総長と面談
翌日皆で総本部へ。
「お待ちしておりました。どうぞこちらに」
と、顔を見るなり案内してくれる受付嬢。流石に教育が行き届いている。
「あれ?こっちじゃないの?」
「はい、本日はこちらにご案内するようにと言われております」
どんどんと階段を上に登っていく。この受付嬢足が速い。ウェンディとアーパスがヘトヘトだ。
「おんぶ」
「あほか。歩け」
ウェンディだけならおぶってやってもいいけどアーパスもいるからな。仕方がない。
「ぬーちゃん、乗せてやって」
と首に巻き付いていたぬーちゃんに女神ズを乗せることに。ヘスティアは平気そうだったけど拗ねるからな。
「こちらでございます」
コンコン
「総長、ご案内致しました」
「入ってもらえ」
「失礼致します」
総長?
「やぁ、よく来てくれたね。冒険者ギルド総本部、総本部長をしているテンカーだ」
「あ、どうも。セイです」
(セイ、冒険者ギルドのトップだ。ちゃんと挨拶をしろ)
あ、一番偉いさんなんだ。
「あー、シーバス君。構わないよ。君達も楽にしてくれたまえ」
(知ってるの?)
(いや、初めて会ったぞ)
「はっはっはっ。Sクラスの名前と顔ぐらいは知っているさ」
こっそり喋ったのに全部バレてる。
「セイ、それに他の皆もこちらの部屋に来てくれ」
とマッケンジーが隣の部屋に案内する。
応接室のような会議室のような場所だ。
「今回はわざわざ総本部まで来てくれてた事に感謝する。アネモスやボッケーノ、アクアから君の評判は聞いているよ。随分と献身的にギルドに貢献してくれているようだね」
「まぁ、ギルドというより、お世話になってるギルマスにお返しをしたいだけです。特にアネモスのギルマスのマモンは恩人と言っても差し支えないぐらいお世話になってるので」
「そうか。マモンも実力者だからな。良い出会いであったことは喜ばしい限りだ」
総本部長のテンカーはさすがにトップなだけの事はある感じだな。マモンの事までちゃんと知ってるのか。
「で、セイの仲間を紹介してもらってもいいかな?」
「こちらはウェンディ、ヘスティア、アーパス。あとぬーちゃんです」
「ふむ、神と同じ名前の仲間か。噂では本当の神だと聞いているが?」
「そうです。3人とも女神ですよ。人間と一緒に食べたり飲んだりするのに力を落として姿を見えるようにしていますが、本来の力に戻ると見える人はほとんどいません」
「なぜ君は女神と行動を共にしている?」
「元々はウェンディが力を落としたのを元に戻す手伝いをしてたんですよ。ヘスティア達は後から行動を共にするようになりました。俺は元々、人に見えない存在が見える力があったのでたまたまってやつですね」
「凄いたまたまがあるものなのだな。ではきちんと挨拶をさせて頂いても宜しいかな?」
「えっ?あっ、はい」
テンカーはマッケンジーと共にその場で跪いて神への感謝の祈りと挨拶をした。
こうされるとウェンディ達が神々しく見えるから不思議だ。
「もういいぞ。今は神の仕事をしてねぇからな。普通に接してくれて構わねぇ」
「はっ、ヘスティア様。寛大なお言葉ありがとう存じます」
二人は頭をもう一度下げてから立ち上がった。
「セイ、色々と話を聞くが答えられないことは答え無くても良い。強制はしないが答えられるものは教えて欲しいが構わんか?」
「ええどうぞ」
「君は神とどういう関係なのだ?」
「お守りです」
「は?」
「いや、別に他の仲間達と変わりませんよ。一緒に飯食って酒飲んでとかそんなのです。後は服を買ったりとかですかね。確かに力は特殊な物を持ってますが中身は普通の女の子と変わりませんよ」
「神を普通の女の子だと?」
「はい。俺は保護者みたいなものです」
「総長、セイの言っている事は本当ですよ。寝たら寝床に連れて行き、飯を食べやすように切り分けてやったり、起きてこなければおぶって連れて行ったりとかです」
と、シーバスが説明してくれる。
「そんなことをしているのか?」
「いや、力が落ちてるとそれを取り戻そうと眠くなるらしくてね。なかなか起きて来なかったり、飯食ったりしたら寝るんですよ」
「それはウェンディだけ。私はそんなことない」
「俺様も最近はそんなことねーぞ」
「わっ、わたしもっ」
「嘘つけっ」×全員
「神は皆、薬指に指輪を・・・」
「ウェンディはこの指にしか入らなかったんですよ。ヘスティアは利き腕の指にあると邪魔だと、アーパスは」
「私はセイの女」
「やめなさい。誤解を招くだろうが」
「冗談」
「アーパスはみんながしているのとお揃いにしただけです」
「婚姻関係にあるわけではないのだな?」
「もちろん。自分は人間ですからね」
「いや、女神を一人占めしているという報告もあったので確認したまでだ。失礼した」
どっからそんな報告が上がってんだ?
