調査は続くよどこまでも
セイは総長室からタマモに向けて連絡の式神とタマモが使えるように5体の式神を飛ばす。
「何かわかったら教えてくれ。残りは好きに使って」
そう吹き込んだらひらひらと窓の隙間から飛んで行った。
「今のはなんだね?」
「式神といって俺の分身みたいな物です。尾行している仲間に情報が掴めたら教えてくれるように連絡したんです。尾行している仲間は優秀なので気付かれることなく色々と調べてくれますよ」
「女神以外の仲間か?」
「そうです。他にもたくさんいますけど、戦闘担当はぬーちゃん含めて主に3人。今尾行してくれている仲間はタマモといって強いんですけど、調べ物も得意でしてね、任せておけば問題ないですよ」
「そうか、君にはまだまだ秘密があるようだな」
「別に隠していませんよ。必要がないときには出で来ないだけで」
「そうか。そのうち仲間達も紹介してくれたまえ」
そしてセイは順を追って話していく。すべてを話し終えた所で担当ギルドのギルマスが部屋に呼ばれて入って来た。
「この度は私の監督不行届でこのような事になり申し訳ございません」
と、謝ってきたがあまり反省の色は見られない。担当ギルドの冒険者が不始末を起こしてもギルマスが罪に問われる事がないからだ。
「時間外に呼び出してすまなかったね。まぁ、そこに掛け給え。今回はSランク主導のクランが組織的に犯罪を犯していた容疑で色々と調べないといけないことがあってな。先ずは紹介しておこう。アネモスの冒険者であるセイだ。Gランク冒険者といえばわかるだろ?」
「初めまして。ガイア南門ギルドのギルマスをしているロンダーリングだ」
「セイです」
「で、ロンダー。私もマッドハイドの良くない噂は耳にしていたが実の所はどうだね?」
「はっ、確かに素行が良いとは言えませんが、魔導具ダンジョンからの定期的な道具の確保及びクランからの死者は無く優秀でもあります。最近は15階層まで調査を終えており、新規の魔導具の発掘はあまり進んでおりませんでしたがさらなる上への階層進出も間近と報告が上がっております」
「今回、セイが魔導具ダンジョンに入って絡まれたそうだが?」
「はっ、15階層までの調査はマイクハイドクランの功績と言っても過言ではなく、いきなり余所者に荒らされる事を嫌ったのではないかと思われます。まぁ、絡みたくなる気持ちもわからなくはありませんがね」
このギルマスはまだ何でマイクハイドが捕まったか知らないようだ。単にセイにちょっかいをかけてやられたぐらいにしか思っていないのだろう。
「そうか。今はまでSが一番上であり、総本部が与えた特別ランクに不満があったのかもしれんな」
「そうでしょうね。アネモスで活躍した程度で特別ランクを与えたのは少々総本部の勇足であったのでは・・・、いえ、総長を非難しているわけではございませんが」
「そうか。時にロンダーは現場の冒険者達を実際に見てみてどうだね?もう5年程になるだろう?そろそろ異動してもいい時期ではないかと思ってはいるのだが?」
「現場のギルマスなど私に取って取るに足らない仕事ではありましたね」
「優秀なきみならそうだろうね。では次の場所を用意しておこう」
「はっ、有難うございます」
このやり取りをセイは黙って聞いていた。このロンダーリングという者は元々総本部の人間なのだろう。総長とも顔見知りのようだ。
「今回の不始末の調査はセイから詳細な報告があったとはいえ、事実関係を調べなければならないのでね、君にも調査を手伝ってもらいたいが構わないかね?」
「もちろんです」
そうロンダーリングが答えた後にマッケンジーが外に出て行き、総長とゾロゾロやってきた人の一部をこちらに呼んできた。
「なっ・・・、お前は取調室の・・・」
「セイにも紹介しておこう。取調室室長のロイだ」
「セイ殿、ロイです。この度のご協力感謝申し上げる。あのマイクハイドをどのように調べられたのか後ほど教えて頂けると有り難いですな。ロンダーリングに同じ事をすればこちらも手間取らずに済みそうです」
ん?この男、人間だろうか?なにか雰囲気が違うぞ。
「セイです。マイクハイドには仲間が恐怖をぶつけて心を折ったんですよ」
「ほう。それは実に優秀な調査官になるでしょうな。冒険者を引退なさるときには是非お声がけをして欲しいものですな」
