幻覚の内容
「で、どんなの幻覚を見てたの?」
「サカキ、俺にもそのキツイのくれ。シラフでこんなの言えねえからよ」
と、シーバスはドワーフの酒を煽った。
「カァーッ、よくこんなの平気な面してそのまま飲んでやがんな」
シーバスは酒に強いらしく、酒に酔ったという言い訳をして話しだした。
「まだ俺が成人する前の話だ。俺が14歳、ツバスが12歳の時だな」
どうやら幼馴染といっても歳は違うらしく、男達は26歳、女性二人は24歳らしい。
ーシーバス14歳の頃ー
「ねぇ、本当に漁師にならずに冒険者になるつもりなの?」
村の陸に上げてある小舟の上に座って話すシーバスとツバス。
「勿論だ。その為にずっと隠れて剣の修行をして来たんだからな」
「えー、なら私も冒険者になろっかな」
「そっか。ならパーティ組もうぜ」
「いいの?」
「お前魔法使えるだろ?網の繕いには無駄な才能だしな。俺が先に強くなっててやるから後から来いよ」
「本当に?でも私が冒険者になるって言ったら怒られるだろうな。家を追い出されるかも」
「なら、俺がずっとお前の面倒みてやる。それなら家を追い出されても問題ないだろ?」
「何よそれ。私にお嫁さんになれってこと?」
「まぁ、パーティに入れてやるのは確定だ。お前の人生を背負ってやれるかどうかはまだわからん」
「どうやったらわかるのよ?」
「冒険者として成功出来たらだ。俺はアクアで一番の冒険者になる」
「えーっ、そんなの無理だよ」
「無理かどうかはやってみないとわからんだろ?でも俺はやる。漁師は兄貴が継ぐから俺は他で稼いだ方がいいんだ。それに強くなって成功したら親父達も喜ぶだろ?それにダーツ達も一緒に冒険者になるからな」
「えっ?皆冒険者になるの?」
「そうだ。まずは4人パーティってやつだ。そして2年後には5人パーティだな」
「私一人だけ女なの嫌よ」
「じゃ、パールフも誘ってみろよ。お前ら仲がいいだろ?」
「パールフの所はお父さんいないから無理だよ」
「無理なら無理でいいじゃねーか。受けるのも断るのもパールフの自由だ。それよりツバスはどうしたいんだ?」
「えーっ。本当に追い出されたら私の面倒をずっと見てくれんの?」
「まぁな」
ーーーーーーーーーーーー
「とまぁ、こんな感じだ」
「それってプロポーズなんだろ?」
「俺はそのつもりだったんだがな、ツバスはそのつもりねぇんじゃねぇかな?結局ツバスの家族も渋々了承して追い出されなかったし。それに俺が14歳であいつが12歳、プロポーズするような年齢じゃねーし、パーティ組んでからもそんな素振りみせねぇから忘れてんだよきっと」
「ふーん。で、その後どんな幻覚を見たのさ?俺達に物凄い剣幕でツバスをどうしたっ!って斬り掛かって来たんだけど」
「魔物がツバスを連れ去ったんだ。それを必死に取り返そうとしてだな。スマンかったな」
「俺はパールフを目の前で拐われた幻覚を見ていた」
とダーツが言う。
「俺は飯と酒を奪われたんだ」
「俺もだ」
ガッシーとチーヌは稼いだ金で高い飯と酒を買って食おうとしたところを盗まれた幻覚を見ていたらしい。
ダーツは詳しく話さなかったが恐らくパールフの事が好きなのだろう。
共通しているのは過去の幸せな体験から始まり、それを奪われる幻覚だ。
もし、俺が幻惑に掛かって幻覚を見ていたらどんなものになるなっていたのだろうか?まぁ、過去の幸せな記憶なんて無いから幻惑に掛からなかったのかもしれないな。あるとすれば犬の事だけど、あれは何度か酔ったり、チャームに掛かったりして幻覚を見たから耐性が付いてたのかもしれん。
ー女風呂ー
「で、ツバスはどんな幻覚を見てたんだい?」
「・・・言わなきゃダメ?」
「当たり前さね。あんたはウェンディ達をコイツラが来なければとか言ってたんだから」
「あー、口に出してたんだ私」
「そうさ。また狙われちゃたまんないからね」
「ごめん。神様達のことじゃなくてね、他の女のなの。若くて美人でスタイルのいい人間の女の子」
「はーん、シーバスをその女に盗られたのかい」
「・・・・うん」
「パールフはどうなんだい?」
「私はダーツが魔物に拐われたの」
「それまでに見てた幻覚はないかい?」
タマモに聞かれて二人は大人しく話した。
ツバスはシーバスと同じ幻覚を。そしてパールフはダーツと楽しく過ごしていた幻覚の事を。
「なるほどね。一番嬉しい頃のものを奪う幻覚か。タチが悪い魔物だねまったく」
「神様達は寝ちゃっただけなんだよね?」
