霊たちからの言葉
「ダーツっ ダーツっ」
浮いてこないダーツの名前を懸命に叫ぶパールフ。
「ウンディーネが引き上げてくれるさね。心配するんじゃないよ」
「でもっ」
「タマモ、溺れてるから岸に運ぶわ。早く来て」
そしてウンディーネが現れダーツが溺れていると伝えにきた。ズザザザザっと波のようになったウンディーネは溺れたダーツを岸まで運んでいく。タマモ達はそれを追って岸までいった。
「ダーツっ ダーツっ」
「息してないだろ、早く人工呼吸してんやんな」
そう言われたパールフはダーツに人工呼吸を何度もしていく。
「ゴホっ ゴボッゴボッ」
パールフの人工呼吸で息を吹き替えしたダーツはその場で咳き込みながら水を吐いた。
「ダーツっ」
パールフはダーツに泣きながら抱きついた。
ぬーちゃんがセイを連れてきてタマモが状況を説明する。
「大丈夫か?」
「あぁ、もう大丈夫だ」
と、シーバスが返答してくれた。漁村の皆も集まってくる。
「ダーツ、話せそうか?」
「あぁ、クラーケンはどうなった?」
ウンディーネが巨大なイカの切り身を持ってきてくれている。
「アイテムに変わってるから討伐成功だね」
「おぉ、やったぜ。セイ、一発大物狙いが成功したら良いことがあるんだよな?」
「もうあったんじゃないか?」
「はぁ?」
「これ、体力回復に飲んどいたら。あとパールフにお礼言っとけよ」
「お、おぉ・・・」
なんの事かわからないダーツはそう答え、セイにマントを汚してスマンと返してきた。ウンディーネがマントを包み込んでイカ墨の汚れを全部とってくれたので問題なしだ。
そしてシーバスがクラーケン討伐に成功したことを漁村の皆に伝えると大喝采となった。
今夜はクラーケンの切り身で祭りとなるようだ。切り身がデカすぎてさばくのが大変そうなのでメラウスの剣でスパスパと切っていく。
「後は任せていいかな?」
「おうっ、ここまでになったら大丈夫だ」
そしてセイはシーバスを呼んで家に一緒に行く。
「ミナートさん、シーバス達は見事クラーケン討伐に成功して無事に戻ってきましたよ。何か伝えたい事があれば伝えます」
「セイ、かぁちゃんがそこにいるのか?」
「そうだよ。家族が心配で天に帰れてないんだ。ミナートさん何を伝えますか?」
「家族で仲良く」
「家族で仲良くして欲しいって。シーバスも冒険者になった理由をちゃんと伝えてないんじゃないの?」
「マジでかぁちゃんがそんな心配してんのかよ・・・」
「ほら早く。ミナートさんを天に帰してあげないとダメなんだよ。他の家にも行かないとだめだから。それか先に他の家に行ってくるからその間に話をしてて」
と、シーバスは俺が居たから話せないかもしれないから家を出た。次はパールフの家だ。
「パールフ、ダーツ。ちょっと来て」
と二人を連れてパールフの家に行く。
「ちょっと、何で私の家にダーツまで行くのよ?」
「話を聞かせてやってよ」
「誰によ?」
「お父さん」
「え?」
パールフの家に到着したので事情を話す。
「お父さんがそこにいるの?」
「いるよ。パールフ達を残したまま、家に帰れなくてスマンだって」
「お父さんっ」
パールフのお母さんと妹も散々泣いた後なのにまた一緒に泣き出した。母親と妹にはすでにお父さんの幽霊がここにいることを伝えてある。
「お前たちの生活を楽にさせてやろうと想ったのがこんなことになってスマン。苦労をかけて本当にスマン。パールフは大きくて美人になったな。若い頃の母さんとそっくりだ」
セイはお父さんの幽霊が話す事をそのまま伝えていく。シーバスのお母さんより後悔の念が強いのかきっちり話せる。
「私もお母さんみたいになるってこと?最悪じゃん」
母親の前でなんて事を言うのだ。
「お前がどんな男と結婚するのか気になっていたが隣の男がそうか?もう子供がいてもおかしくない歳だろ?」
「もう24になったわよ。隣の男は冒険者のパーティメンバーよ。ダーツの事は覚えてないの?」
「そうか、お前はダーツか。立派になったな。パールフを宜しく頼む」
「セイ、こっちの言葉は言えば伝わるのか?」
「聞こえてるよ」
「パールフのお父さん。俺たちは村を出て迷惑をかけました。しかし、今はSランクにまでなりました。今日はクラーケンを討伐することが出来ました」
