未知の敵との戦い
セイ達は足場があるところを中継地にして上を目指してみる。そして一番上にまであがるとゴツゴツとした岩もあるが草原のようになっていた。
「へぇ、山の上がテーブルみたいに平らなんだね」
なかなか面白い地形だ。てっきり険しい山を想像していたのを良い意味で裏切られた。
ぬーちゃんがシーバス達を迎えに行ってくれている間に少しばかり散策。
「これ何?」
ウェンディが指をさしたのは紫というかオレンジというか変わった色の大根みたいな植物だ。大きさも大きな大根ぐらいだ。
「なんだろうね?根が大きいから食べられるのかな?」
「食べれるの?」
と、ウェンディが手をやろうとする。
(おい、ヒンヌー)
「なんですってぇぇぇぇっ」
「おい、どうした?」
いきなりウェンディが怒り出してその変な色のダイコンみたいなのを抜いた。
「うぎゃぁぁぁっ 人殺しっぃぃ」
「キャァァァっ」
「うわっ」
ウェンディがセイにしがみつく。
「な、何よこれ?」
「お前がいきなり怒って抜いたんだろうが。何があったんだよ?」
「こいつ、わたしの事をひんぬーって言ったの」
「事実じゃないか」
「キィィィィー」
ウェンディがセイをポカポカしているとヘスティアがやってきた。
「何やってんだよ?」
「いやさ、ウェンディがこの変な植物にひんぬー呼ばわりされたって怒ってたんだよ」
「へぇ。草のくせによくわかってんじゃねーかよ」
と、ヘスティアもたくさん生えているうちの一本に近付く。
(おい、露出狂)
「何だとてめえっ」
「うぎゃぁぁぁっ、苦しぃぃ」
「げっ、なんだよこいつ」
「抜くとそうやって叫ぶんだよ。ヘスティアもひんぬーって言われたのか?」
「んなわけねーだろっ」
「じゃ、なんて言われたんだよ?」
「うっ、うるせぇっ」
「私は何を言われるのだろう?」
アーパスも近付く。
(根暗ウジ)
「うぎゃぁぁぁっ」
アーパスは無言で引き抜いた。
女神ズの様子がおかしい。近付くと何かを言われるようだ。試しにセイも近付いてみる。
(ロリコン捨て子野郎)
「俺はロリコンじゃねーーっ」
ムカついたセイはケタケタ笑っているように見えるその植物を剣で手当たり次第斬っていく。こいつはセイの琴線に触れたのだ。
しかし、剣で斬れば斬るほど他の所に増殖していく植物。
「お、おいセイっ、どんどん新しいやつが増えてんぞっ」
くそっ、こいつをやっつけるには引っこ抜くしかないのか。いや、いっそのことヘスティアに焼いて貰ったらいいのかも。
「ヘスティア」
と声をかけた時にフィッシャーズ到着。
「うわっ、何ここ?マンドラゴラの群生地じゃない」
と、パールフが驚いている。
「マンドンゴラ?」
「違うわよ、マンドラゴラ。貴重なポーションの原料になるのよ。物凄く高値で売れるの。でもね、引き抜く時の叫び声を聞いたら死ぬとか言われてんのよ」
「近付くと嫌な事を言われるけど、引き抜いても叫ぶだけでなんともなかったぞ」
「そうなの?じゃ、収穫しましょっ。こんなに持って帰ったらしばらく働かなくて済むわよ〜」
金はともかく、ティンクルが喜ぶかな?
と、嫌な事を言われるのを覚悟して収穫することに。
(ボッチ)
(八方美人)
(女を都合の良いモノ扱いする人でなし)
日頃自分でもそうなんじゃ無いかと思っている負の部分を的確に言ってくるマンドラゴラ。恐らくこいつが喋っているのではなく、自分が人から言われたら嫌だなという事を言語化して意識させるのだろう。
ムカついている女神ズもマンドラゴラを真っ赤な顔をして引き抜いていく。
ーウェンディー
(ノータリン)
(駄女神)
(セイのお荷物)
(無能)
(後ろ向いて歩くな)
「キィィィィィッ」
ーヘスティアー
(単細胞)
(エロ女神)
(モブ)
(ワガママ)
(ウェンディの方が愛されてる)
「なんだとぉぉっ」
「おい、ヘスティア。燃やすなよ。これ収穫するんだから。それにこれはこいつがしゃべってんじゃない。お前の心の中の中で自分が思ってることを言葉にしているだけだ」
「俺様はこんなこと思ってねぇっ」
ーアーパスー
(役立たず)
(力なし)
(お前の事なんて誰も頼ってない)
(変な髪型)
(お荷物)
アーパスはジトジトしながら無言でぶちぶちと引き抜いて言った。
ーツバスー
(約束なんて覚えているわけがない)
(ただの仲間で愛されてなんかいない)
(年増。もう嫁に行くのは無理)
ツバスは光が消えた目でただマンドラゴラを見つめていた。
他の皆も心に秘めている嫌な事を聞かされ、その声を聞かれたくない為、それぞれが離れてマンドラゴラを収穫する。その時に霧が出始めて皆は霧に飲み込まれていったのであった。
「げっ、なんだよこの霧。全然見えなくなったじゃないか。おーい、みんな。ヤバいから集まれ」
セイは霧で何も見えなくなった事に危険を感じで皆を呼び寄せようと声をあげた。
シーン・・・
おかしい。声が届かない範囲まで離れていたわけじゃない。誰も返事をしないのはおかしい。
ハッ、もしかして一角幻獣?