「まぁ、この娘たちも私達も人間とは理が違うからちゃんと効きやしないだろ。ウェンディ達は人間みたいになってはいても人間じゃないからね」
「タマモさんたちは妖怪だっけ?」
「そう。人ならざるものさ」
「あのユキメって娘も?」
「そうさ。あの娘は雪女という妖怪さね。悪い娘じゃないけど独占欲が強くてね、それが行き過ぎると自分だけの者にしたくなって氷漬けにしちまうんだよ。セイにもやりかけたからこっぴどく叱ったけどね。あんたが見たシーバスを盗った幻覚の相手はユキメだったのかい?」
「う、うん。多分シーバス達がちやほやして楽しそうに話してたのを見たからだと思う」
「ツバスは途中でむくれてあの場からいなくなっちゃったけど、ユキメが話してたのはセイの事ばっかりだったわよ」
「えっ?そうなの?」
「セイとの出会いから始まって、どれだけセイが自分に優しいかをずっと話してた」
「セイはユキメだけに優しいわけじゃないんだけど、ユキメは自分にだけ優しいと思いたいのさ。あたしゃセイにユキメをあまり構うなと言ってるんけど懲りないねあの子は」
「確かにセイって優しいよね」
「あの子は愛に飢えてたからね。その分自分を受け入れてくれた者を構うのさ」
「愛に飢えてる?」
「そうさ。でもこの娘達に出会ってからよく笑うようになったし、知らない人とも普通に接して楽しそうに話せるようになった。今はその飢えも満たされてんじゃないのかね」
そう言ってタマモはウェンディを見ていた。タマモは毎晩のように大切にウェンディを抱き締めて寝ているセイは今が一番幸せなんだろうと思っていたのである。
(その幸せは長く続かないけど、それもいつかは大切な思い出になっていくさね・・・)
男湯も女湯もいつもより長い風呂になり、湯が冷めた頃に出てご飯にする。
「セイ、今日はカツオのタタキじゃ。ニンニクはどうする?」
「もちろんいる。生のスライスとカリカリにしたやつ両方」
大葉、生姜、ネギたっぷりに濃い目のポン酢。それプラスニンニクだ。もちろんホカホカご飯も。
「これカツオなのか?」
「シーバスの村でも捕れるの?」
「あぁ。沖合に出たらな。焼くぐらいしか食べた事がねぇが、そんなに旨くねぇからあまり食わねぇ」
「カツオはタタキじゃないとね。じゃ、いっただきま~す」
セイはネギ達をたくさん乗せて食べていく。
「うまーっ。次はカリカリニンニクを乗せてと。ウェンディ、お前達もニンニク食っとけよ」
「なんでよ?」
「俺だけが食ったらテントの中が臭くてたまらんぞ」
「えーっ。これに乗せて食べたらいいのね?」
と、ウェンディは生ニンニクを乗せた。
「あっ、それ辛いぞ」
時すでに遅し。ウェンディは生ニンニクの辛さにやられていた。ヘスティアは生ニンニクを、アーパスはカリカリニンニクを乗せて食べる。二人共気に入ったようでウマウマしていた。
ウェンディは生ニンニクをやめてネギとかを乗せるが、食べる前に薬味が全部落ちる。
キィィッーーーと怒ってるので箸で薬味とカリカリニンニクを乗せてやる。
「ほら、口を開けろ」
自分で食べさせるとまた落とすので箸で薬味を巻いて口の中に入れてやる。
「ご飯は自分で食べろよ」
「なんだよウェンディばっかしよ」
「ヘスティアは自分で食べれてただろ?」
「そうだけどよぉ」
なぜ、ウェンディに対抗したがるのだ?あーんなんて子供扱いされてんのと同じなんだぞ?
シーバス達もタタキは初めてのようで、焼酎にあわせて楽しんでいた。
その様子を見ていたセイは少し焼酎を試してみる。
ダメだ。このままではキツすぎる。
「クラマ、これ水で割ったらいいの?」
「ここは冷えとるからお湯割りがええの」
ということでお湯割りにしてみる。飲み始めはむせるがゴクンと飲み込むとタタキにも合うし、何よりも腹の中から温まる。
「かぁっーっ。これ温まるわ」
「頂戴」
「いいけど寝るなよ」
「まだ寝ないわよ」
タタキを口に入れてやりモグモグした後にお湯割りを飲む。
「おかわりっ」
その後はセイはウェンディにカツオを食べさせるマシーンと化す。
ヘスティアは熱いと言うから水割りに、アーパスは薄めのお湯割りにハチミツを入れてやる。
「甘くて温かくて美味しい」
セイもハチミツ入にして飲んだ。確かに甘くて飲みやすくなるなこれ。
セイは飲みながらウェンディに食べさせていく。
ツバスはそれをみてシーバスに向かって口を開けてみた。
「何してんだよ?」
「別に」
シーバスはツバスが何を望んでいるか理解が出来ず、ツバスの甘えは不発に終わる。
二人がくっつくのはもう少し先のお話なのであった。