イーセタン
「するってぇと、ウェンディに全く違うとこから連れて来られたってことなんだな?」
「そう。確かにウェンディに助けてと言われて約束はしたんだけど、まさか違う世界に来るとは思ってなくてね」
「はぁー、そうだったのかよ。珍しい髪色とかそういうわけか」
「俺の国ではほとんどが黒髪で他の国では金髪や茶色とかも多いね。ウェンディやヘスティアみたいな髪色の人もいるけど人工的に染めてる人だよ」
「セイみたいな能力?っていうのはみんな使えるの?」
「いや、俺の知る限りは本当に希でね、サカキ達を見ることが出来る人間もほとんど居ない」
「一人で連れて来られて家族とかは?」
「俺は曾祖父と曾祖母に育てられたからもういないよ。サカキ達が家族みたいなものだったからみんな一緒に来れたのは幸いだね」
もう捨てられた話は重くなるのでしなかった。
「ウェンディに特別甘いのはそれが原因?」
「特別扱いしている気はないよ。単に一番手が掛かるだけ」
「どうしてわたしが一番手が掛かるのよっ」
「自覚ないのかお前は?次に飯の時に寝たらウンディーネに水牢獄してもらうからなっ」
「やっ、やめてよねっ」
「ま、この事はアネモネのギルマスには話したの覚えてるけど、他は誰にしたかわかんないから一応黙ってて」
「あぁ、言わねぇよ。しかし・・・」
「なに?」
「見知らぬ世界に来ちまって怖いとか寂しいとかねぇのか?」
「元の世界にも気になる事は残ってるけど、まぁ、こっちのは方が楽しいよ。こうしてシーバス達と遊んだりも出来るし」
「そ、そっか。ならいいんだけどよ。ほら、俺達は地元からほとんど離れた事がねぇだろ?だから全く違う所に行くとかどんなもんだろうな?とか思っちまうわけよ」
「行くかどうか聞かれたら行かないと言ったかもしれないけど、行ったら行ったでいいものかもしれないね。案ずるより産むがやすしってやつかな?」
みなキョトンとしたからこの諺はしらないようだ。
飯を食って話をしたあとに魔導具を回収しにいく事に。ここにある飛行機なんて入るのか?と思ったけど、ひょうたんの口に一部突っ込んだら入った。飛行機は本当に飛べるかどこか外で試してみよう。
来たときの魔法陣に乗ってみるが何も起こらない。
「これ、一方通行みたいだね」
さて困った。魔法陣は起動しないので出口がないのだ。外に出るにはこの扉を開けるしかないのか。
もうここには持って行くものも無いので扉を壊すことに。
「ヘスティア、この扉を人が通れるぐらいに焼ききれる?」
「いいのかよ?」
「そうしないと出られないからね。みんな、なんか罠が発動するかもしれないから警戒してて」
と、皆に構えさせてからヘスティアに扉を焼ききってもらった。
幸いにも罠というかセキュリティが作動しなかったので外に出ると既に暗い。あまり何も見えないが地下に潜っていたはずなのに高い場所のようだ。
「どこだろうねここ?」
「テルウスが同じ建物だと言っていた」
「同じ建物か。なら、転移の魔法陣で頂上に出たのかもね。みんなちょっと待ってて。ぬーちゃんと見てくるわ」
とセイは空を駆けて下に降りていく。
あー、やっぱり遺跡の上だわ。
降りた反対方向に調査団のキャンプ地が見えたので同じ場所で間違いない。
皆の所に戻ってそのことを伝える。
「さっきの部屋に下に降りる階段とか無いのかな?」
「そうだね。なんか隠されているのかも」
と、また中に入りくまなく探していく。
皆が一生懸命探しているときにウェンディがペタペタと壁とか触って遊んでいる。
「きゃっ」
ぐるん
げ、またウェンディがなんかやらかしやがった。
しかし、今のは回転扉だった気がする。
ウェンディが触った壁を押すとぐるっとそこが回って隣の部屋に入れた。なぜ忍者屋敷のようにする必要があったのだ?
「何よここーーっ」
こっちの部屋は暗いので狐火を灯して灯りのスイッチを探して点けた。
「お前なぁ。今のが単なる扉で良かったけど罠だったらどうすんだよ?もう俺から離れるな」
とウェンディに説教しているときに皆がこっちにくる。
「俺から離れるなとか二人っきりになったらセイは積極的だよねー」
とツバスとパールフにからかわれた。
そこだけ切り取らないで欲しい。
「この部屋に階段があるから下ろうか」
と、下に降りると立派な部屋で金庫らしきものもある。開けるのは無理と判断してヘスティアに鍵の所を焼いて貰う。
中には金貨が山積みと書類が入っていた。どうやらこれはこの店の売上とか経営資金のようだ。
(貴様らは賊か?)
「わぁっびっくりした。お前、ここの責任者か?」
(そうだ)
話し掛けて来たのは幽霊だった。
「そうか。勝手に入って悪かった。ここって魔道具の店か?」
(うむ、イーセタンという店だ。君に確認したいことがある)
「なんだ?」
(ひょっとして私は死んだのか?)
