余計な首はツッコミたくないよ
「ここは自宅ですか?」
貴族だからもっと大きな屋敷を想像していた。大きくて立派ではあるがリーゼロイ家とかの方が大きい。
「ここは私室とでも言えばいいかな?自宅は別にある」
なるほど。総長の部屋って事だな。
そして応接室に通されてメイドさんにお茶を入れて貰った。
「ここなら何も心配せずに話せるぞ。何が聞きたい?」
「王家の本流と分家の話です。詳しくは聞きたくありませんが、王家には宝物庫とかあります?」
「あるな。私は入れないが。それと分家の事も知っているのか?」
「はい。仲間が教えてくれました。今回、マイクハイド達に分家が絡んでおります。ガーミウルスと繋がっているみたいですね」
「なんだとっ」
「これ以上国政というか王家のゴタゴタにクビを突っ込みたくはありませんのでここで調査を打ち切っています」
「そうか・・・」
「先程宝物庫の事を聞きましたけど、あの遺跡から魔導具が出たのは最近の話ではありませんよね?」
「あぁ。入り口が発見されたのはもう100年近く前になるかもしれん」
「あそこは魔導具販売店。しかもかなり大きなお店です。恐らく陳列してあったものは世に出ているものよりたくさんあったのではないかと思います」
「何が言いたい?」
「魔導兵器とかの重要魔導具は王家の宝物庫とかに既に保管されていませんか?」
「・・・・・」
「これ以上は聞きませんが、宝物庫に保管されてるはずの魔導兵器が無くなっているかもしれませんね。誰が許可なく持ち出したか調べたら証拠を掴めるかもしれません。という独り言を呟いてみました」
「そうか。私には何も聞こえなかったがな」
「それは良かったです
ハッハッハっと二人は乾いた笑いをしてみせた。
「さて、冒険者らしい話をしますと、採石場の話は耳に入っていますか?」
「いや」
「調査団のチェックという人から採石場の魔物討伐を指名依頼で受けて欲しいと言われて向かったのですが、そこの親方と報酬金額で折り合わずに不調に終わりました」
「報酬はいくらだ?」
「元々は金貨1枚。その時は上位種が出ていなかったようなのですけど、既に三つ目と呼ばれているのが出ています。指名依頼は金貨5枚で受けましたが親方にそんな金は払えんと断られたのです」
「お前たちの指名依頼の相場を知らないやつだな。かなり安いだろう?」
「俺は別に金貨1枚でも良かったんですけど、フィッシャーズ達に上のランクが安値で受けたら迷惑がかかると言われたので」
「それはその通りだな」
「問題は俺達が依頼されて断念したと皆が受け取ったら誰も受けなくなるだろうなということです」
「うむ、わかった。それを利用させてもらおう」
「利用?」
「マイクハイド達にやらせる。ロンダーを泳がせるのにあいつらだけを鉱山奴隷とかの重罪に持っていくかどうするか迷っていたのだ」
「無料で討伐させて終わりですか?」
「いや。牢に入れて都度働かせる」
懲役刑か。仮にもSが頭だから上手く利用するわけね。
「女冒険者はどうなりました?」
「調べると実にタチが悪くてな。クラン内で自分達の待遇を良くしてもらうために無所属の女冒険者をあのダンジョンに引き込んでいたんだ」
「処罰はどうするの?」
「そいつらは娼館送りになった。そこで稼いだ金が被害者達への慰謝料となる。こちらが建て替えて一人金貨10枚支払い済だ。あの被害者以外にもいるから一生娼館から出る事は出来ぬだろう」
人を呪わば穴2つ。自業自得とはいえ一生娼館か。なかなかにひどい処罰だ。
「罪を犯していなかった者達も黙って見ていた責任を負ってもらった。全員Fランクへ降格だ」
「Fランク?」
「そう、通常はEから始まるが重大なミスを犯した者などの仮冒険者証みたいなものだ。このまま冒険者を続けるならはい上がればよし。無理であればガイア王都の市民権を買って住民登録をする事になる」
市民権って買わないとダメなんだ。
ガイア王都の市民権は結構高くて金貨10枚。無職や低ランク冒険者が買えるものではないな。ガイア王都の市民権を親が持っていてる子供なら生まれた時に無料で貰えるそうだ。そうでない場合は冒険者も無理、市民権も買えないとなったら実質王都からの追放なんだな。王都では身分証明書が無ければ働けないみたいだし。Fランクは身分証明書代わりにはならないようだ。
