フィッシャーズも参加
「これ、本当にドラゴンの皮か?」
「そうだよ」
「私のハサミで切ってみてもいいか?」
「どうぞ」
おねーさんは裁ちバサミを持ってきて切ろうとするが無理なようだ。
「こいつは・・・、本当にドラゴンの皮なんだな」
「だからそう言ってるじゃん」
「こんな物どうやって裁断しろってんだよっ」
「なら、俺が切るから切り方教えてくれる?」
「それに縫うのに針とかどうすんだよ?これ、針も通らねぇだろうが」
あっ、なるほど。バビデはどうやってたのかな?
「これ作ってくれた人はどうやったかわかる?」
と、ブラックドラゴンのマントを見せる。
「なんだこの縫い方は?それになんの糸を使って縫ってるんだ?」
「ごめん、わかんないや。針は特別な物かもしれないからそれは準備するよ。この辺で針を作ってる職人はいる?」
と、職人を紹介してもらうことに。素材はイフリートにメラウス鉱を持ってきて貰おう。多分ビビデがそれで針を作ったに違いない。糸は鬼蜘蛛から糸を貰うか、あれ丈夫だし。
とりあえず皮は染色してみるから明日もう一度来てくれとなった。この様子だと3日後には完成無理そうだな。前にシーバス達と行った酒場に夜に行けば会えるかもしれない。
まずはイフリートを呼ぶ。
「お呼びでございますかご主・・・セイ様」
ヘスティアにギロっと睨まれてご主人様と言いかけたのをやめるイフリート。
「悪いんだけどさ、メラウス鉱石を少し持ってきてくれない」
「かしこまりました」
そしてしばし待つと大量に持ってきやがった。この量だとどれだけの針を作れるのだろうか?
「ありがとうな。アネモスとボッケーノの様子はどうだ?」
「はい。シルフィとフェンリルには会えました。が、そこまで驚異的な魔物は出てませんのでまだ共闘とはなっておりません」
「そうか。人間が対応出来ているなら問題ないね」
「はい。アネモスは街の近くにブラックオークや毒キノコが出始めていますが人間が対応しております」
「了解。いつもありがとうね」
「とんでもございません。ではまた何かありましたら」
とさっさと帰ってしまった。ヘスティアの圧に耐えられなかったようだ。
「ちぇっ、イフリートの野郎、俺様と目も合わせずに帰りやがった」
「日頃いじめてるからだろ?」
「いじめてなんかねーよ。可愛がってやってたんだよっ」
それをイジメというのだ。
とりあえず針を作っている職人の所にいく。この辺りは職人街みたいで防具屋からも近かった。
「すいませーん、特注の針を作ってもらいたいんだけど」
「はいはい、どのような針をお作りすれば宜しいですかな?」
老人と呼ぶには少し若い男性が出て来た。
「この鉱石から作って欲しいんだけどできるかな?かなり高温じゃないと溶けないかもしれないんだけど」
「これはなんの鉱石で?」
「メラウスっていうんだけどね」
「メラウス?」
「そう。多分この世界で一番硬い鉱石」
「聞いた事がありませんな。針の用途は?」
「あっちの威勢のいいおねーさんの所で防具を作って貰うつもりなんだけど、普通の針だと歯が立たないみたいでね。あとここは裁ちバサミとかも作れる?」
「まぁ、そのような物全般を作ってはおりますが・・・。そのメラウス鉱石とやらを試してみて宜しいですかな?」
どうぞと言って渡す。男性は奥の工房でそれを炉にいれてみるようだ。
一時間程待っても男性は出て来ない。
そして、
「な、何なのですかこの鉱石はっ。いくら高温にしても溶けてくる気配がありませんっ」
「わかった。ちょっと手伝うね」
と、工房の中に入れて貰ってヘスティアにヘルプをお願いする。
「真メラウスまでやるなよ」
「わかってるよっ」
炉に入れられたメラウス鉱石をヘスティアが溶かしていく。
「ほらよ、早くやらねーと冷めちまうぞ」
「なっ、なっ、なっ」
「いいから早くやれって」
イラっとしたヘスティアが怒鳴ると男性は慌てて加工をやり出した。ヘスティアがそばに付いて何度か熱を加え直して針とハサミを作っていく。そしてそれは夕方まで続き、針とハサミが完成した。
「あの・・・お客様方は・・・」
「俺はセイ。今手伝ってたのは火の神様のヘスティア。メラウス鉱石は火の神様の加護を受けた鉱石で特別なんだよ。針とハサミありがとうね。いくら支払えばいいかな?」
「お、お題は結構でございます・・・」
「ダメだよ。仕事してもらったんだからちゃんとお金を取らないと」
「で、ではこの鉱石の余りを頂く事は出来ますか。残りの人生、これを自らの手で加工出来るように精進したいのですっ」
「ヘスティア、いいか?」
「別にいいぞ。自ら精進しようという心意気は気に入った。残りはくれてやろう」
「ありがとうございますっ」
男性はヘスティアが神様だと一発で信じたのだった。まぁ、何をやっても溶けなかったメラウス鉱石が瞬時で溶け出すのを見たら信じるか。
防具屋に戻って針とハサミ、それと鬼蜘蛛の糸を渡す。
「これで切れると思うんだけど試してみて」
と、おねーさんに試して貰うと何とか切れた。が、時間が掛かりそうだ。ビビデのハサミならスッパリいくんだけど、あれは特別なのだろう。こうしてドラゴンの皮を切れただけでも凄いのだ。
「型を描いてくれたら俺が切るよ。針も苦労するだろうけどそれは頑張ってね」
「貴様らは一体何者なんだ?」
