先に言え
「しかしセイよ、ブラックオークと角有りの肉を贅沢に振る舞ったな。売らなくてよかったのか?」
「ギルマスがちょっとしか買い取ってくれなかったんだろ。次に買い取ってくれる時にまた狩りにいくよ」
「他のギルドなら買い取ってくれるのによ」
なんですと?
「ど、ど、どういうこと?」
「どいうことって、王都にゃギルドがあと4箇所あるだろが。お前らなら1日あれば回れんだろ?小鬼の山にすぐに行けたんだからよ」
は?
「ギルドってここだけじゃないの?」
「お前、王都がどれたけ広いのかしらんのか?ここだけで対応出来るわけねーだろ。ここは西ギルドだ。東西南北に1箇所ずつ。中央に本部がある。中央が一番数買い取ってくれるんじゃねぇか」
なぜそれを先に教えてくれないのだ。
「砂婆、砂婆っ。肉どれくらい残ってる?」
「ほとんど残ってないぞい。なーに心配するでない。角煮はとっておいてやってるでの」
「あ、ありがと・・・」
妖怪達はほとんどの奴らが底なしで食う。食わなくても良いのにも関わらずだ。
「はぁ、仕方がない。もう一度借金分狩って来るよ」
「狩れたらいいがな」
そう言ったギルマスの言葉は少し引っ掛かったがサカキ達がいれば楽勝だ。次は黒豚と角有りだけ狩れば効率がいい。
ギルマスの持ってきてくれた火酒はとっくに飲み尽くされて、里から持ってきた日本酒と焼酎を飲む面々。ウェンディも酔っ払ってご機嫌だな。
「このお酒初めてのみまふけどおいひぃでふねぇ」
リタは日本酒を飲んでるけどこの娘はいくつだ?多分俺より年下だよな?
「そういやリタっていくつ?」
「17でふよ」
15歳で成人するとはいえ、こんな女子高生みたいな女の子に飲ませていいのかと疑問に思う。
「ケチで言うんじゃないけどほどほどにな」
「うふふふ、だいひょうぶでふよ」
いや、結構ヤバそうだ。今日の日本酒はこの時期に合わせてやや甘口のスッキリ系らしいからな。
「ギルマス、リタをちゃんと連れて帰ってね」
「こいつは泊まる気満々だぞ。着替えも持ってきてるからな。お前リタに泊まって行ってもいいと言ったんだろ?」
確かに。
「ギルマスも泊まる?」
「俺は嫁に怒られるから帰る。仕事で帰れない時は仕方がねぇが遊びで帰らなかったら怖えんだよ」
こんなゴツいオッサンでも嫁は怖いのか。結婚てそんな恐ろしいものなのだろうか?
満足した妖怪達はひょうたんへ帰っていく。基本妖怪達は勝手だからな。
「砂婆、角煮ってどれぐらいある?」
「鍋にいっぱい作ってやったぞ」
「それ何人分かお土産にして」
砂婆にお願いして角煮を5人分と日本酒をギルマスに渡した。
「いいのか?」
「帰ってから奥様と飲んだら怒られないと思うよ。この酒こっちにないでしょ」
「気を使わせちまって悪いな」
「その代わりいい仕事取っといてね」
「ちゃっかりしてやがる」
と笑いながらギルマスも帰っていった。
さて、残ってるのはいつものメンバーとリタだけか。ユキメも気が付いたらいないし。
「おい、ウェンディ。屋敷に戻るぞ」
スピー スピーとご機嫌で寝てやがる。リタもダウンしてるしな。
「サカキ、リタかウェンディを運んでくれ」
「じゃ、そっちの人間を連れてくか。部屋に運べばいいんだな?」
「空いてる部屋に寝かしておいてくれ」
ウェンディのほっぺたをペシペシしても起きないのでよっこらしょとおんぶして連れていくセイ。
こいつからする焼肉臭が凄い。底なしに食ってたけどウェンディも実は妖怪なんじゃなかろうか?元の世界でも神も妖怪も何を持って区別するかよくわからんからな。
「おい、鵺。お前も里に帰るんじゃ」
ぬーちゃんもクラマ達に起こされてみんなで帰って行った。明日は休みにしておいたので静かな一日になりそうだ。
サカキもリタをベッドひ運んだあとさっさと帰っていく。砂浜の片付けが終わった式神も戻って来たので解除した。
「それ私が育ててるのよっ」
寝言でもまだ肉食ってるのかこいつは?