「そうか、俺の船を沈めたのはクラーケンだった。仇を取ってくれてありがとう」
そしてダーツは少し沈黙を持ったあとに意を決したかのように切り出す。
「お父さん、パールフを俺に下さい。一生大切にしますっ」
「ちょっちょっ、いきなり何を言い出すのよダーツ」
「そうか、宜しく頼む。だって。パールフはどうすんの?」
「えっ えっ そ、そんな急に言われても」
「受けるにしろ断るにしろ早くしないとお父さんは悪霊になるぞ。現世に長く居すぎているからな」
「えっ?」
「ほら早く。安心して天に帰してやらないと」
「ダーツ、本当に私でいいの?」
「ずっと昔からお前が好きだった。今の関係が壊れてしまうんじゃないかと思って言い出せなかったんだ」
「・・・私も昔から好きだったよ」
「ということでお父さん、ダーツのお嫁さんになることを許しますか?」
お父さん幽霊は微笑んで頷いた。
「お母さん、妹さん、まだ伝える事があるなら今のうちに言って下さい。お父さんを天に帰します」
そして二人は帰ってきてくれててありがとうと伝えた。
「じゃ、祓います」
セイは手印を組んで術を唱えてパールフのお父さんを天に帰した。
「安心した顔をして天に帰って行ったよ。じゃ、後は家族で話しておいて。他の所にも行かなきゃダメだから」
そしてセイは次々に幽霊達を天に帰していき、海から上がって来れない幽霊達には妖力を込めてまとめて天に帰したのだった。
「終わったのかよ?」
ヘスティアがやってきて幽霊を天に帰すセイを見ていた。
「後はシーバスの所だけ。ウェンディとアーパスは?」
「漁村の中を見て回ってるぞ。どこになんの食べ物があるのか確認してんじゃねーのか」
祭りの準備を見に行ってるのか。まぁ、ここなら安全だろう。
ヘスティアはセイと一緒にシーバスの家に行く。
「話は終わったか?」
「セイ、ありがとうな」
男3人が目に涙を貯めていた。色々と本音を話したのだろう。
「ミナートさん、何か最後に伝えたい事はある?」
「うんうん、わかった」
「かぁちゃんはなんて言ってるんだ?」
「シーバスは好きに生きなさい。お父さんにはお母さんから言っといてあげるだって」
そう伝えるとシーバスは涙が堰を切ったかのように溢れ出した。
「かぁちゃん、俺もう26歳だぞ。自分で言えるって」
「お母さん笑ってるよ。もういいか?」
「かぁちゃん、俺頑張るよ。天から見守っててくれよな」
シーバスがお別れを言ったのでミナートを天に帰した。これでこの漁村にいる幽霊は居なくなった。悪霊になる心配もないだろう。
「セイ、何から何まで感謝する」
「いや頭を下げて貰うような事はないよ。それより今から宴会だって、どこでやるか場所はわかる?」
「あぁ、案内しよう」
「セイ、おんぶ」
ウェンディがいないのでそういったヘスティア。ヘスティアをおぶるとウェンディと違ってると当たるんだよね。生足も持たないといけないし。
「ヘスティア、服着ろよ。買ってやっただろ?」
「なんでだよ?」
「お前の生足を触ってると恥ずかしいんだよ」
「エロい事を考えてんじゃねぇ」
「考えてるか。単に恥ずかしいんだよ」
「それがエロいってんだよっ」
「なら降りろよ」
「嫌だっ」
「シーバス、あの派手なねーちゃんはセイの女か?」
兄のシオがシーバスに聞く。
「いや、あれはヘスティア様。火の神様だ」
「は?」
「風の神様と水の神様も来てる。それに兄貴達を助けたのはウンディーネ、水の神様アーパスの眷属である大精霊だ。クラーケン討伐の手助けもしてもらったぞ」
「お前、そんな冗談を言うようになったのか?」
「本当だ。セイは神様の面倒をみてんだよ。あのおぶさってるヘスティア様とかすげぇ強いから触ったりすんなよ」
「するか馬鹿野郎っ」
「シーバス、あのセイという若者は何者じゃ?」
「すげぇだろ?あいつは世界中の冒険者ギルドで唯一の特別ランクだ。Sより上なんだぜ、俺達より歳下のくせによ。でも、あいつとあいつの仲間達を見てたらそれも理解出来る。何もかも異次元なんだよ」
「そうか、まだ上が居てくれたら天狗にならずに済むのぅ」
「まぁな」
そしてヘスティアをおぶってるとぬーちゃんが首に纏わりつき、ウンディーネも纏わりついて来た。
「なんだよ。今は俺様がおぶってもらってんだぞ」
「セイ、リザードマンが挨拶したいって」
