冒険者ギルド総務本部
「じゃ、俺は総本部に行って来るよ。ウェンディ達のお守り頼んでいい?」
「一人で行くのか?」
「一緒に行く?」
「いや、止めとくわ。面倒臭そうだしな」
「だろ?どれぐらい時間が掛るか分からないから昼飯前にこの宿の前で待ち合わせしようか。それより時間がかかるなら一度出て伝えに来るよ」
「了解」
「アーパス、なんか買い食いしたりするならこれで払って」
「わかった」
と、一番ちゃんと出来そうなアーパスにお金の入った袋を渡しておいた。銀貨銅貨に加えて金貨も1枚入っているから十分足りるだろ。
セイは総本部の受付で冒険者証を見せて、ガイアに来たら総本部に寄れと言われたことを伝えた。
「どちらの部門に行かれますか?」
「あ、ごめん。部門別れてんの?どこか聞いてなかったわ。とりあえず総本部に顔を出せとしか。えーっとどうしようかな、あっ、魔物図鑑を監修している部門とかある?」
「はい、ございます」
「じゃ、そこの人と話をしたいな」
「かしこまりました。少々お待ち下さいませ」
総本部はギルド支部と違ってとても丁寧というか仕事って感じの対応だ。しかもめっちゃ広いし。
暫く待たされた後にその部署に案内される。
「お前が特別ランクのセイか。随分と若いな」
「今20歳ですよ」
「俺は総務本部の責任者をしているマッケンジーだ。魔物図鑑の事で何が知りたい?」
「いや、知りたいんじゃなくて情報のアップデートをしてもらおうと思ってイラストと情報を持って来たんだよ」
「イラストと情報?」
「図鑑に載って無いことや間違ってる内容とかあってね、検証したりアクアのSランクに情報を貰ったりしたから提供するよ」
「見せてくれ」
と言われたので溜め込んだイラストと情報を渡した。
「ぬおっ、なんだこいつは・・・」
「仲間に絵の得意な物がいてね、わかりやすいだろ?特に虫系の魔物は似ていても違う種類なのかよくわかんなかったから細かく描いてもらったんだよ」
「ちょっと待っててくれ、専門の奴を連れて来る」
と、魔物研究者みたいな男性を連れて来た。ヒョロヒョロだなこいつ。
「初めまして、ファーブと言います。魔物の情報とはどんなのですか?」
「ファーブ、こいつを見てみろ」
「随分とたくさん紙が・・・・・あります・・・ぬぉぉぉぉぉつ。なんですかこれはっ!!!!」
フンッ フンッと鼻息を鳴らしてイラストと情報を食い入るように見ていくファーブ。
「君っ、名前はなんというのかねっ」
「セイです」
「セイ、この一角幻獣のイラストは本物かっ」
「多分そうだと思うんですよね。幻惑の攻撃されましたし、一本角だったし」
「ぴ、ピンクドラゴンとは何だっ」
「オークと同じですよ。ノーマル、ピンク、ブラックの順に強くなるんです。攻撃は似たようなもんでしたよ。全部炎のブレスを吐きます。ファイアドラゴンは身体が全体が溶岩みたいな感じですね。イフリートと似ています」
「イフリート?」
「ボッケーノを守護している大精霊ですよ。ヘスティアの眷属。同じ眷属のサラマンダーもそんな感じですね」
「詳しくっ、もっと詳しく聞かせてくれたまえ。こっちの部屋で話そうではないかっ」
「時間かかります?昼飯前に待ち合わせしてるんですよ」
「誰と来たんだ?」
とマッケンジーが聞く。
「俺の仲間とアクアのSランク冒険者フィッシャーズですよ」
「共闘してるのか?」
「虫系の魔物の素材集めをしているときに出会いましてね、それから臨時パーティを組んでるんですよ。虫系の魔物情報はほとんどフィッシャーズ達から貰いました。説明の所にフィッシャーズの名前があるのは彼らからの情報提供ですよ」
「今、あいつらも来てるのか」
とフィッシャーズの名前はちゃんと知られていた。隣国のSランクだから当然か。
「セイ、この一角幻獣やドラゴンの素材はまだ持ってるのか?」
ファーブは興奮しっぱなしだ。
「えぇ、持ってますけど」
「マッケンジー、買え。それを買い取れっ」
「経費でか?」
「当たり前だ。そんな貴重な素材は二度と手にはいらんかもしれんのだっ」
「ボッケーノのポーション研究者に渡さないとダメなので、各一つずつぐらいなら買い取りに出しますよ」
と、ドラゴンの皮を3種類、一角幻獣の角を1本出した。エンシェントドラゴン関係は秘匿しないとダメだったから牙と涙は出さないでおく。
「ドラゴンのアイテムに肉と血とあるがそれはないのか?」
「これは使い道が決まってるんですよ」
肉は眷属達の栄養補給やダンジョンの餌になるし、血は防具の強化に使うからな。
「少しでもいいからっ。少しでもいいから分けてくれぇぇぇ」
と泣きつかれたので、少しだけ売ることに。どうやら研究用に使うらしい。
「金鹿の角はないのか?」
「それは既に提供しちゃいました」
「くそっ、ならこれはあるか?」
とか聞かれるけど何があったけな?