「冒険者だよ。ここにいる3人は女神様。この娘は神様のアーパス、風の神様のウェンディ、火の神様ヘスティア。今回発注ひたのは女神の防具だからいいのをお願いね」
「お前の名前は?」
「セイだよ。明後日には無理そうだから待ち合わせをしている仲間を探して出発伸ばしてもらうよ。明日また来るね」
「私はアンジェラだ」
「じゃ、アンジェラ宜しくね」
昼飯を食い損ねたので腹ペコだ。宿には出る時に晩ごはんは不要と言ってきてあるので前にシーバス達と飯食った店にいく。
「おっ、やっぱり来たか」
「シーバス達を探してたんだよ。明後日の待ち合わせって伸ばせる?」
「全然構わんぞ。俺達もしばらく休むつもりだったしな。なんか用事でも出来たのか?」
「ウェンディ達の防具を作ってもらうんだけど、ちょっと時間がかかりそうなんだよね」
「どこで作って貰うの?」
「アンジェラって威勢のいいおねーさんのところだよ」
「あー、アンジェラの所に行ったの。いいところ選んだわね。私達の防具もアンジェラに作ってもらったやつよ。このローブは結構いい素材で作って貰ったの」
蚕みたいな魔物の糸から作られたローブらしくかなり高額らしい。と言っても素材持ち込みで払ったのは加工賃だけみたいだけど。
「私達も覗きに行こうか。どうせ暇だし」
「そうね。シーバス達はどうすんの?」
「俺達も見に行くか。セイが発注した物がどんなのか気になるしな」
今日はサカキ達が出てこなかったので普通の値段だったからシーバス達が奢ってくれた。マンドラゴラの買い取りでかなりの大金が入ったらしい。マンドラゴラは1本銀貨50枚程の買い取りで金貨60枚ぐらいになったそうだ。パーティで分けて一人金貨10枚ずつ。余りは皆で飯を食うらしい。一角獣の角は査定中でどれだけの値段が付くかまだわからないそうだ。
いつもの如く寝たウェンディをおんぶして連れて帰ることに。
「どこに泊まってんの?」
とツバスに聞かれたので宿の名前を言うと
「えっ?あんな高い宿に泊まってんの?」
「そうだよ。部屋余ってるから泊まりにくる?」
「行くっ」
「シーバス達はどうする?」
「あんなところ緊張して寝れねぇから遠慮しとく。ツバスとパールフを頼むわ」
「了解。じゃ、明日は朝からアンジェラの店に行くからそこに直接来て」
了解と手を振ってシーバス達は6人のシェアハウスというか借りている家に帰っていった。
「何ここ、すっご」
「だろ?アーパスのお陰で無料なんだよ」
「えっ?マジ」
「そう。神様の泊まる宿だと宣伝になるみたいでね」
「へえっ、いいなぁ」
「と言っても悪いからなんかお返しはしようと思ってるけど」
「そんなの気にしなくていいのに」
「いや、気にするよ。多分ここ一泊で金貨2〜3枚すると思うんだよね。ご飯も無料だし」
「それなのにあんな店のご飯食べにきたの?」
「あんな店って、あそこ旨いじゃん」
「そうだけどさぁ、こんな宿のご飯と比べちゃダメよ」
「そう?どっちも旨いけどね。明日の晩ごはんはここで食べてみる?」
「食べるっ」
そして、交代で風呂に入って部屋は別れて寝る。ウェンディは寝て起きないので風呂無しだ。着替えはヘスティアにお願いしておいた。
翌朝、フィッシャーズ達も晩ごはんをここで食べるから追加を払おうとするとそれもいらないと言われ、ケーキも箱に入れて渡された。お出掛けのお供にどうぞだって。あと、延泊する事になったと伝えるといつまでもどうぞとか笑顔で言われてしまった。本当によくできた宿だ。
アンジェラのお店に到着すると、
「え?フィッシャーズ達と知り合い?」
「そう。ここにいる間は臨時パーティを組んでるんだよ。俺がなんの素材を渡したか見に来たんだ」
「ツバス、あんたドラゴンの皮って言ったら信じる?」
「あー、やっぱりそうだったんだ。セイのブラックドラゴンだったわよね。神様達のはなんのドラゴン?」
「ヘスティアがファイアドラゴン。ウェンディとアーパスはピンクドラゴンだよ。防御力はブラックのほうが上なんだけど、色が可愛くないからって」
「ピンクドラゴンなんているんだ、見せて見せてっ」
ツバスもパールフもノリノリだ。しかもドラゴンの皮と言っても驚きもしない二人にアンジェラは驚いていた。
「染色は出来たぞ。こんな色でよかったか?」
ピンクは元の皮の色をキレイに発色させ透明感のあるピンク。薄いブルーはそこに色を乗せたので透明感はなくマットだけどキレイな水色に染まっていた。
「うん、この色好き」
「わたしもこのピンクでいい」
レッドドラゴンのもキレイに透明感のある発色をしていた。バビデのエナメル調の色合いとは違うが綺麗な色だ。
そして、裁断はこの線に沿って切って欲しいと言われたので、ナイフに妖力を込めてスススっと切っていく。
「なんだそのナイフは?ドラゴンの皮を紙を切るように切れているではないか」
「ヘスティアの力を借りてるんだよ。ナイフにヘスティアのサインが入ってるだろ?それにこのナイフを打ったのはボッケーノで一番の職人だからね。切れ味抜群なんだよ」
そして。縫うのに針を刺すのが大変だなとなり、パールフが支援魔法でアンジェラを強化しながら作ることになったようだ。他にも装飾を入れるらしく、女神ズとフィッシャーズの女性陣達はキャッキャッと防具作りに入ったのであった。