やっと出来た
翌朝、案の定二日酔いと寝不足で使い物にならないアンジェラに無理矢理ポーションを飲ませた。
「ほら、回復したろ?ちゃんと働け」
「何を飲ませたんだ?」
「麻薬だ。疲れも吹き飛んだ気になるだろ?」
「貴様っ、そんなものを飲ませたのかっ」
「アンジェラ、それは冗談だ。セイが持ってる特性ポーションだ。すんげぇ高いやつだかちゃんと働けよ」
「そんなに高いのか?ちゃんと金は払うぞ」
「いいよ別に。それよりなるはやで宜しくね。あと糸が切りにくいならヘスティアに焼き切ってもらって。ヘスティアなら切れると思うから。細かいコントロール出来るよな?」
「まぁな」
「じゃ、アンジェラの店に行こうか。アーパスと俺は宝石屋に寄ってから行くから」
「えーっ、アーパスだけずるい」
「買い物じゃない。それにお前ら防具に宝石使うだろうが」
運んで貰った朝ごはんを食べて出発。シーバス達は家に帰って寝るようだ。
宝石屋で二手に別れてそれぞれの所へ行く。ウェンディ達の護衛変わりにフィッシャーズはアンジェラの店経由で帰ってくれるとのこと。
宝石屋でアーパスにプレートに名前を書かせる。大きめに書けと言っておいた。
「これなに?」
「アーパス認定のお宿だ。全部タダにしてもらってるの悪いだろ?」
「向こうが勝手にやってくれているだけ」
「それでもだよ。あそこは無理なお願いも嫌な顔ひとつせずに受けてくれるんだぞ。なかなかないぞあんな宿」
「セイがそういうならそれでいい」
金のプレートを受け取り店をでた。
アクアも近くにあればピンクゴールドとか持ってきてあげられるのにな。ボッケーノの宝石屋の方が腕とセンスはいいみたいだけどこの店もいい店だ。というかアクアの店ってまだ外れに当たってないな。
アンジェラの店に行くとちゃんと働いていた。パールフは帰らずにここで支援魔法を掛けてくれるようで一緒にいた。
「ありがとうね」
「別に大丈夫。討伐遠征したら寝ずに戦うとかもよくあるし」
「結構過酷な戦いしてきてるんだね」
「そうよ。みな家を捨てて出て来たみたいなもんだから絶対に成功しなきゃってのがあるからね」
そうか冒険者になるのも色々あるんだな。
「他の仕事しようとか思わなかったの?」
「漁村の娘なんてなれるものしれてるわよ。店で安月給で給仕とかそんな仕事しかないもの。それよりせっかく魔法が使えるんだから冒険者になる方がお金持ちになれる可能性が高かったの。母親からは死ぬほど反対されたけど、仕送り出来るようになってからは何も言わなくなったわ」
「フィッシャーズのみんなはSクラスまで上り詰めているのに贅沢とかしてないよね?」
「そうよ。報酬の単価は余り高くないし、みんな仕送りというか村の財政を支えているみたいなところがあるのよ。漁業って命懸けな割に儲けが少ないからね」
「王都にたくさん卸してても儲からないの?」
「大きな魚は卸せるけどそれは沖に出ないと捕れないし、捕れる季節も決まってるからね。父は一発狙いで沖に行って帰って来なかったわ、私達家族を残してね。一発狙うならちゃんと仕留めて来いっての。自分が海に仕留められてちゃ世話ないわよ」
売れない小魚は村の食料となり、網の繕いや漁師の仕事を手伝ってその小魚を分けて貰うそうだ。小麦やパスタの麺は比較的安く手に入る為、毎日毎食小魚のパスタやスープとパンという食事が嫌だったとのこと。
「アクアは肉は高いの?」
「そうね、セイが食べさせてくれてたブラックオークやミノタウロスの肉なんてほっぺが落ちそうだったわよ」
「確かに普通の豚や牛より美味しいよね。コカトリスとかはいないの?」
「ガイアの方だといるらしいわよ。あっちの国は裕福だし、人の多さも街の大きさも桁違いね。ガイアで冒険者をしていたらSになんてなれなかったと思うわよ」