ウンディーネはヘスティアの言うことを無視してそう伝えてきた。
「どこにいるの?」
「さっきの海岸よ」
「シーバス、ごめん。ちょっと寄り道するわ」
「どこにだ?」
「さっきの海岸。リザードマンが会いに来たらしいから行ってくるよ」
「リザードマン?アーパス様の眷属か?」
「そう」
「俺も行く」
と、シーバス達も付いてきた。
「お初にお目にかかりますセイ様」
「おー、お前がリザードマンか。その姿はかっこいいな、それに強そうだ。いつもアーパスの替わりに戦ってるんだってな。お疲れ様」
リザードマンはワニのような顔付きと身体で二本足で立っている。大きさも中々のとのだ。
「この度は我々の力が及ばず申し訳ございませんでした」
「いやいや、戦う相性とかもあるからね。次にクラーケンが出たら急所を狙うといいよ」
「はい、人間達の戦いは見事でございました。あとこれは海中に落ちたものを回収して参りました」
「シーバス、これ誰の?」
「ガッシーのだ。そこにリザードマン達がいるんだな?」
「そうだよ」
「アーパス様の眷属リザードマン様。いつも村の為、人間の為に戦ってくれてありがとうございます。お陰様でアクアは平和です」
シーバスはきちんとお礼を述べた。リザードマンもまさか人間達が自分達のやっていることを理解して礼を言ってくれると思わず少し照れくさかった。
「何しに来たの」
「うわァァァァァつ。だからアーパス気配を消して来んなよ」
「消してない。存在感が薄いだけ」
「まぁ、いいや。何しに来たとか言ってやるなよ、毎日毎日戦ってくれてるのに。労いの言葉くらい掛けてやれ。眷属をそんな扱いしてるとかヘスティアと同じだぞ」
「俺様は可愛がってるだろうがよっ」
こらヘスティア、後ろから腕を首に回してぎゅぅとしてくんな。押し付けられてるのがより分かるだろが。
「それは嫌。リザードマン、いつもありがとう。あとよろしく」
「よろしくとは?」
「私はセイの女になったから付いていく。後はよろしく」
「おっ、お待ち下さいアーパス様っ」
「リザードマン、ちょっとの間アーパスに自由をあげて。遊びたいらしいんだよ。アクアに大きな支障が出ないくらいにはするからさ。後、ウンディーネにも言ってあるんだけど、ヘスティアの眷属イフリートとも共闘したらいいと思うよ。火属性の方が良い相手ならイフリートにヘルプを頼むといい。逆に水属性の方がいい場合はウンディーネにも手伝ってもらうし。リザードマンは瞬間移動出来る?」
「はい。部下は無理ですが私だけなら」
「了解。ならお前もイフリートをヘルプしてやってくれ。もしアーパスが戻らないといけない時は天界に帰れるようにするから」
「アーパス様の力がかなり落ちているのは?」
「人間から見られるようになるのにわざと力を落したんだよ。俺はそれを元に戻してやれるから心配すんな。あっ、それと一つ試していいか?」
「何をでしょう?」
「ウンディーネに力を注いだら人間から見えるようになったんだよね。リザードマンにも力を注いで見てもいいか?」
「えっ?あ、はい」
ということなので妖力を注いでみる。
「お、おお、力が溢れて来ますぞっ」
そしてなんとなく光を放つような所まで来た時にシーバス達にも見えたようだ。
「お前、これでもまだ満タンじゃないだろ?かなり疲れてたんじゃないのか?」
「そ、そうかもしれません」
「緊急の時は仕方がないけど、そうじゃなければちゃんと休みを取れよ。そうしないと不覚を取るぞ」
「はっ、ありがとうございます」
「お前らは肉食う?」
「はい」
「ならこの肉を一塊やるから、疲れたら少しずつ食べろ。結構回復すると思うから」
「なんの肉ですか?」
「ドラゴンだ。噛み切りにくい肉だけどお前らなら丸呑み出来そうだからな。いつも頑張ってる褒美だと思ってくれ」
「はっ、ありがとうございます。まさかドラゴンの肉をいただけるとは」
「一つで足りるか?」
「はい。十分です。ありがとうございました。アーパス様、どうぞセイ様とお楽しみ下さいませ。後は我々にお任せ下さい」
そう言い残してリザードマン達は海へと消えて行った。
「あーあ、アーパス、お前も眷属をセイ盗られんぞ」
「構わない。私とセイは一心同体」
アーパスは無表情でそう言ったが冗談か本気かよく分からなかったのであった。