冒険者の常識は任せておく
散々ギャーギャー言った後に冒険者鍋を食わされる。セイとウェンディがほっぺたの引っ張りあいをしていたので、肉無しでパールフが作ったのだ。
「セイー、お肉入ってない」
とぬーちゃんが悲しそうだ。
「ごめんごめん、ぬーちゃんには肉を焼いてやるからな」
と黒豚を炙ると皆がズルいと言うので、削いでは焼き削いでは焼きをして皆のスープにも入れていく。
「ダンジョン以外に魔石を落とす魔物が出る魔物はいないの?」
「どこだろうなぁ?離れた岩山にはロックゴーレムが出るとは聞いちゃいるがよ」
そんな話をしていると総本部の人だろうか?職員みたいな人が寄ってきた。
「すいません、セイさんとフィッシャーズの皆様ですか?」
「そうです」
「私は総本部の調査員をしております。チェックと申します。この度は不正を発見して下さり誠にありがとうございました。これよりダンジョンの調査を行う予定にしております」
マイクハイドクランが正しい報告をしていなかった証拠を探しにきたそうだ。魔物の有無、隠し財産等がないか冒険者を雇ったらしい。
「それはご苦労さまです。魔物はいませんが幽霊はいますよ。ファントムと呼ばれるような物は上の階では見てないので大丈夫だとは思いますけど」
「はっ、念の為聖魔法使いも雇っております」
「そう。なら調査頑張って下さいね」
「ありがとうございます。あと・・・」
「はい?」
「魔石をどうするかと聞こえてしまったのですが。盗み聞きをするつもりではなかったのですが申し訳ありません」
「いや、別に聞かれても問題のない話だからいいですよ」
「もし、魔石を取りに行かれるつもりなら依頼を一つ受けてくださいませんか?」
「なんの?」
「採掘場の魔物討伐です」
「採掘場?」
「岩の切り出しをする場所なのですがトロール、サイクロプスとその上位種の三つ目が出ているのです」
「ガイアの冒険者でなんとかならないの?」
「その・・・、なんとかはなるのですが依頼料があまり高くなく、討伐出来るのものは依頼料の引き上げを待っているようで」
「なるほどね。それで工事が止まってるわけだ」
「ハイ。クラン所属ではない駆け出しとかには荷が重い相手でして」
「それ、討伐報酬は別にいくらでもいいんだけど魔石はこっちがもらっても大丈夫?」
「はい、それはもちろん。もし受けて下さるなら後ほど指名依頼とさせて頂きます」
「サイクロプスとか三つ目ってどれぐらいの魔石が取れるの?」
「ハイ。トロールとサイクロプスはロックゴーレムの上位種とほぼ同じサイズがサイクロプスの方がやや大きいです。三つ目はこれぐらいのが取れると思われます」
と、三つ目は俺達が欲している大きさの魔石だ。
「了解。受けるよ」
「指名はどちらにさせて頂きましょうか?」
「セイ、お前が受けてくれ。俺達が受けたら揉め事のタネになりそうだ」
とシーバスが言うのでウェンディーズに指名依頼をしてもらった。
討伐報酬は金貨1枚。採石場は重要ではあるが利益の高い仕事場ではないので報酬は安めなのだそうだ。しかし、一日作業が止まると金貨1枚のロスが出るそうで、もう10日も作業が止まっているらしい。
「初めから金貨10枚の報酬で依頼したら良かったのにね」
「そこが難しい所でお互いギリギリの根比べになるのです。ここで報酬を吊り上げると次はもっと高くなり際限がないのです。しかし、今回は採石場の判断ミスですね。三つ目が出てしまったのでもうかなり高額にしないと受けるものが出てきません。このまま行くと莫大な報酬金額を提示するか、その採石場を放棄するかのどちらかになります」
クランはいくつかあるので、金貨5枚程度に上がった所で何処かが受けるだろうと踏んでいた所に上位種が出て状況が悪化したとのこと。ここで金貨1枚で受けてくれたら次からはもっと早く依頼を受ける牽制になるのを期待しているらしい。
「ならよ、指名依頼は金貨5枚にしてやってくれよ。流石に上位種が出ている中で元の金額で指名依頼を受けたらセイが恨まれるぞ」
「やはりそうですか。わかりました。採石場が払えない場合、総本部でなんとかするように致します」
別に金貨1枚で受けてもいいんだけど、他の冒険者達も生活が掛かっているからランクの上の奴が相場より下で受けるのは良くないらしい。
「まぁ、もし採石場が払えないなら別に報酬はいいよ。払った事にしてくれれば」
「いえ、それはダメです。ちゃんとなんとかしますから」
で、採石場の場所を教えて貰ってそこに魔石を取りに行くことにしたのであった。詳細は採石場現場の事務所の親方と話をしてくれとのこと。
で、移動しようと思ったらウェンディが寝くさってやがる。
ヨイショとおんぶして上からマントを羽織る。
「ほら、ウェンディには甘いじゃん」
「寝ていた方が楽だしな」
と、ぬーちゃんに跨り地面スレスレに駆けてもらう。こうすると地面を駆けるより衝撃が少ないのだ。
日が暮れた頃に採石場に到着。なんか移動ばかりしているような気がする。
事務所はあれかな?