「どうして?」
「競争が激しいから割の良い依頼は上のランクの奴らが持って行っちゃうのよ。依頼主も同じお金を払うなら高ランクのパーティに頼みたいでしょ?だから下っ端はなかなか上がれないし、ガイア独自の仕組みもあるから」
「独自の仕組み?」
「そう。クランという組織を冒険者達が作っててね、Sの奴らが頭でそこのクランに属してないとなかなか活躍出来ないの。5〜6のクランに別れてるんじゃないかな?」
「へぇ。そうなんだ」
「セイ達がガイアに行ったら面白いことになりそうね。どのSのパーティも自分より上のランクの冒険者と顔を合わせた時が楽しみだわ」
うわぁ、嫌な予感しかしないわ。なるべく関わらないようにしよう。
「お昼ごはんどうする?」
「昨日食べたおつまみ美味しかったわ。あんな料理は他にもあるのかしら?」
「じゃあ、砂婆にお昼ごはん作って貰おうか。牛丼とかにしてみる?」
「なにそれ?」
「角有りの煮込みをかけたご飯ってところかな。食べてみたらわかるよ」
と、砂婆を呼んで牛丼を作って貰う。メラウスの包丁は肉も薄切りにするもの楽だと砂婆は言っていた。ぬーちゃんも一緒に食べるとのことなので給食の鍋かと思うような大きな鍋で煮ていく。少し作るより一度にたくさん作った方が美味しくなるようだ。
「うわ、お腹の空く匂いね」
「これをご飯にかけるだけだよ。卵いる?」
「卵をどうするの?」
「こうやってかけて食べるんだよ」
「生で?」
「そう。気持ち悪いなら卵無しで食べて」
女神ズはみんな卵がいると言うのでそれぞれに卵を溶いて渡す。それを見て思案するパールフとアンジェラ。
「じゃ、肉を乗せる前に白身だけをご飯に混ぜて、最後に黄身を乗せたら?」
生卵が苦手な人はたいてい白身の生がダメなのだ。熱々ご飯に白身だけを混ぜると適度に熱が加えられて生感が減るし、ご飯もふわふわになるのだ。
で、肉をかけて黄身を乗せたら出来上がり。
「はい、これでも無理ならぬーちゃんにあげて。二人は卵無しで食べればいいから」
恐る恐る二人は口に入れると目を見合わせる。
「美味しいっ」
「だろ?里の卵は生で食べられるし、丁寧に育ててるから生臭くもなくて美味しい卵なんだよ。アクアの卵が生で食べられるかどうかは知らないから試すのはやめてね」
と釘を刺しておく。サルモネラ菌は結構やばいからな。
みんなお代わりをするけど、卵は自分でやれと言っておいた。もうやってあげるのはぬーちゃんにだけだ。
「はーっ、美味しかった。肉も味付けも卵も最高っ」
「確かに旨い飯だった。お前らはいつもこんなものを食っているのか?」
「肉は大量に持ってるからね。でもこれからはフィッシャーズ達が肉を狩って来れるんじゃない?」
「そうだ。あそこに行けば肉狩ってこれるよね」
「そうそう。黒豚とか簡単に倒せるならああいう場所を見付けておくといいよ。特にアクアなら貴重な肉牧場だからね」
「そうか。そういうのも探しておいた方がいいよね」
「他の人にバレないようにしないとね」
「あんな所、誰も行かないわよ」
ついでに結界を張っといてやれば良かったな。そうすればあそこに溜まったままだから狩りやすかったのに。ガイアの帰りに寄って結界を張るか。
こうした生活が2週間程続き、パールフは毎日参加、ツバスは時々参加。シーバス達はチラッと様子を見に来るだけだった。そしてようやくウェンディ達のマントが完成したのであった。
「見て見てっ。どう?」
ウェンディがマントを来てくるくる回って見せてくる。
「あぁ、かわいいよ。防具というよりお出掛け用のフード付のコートみたいだね」
ついでにみんなの靴と手袋も作って貰って3人が色違いコーデみたいになっている。
「アンジェラ、お疲れ様でした。支払いはいくら?」