「あと、ヘスティア様が今は神の仕事をしていないとおっしゃったのと関連するのだが、神の加護はどうなっている?」
「神の加護はそんなに頻繁にあるわけじゃないんですよ。アネモスとアクアは頻繁でしたけどね」
「でした?とは」
セイは神の加護とは何かを説明する。
「ではガイアの大地の恵みは・・・」
「土地が元々豊かなだけです。テルウスもそう言ってましたので」
「テルウス様はここには顕現されてないのか?」
「今は来てませんね。昨日は一緒に飯食ってましたよ、冒険者広場で」
「あんなところに神が顕現されていたのかっ」
「ウェンディ達もいましたから。テルウスは神の力を保ったままなので皆には見えませんし。テルウスの加護は千年くらい前にやったきりだと言ってましたし、もうガイアの人間は強くなったので加護は必要ないかもしれないと言ってました」
「加護が必要ない?」
「ヘスティアもそうなんですけど、加護の力は強大でしてね、加護の力は人間も巻き込むんですよ。ガイアもここ千年の間に大地震が来てないから備えとかしてないでしょ?そこに魔物を一発で弱体化させる程の地震が来たら国全体が滅びます」
「もしや、千年前に国が滅びたという記録は本当なのか・・・」
「ガイアの歴史はよく知りませんけど、そういう記録が残っているならそうなんでしょうね。テルウスの加護が発動するのはアースドラゴンが出て人間が倒せ無かったら発動するそうです。今のガイアなら単発で出ても倒せるんじゃないかと言っていました」
「他の国はどうなのだ?」
「ヘスティアの庇護下にあるボッケーノも似ています。ドラゴンが出て倒せなかったら巨大噴火で魔物を滅ぼします。アクアはアーパスが加護の雨を頻繁に降らせて、強い魔物がで無いようにしていましたけど、誰も気付いてくれないから暫く降らせないみたいです。問題はアネモスなんですよね」
「アネモス?」
「はい。神の力の源が人間からの信仰心で有ることは間違いないんです。アネモス以外は火、水、大地の恵みとして皆が信仰心を保ってます。が、風の恵みというの分かりにくくて被害の方が目立つんです。それでアネモスは信仰心を無くしてウェンディは力を落としてしまったのですよ。そろそろ風の恩恵が無くなったアネモスには不作やら水不足とか色々と問題が発生し始めると思います」
「神の恵みは魔物を弱体化させるものだと今説明したではないのか?」
「恐らくアネモスはウェンディの風が土地を豊かにしていたのではないかと思います。こまめに風を吹かせていたみたいですから。それが無かったら他の国のように恵まれた土地ではないのかもしれませんね」
「なるほど。一番神の恩恵を受けていた国が神を捨ててしまったということか」
「そうです。それを伝えても風の被害を受けていた人達はなかなか信じてくれないのですよ。漁師や一部の貴族は信じてくれました。信じてくれた人にはこれから起こるであろう出来事は伝えてありますので、それが現実になって初めてウェンディを欲する事になるんじゃないかと思っています」
「被害待ちというわけか?」
「言い方を変えるとそうですね。ウェンディは頑張ってたのに信仰心を無くされるとはなんとも酷い話だと自分は思ってます」
セイがそう言うと、隣に座っていたウェンディはセイの袖をキュッと握ったのであった。
「セイはウェンディ様を元の神に戻す手段として冒険者をやっているんだね?」
「生活費を稼ぐ為でもありましたけど、冒険者として活躍したらウェンディの事を信じてくれるようになるんじゃないかと思ってましたけどそうでもなさそうなので、ギルドの依頼とかあまり受けてないんです。なんかややこしい依頼が多くて」
「そうか。しかし、今回の魔物の情報提供は感謝する」
「まだ全部じゃないので、それは続けて行きますよ。半分趣味みたいな所もありますので」
「そうか。それは助かる。総本部としても情報提供については報酬とポイントをもっと出すように制度を変えていくと約束しよう。それに調査費用もな」
「はい、ぜひ宜しくお願いします」
「昨日、希少な素材を持っていると聞いたがそれを買い取りに出す気はあるか?」
「ファーブさん泣いてましたよね。昨日の素材は寄付しますよ。研究に役立てて下さい」
「いや、ちゃんと買い取ろう。報酬は報酬できちんと受け取るべきだと理解したまえ」
「予算ないんでしょ?」
「いや、私が許可するから構わん。素材を見せてくれんか?」
ということで昨日ファーブが希望した物を出す。
「ドラゴンの皮とはこんなにも軽いのだな」
「俺と女神達の防具はドラゴンの皮ですよ。普通の道具だと加工出来ないですけど」
「何を使うのだ?」
「メラウス鉱石から作り出した刃物や針です。例えばこのナイフなら簡単に切れます」
とサイン入りナイフを見せる。
「これはヘスティアが名前を焼入れしてくれたんですけどね、この黒くなったのが本当のメラウスの力を引き出した証です。でもこれが出来るのはヘスティアだけですから、仮にメラウスを加工出来てもこの鈍い光にしかなりません。これでも物凄く切れるんですけどね」
「そんなものまで持っているのか」
「これは自然界に存在しない鉱石でして、ある条件をクリアしないと手に入らないんですよ。その条件は明かせませんけど」
「本来の黒になればもっと力が出るのか?」
「こっちは本物のメラウスの剣です。力を吸い取るので諸刃の剣という奴ですから触らないで下さいね。倒れますよ」
「なんだその剣は・・・」
「単純に使えば普通のメラウスと大差ないんですけど、こうやって力を注ぐと」
と、少しだけ妖力を流す。
「剣の力が増します。魔剣と呼ばれる物と原理は似ているそうです。俺が火魔法を使えたら炎を纏うそうなんですけど俺は魔法が使えませんのでね」
「今は何を流したのだ?」
「純粋なエネルギーってやつなんですかね?自分でもよくわかんないんですよ。これは神の力の源にもなりますから、ヘスティアやアーパスはいつでも神に戻せます。ウェンディだけはなぜか少しずつしか力を流せないのでいつ神に戻してやれるかわかんないんですよね」
「信仰心が無くても戻せるのか?」
「それがよくわかんないんですよ。仮に信仰心が無くても元に戻せたとなってもまた力が落ちるかもしれないので。俺が生きている間に信仰心を戻してくれるといいんですけどね」
その言葉を聞いて、ウェンディはもっと強くキュウっと袖を握るのであった。