プロローグ
「ちょっ、ちょっ、何だよここ?」
「え?私の部屋」
「なんで家の玄関のドアを開けたらお前の部屋につながってるんだよっ」
「私はお前じゃないわよっ!あ、名前を言って無かったわね。私はウェンディ。風の神ゴニョゴニョ」
「は?なんて?」
「あんたの名前は?」
「みっ、源誠」
「セイね。じゃ、今から契約するから左手出して」
「契約?」
「いいから早くっ」
ガンガン押してくる美少女はウェンディと名乗った。そしてその勢いのまま契約をするから左手を出せと言ってきた。
訳も解らず左手を出すセイ。
「ブツブツブツ・・・」
「うわっ」
ウェンディが何やら呪文の様な物を唱えると左手が光だした。
「これでよし。今日からセイは私の下僕ね。魔物を倒したりして私の庇護する国の世界の人達から信仰心を集めてきて。じゃ、しっかりやるのよ」
「何を訳の解らん事を言ってるんだ?」
「ゴチャゴチャうるさいわねっ。下僕の返事はハイしかないのっ。えいっ」
ドンっ
そう言ったウェンディはセイを光の輪の中に突き飛ばした。
「うわぁぁぁぁっ」
「えっ?きゃあぁぁぁぁつ」
セイだけを異世界に送り込んだつもりが何故か一緒に光の中に溶けていったウェンディ。
ドサッ
「ぐふっ」
地面に叩きつけられたセイの上にウェンディが落ちてきた。
「なにすんだテメーはっ!」
「痛たたたっ。えっ?えっ?えっ?」
「早くどけっ」
ドンッとウェンディを突き飛ばすセイ。
「えーーーっ?なんで私まで外界に来てんのよーっ。なんてことしてくれんのあんたっ」
「知らねーよっ。それよりここどこだよ?」
「なんで私まで外界に・・・」
青ざめるウェンディ。
「ちょっ ちょっ、あんた左手見せて」
がっとセイの左手を掴んでさらに青ざめるウェンディ。
「なんで・・・なんであんたのほうが格上なのよーーーーっ」
セイの左手薬指に光る二本の線、そしてウェンディの左手薬指には光る線が一本。
「なんだこりゃ?」
「うっ、うるさいわねっ。これは隷属の指輪なのっ。私が一本であんたが二本。つまりあんたが私の下僕って意味なのっ。さっき契約したでしょっ。だっ、だからあんたが私の言うことを聞かないとダメなのっ」
「ダメなのって言われても意味がわかんねーぞっ」
ウェンディは嘘を付いた。隷属契約、つまり主従契約を交わしたのだがお察しの通り二本線が主人。一本線が従者なのだ。
主人であるセイが外界に降りたので従者になったウェンディもまた外界に一緒に来てしまったのである。
「詳しく説明しろよ」
青ざめてオロオロするウェンディにセイはそう言った。
説明によると信じがたいがウェンディは風の神様らしい。神様と言っても元神様。信者が減って神様見習いに降格させられ、信仰心を高めて神に戻れる手伝いをしろとの事らしい。
「俺にそんなの無理だろ。それにこんな見知らぬ土地で何しろってんだよ?手伝わせるならこの世界の人に頼め」
「ダメなのっ。この世界の人の力は借りれないのっ」
「なんで?」
「うっさいわねっ。ダメなものはダメなのっ」
神様見習いになってしまったウェンディはこの世界の人と従属契約が交わせない。しかし、異界の者なら可能であった為、何やら力の波動を感じたセイを巻き込んだのであった。誤算だったのはセイの力が想定していたより遥かに強大であったこと。見習いになったとはいえ神であった自分より格が上だとは思ってもみなかったのだ。
