面倒だけど乗りかかった船
個室でぬーちゃんには肉の丸焼きを頼んで貰い、こちらはコース料理を頼まれた。
「酒は何を飲む?」
「いや、ジュースでいいです」
と、赤ワインの様なブドウジュースを頼んだ。
「ダンジョンの事をもう少し詳しく教えてくれないか?」
とマッケンジーに言われたので、ある程度の仕組みを飯を食べながら話していく。
「アクアではダンジョンにゴミを捨てるんですよ。ごみ捨ては借金返済奴隷の仕事になってます。食えるものはダンジョンが食って、食えないものは埋めていますね」
「そんな仕組みにしているのか」
「ええ、貴金属とかが稀に間違ってゴミに混ざるようで、それが出たら一発返済とか可能みたいなので借金奴隷には人気の仕事ですよ」
「ダンジョンが倒せない人間と判断すると何も出さなくなるのか?」
「ええ。アネモスでは前例もあったみたいですし、俺もアネモスのダンジョンには入れなくなりました」
スライムの最上位がダンジョンであることは黙っておく。
「ガイアではSの奴らが行ってもそのような報告はないぞ」
「ガイアは歴史が古いですから、ダンジョンがかなり成長しているんじゃないですかね。アネモスのダンジョンはそんなに大きくはありませんので」
「なるほど。ガイアのダンジョンはSクラスでも食えると判断していると言うことだな」
「はい。淡々と殺せる罠を作っていると思いますよ。こちらはダンジョン内で仲間以外の応援は禁止されていますか?」
「それは同じだ。と言ってもクランがあるから単独パーティーとはまた違うがな。それでも死ぬやつは結構多いぞ」
「クランに入ってないやつがダンジョンに潜ったらどうなります?」
「死ぬ確率は跳ね上がる。実入りが良くなるからと単独パーティーで挑んで全滅する奴らが後を立たん」
なるほどな。大きな街、掃いて捨てるほどいる冒険者、そして大きく成長したダンジョンがあるからこそクランというのが出来たのかもしれん。
「クランでは役割分担がされていることが多くてな。ポーターと呼ばれる荷物の運び屋、治癒師、討伐や発掘担当とか専任担当がいて効率を上げている」
「ダンジョン内にギルドの出張所はないの?」
「ダンジョン入口に出張所兼入場確認のギルドはある。大きなダンジョン前はちょっとした町にもなっているぞ」
「アネモスやボッケーノとかはダンジョン内に買取と食料販売とかの出張所があるんですよ」
「クラン制度が無ければそういうのが必要だろうな」
なるほどね。
そして飯を食い終わる頃、式神が飛んで来た。
「奴らはルイスハルト・ファンポーネという貴族の屋敷に立ち寄ったよ。詳細は暫く調べるさね」
と、タマモからの伝言だった。
「ファンポーネ家だと?」
「みたいですね。ご存知ですか?」
「ガイアの上級貴族だ」
「ならそこがガーミウルスと繋がっているかもしれませんね。国政の事にギルドは首を突っ込みますか?」
そう言うと総長とマッケンジーは顔を合わせ総長は頷いた。
「セイ、これは内密の話である」
とマッケンジーが切り出す。
「面倒な事であればあまり聞きたくないんですけど」
「いや、知っておいてくれ。総長の本当の名前はテンカーイーピン・キョトー。王族の関係者でもある。俺はマッケンジー・オウショー。俺は王族とは関係ないがな」
あー、やっぱり面倒じゃんかよ。聞くんじゃなかった。
「二人とも貴族だったんだね。これは総本部ではみんな知ってる?」
「いや、知っているのはロイぐらいだ。あいつは王室の査察室の責任者も兼ねているからな。ファンポーネ家は王室と対立というか派閥が違う有力貴族の一つでな。ファンポーネ家が単独で動いていたとは思えん」
「もう乗りかかった船だからタマモに裏付け調査は続けて貰うよ。俺は直接国政には協力しないけどそれでいいかな?」
「十分過ぎる。協力を感謝する」
そして式神に伝言を伝える。
「タマモ、その貴族がどの貴族と繋がって何を企んでいるか調べておいて。何かする必要はない。情報収集だけ頼む」
と、吹き込み飛ばしておく。これでタマモは暫く帰って来ないだろうな。
「あのギルマスを表だって処分すると不味いかもね」
「その点は大丈夫だ。ロイが上手くやるだろう。他の部署に転勤させて監視化に置く事になる。マイクハイドが捕まった話はもう知れ渡ってしまっただろが、我々が今の情報を察知したのは悟られないようにせねばならんな」