「わかりました。総長自ら色々とありがとうございました」
「いや、こちらこそ色々と助かった。もうガイアを去るつもりか?」
「いえ、もうしばらく居ますよ。魔石をたくさん確保しておこうかと思いまして。アネモスとか魔石の取れる魔物がゴブリンぐらいしかいないんですよ」
「魔石ダンジョンにもぐるのか?」
「いえ、ゴーレムとかフィッシャーズ達と相性が悪いみたいなので他の場所でやりますよ」
「ん?あてを見つけてあるのかね?」
「そうですね。場所は秘密です」
「ハッハッハっ。冒険者らしくて宜しい。しっかり稼いでくれ給え。帰る前に一声かけてくれよ」
「了解です」
これで仕事は終わったから後は好きにやろう。
冒険者広場に戻るともう昼時だった。
「終わったか?」
「終わったよ。軽くなんか食べに行こうか」
と、町中のカフェに行き軽く食事を取る。俺はホットドッグとコーラみたいな物を頼んでみる。
うん、あんまり美味しくない。
スパイスやハーブで味付けされているソーダ水はDrペッ○ーみたいな味だった。俺は苦手だ。
レモネードを追加で頼んで口直し。
「セイ、お前がいない間に俺達相談したんだがよ」
「宿の件?」
「それもあるが、ボッケーノに付いてっちゃダメか?」
「陸路で行くの?」
「あぁ。この先冒険者を続けるにしろやめるにしろ、一度ちゃんと冒険をしときたくてな。それにメラウスの剣に挑戦してみてぇんだよ」
「なるほど。ヘスティアの試練を受けるんだね」
「あぁ。ヘスティア様がサラマンダーを呼んでやろうかと言ってくれたんだがよ、武器屋がいねぇと意味ねぇだろ?」
「そうだね。ヘスティアが手伝えば作れなくはないだろうけど斬れ味は違うだろうね」
「だから頼めねぇかな」
「了解。もしかしたら簡単に行けるかもしれないし、無理でもまぁ、楽しく帰れるさ」
「いいのか?」
「いいよ。こっちもお世話になってるし。今日ちょっと人里離れて飛行機を飛ばせるか試してみるよ。あれが使えたら簡単に行けるかもね」
「マジかよ」
「使えたらの話だよ。期待は半分くらいにしておいてね」
今日はちゃんと宿を取る。フィッシャーズ達も大幅グレードアップをした宿を取った。稼いだ分は使ってみないとね。
女神ズを乗せて試すのは怖いのでお留守番。ぬーちゃんだけ来てもらった。万が一落ちたらぬーちゃんで脱出しないといけないのだ。
移動用の飛行機を出してもう一度マニュアルを確認。元の世界のように滑走路やカタパルトを必要としない。浮遊魔法と推進魔法とでもいうのだろうか、恐らく魔力で飛ぶのだろう。なので翼はあまり意味が無いのかとても小さい。マイクロバスサイズのカプセルにエイのヒレが付いているみたいな形なのだ。
スイッチを入れるとクィーーーーーンと音が鳴り、各計器の明かりが灯る。
えーっと上昇がこのレバーか。
少しずつ上昇と書かれた方にレバーを動かすとフワッと機体が浮いた。
おー、すげぇ。そして下げると着陸する。トンっと衝撃は来たがセミオートだろうかちゃんと着陸出来た。また浮いてから右ペダルを踏むと前に飛んでいく。操縦桿を引くと上に向かって飛ぶので右ペダルを踏んで行くとどんどん加速する。速度メーターは300キロ、400キロと上がっていく。メーターの上限は1500キロ。1200キロから赤くなっているからこれ以上スピードを上げるとだめなのだろう。
高さはメーター上は15000m。こちらは13000以上が赤くなっている。
今は10000mまで上昇しているが寒くも息苦しくもない。気圧と気温のコントロールもしてくれているのだ。
しばらく上空をぐるぐる飛んで降下していく。減速左ペダルだ。
グーっとペダルを踏んでいると空中で停止したのでゆっくりとレバーを降下の方に倒して着陸。完璧だ。
飛行機をしまい皆の所に戻った。
「どうだった?」
「何十時間でボッケーノまで行けるかも」
「マジかよっ」
「方角を間違わなければね」
方位磁石もあるのでイフリートに聞いてセットしておけば大丈夫そうだな。
そして今夜も祝杯を上げる事になったのであった。