苦戦
セイと対峙している魔物は大きな馬のような身体に一本角を生やしていた。その角の先には血が付いている。セイはあの角で腹を突かれたのだとサカキは瞬時に悟る。
「セイッ」
「来るなっ。そっちにもいる」
セイは歯を食いしばりサカキに答えた。
気配を消した魔物がシーバスに襲い掛かろうとしている。
「チィッ」
サカキは自分の後ろにいた魔物に気付かなかったことに舌打ちをしてシーバスに襲い掛かろうとした魔物へと攻撃をする。
しかし、魔物はヒョイとその攻撃を交わして宙に浮いた。
「こいつ飛びやがるのかよ」
サカキはセイのことを心配するがシーバスがいるので離れられない。
「ムカつくぜ」
サカキは石を拾って宙に浮いて攻撃をしてくる魔物に対抗する。
「セイッ」
「ぬーちゃんっ、俺はいいっ。ガッシーとチーヌが戦っているかもしれん。それを止めてくれ」
「セイ、ツバスがヤバい。気絶させるのに噛んだ我の毒が強すぎたみたいだ」
「わかった。ちょいとこいつを頼む」
セイと戦っている魔物をぬーちゃんに任せてアイテムバッグからポーションを取り出してぬーちゃんに渡す。
「これをツバスに飲ませろ。チーヌ達はクラマに頼んでくれっ」
セイは自分がポーションを飲む暇がなくぬーちゃんにツバス達を託して戦闘に戻る。
「くそっ、こいつ速い」
大きな図体にも関わらず素早く動き宙にも浮く魔物。
セイはパールフを気絶させた時にこの魔物に背後から角で突かれたのだ。
「ポーション飲む暇ぐらいくれよなっ」
懸命に剣を振るセイだがその剣は当たらず苦戦を強いられる。
サカキも魔物に攻撃を与えられないまま戦っていた。
クラマはぬーちゃんからの伝言を聞き、ガッシー達の元へと向かう。二人が対峙している後ろにも魔物がいた。
「ちぃぃ、あの二人を止めながら魔物と戦わにゃならんのか。風で飛ばそうにも二人共崖の側におるからそれも出来ぬわぃ」
クラマは大天狗の姿に戻り、二人を峰打ちをして魔物と戦闘に入った。
「コヤツ、すばしっこいワイ」
空中で戦闘を繰り広げるクラマ。そしてサカキも元の悪鬼に戻り、魔物と戦っていた。
「タマモ、薬だ。あとは頼んだ。セイがヤバい」
ぬーちゃんはセイの分の薬を持ってセイの元へと戻る。
「厄介な敵だね。セイがヤバいってのにあたしはここから離れる訳にも行かないのが歯がゆいね。この落とし前どうしてくれんだい?なぁ、お前達?」
タマモがツバスにポーションを飲ませた後にも3体の魔物がやってきたのであった。
「ぐっ、血を流し過ぎた。目の前が暗くなってきやがった。ヤバいな」
セイは剣を振るいながらも足元がフラ付く。サカキとクラマが元の姿に戻ったのは気配で分かる。確かにコイツらは強い。ドラゴンみたいな強さではないがスピードが速くて厄介だ。攻撃もタメを作らず予備動作無しでしてくるのだ。
「セイっ、これを飲め」
ぬーちゃんがポーションのケースをポイッと渡して戦闘を代わってくれる。
「助かったよ」
と、セイがポーションを飲んだ時にウェンディ達がいる方向から妖力が爆発した。
「ぬーちゃん、こいつは任せたっ」
セイはウェンディ達の所へ走っていく。この妖力の爆発はきっとタマモだ。何かあったに違いない。
「タマモっ」
そこへ行くと金色に光り輝いたタマモの前に2体の魔物が噛み殺されていた。倒された魔物はその姿を大きな角に変えていく。
「タマモ、無事かっ」
金色に光るタマモが血塗れになっている。それを見たセイの妖力も膨れ上がっていく。
「落ち着きなっ。これはコイツらの返り血だよっ」
タマモに返り血だと言われたセイの膨れ上がった妖力はメラウスの剣に注がれた。
「死ねよっ」
ドガァァァン
一気にそれを魔物に放ったセイ。魔物は灰燼と化し消えたのであった。
「タマモ、それ本当に返り血か?」
タマモ背中から出ている血は返り血ではない。セイはタマモにもポーションを飲ませた。恐らくウロコに守られているとはいえウェンディ達を守って傷を負ったのだろう。
「大袈裟だねぇ。わたしよりセイの方は大丈夫なのかい?」
「ポーション飲んだから平気」
そんな会話をしているとサカキ達はフィッシャーズの面々を担ぎ、大きな角を持ってこっちに戻って来た。
「こいつら、魔物を倒したら気を失ったぞ」
「魔物が出した幻惑かなんかの攻撃の効果が切れたんだろうね。ありがとう皆」
「セイは大丈夫なのかよ?」
「あぁ。でもちょっと寝かせてくれ。血を失い過ぎたみたいだわ」
ドサッ
そう言ったセイはその場で倒れたのであった。
「うぐっ、 ヒック ヒック」
もう傷は治っているとはいえ、血塗れになった服のセイを見て涙が止まらないウェンディ。
そして涙がポタっポタッとセイの顔に落ちち、それでセイは目を覚ました。
「なんだよ?また泣いてんのかよ?」
「うわぁぁあっん」
目を覚ましたセイにウェンディが抱き付く。
「大丈夫だって。ポーションも飲んでるし、ちょっと血が足りなくて貧血みたいなものになっただけだから」
