風の教会
プラプラと街中を見て回るセイ。
あの建物は教会だろうか?
少し周りの建物とは違った形の建物で中々に立派だけど雑草が生えたりして結構荒れてんな。なんか幽霊もたくさん飛んでるし。
興味本位で近付くとドアが開いていたので中に入ってみる。元の世界の教会と似たような感じだ。しかし、バージンロードというのだろうか?祭壇へと続く所が絨毯ではなく石が敷き詰められその石には名前が掘ってある。
これ、墓石を敷き詰めてあるのか?
踏んでいいのかどうかわからないのでそれを避けて祭壇までいく。
【風の女神 ウェンディ】
祭壇に祀られている女神像の台座にそう書いてあった。その横には羽のある少女と大きなオオカミがウェンディに頭を下げている。
しかし随分と美化されたウェンディだな。スタイル抜群でうっすら微笑みを浮かべた美人の女神。ここまで美化されてたら嫌がらせに近い。褒め殺しというやつだろうか?
実際のウェンディはもっと幼児体型で眉間にシワ寄せて猿みたいにキーキーとヒスってるから、この像を見ていたらウェンディが自分が神だと言っても誰も信じないのは当然だな。
そう思っていると神官らしき人に声をかけられた。
「あ、あの。お祈りにこられたのでしょうか?」
「あ、勝手に入ったらダメでしたか?ドアが開いていたものでスイマセン」
「いえ、こちらは万人に開かれておりますので問題ありません。めっきりとお祈りしてくださる方が減りましたのでもしやと思ったのですが・・・」
そんなに信者がいないのか。
「外国の方でしょうか?」
「最近引っ越して来たんです。今日は観光がてら街を見てまして」
「そうでしたか。黒髪の方でしたのですいません」
確かにこっちに来てから黒髪の人は見てないな。
「ではお邪魔しました」
「あ、あの・・・」
「はい?」
「お、お茶でも飲んでいかれませんか。教会で育てたハーブを使ったハーブティーがあるんです」
「勝手に入って来ただけなのに悪いですよ」
「お気になさらずどうぞ」
歩いて少し喉が乾いていたセイはお茶をごちそうになることに。ハーブティーも飲んだことがないからというのもある。
教会の裏側にある庭の見える部屋でお茶を入れてくれる神官さん。
「どうぞ。お口に合えば宜しいのですが」
「頂きます」
クイッと一口飲むセイ。
「いかがですか?」
「はい、打ち身に効きそうなお茶ですね」
「はい?」
これ、お湯に溶いた湿布薬じゃないだろうな?
「い、いや美味しいです」
「それは良かったです。おかわりもありますので」
いや、正直苦手な味なのだこれは。
「失礼ですけど、ここは神官さんお一人で守られているのですか?」
「いえ、私は見習いです。母もおりますよ」
ということは二人しかいないのか。
「他の神官達は?」
「教会へお祈りにくる方も寄付を下さる方もめっきりと減りましたので今は母と二人です。今や神に仕えているのか掃除婦かわかりませんね」
とクスッと笑う神官見習い。リタより歳下なんじゃなかろうか?