「あの検問所の担当者は?」
「暫く何もせずに泳がせておこう」
「了解。こっちも知らないふりをしておくね」
飯をごちそうさましたあとに、一度皆の所に戻ると伝えて総本部を後にした。
「お、どうだった?」
「マッドは取り調べを受けているよ。朝にはこいつらを運ぶ牢馬車ってのがくるらしい。被害者の冒険者はどう?」
「ウェンディがなんかしたあとは落ち着いて寝たぞ」
「そう。それは良かったね。あの娘達も総本部が責任を持ってケアしてくれるらしいから」
「そうか。全部話を付けて来てくれたんだな」
「まぁね」
シーバス達には詳しい話をせずにおいた。余計な事は知らなくていい。
そこへウェンディがやってきて、セイの袖をキュッと掴む。
「ありがとうな。お前のお陰で被害者の人達も落ち着いたんだろ?」
そう言うと、悲しそうな顔をしてこくんと頷いたのでヨシヨシしておいた。
「じゃ、もうお前たちも寝ろ」
テントの一つは被害者の人達に使わせているのでシーバス達は自分達のテントを出した。犯罪者共は野ざらしで、犯罪に加担していなかった物もシーバス達が全員ここにいろと命令してあったので遺跡の中にいる。
サカキとクラマは素知らぬ顔でまだ飲んでいた。
「セイ、酒が足らねぇぞ」
「樽で渡しただろうが?」
「飲んじまったよ」
「ったく」
と、追加で酒を出すとシーバス達も飲みに来た。ツバスとパールフがケアしてくれていたからみな精神的ダメージを負ったのだろう。
「飲む?」
「ちょっとキツイのがいいかな」
というので、樽から蒸留酒をコップに入れて皆でお湯割りを飲んだ。セイもそれに付き合う。
「俺様にもくれよ」
と、ヘスティアが言うとウェンディもアーパスもみんな出てきた。
「ヘスティアは水割り、ウェンディとアーパスははちみつとお湯にしてやろうか?」
「うん」
そして、ウェンディはピッタリとセイにくっつき、ヘスティアは一気に水割りを飲んでいた。
「セイ、あいつらはどうなるの?」
と、アーパスが聞いてくる。
「ギルドの規則とガイアの法に則って裁かれるよ」
「そう」
アーパスは淡々と飲んでそう呟いた。
ウェンディがもたれ掛かって眠そうにしているのでマットレスを持ってきてそこに寝かせて毛布をかける。その中にアーパスも潜り込んだ。テントの外なのでこれでも寒いだろうなと思い、セイは自分のマントをその上に掛けておく。
「セイ、お前マントをウェンディ立ちに着せたら寒いんじゃねぇのか?」
「まぁね。でもお湯割りを飲んでいるとマシだよ」
「しょうがねぇなぁ」
とヘスティアは背中からギュッと抱きついて来た。
「ありがとうな。凄く温かいよ」
「へへっ、だろ?」
ウェンディとアーパスはセイのすぐ隣で寝て、セイを温めてやると言ったヘスティアはそのままセイの背中で寝ていった。膝の上には猫サイズのぬーちゃんが寝ている。
「女神様達、セイがいない間は一言も話さなかったし、悲しそうな顔をしていたわよ」
パールフが少し赤い顔でそう言う。
「神のままならこんなことに心を痛めたりしないだろうけど、今は人間と一緒にいるし、悲しみをまともに受けたんだろうね。ツバスもパールフもケアありがとうね」
「ううん、冒険者に男とか女とか関係ないとは言ってもこういうときは男は何も出来ないからね」
「そうなんだよね。身体の傷はポーションで治せても心の傷はなんにもしてやれないから」
「セイ、そんな事はないぞ。悪さした奴らをちゃんと捕らえて裁きを受けさせる事になったのはお前の功績だ。そういう奴らをのうのうと生かしておかずに済むのはせめてもの救いだと思うぞ。それに女冒険者は魔物にこういうことをされる覚悟を持っている」
「魔物に?」
「そうだ。ゴブリンやオークとかは女を襲うこともあるからな」
知らなかった。人を食うだけじゃないのか。
「ま、冒険者仲間に襲われるとは思ってなかったかもしれんが、あいつらはヘスティア様のバチを食らったからな。二度と悪さ出来ないのは少なくともあの娘達の心を救ったことになる」
「そうだといいね」
「もう気にするな。お前は女神様に達を守ればそれでいいんだからよ」
悲しそうな顔をしていたウェンディ達はセイと近くにいることで今はスヤスヤと落ち着いた顔をして寝ているのであった。