を買った方がいい」


「キィィーーーっ。下らないって何よっ」


ウェンディ、猿みたいになってんぞ。


「あっ、セイさん。本当に来てくれたんですね」


教会で騒ぐからケネルが気付いてやってきた。


「あ、こんにちは。約束通り仲間を連れてきたよ。あとこれ差し入れ」


「わぁ、ありがとうございます。皆様どうぞこちらへ。今日は母もおりますので」


と、裏の部屋に案内される。

ハーブティーを飲んだクラマは腰に貼るやつか?と失礼な事を口にした。そういうのは思っても言ってはいけないやつだ。



「これはこれはようこそ」


この人が母親か。ケネルの母親といっても若いな。


「はじめまして。冒険者のセイです。コイツはウェンディ」


と、ウェンディと皆を紹介した。


「ウェンディ?」


「ご苦労ねあなた達。私は風の神、ウェンディよ」


「まぁ、そうですか。それはそれはようこそ教会へお越し下さいました」


ククク、神と名乗ってもサラッと流されてやがる。


クスクスと笑うセイに肘鉄を食らわすウェンディ。 



ケネルの母親はファンケルさん。サプリを作ってそうな名前だ。あのハーブティーはサプリなのだろうか?


「ファンケルさん、神官さん達は肉とかは食べますか?」


「はい。神の恵みとして頂いております」

 

神に仕える神官といっても菜食主義ってことではないようだな。


「ぬーちゃん、鶏肉持ってきて」


と、凍らせたコカトリスをひとかたまり持ってきてもらう。


「まっ、魔物っ」


「魔物じゃないです。鵺のぬーちゃんですよ。これも仲間です」


鵺なんて言ってもわからないだろうけど。


「セイ様は楽しい仲間をお連れになられているのですね。オホホホホホっ」


ぬーちゃんを見て変な笑いをするファンケル。


「これはこの前ダンジョンで狩ったコカトリスです。お裾分けにどうぞ。サカキ、いくつかに分けてくれ」


シパパパパっと爪で凍ったコカトリスを何ブロックかに分けるサカキ。


「このまま凍らせて置けば保存も効きますので食べる分だけ解凍していってください」


「ご丁寧にありがとうございます。神の恵みに感謝を」


そういうとウェンディは無い胸を反らしてフフンと鼻を鳴らす。君の恵みではないからね。


「セイさん。先程頂いた物はなんなのでしょうか?」


ケネルはおはぎが何かわからないようだ。


「おはぎというお菓子だよ。日持ちしないから今日中に食べてね」


お菓子と聞いて嬉しそうなケネル。女の子は甘い物好きだからな。おはぎを気に行ってくれるといいけど


「それにしてもなんかここ人気ひとけが無いわね?」


「はい、ウェンディ様の仰るとおり信者がめっきり少なくなりました。神官も私達だけになりましたし。先程の神の恵みも大変助かります。お肉なんて久しぶりで・・・」


そういったファンケルは涙を溜めた目をハンカチで拭う。


お前のせいだよなって目でみるサカキとクラマ。


「な、なによ?セイ、あなたまだお金持ってるでしょ」


「まぁな」


「出しなさいよ」


と言われて金貨5枚を寄付することに。


「これで何か食べなさいっ」


「こ、こんなに・・・」


「わ、私の庇護下にいるものを助けるのは当然でしょっ」


それを稼いだのはサカキだけどな。


まぁ、寄付はするつもりだったから別にいいんだけど。ここに人が来るか来ないかが信仰心のバロメーターになりそうだから潰れて貰ったら困る。


「ありがとうございます。これで税金を待ってもらえるかもしれません」


は?


「え?宗教って非課税じゃないの?」


「はい。以前はそうだったのですが、もう教会としての役目は果たせてないだろうと」


ここは宗教法人で無くなってしまい非課税ではなくなったらしい。建物と土地に掛かる税金をここ数年は蓄えと私物を売って払っていたが次の支払いはピンチのようだった。


「ちなみに次の税金はいくら?」


「金貨36枚でございます」


教会がなくなってしまっては困るセイは仕方がなく追加で金貨36枚を寄付した。


セイ達は物凄くファンケルに感謝された。俺達をすっかり金持ちと思ったファンケルさん。なんか娘のケネルの背中をグイグイと押しているがもしかして嫁に差し出そうとしてないよね?


面倒な事になりそうなのでまた来ますと行ってその場を逃げたのであった。



次はギルドに寄ってリタにおはぎの差し入れ。


「セイ、あの酒はここで売ってるんだろ。金出せ」


「もう無いよ」


「嘘つけ、借金全部払ってもだいぶ残るって言ってたじゃねーか」

 

「さっき寄付したのでほとんど無くなったよ」


「なんだとぉぉぉぉっ。飛べっ。そこで跳ねろセイっ」


カツアゲジャンプをされらたセイはポケットからジャラジャラと音がした。サカキはあるじゃねーかとそれを全部奪って酒と飯を頼んだのであった。


「全くよぉ。全部使うやつがあるか」


「まさか教会にあんなに寄付することになるとは思わなかったんだよ」


「ほっときゃ良かっただろうが。それかあのケネルって小娘に惚れたのか?それか母親の・・・」


「アホか。教会はコイツの信仰心がどうなってるか確認するのに必要なんだよ。あそこにお祈りする人が増えれば増えるほど信仰心が増えてるってことになるからな」


「ちっ、金はどうでもいいけどよ。せめて酒を買う金ぐらいおいときやがれ」


「まったくじゃ。貧乏神は金食いじゃわ

い」


「誰が貧乏神なのよっ」


「お前じゃお前。貴様が未熟じゃからこうなったんじゃろが」


「キィィーーー」


また始まったウェンディとクラマ。



「よう、働きがいがあって羨ましいぜ」


例のごとく酒場の大将から請求書を渡されたセイ。今度は金貨12枚ほどだったので少しホッとしてしまったのは間違いであるとは気づかないのであった。



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