「どうしようかなぁ。私も勉強させてもらったし、このハサミと針はくれるんだろ?」
「そうだね。そのハサミは他の素材ならめちゃくちゃ楽に切れると思うよ」
「これ、特殊な素材なんだよな?」
「自然にはない素材だね。ヘスティアの加護を受けた素材だから普通は手に入らないよ」
「じゃ、これと交換でいいか?そんな神様の加護を受けた道具なんていくら金を積んでも手に入らんだろ」
「アンジェラがそれでいいならいいけど。お金はいらないの?」
「金より職人に取って道具は宝だからな。これ以上の報酬はねぇよ」
「じゃ、糸も結構余ったから、それも報酬としてあげるよ」
「いいのか?」
「もっといる?」
「まだあるのか?」
「いくらでも」
「なら、パールフとツバスのローブを作れるぐらい頼めるか?」
「えっ?」
いきなり自分の名前を出されて驚くパールフ。
「この糸は強靭かつしなやかと軽さを備えている。衝撃吸収性も抜群だ。こいつに耐火性を施してやれば魔法使いの最高のローブになるぞ」
「耐火性か。何で耐火性を持たせるつもり?」
「それはこれから素材を組み合わせて考える。出来るのはまだまだ先になるから今から金を貯めとけよ」
パールフとツバスには売り付けるらしい。
「まだ耐火性の素材が決まってないならこれ使ってみる?ワイバーンのマントをこれで染めたらイフリートの炎にも耐えたから糸にも使えるんじゃないかな?」
「これは何だ?」
「ドラゴンの血。どのドラゴンの血か分からないんだけど、ドラゴンなら全部耐火性があるから大丈夫だと言われたんだよ」
「そんな物まで持ってるのかよ・・・」
「じゃ、渡しておくから好きに使って」
ぬーちゃんが鬼蜘蛛から糸を大量に貰って来てくれたのでそれも渡しておいた。フィッシャーズがガイアから帰って来た頃には完成させておくとのこと。
「いいの?あんな貴重な素材」
「持ってても売っちゃダメと言われてるから使い道ないんだよ。それにまだまだあるから。それとシーバス達もドラゴンの皮で防具作るかな?」
「欲しいとは思うけど、男はそういうところ難しいからね」
「どういうこと?」
「自分で仕留めた獲物の素材を使いたいんじゃないかな」
「なるほどね。今度それとなく聞いといてくれない?必要ならあげるから」
「わかった。でもいらないと言うわよ。それより剣の方が欲しいかもね」
「剣か。鉱石はあるけど職人がねぇ。メラウスの事を知らない人が作れるとは思わないんだよね」
「ボッケーノの職人はそんなに凄いの?」
「ドワーフの中で知らない人はいないって言われているぐらいだからね。クラマが剣とかに詳しいんだけどベタ褒めするぐらいだから相当凄いんだと思うよ」
「そっか、ドワーフの職人なんだ。そりゃ人族の職人は敵わないかもね」
種族特性もあるけど寿命が違うから年季も段違いだろうしな。
「素材はどうやって手に入れたの?」
「今はヘスティアが一緒にいるから頂戴と言えばもらえるけど、普通はサラマンダーといい勝負をしたらご褒美に貰えるんだよね。なぁ、ヘスティア」
「そうだぞ。シーバス達もサラマンダーと勝負してみりゃいいじゃねぇか」
「サラマンダーと?それって普通のサラマンダー?」
「俺様の眷属だ。なかなか強えぞ。セイ達には殺されそうになりやがったけどな。大精霊のイフリートもヤバかったから今はこいつの眷属みたいになりやがったんだ。俺様から眷属を取り上げるとか酷ぇ野郎だまったく」
それは可愛がりが過ぎたからだ。俺のせいではない。
「でも場所はボッケーノなんでしょ。遠いね」
「そうだね。シーバス達でも半年くらいはかかるかも」
タマモに元の姿に戻って貰っても全員乗って行くのは厳しいしな。
そんなの話をしながらいつもの店に晩飯を食いに行ってシーバス達と合流するのであった。