「まぁ、酒代だけで赤字になりますよ」
「ハッハッハ、特別ランクの方は冗談もお上手なようで。さ、ロンダー、我々とお話をしようか。朝まで時間はたっぷりとあるからな」
別に冗談ではない。
「待てっ。待ってくれ、なぜ俺が取調室に・・・」
ロイの仲間たちがロンダーリングを拘束して連れて行った。これ、拷問されるんだろうな。
「さて、後はロイに任せて置けば問題はない」
「では宜しくお願いします。あと、これはマッドが持っていた魔導兵器です。大型のはガーミウルスに売ったと言っていました。総長のお見立て通りでしたね」
「こちらで保管している魔導兵器より威力がありそうだな」
「そうですね」
「これはセイが所有するのか?」
「いえ、証拠品として提出しますよ。適正に保管して下さい」
「そうか。申し訳ないな」
「別に欲しくもないのでかまいませんよ。あと、クランで犯罪に加担したものは魔導ダンジョン・・・というか遺跡で捕縛してありますので引取をお願いします。そいつらに被害を受けた女性冒険者達も何人かいましてね、フィッシャーズ達と俺の仲間が保護していますがそちらもお願いします」
「既に牢馬車を向かわせている。被害者は総本部が責任を持って面倒を見よう」
「はい、宜しくお願いします」
「あと、ダンジョンを遺跡と言い直したのはなぜだ?」
「あそこはダンジョンではありません。恐らく千年前に滅んだと言われてる人達の建物だったのでしょうね。なので遺跡と言いました」
「ダンジョンには色々な形があるだろう?なぜあそこが遺跡とわかる?」
「ダンジョンは魔物の一種だというのはご存知だとは思いますが、あれは魔物ではありませんからね。ダンジョンなら魔導具が何度もリポップするはずです。それにあの中で死んでもダンジョンに吸収されないと聞きましたので間違いないですよ」
「いや、あのダンジョンからは死体は運ばれて来てはいないはずだが」
「マッド達が隠蔽してたんでしょうね。フィッシャーズ達は死体が消えないことを知っていましたから他にも知っている冒険者はいると思いますよ。これも情報提供をおろそかにしていたツケでしょう。俺たちが内部に入っても魔物も出てきませんし、罠もありませんでしたから」
「そうか・・・」
「地下は難攻不落と言われてますけど、魔物が出るんですかね?」
「ファントムがいるのと扉が閉まっていて開かないのだよ」
「ファントム?」
ファントムとは幽霊の魔物みたいなものらしい。アンデッドの一種で目に見えない内に襲われて発狂するとのこと。恐らく悪霊のことだろうな。
「聖魔法使いを連れて攻略してないんですか?」
「それも試みたが扉を開けられないうちに魔力が尽きるのだ。マジックポーションがいくらあっても足りないのだよ。一度高位神官達を連れて行ったが失敗に終わっている」
扉か。セキュリティロックが掛かっていたら開かないな。下手に壁を崩すと全体の崩壊を招くかもしれんし。
「了解です。この事件が解決したら地下の調査をします。扉は開けられないかもしれませんが」
「ファントムをなんとか出来るのかね?」
「俺は元々そっちの方が得意なんですよ」
と、その時にウンディーネがやってきた。
「セイ、アーパス達がお腹空いたって」
「あ、テントとバスタブしか置いてこなかったわ。ごめんごめん、肉と酒を持って行っていける?」
「大丈夫よ。他の奴らの分はどうするの?」
「あー、被害者の娘達の分も必要だね。なら肉の塊が3つあれば足りるかな?塩コショウも渡しておくね」
「セイ、誰と話をしているのだ?」
「今ここにウンディーネが来てるんですよ。妖力を流すからこっちにおいで」
とウンディーネに妖力を流していき、総長達にも見えるようにした。
「うおっ・・・あっ、あなた様が大精霊のウンディーネ様・・・」
「フフフっ、そうよ。じゃ、アーパスが待ってるから持って行くわね」
チュッとウンディーネはセイのほっぺにキスをしていった。
「セイ、大精霊ともその・・・」
「あれは水と同じですよ。ちょっと人間ごっこをしたいだけです」
ウンディーネがウェンディ形でもなく髭面ロッキュー姿ではなく女型だったのは幸いだ。
「あ、うむ、まぁもう気にしないでおこう。我々もご飯を食べようか。そこで話の続きをしよう」
そして総長の案内で個室のある高級レストランに案内されたのであった。