ウンディーネからのヘルプ依頼
「そうか。ようやく出来たか」
「お待たせ。明日出発する?」
「そうだな。あっ、サカキ達も呼んでくれよ。祝杯をあげようぜ」
「なんの?」
「一角幻獣の角が売れた金が入って来たんだよ。いくらになったと思う?」
「検討が付かないや。金貨10枚くらい?」
「それがよぉ、金貨200枚だぜ。セイが無理矢理角をくれたお陰で大金持だぜ俺達」
なんか機嫌がいいと思ったら結構な高値で売れたんだな。
では遠慮無しにサカキ達を呼ぼう。
「おい、酒を樽で持ってきてくれ」
シーバスがそう叫ぶと宴会開始だ。
「角の使い道はわかったの?」
「いや、貴族がオークションで落としたらしい。物好きな貴族がいたもんだぜまったく」
まぁ、珍しいだろうから金を持ってるコレクターみたいな人が二人いたら値段も跳ね上がるのだろう。1本だけの買取にしたのが良かったのかもしれない。
フィッシャーズ達は一人33枚ずつ分けて残りは皆の宴会費用に取っておくらしい。今日の支払いもそこからしてくれるようだ。
サカキとクラマは遠慮なく飲んでいく。元から遠慮なんて言葉知らないだろうけど。
「ツバス、アンジェラが凄いローブ作ってくれるって言ってたからこれで払えるね」
「凄いローブ?」
「そう、素材が私達を絡め取った蜘蛛の糸でね、それを・・・」
「それを?」
(ドラゴンの血で染めてくれるんだって)
パールフは声を潜めてツバスに伝えた。
「ドラゴンの血ですってぇぇっ」
ツバスが大声を出すから店内の客から一気に注目を浴びる。
「そんな大きな声出さないでっ」
「だって、そんなものどこから・・・、あ、そこからか」
とツバスはセイを見た。
「そういうこと。ガイアから帰って来たら出来てると思うって言ってたから楽しみね」
「な、なんかピンと来ないけど」
「シーバス達もドラゴンの皮で防具を作って貰う?今ならセイが素材をくれるって」
「おー、そりゃいいな」
と言いつつもシーバス達は素材をもらうつもりはないようだ。パールフの言った通りだな。
「あとさ、サラマンダーといい勝負したらセイの剣と同じ素材が手に入るみたいよ」
「マジか?」
「ボッケーノに行かないと無理だけどね」
「おう、お前らボッケーノにも来いよ。俺様の眷属と遊ばしてやんぜ」
「いや、ヘスティア様、そりゃ遠すぎんぜ」
「俺達は先に帰ってるけどよ、走ってきたらお前らなら半年ぐらいで来れるだろうが」
「またこっちに帰って来なきゃなんねぇんだぞ」
「別にまた半年かけて帰りゃいいだろ?」
「ヘスティア、人間の感覚とお前と一緒にするな。それに往復で一年間ずっと走り続けてそれだぞ、しんどいだろうが」
「そういうもんなのかよ?」
「そういうもんなんだよ。俺たちはぬーちゃんがいるから楽させてもらってるけど」
「まぁ、確かに力が落ちてずっと歩いてるの面倒っちゃ面倒だよな。ウェンディはすぐにセイにおんぶしてもらってるけどよ」
「いつわたしがセイにおんぶしてもらってるのよっ」
「どの口がそういうんだ。毎日だろうが毎日っ」
「やへへへよ〜」
ふざけた事を言うウェンディのほっぺたを両手でつまんで伸ばしてやった。
そして帰り道にウェンディをおんぶしているセイ。
「俺様もおんぶしてくれよ。歩くの面倒なんだよ」
「なら、飛べるまで力を注いでやるからこっちに来い」
「そんなことをしたらまた見えなくなるだろうが」
「なら歩け」
「ちぇっ。ウェンディばっかり構いやがってよ」
「あのなぁ。ヘスティアも起きないときはおぶったり抱っこしてただろうが。お前の抱っこ紐あるんだから知らないとは言わせんぞ」
「じゃあ抱っこしろよ」
「アホか。ただでさえウェンディをおぶってることで有名になってきてんだぞ?ヘスティアまで抱っこしてたらもっと目立つだろうが」
「じゃ、こうしてやんよっ」
と、セイに飛び乗って肩車をされにくるヘスティア。
「おーっ、見晴らしいいぜ」
ヘスティアの生太ももに顔を挟まれるセイ。
「ヘスティア、降りなさい」
「別にいいだろ?」
「お前の太ももが顔に当たって恥ずかしいんだよっ」
「お、お前エロいこと考えんなっ」
そう言って真っ赤になって飛び降りたヘスティア。
「エロいとかどうとかより生足を顔にくっつけるな。はしたないだろうが」
「誰がはしたないんだっ。エロい事を考えるお前が悪いんだろうがっ」
「誰だって下着姿みたいな女の太ももが顔に密着したら恥ずかしくもなるわっ」
「下着じゃねーっ。神服だろうがっ」
「そんなのパンツと変わらんだろうがっ」
「パンツじゃねーっ」
大声で言い合いする二人は人目を引き寄せ、また有名になって行くのであった。
翌朝チェックアウトする時に支配人を呼んでもらった。
「お世話になりました。今から出てしばらくというかもう来ないかもしれないので挨拶をさせてもらおうかと思って」
「そんな事をおっしゃらずにまたお越し下さいませ。何ならこちらに住んで頂いても結構ですよ」
「いつも親切にありがとうね。これ、お礼と言っちゃなんだけど、受付にでも飾っておいて」