「すいませーん。依頼を受けて討伐に来ました」
「おっ、ようやくか。今回はうちの我慢勝ちだな。お前ら見かけねぇ顔だが新人か?来てくれたのはいいが本当に討伐できんのかよ?」
「俺はセイ。Gランクだよ。共闘するのはフィッシャーズ。アクアのSランクだ」
「おい親方。我慢比べには勝ってねぇぞ。本件は総本部から直々にセイに指名依頼になった。後から報酬は金貨5枚にしろと言われるぞ」
「はぁ?そんな条件勝手に決めんなっ」
「セイ、ならこの依頼断われ。親方はこの採石場を放棄する方がいいようだぞ」
「何言ってやがんだてめぇっ。ここの採石場の重要性をわかってて言ってんのかっ」
「あのなぁ親方。セイはSランクより上の特別ランクの冒険者だ。総本部が直々に指名依頼したのはここの重要性を理解しているからだろうが。こいつの指名依頼は金貨5枚でも破格に安いんだぞ」
「なら、そんな特別ランク様の指名依頼なんぞせんっ」
「だとよ。ここはやめとこうぜ。そのうち絶対に採石場が放棄になるか莫大な報酬になるだろうからな」
もうこういう交渉シーバスに任せる。何が正しいかよくわからないからだ。
「あー、帰れ帰れ」
ということで退散することになった。
「魔石はどうする?」
「近くで待機しておこう。明日か明後日にはあの親方は土下座してくるからな」
「そんな事になる?」
「金貨5枚を惜しんでGランクの指名依頼を断っただろ?そんな依頼を受ける奴が出てくるわけがない。他の冒険者達はGランクでも無理な依頼だったと判断するからな。あの親方クビになるんじゃねーか?」
「可哀相じゃん」
「いや、今後何度も同じことをやるだろうから遅かれ早かれってやつだ。1日に金貨1枚の損害と調査官は言ってたろ?既に金貨10枚の損失を出している。坑夫達は基本給料は日払いだ。もう10日分の給料が貰えてない。そろそろ坑夫達もしびれを切らせてここを出ていくころじゃねーかな?」
「ヤバいじゃん」
「そう。多分あの親方は今までもああやってなんとか報酬を抑えるのに成功して来たんだろな。が、今回は上位種が出ていることを考慮していない。それに毎回初めから金貨5枚で依頼掛けていたら工事もストップせずに損は少なかったんじゃねーかと俺は思うけどね」
なるほどね。
「じゃ、近くにもいるかもしれないからそいつらを狩ろうか。三つ目ってどんなのか知ってる?」
「あぁ。奴らはでかいぞ。巨人って感じだな。トロール、サイクロプスと全部デカい。トロールは力が強いだけで動きは遅いからまあ大した事はない。サイクロプスはそこにスピードが加わるが弱点がはっきりしているんだ。目をやれば終わりなんだよ。ツバスクラスの魔法使いがいれば楽勝だ」
「なるほどね」
「三つ目は再生能力がある。サイクロプスにも再生能力はあるが狙いは一つだけだから再生する前に倒せる。しかし、三つ目は同時に三つの目を攻撃する必要があってな、ツバスクラスの魔法使いが3人同時に目を攻撃するか一人で3発同時に当てるかだ」
シーバスはサイクロプスを楽勝と言ったけどSクラスの魔法使いだからこそなんだと思う。これは普通の冒険者だとキツイ案件だな。シーバスが金貨1枚は安す過ぎると言ったのは正しいのかもしれない。
セイはぬーちゃんと二人で採石場の上から様子を探る。
おー、デカいのがハンマーみたいなものを持ってウロウロしてるわ。どこから出たのかと少し離れた所にも飛んで行くと大きな穴がある。というか道みたいな感じになっている形跡があるから昔使ってた坑道かなんかかな?
「クラマ、出て来て」
「どうしたんじゃ?」
「あの穴から嫌な空気出てる?」
「おー、出とるの」
「なら調べに行こうか」
と、3人で調べに中に入る。クラマにこっちじゃと言われて進んで行くとやっぱりいた。
ここは廃坑っぽい。それもかなり昔の廃坑だろう。崩れた所から嫌な空気が出ているとのこと。風化して嫌な空気の出る場所がたまたま崩れて出現したのかもしれない。
三つ目もいたので試しにクラマが首を落としたら再生することなく魔石を落とした。別に目を狙う必要は無いな。
「ぬーちゃん、毒撒いてみて」
と、セイ達は離れてその様子を見ていると毒でも死ぬ。これは楽勝だな。
落ちた魔石を拾ってリポップを待つが中々出てこない。
「デカいからリポップに時間掛かるみたいだから一度帰ろうか」
もう大きな魔石が3つ揃ったから採石場の魔物を狩る必要性もなくなったのでシーバス達の所に戻ることに。
「どうだった?」
「あぁ、あいつらが出てくる場所を見つけた。魔石も手に入ったけどどうする?」
「マジか?どうやって倒した?」
「クラマが首を切って落としたら目を攻撃する必要もなかったよ。後はぬーちゃんの毒で死んだ。肉を取る訳じゃないから毒攻撃が一番効率がいいと思うよ。採石場なら毒矢とかで死ぬんじゃない?ぬーちゃん、あれの毒は何?」
「腐るやつー。強さは普通」
「だって。ぬーちゃんの普通は強毒だから毒矢だとどれぐらいが致死量になるか検証する必要はあるけどね。これが知られたらまぁ安全に倒せるよ」
「今の時間でそれがわかったのか?」
「クラマやぬーちゃんがいるからこそだね」
「いや、さすが特別ランクだ恐れいったよ。これは報告するのか?」
「どうしようね?クランに入ってない冒険者にでも教えてやる?」
「いや、そういう情報は自分で得ないとダメだ。このことは秘匿しとけ。ガイアはガイアのやり方があるからな」
と言われて全ては秘密にすることになってしまったのであった。一応、ここで一泊して、翌朝からその穴を見たいというシーバス達をぬーちゃんが往復して連れて行ったのである。