ウェンディをベッドに寝かせたあと今の寝言を聞いて呆れ返るセイ。やれやれと思って部屋を出ようとするとウェンディが今度は泣き出した。
「ぐすっ、ぐすっ どうして、どうして私が見習いにならないといけないのよ。ちゃんとやってたのに・・・」
こいつはこいつなりに神の仕事を一生懸命やってたのかもしれんな。
「バク、ちょっと来てくれ」
ひょうたんからバクを呼び出してウェンディが見ている夢を食べてもらった。その途端、口をモグモグしだしたからまたを肉食ってる夢にかわったのだろう。
「ありがとう、戻っていいぞ」
悪夢を食べたバクは満足気に帰っていく。
ウェンディの部屋のドアを閉めたセイは一人で露天風呂に入って星を眺めながら今日立てた仮説を思い返す。
時間の流れか・・・。当たり前だとそんな事は今まで考えたことなかったな。確認のしようがないから仮説を立てても意味ないけどぞ。
自分で自分にツッコミを入れいたセイであった。
翌朝、トーストに目玉焼きを乗せて食べているとリタが起きてきた。
「いつの間にか寝ちゃってたんですねぇ」
「結構飲んでたからな。頭痛くないか?」
「へっちゃらですよ」
「同じので良かったら食べる?」
「作ってくれるんですか?」
「パンと卵焼くだけだしね」
ササッと用意してリタに出すとウェンディも起きてきた。
「私も同じの」
そしてもう一人前追加。
「二人共飯食ったら風呂に入ったら?」
「ハイ。海の見えるお風呂があるんですよね」
リタはそれも楽しみだったようだ。
風呂から出たリタを送って行くことにしたセイ。
「お前どうすんだ?」
「もう一回寝る」
ということでリタと二人で街中を歩いていく。
「家はどっち?」
「ギルドに近いんですよ。あそこで働くことにしたのもそれが理由ですよ」
「職場は近いほうがいいからね。学校とかはいくつまで通うもんなの?」
「15歳までです。貴族とか学者を目指すような人とかはまだ上の学校もありますけどね」
「セイさんって、どこの国から来たんですか?」
「遠い国だよ。俺のいた国では学校は15歳までは全員強制的に行って、18歳までの学校も大半が行く。その次の学校も行く人が多いかな。俺はいかなかったけどね」
ーセイの高校時代ー
「だから行かないって」
「今どき大学ぐらい出てないと苦労するぞ」
電話で父親から何度も進学しろと連絡がある。母親からは全くだが父親はちょくちょく連絡をくれて結構な額の仕送りもしてくれていた。
曾祖父の葬式でもしつこく言われたが進学はしなかった。誠の成績は比較的良かったが学校で学ぶ事に価値を見い出せなかったのだ。
「なんだい?この嘘っぱちの内容は?」
「どういうことタマモ?」
「こいつはこんな活躍してないさね。どうしようもない野郎さ。こいつに付いていた家来が良く出来たやつでね。この功績はすべて家来がやったのさ」
歴史の教科書に載ってない家来か。他にもこれはこうでこいつはこう。こんなやつはいなかったはずとかタマモは歴史にとても詳しかった。世の移ろいを自分の目で見てきたからタモマの方が正しいのだろう。中学の時にタマモに教えて貰った通りにテストに書いて全部間違いにされたセイは勉強とはなんだろうと疑問に思った。
高校へは行けと曾祖母から死に際に強く言われて進学したセイ。歴史だけでなく、物理とかも理解はするが妖怪達の力を見ているとそんな法則は嘘だよね?とか思ってしまったのだ。
高校卒業間近に曽祖父が他界。曽祖父が倒れる少し前に自分の死期が近いのが解っていたのか祓い屋を廃業していた。
「セイよ、お前は父親達のように普通に生きるのじゃぞ」
そう言い残してこの世を去った。しかし、分家の祓い屋の高額な報酬を取り妖怪や幽霊を強制的に祓うやり方に疑問を覚えていた為、祓い屋を個人で開業することにしたのであった。
「へぇ。すごい国ですねぇ。ここは12歳までの学校しか行かない人も多いのに」
「まぁ、学校で学ぶより自分で体感したほうが身につくからどっちがいいかわかんないよね」
「それはそうかもしれません。ギルドに就職してから驚くことばかりです」
そしてたわいもない話をしながら家の近くまでリタを送り届けてから一人で街の様子を見に行くのであった。