「わっ、わたしがセイのマントを着ていたせいでこんな血だらけになって」
「いいからもう泣くな。俺が未熟だったんだよ。それよりウェンディは怪我とかしてないか?」
「うん。わたしは大丈夫」
「ヘスティアもアーパスも無事か?」
「問題ねぇ」
「大丈夫」
「シーバス達は?」
「皆大丈夫さね。あっちで寝てるさ」
「そっか、ならもうひと仕事だな。クラマ、今の魔物らが出てくる場所を探そう。ヘスティアも手伝ってくれ。そこの浄化を頼みたい」
「も、もう少し寝てろよ」
「いや、また出て来て襲われたらたまらんからな。早くやった方がいい」
「私も手伝う」
「ならアーパスはヘスティアが燃やした後に鎮火を頼む」
「わたしも何か手伝う」
「ウェンディは力を使うな。お前は補充が大変だからな」
そう言うとウェンディは悔しそうに下を向く。女神ズの中で自分だけが何も出来ないのだ。
「じゃ、ウェンディは俺が倒れないように支えておいてくれ」
「うんっ」
クラマは空を飛び、セイ達はぬーちゃんに乗って今の魔物が出て来た場所を探しに行くことに。
ぬーちゃんに乗る前にヘスティアがセイの目の前でシャツをばっと脱ぐ。
「なっ、なっ、何してんだよっ。露出狂かお前はっ」
「誰が露出狂だっ。下に神服着てんだろうがっ」
脱いだシャツをバサッとセイに投げつける。ヘスティアの温もりが残った服に顔が包まれてなんか照れくさいセイ。
「いいからヘスティアが着とけ」
「だってよぉ。お前、これ着てたらそんな怪我しなかったんだろうがよ」
「いいから。お前らになんかあったほうが大変だ。実体化というか皆に見えてる時は人間と変わらんだろうが」
と、セイはもう一度ヘスティアにシャツを着せた。
「ボタンは自分で止めろよ」
そしてぬーちゃんに乗るとウェンディが後からガッチリホールドする。
「まだ血が乾いてないから汚れるぞ」
「大丈夫」
マントは洗ったら血は落ちるけど、服は落ちにくいんだぞ。と、セイはウェンディに言うが手を離さなかった。
未回収のマンドラゴラを拾いつつクラマがこっちじゃという方向へ進む。そして結構離れた場所に穴があった。
「ここじゃな」
「中に入るの面倒だから、この穴の周りごと焼いてくれるか?」
「じゃあもっと離れねぇとな」
ヘスティアがここまで下がれという所に離れると浄化の炎というか業火を出す。
ゴォォォぉぉっ
ここまで離れていても熱い。そして魔物が出てくる穴は溶岩の様に溶け、完全に塞がったのであった。
「うむ、嫌な空気も止まったようじゃな」
延焼するような物はないがアーパスにも雨を降らせて貰って冷やし固めておいた。雨の降り初めは瞬時に水蒸気と化し、そして段々と水たまりが出来て来たので終了。
戻る時も拾い残しのマンドラゴラを回収して戻ったのであった。その帰り道はヘスティアの首を持って今使った分の力を補充しておいた。
皆の元へ戻るとフィッシャーズ達も目を覚ましていた。
「セイ・・・、お前その服」
「ちょっと不覚を取ってね。ポーション飲んで治ってるから大丈夫だよ。今ヘスティアに魔物の出て来る穴を浄化してもらったからもうここは大丈夫だと思う」
「俺達、お前らを襲ったんだってな?」
「あぁ、多分あの霧に幻覚作用かなんかの効果があったんじゃないかな?サカキも魔物の気配を感じ取れてなかったし」
「すまなかった」
とフィッシャーズの面々に謝られる。
「いや、大丈夫。ま、飯でも食いながら話をしよ。砂婆に飯を頼むから先に今日こそは風呂に入れよ」
と、バスタブを出すがウンディーネが居ない。リザードンマンと共闘しているかもしれないから呼ばずにアーパスに水を出して貰ってヘスティアに温めてもらった。
ウンディーネが来ないかもしれないので男連中とセイも一緒に入ることに。
サカキとクラマは風呂で酒を飲むがシーバス達は沈んだ顔で飲んではいない。幻覚にやられて俺達に攻撃したことを気にしているようだ。
しかし、このバスタブに男7人は狭い。満員電車みたいだ。やはり風呂は一人で入るに限る。
「俺達足でまといだったんだな」
「おう、あの手の魔法というか攻撃にはセイは滅法弱いんだがよ、今回かかってなかったな?」
「そういやそうだね」
「セイがまともだったからよ、まさかお前らが幻惑に掛かってるとは思わなかったぜ。どんな幻惑を見てたんだ?」
「あー、冒険者になる前の時の夢をというか思い出というかそんな感じだ」
「どんなの?」
「えーっ、言うのかよ?」
「あの魔物は一角幻獣だとは思うけど、ちゃんと記録に残しておかないとダメだからね。Sランクとして情報提供は当たり前だと思うよ」
ペンの九十九神はいつの間にか出て来て、一角幻獣の姿を記録しておいてくれていた。イラストの何枚かのうち1枚は俺が血を流して対峙している姿のは封印だ。
「しょうがなぇな。足を引っ張った代わりに言うけどよ、絶対に笑うなよ」
そう言ってシーバスはどんな内容だったかを語り出したのであった。