「わけわからんが今日はもう日が暮れてきたからとりあえずお前の部屋に戻るぞ。手伝うにしろ手伝わないにしろ一回戻らないと。着替えもなんもないしな」
「戻れないわよ」
「は?」
「戻れないっていってんのっ」
「どういう意味だ?」
「さっきの部屋は天界なのっ。わ、わっ、私は見習いになったから自力で天界に戻っ、戻っ、戻れないのーっ。うわぁぁぁぁぁん」
そう言って泣き出したウェンディ。
「マジかよ・・・。しょうがない、とりあえず街まで行くぞ」
えぐえぐと泣くウェンディが泣き止むまで待ってたらすっかり日が暮れて真っ暗になってしまった。
「狐火」
そうセイが言うとポッと出てくる火の玉。セイは腰につけていたひょうたんから妖怪の里にいる妖怪を呼び出せるのだ。
「えぐっ えぐっ。あんた魔法使えたの?」
「魔法?なんだそりゃ?そんなもん使えるわけねーだろ。こいつは狐火、妖怪だ。って言うかお前狐火が見えるのか?」
暗くなった夜道を照らす狐火。元の世界では普通の人には見えないのである。
「見えるわよ」
「そうか、ならぬーちゃんに乗っていくか。ぬーちゃんっ」
「はーい!って、セイ。ここどこ?」
呼び出されたのは鵺のぬーちゃん。
「知らない国だ。悪いけどこいつと俺をあの街まで乗せてって」
「えーっ、知らない人を乗っけるのー?ん?こいつ人間?」
「神様見習いらしぞ」
「神様見習い?こんな弱そうなのが?セイより力感じないよ?」
「うっさいわねっ」
セイより力がないと図星を突かれて怒るウェンディ。
「まぁ、それより乗っけてくれ。あんなに遠くまで歩くの面倒なんだよ」
「はーい、あれくらいならすぐだよ」
「あんた魔物使いなの?」
「魔物?ぬーちゃんは鵺だ。今はおとなしいが大妖怪なんだぞ」
「妖怪?」
「こっちには妖怪いないのか?まぁ、いいわ。早く乗れ。あ、言っとくけど尻尾に触わんなよ」
ぬーちゃんに乗ったセイとウェンディ。
空中をひょいひょいと駆けるぬーちゃん。
「へぇ、便利ねこれ」
ムカッ。見知らぬやつに便利呼ばわりされたぬーちゃんはいらついて尻尾でウェンディをペシペシする。
「変な尻尾」
そう言ってペシペシした尻尾を掴むウェンディ。
「シャー」
カプっ
「いゃぁぁぁぁぁ」
「だから触わんなって言っただろ。ぬーちゃんの尻尾は毒蛇なんだよ」
毒蛇の尻尾に噛まれたウェンディはブクブクと泡を吹いて大人しくなったのであった。
「ぬーちゃん、殺してないよね?」
「ほとんど毒出して無いからすぐに復活するよー」
程なくして街の直ぐ側まできたセイ達。
「えらく立派な城壁に守られてんだな。ぬーちゃんありがとう。戻っていいよ」
セイはそう言ってお礼にぬーちゃんに妖力を注いでやる。
「セイの妖力は美味しいねぇ♪」
そう喜んだぬーちゃんはひょうたんへと帰って行った。
「おい着いたぞ。起きろ」
ペシペシとウェンディのほっぺを叩いて起こすセイ。
「蛇が、蛇がぁ」
うんうんとうなされるウェンディ。
「いいから早く起きろ」
「へっ、蛇はっ?」
「もう帰ったぞ。それより門が閉まってんだけどどうやって街に入るんだ?」
「あ、夜は門が閉まって入れなかったんだ」
「どーすんだよ?」
「知らないわよっ」
はー、役に立たん奴だ。
仕方がなく、もう一度ぬーちゃんを呼び出して布団代わりになって貰った。ぬーちゃんにもたれるとモフモフで寝心地が良いのだ。何で神が野宿なんてしないといけいないのよっと騒ぐウェンディをぬーちゃんにまた噛んでもらって静かにさせたのであった。