と、大きなダイアモンドを埋め込んだアーパスプレートを渡す。
「こ、これは・・・」
「この宿は水の女神アーパス御用達宿として認定致します」
「あっ、ありがとうございますっ。当宿の宝物に致します」
「また来たら宜しくね」
「はいっ、従業員一同心よりお待ちしております」
と、全員から頭を下げられてしまったのであった。
後にアーパスプレートが王室の目に止まり、献上せよ、いや無理ですと騒動になることをセイは知らなかったのである。
アンジェラの店に寄って日本酒の樽を渡し、ギルドにも挨拶をしてから漁村に向けて出発したのであった。
急ぐ旅でも無いのでだべりながら漁村へ向かう。
「セイッ」
「おっ、ウンディーネ、久しぶりだな。何してたんだ?」
「お願い、ヘルプヘルプ」
「は?何と戦ってるんだ?リザードマンと共闘してんじゃないのか?」
「海の魔物が大きくて強いの。リザードマン達の攻撃が効かなくって」
と、話を聞くと海の魔物を討伐している時に大きな魔物がでて攻撃が効かないらしい。それに船が何隻か沈められて大事になっているようだ。
「船に乗ってた人は?」
「岸に運んだから全員無事」
「セイ、どうした?」
「いま、ウンディーネがヘルプを求めてきてるんだ。海に大型の魔物が出て船を沈められたらしい」
「なんだとっ?場所は?」
「ここから南に行ったところ」
「南だって」
「ちいっ、うちの村じゃねーか。急ぐぞっ」
パールフは思いっきり支援魔法を掛け、フィッシャーズ達は全力で走る。こちらはぬーちゃんが空を駆けながら後を付いて行った。
「もうすぐだっ」
そして漁村に到着すると大騒ぎになっていた。
「シーバスっ、良いところに帰ってきた。デケェ魔物が出て船を沈められた」
「乗ってた人は?」
「なんか波に乗って岸まで流れ付いたから無事だ。船は壊れちまったがよ」
「船なんか作り直せばいい。それより人が無事で良かった」
「お前の所の親父と兄貴も無事だぞ」
魔物に襲われたの船の中にシーバスの家の船も含まれるようだ。
「わかった。魔物退治に出せる船を貸してくれ」
「シーバス、船は危ないぞ。アーパスの眷属が苦戦してる相手だからな」
「セイ、それでも俺たちはやらないとダメなんだよ。ここは俺たちが守らねぇとダメだからな」
「わかった。タマモ、出て来てくれ」
「はいよ」
「タマモとぬーちゃんでフィッシャーズを乗せて空中で戦えるようにしてやって。ウンディーネ、相手はどんな敵か絵にかいてくれるか?」
と、いうと地面に水で絵を描いてくれる。
「イカみたいだな」
「そう、イカのものすごく大きい奴」
「この絵、まさか、クラーケンか?」
シーバス達は知っているようだ。海の怪物クラーケン。沖合で船が沈められるのはこいつのせいだと言われているが物語だと思っていたらしい。
「リザードマン達はどこを攻撃してんだ?」
「胴体。でも効かないの。それに足がたくさんあって近付くのも難しいのよ」
「それ、空中まで持ち上げられるか?」
「かなり大きいから無理かも」
「わかった。じゃ、力をやるから」
とセイはウンディーネに力を大量に注いでいく。するとどんどん金色に輝いていき、
「うおっ・・・・」
ここまでするとシーバス達はウンディーネが見えたようだ。大精霊は力を上げると人にも見えるようになるのか、新発見だな。
「シーバス、ウンディーネがイカを空中まで持ち上げてくれるから、ぬーちゃんとタマモに分乗して攻撃してくれ。触腕は拘束出来ないから攻撃はされる。胴体は攻撃が効かないらしいから目と目の間の少し上を狙って攻撃をしてみてくれ。イカと同じならそこが急所だ。ダーツがピンポイントでそこを刺したら死ぬと思う」
「わかった。ダーツ、お前に一番危険な役割をさせることになっちまうがいいか?」
「しょうがねぇな。セイは俺のレイピアが一番向いてると踏んだんだろ?なら俺がやるしかねぇだろうが。シーバス、援護はしっかり頼んだぜ」
「おうっ、任しとけ」
「ダーツ、これ着て行けよ。これなら一撃を食らってもダメージ無いと思うからな」
「おっ、そんなすげぇマント貸してくれんのかよ。悪ぃな」
「ま、しっかり仕留めて来てくれ。一発大物狙いをちゃんと仕留めたらいいことあるかもよ」
「そうか、ならいっちょ頑張ってくるわ」
「あたしたちは飛んでやるだけでいいのかい?」
「あぁ、村を守るのはフィッシャーズ達がやるからそれでいいよ」
「そうかい。なら鵺、あんたも余計な事をするんじゃないよ」
「はーい」
ぬーちゃんも一応鵺に戻ってシーバス達を乗せる。
タマモにシーバス、ダーツ、パールフ。ぬーちゃんにチーヌとガッシー、ツバスだ。
ツバスは火魔法で援護攻撃、パールフはダーツにありったけの支援魔法をかけ、他の皆はクラーケンからの攻撃を避けるサポートだ。
「タマモとぬーちゃんはウンディーネとタイミングを図ってやってね」
「はいよ。じゃ、行くよあんた達」
こうして、フィッシャーズ対クラーケンの戦いが始まるのであった。