「そうだな。多分千年くらい前に死んでるぞ」
(やはりそうか)
「どうして死んだかわかるか?」
(日々この地区の魔物が強くなっていってな。魔導武器では倒せなくなってきていた)
「この店で売っていたのは護身用か?」
(その通り)
「その後に大地震が来たのか?」
(よくわかったな。この店は耐震及び免震構造にしてあったから大きな被害はなかったがね)
「そうか。ここまで発展させていたのに残念だったな。お前たちが死んでから千年位経って、既に違う文明が栄えている。この店で売っていたものが改良というか参考になってまた売れているぞ」
(そうか。我々の店は千年後にも貢献出来きているのだな)
「そうだよ。あと飛行機はお前のか?」
(そうだ。移動用と護衛用。護衛用は空飛ぶ魔物と対峙するものだ)
「あれ、大きな魔石がセットされてたんだけど、どうやって入手したの?」
(ロックゴーレムの魔石だ)
「ロックゴーレム?あんな大きい魔石が取れるの?」
(今は違うのか?)
「ピンポン玉くらいだね」
(それはゴーレムだな。大きさも人ぐらいだろう?)
「らしいね」
(ロックゴーレムはその何倍も大きいのだ。飛行機には魔石はセットされたままだったか?)
「されていたよ」
(なら、魔力がなくなれば充填するだけで済むのではないか?)
「充填?どうやって?」
(充填スタンドに持っていけば良い)
「そんな場所ないよ」
(そうか。千年も前の話だからな。魔法使いはまだいるか?)
「いるよ」
(ならばその魔法使いに充填してもらえ。時間はかかるがそれでも大丈夫だ)
「わかった。あの飛行機はもらってもいいか?」
(わたしは死んでいるのだから構わん。そこの経営資金も持って行くが良い。出来れば人に喜ばれる商売に使ってくれることを願う)
「わかった。必ずそうするよ。どこで死んだかわかる?」
(この裏に私の休憩部屋がある。恐らくそこで死んでいるだろう。大きな地震のあとにガスが吹き出して気を失ったような気がする)
と言われて裏の部屋に入ると朽ちかけたスーツ姿の骸骨があった。
「何か伝えたいことはあるか?」
(もう特にはない。君の名前はなんだね?)
「セイ。ミナモト・セイ」
(そうか。良い名前だ。では人を喜ばせる商売を頑張ってくれ給え)
セイが浄化をするまでもなく、この店の責任者かオーナーかわからないけどちゃんと成仏をしていったのであった。
「セイ、幽霊と話してたのか?」
「そうだよ。言葉も俺の世界の言葉だったからわかんなかっただろ?」
「ああ」
「その金庫のお金はこの店の経営資金だったらしい。人を喜ばせる商売に使ってくれだとよ」
「人を喜ばせる商売・・・」
「それで宿をやれば?俺が投資しなくても大丈夫そうだろ?」
「あぁ、これだけありゃぁな」
「俺はその金貨いらないから飛行機を貰っていいかな?」
「それでいいのか?」
「俺はもう金貨たくさんあるし、飛行機があれば便利そうだし」
「あれ使えんのか?」
「多分ね。後で実験してみるよ。それとも飛行機の方がいい?」
「いや、あれは国というか王室ともめそうなヤバいしろもんだろ?」
「だと思うよ。ギルドは無闇に取り上げないとは言ってたけどそうもいかない物だろうね」
「なら俺達の手に余る。セイなら神の乗り物だとか言えるだろ」
「わかった。ならシーバス達はその金貨、俺は飛行機でいいかな?」
「いいぞ」
そして、残りの上の階は事務所のようで魔導具らしきものは電話ぐらいだった。後は書類や机とかだ。書類も注文書や会議書類とか別に欲しいものは無く、残念ながら設計図とかも無かった。ここは販売店だからだろう。
15階へ降りる階段は崩れていたので飛行機の格納庫から外へ出て、ぬーちゃんに往復してもらったのであった。
夜中にそっともう一度中に入り、全ての魔導具を回収。電話も充電が終わっていたので通信を試してみる。
各電話機のボタンを押すと番号が出るのでそれを各電話に登録する。ガラケーみたいな感じだろう。
「じゃ、試してみるよ」
と、シーバス達と離れて電話をかけてみる。
「もしもし」
「なんだよもしもしって?」
向こうからうわーっ、声が聞こえるって騒いでいるのが聞こえてくる。
「この魔導具を使うときの挨拶みたいなもんだよ。ちゃんと声が聞こえたからもういいね」
と、通話を終了する。電波だと施設が無いから繋がらないはずだから、元の世界とは仕組みが違うのだろう。
セットした魔石と塗り壁を回収して外に出た。魔道具の分け方は後日で十分だな。
「じゃ、明日一度帰るか、魔石取りをするかどうする?」
「一度ガイアに戻るか。ここの報告をした方が気兼ねなく色々出来るってもんだろ?」
「じゃ、そうするか」
「セイ、今日は祝杯あげようよ。もう大金持ちよ私達!」
パールフはめっちゃ嬉しそうだ。お父さんが早くに亡くなって貧乏してたみたいだしな。
「よしっ、盛大にやるか」
「おーっ!」
騒音一つない世界でセイ達の笑い声はとてもよく響くのであった。