素材を色々と出して見ていく。
「なんだこの量は?」
「何が何に使えるかわからないから取ってあるんです」
「どれも買い取りに出してないのか?」
「そうですね。ギルドの依頼はあまり受けてないですし、顔出すと面倒な事を依頼されるので」
「くそっ、こんな奴がいるから素材がなかなか手にはいらんのだっ」
とめっちゃ怒られる。
「じゃあ、必要なのを選んで下さい。一つしか無いのはダメですよ」
「まて、このクラーケンとは本当にいたのか?」
「はい。フィッシャーズが討伐しました」
「アイテムの身はまだあるか?」
「全部食ったんじゃないですかね?村人達とお祭り屋台で焼いて食いましたから」
「なんだとーーっ。そんな貴重な身を食っただとっ」
「結構旨かったですよ。袖イカみたいで」
「そんなに問題じゃなーーーい!何をやっとるんだ貴様はっ!!!」
また怒られるセイ。
「自分達で狩った物を食べて何が悪いんだよ?」
「そうかもしれんが貴重な奴はギルドに買い取りに出せっ」
「一角幻獣の角はフィッシャーズが買い取りに出してるぞ」
「何っ?それはどうなった?」
「貴族が金貨200枚で買ったらしいですよ。各地で似たような事があるんじゃないですかね?貴重な素材でも総本部に連絡入れないとか」
「むむむむっ、金貨200枚だと?マッケンジー、経費から出るか?」
「無理に決まってんだろうが」
「ならドラゴンの皮とかの買取も無理でしょうね。大騒ぎになるから売るなと言われてたけど総本部の買取予算だと買い取れないでしょうし」
「待てっ、仕舞うな。待ってくれぇぇぇ」
別にあげてもいいんだけど、いちいち怒られるから意地悪をするセイなのであった。
「さて、では情報を提供したので帰りますね。もう昼前だし」
すべての素材を渡さずにしまったので泣き叫んでいるファーブにそう伝える。
「この詳細情報の報酬は請求しないのか?」
「各地の冒険者達の生存率を上げる為にした事だから別にいいですよ。俺もこの魔物図鑑を経費だと言って貰ったので」
「お前、いつまでガイアにいる?」
「冬の間はダンジョン攻略するつもりなのでいますよ」
「そうか。なら時間はあるんだな?」
「まぁ、あるっちゃありますけど」
「悪いが明日もう一度来てくれ。仲間達と一緒にな」
「フィッシャーズも?」
「そうだ。情報提供に関して何にも報酬無しという訳にはいかん。それが前例になると情報提供は報酬無しという事のが当たり前になって誰も情報提供しなくなるからな」
「あっ、そうか。アクアのギルマスからも情報提供や調査依頼の予算を増やして欲しいと伝えてくれと言われてたの忘れてたよ」
「そうか。支部からも声が出てるか。Sの奴らでもこれ程情報を持ってても提供してなかったみたいだからな。ま、自分達で調べた情報は財産だから秘匿するやつも多いから当然だな」
「そういうもの?」
「そういうものだ。例えばこの一角幻獣がまた出たらどうなる?」
「情報が無ければほぼ死ぬだろうね」
「だろ?そしたら倒せるお前らに指名依頼が掛かる。それが一角幻獣が出る度にそうなる。お前らしか倒せない魔物になると依頼料を跳ね上げても依頼せざるを得なくなるということだ」
「だから特殊な魔物の情報が上がって来ないんだね?」
「そういうことだ。お前みたいに自分の利益を度外視してホイホイと情報を出してくる奴はおらんからな」
「なるほどね。まぁ、お金はあっても困らないけど、それが目的じゃないし」
「何を目的にしてるんだ?」
「魔物の情報提供は現場の冒険者を無闇に死なせないように頑張ってるギルマス達の為かな。冒険者上がりのギルマスは推奨ランクとか決めるだろ?魔物の強さを見誤って冒険者達が死んだりしたら悔やむんだよ」
「冒険者なんか掃いて捨てるぐらいいるだろ?」
「そうだけど、現場上がりのギルマスはそういう奴らの気持ちとかわかるんじゃないかな。どうしようもない奴らもいるけど、いい奴らもいっぱいいるしね」
「そうか。お前はここのSの奴らとは感覚が違うんだな」
と、意味深な事を言われたけど、他国のことなので首を突っ込むのは止めておく。
自分の報酬はまぁ、どうでもいいけどフィッシャーズ達にも報酬をくれると言うならまた明日来ないとな。
「明日は朝から来たらいいかな?」
「あぁ、それで頼む」
ということで泣いてすがってくるファーブをゲシゲシとして部屋を出たのであった。
ちょっと可哀想だから明日来たら素材は研究用にあげるか。