「そんなに信者が減ったんですね」
「はい、お祈りすればするほど暴風に見舞われていたようですから。私が小さい頃はたくさん人が来ていたのをよく覚えています」
「あの、俺はセイ。Cランク冒険者をやってます」
「あ、ごめんなさい。私はケネルと申します。セイさんは冒険者さんだったのですね」
「まぁ成り行きで。あの、教会に来た人にはこうやってお茶をご馳走するのが流儀ですか?」
「いえ、通常はこのような私的なお誘いはいたしません」
「私的?」
「はい。セイさんのお姿が神話の一節に出てこられる方とよく似ておられたので思わず声を掛けてしまいました」
「神話?どんなのですか?」
「一節の中にこうあるんです」
と、ケネルは神話の一部を語ってくれる。
〜風が止み、山や海は死に、悪しきものが跋扈するとき神は泣いた。人々に厄災が訪れ混沌の世になりし時、黒き者が現れ大きな波で神を守る〜
「その神話は書物かなんかに書かれてます?」
「これは神官の家に代々口伝で残っているものなんです。なので少しずつ内容が変わってるかもしれませんけど。私はずっと黒き者は何なんだろうって思ってたんですけど、セイさんを見て黒髪のことかなとか思ってしまって」
「俺のいた国はほとんどの人が黒髪だったからねぇ。ここじゃ珍しいかもしれないけど」
「そうなんですか。それでは肌が黒なのか、服装が黒なのか・・・」
「期待ハズレでごめんね」
「いえ、とんでもないです」
「今度、仲間を連れてお祈りに来るよ」
「本当ですかっ」
「うん、いつとは約束出来ないけど近々ね」
「はい、心よりお待ちしております」
寄付とかしてあげたいけどこっちも借金持ちだからなぁ。ダンジョンで狩った肉でも持ってきたらいいかな?
教会を後にしたセイは先程の神話を思い返す。
内容的には今の状況に似ているんだよな。黒き者が俺だとしたらウェンディに連れて来られたのは予定調和だったってことか?あと大きな波とはなんだろうか?
まぁ、口伝なら元の話と全く変わっててもおかしくないからあまり気にしない方がいいかな。
教会の幽霊は特に悪さもしていないようなのでそのままにして屋敷に帰ったセイ。もう夕方だからお腹が空いてきた。というよりあのハーブティーの味は苦手だけど昨晩たらふく食って胃もたれ気味だったのがスッキリしたせいなのかもしれないな。
「どこ行ってたのよっ。お腹すいたんですけど」
なに口をとんがらせて俺に腹が減ったというのだ?
「材料そのへんにあっただろが」
「そのままなんて美味しくなかったんだもん」
は?
よく見るとかじったじゃがいもが置いてある。
「お前はネズミか?じゃがいもなんてそのままかじるなよ。せめて焼くか茹でるぐらいしろ」
「やったことないんだから仕方がないでしょ」
「お前、天界でどうしてたんだ?」
「別に食べる必要もなかったし、たまに天の果実を食べるぐらい」
「昨日もガツガツ食ってたけど、もしかして全部初めて食べるものか?」
「そうよ。人間が食べてるのは知ってたけど見たことしかなかったの」
「外界の食べ物は旨かったか?」
「うん」
旨いというのを初めて知ったからあんなに食うのか。
「神様って何か楽しみあるのか?」
「無いわよ。加護の風を出して下を見てるだけ」
「一人で延々とそれだけの繰り返しか?」
「そうよ」
それはそれで可哀想だな。こいつ、食うのが旨いとか知ってしまったのに天界に戻ったらどうするんだ?
「俺はそんなに凝ったものは作れんぞ。砂婆も今日は里でゆっくりとしてもらってるからな」
「どうでもいいから早く作って」
肉は角煮があるからこれでよし。あとは米とじゃがいもを揚げるぐらいでいいか。
ご飯を炊いた後にじゃがいもを串切りにして油に投入。それに塩かけて終わり。
「出来たぞ」
ガツガツガツガツ。飯にがっつくウェンディ。お預けを食らってた犬かお前は?
「今日な、教会に行ったら信者が減って困ってたぞ」
「ふーん」
相変わらず他人事だな。
「あと聞きたいことがあるんだけどな」
「なに?」
「お前を降格させたのって誰だ?神より上の存在がいるのか?」
「創造神様。すべてを作りし大神よ」
「降格させられた理由は?」
「人々の信仰心が少ないから見習いからやり直せって」
「神になる前も見習いだったのか?」
「そんな昔の事覚えてないわよ。いつの間にか加護の風を吹かしてたんだから」
うーむ、妖怪達も生まれた時から妖怪みたいだし似たようなものなのかな?
「ウェンディ」
「なによ?」
「じゃがいも追加で揚げてやろうか?」
「うん」
セイはその後じゃがいもを揚げ続けるのであった。