もしそうだとすればこの霧は罠だ。ヤバい。
「ウェンディっ!ウェンディどこだっ」
セイは慌ててウェンディを探そうとする。が、下手に動くとここは山の上、落ちる可能性も出て来る。
「ぬーちゃんっ!ぬーちゃんっ」
くそっ、ぬーちゃんにも声が届かない。
「サカキ、クラマ、タマモっ、出て来てくれっ」
「なんだよ・・・。これどうした?」
「皆が離れた隙に霧に飲み込まれた。今から魔物が出たら同士討ちする可能性と下手に動いたら山から落ちる可能性がある。クラマは霧を上空に吹き飛ばして。タマモは妖狐になって臭いで皆を見つけて集めてくれ。女神達が先だぞ。シーバス達はお前の本来の姿を知らないから魔物と間違われる可能性がある」
「はいよ。ウェンディから見つけりゃいいんだね?」
「アーパスを優先。あいつだけ防具を着ていない」
「わかったよ」
「サカキは俺と背中合わせで援護を頼む。足元に気を付けろよ」
「お前が気を付けろ。マントもシャツもあいつらに着せてやってんだからよ」
セイを守る道具はスボンと靴だけなのでドラゴングローブとヘルムを追加で身に付けた。
セイは剣を構えて前に歩き、サカキは後ろを向いて背後を守りながら気配を探って歩く。
「セイ、この霧やべえな。気配まで消されてんぞ。もしかしたら臭いも消されてるかもしれん。鵺がお前の所に戻って来ないのはそのせいじゃねーか」
「かもしれないね。クラマの風も霧を飛ばせてないみたいだ」
浄化の風を思いっきり吹かせたら霧を消せるだろうが皆を巻き込むからかクラマはそれをしていない。タマモもすぐに戻ってくるかと思ったら戻って来ない。
「式神を試すわ」
セイは式神を大量に出し、鎖のように繋いでウェンディの元へと飛ばしたのであった。
居た。やっぱりそんなに離れて無かった。式神を頼りにウェンディの元へと行くと気を失って倒れていた。
そしてタマモがアーパスを咥えてこちらにくる。ぬーちゃんもヘスティアを咥えて戻ってきた。
「この娘達はほとんど臭いが無いからね。探すの苦労したよ」
「ヘスティアも見つけたから持ってきた」
「二人共ありがとうね。次はフィッシャーズを探さないと」
女神ズは寝ているようなのでマットレスを敷き、亀の甲羅型のウロコの盾を被せた。これでいきなり攻撃されてもウェンディ達は無事だろう。
「タマモ、ウェンディ達の護衛を頼む。サカキ、魔物の気配はあるか?」
「いや、この霧自体が魔物の気配を放っててわからん」
「バンパイアみたいなタイプかな?この霧が一角幻獣かなんかの正体ならまずいね」
「だな。ま、先に奴らを探すぞ」
式神を飛ばしてシーバス達を探っていくと発見して式神の鎖を追って行く。ウェンディ達はタマモとぬーちゃんが見てくれてるから大丈夫だ。
「シーバスっ、無事か」
「ウォぉぉぉぉっ。ツバスをどうしたっ」
「落ち着けっ、俺達だよ」
キャイィン
シーバスの一撃をサカキが爪で止めた。が、シーバスは俺達を敵と認識して攻撃をやめない。
「こいつ、正気じゃねぇな。仕方がねぇ」
ドンっ
サカキはシーバスの腹を殴って気絶をさせようと試みる。
グッ
「ウォぉぉぉぉっ」
「ちっ、こいつタフだぜ」
サカキが腹に入れた一撃を耐えたシーバスは尚も攻撃してくる。流石はSランクといったところだ。
「セイ、これ以上強く殴ったら殺しちまうわ。捕縛してくれ」
「了解」
セイは式神でシーバスを捕縛した。
「クソッ、離せっ」
捕縛されても暴れるシーバス。俺達がツバスに何かをした敵と思っているようだ。これは早く他の奴らも探さないと。
「サカキ、シーバスを頼む」
身動き出来ないシーバスを置いていくと危ない。セイは一人でダーツとパールフを探す。確かあの二人は一緒にいたはずだ。
式神で探し当てると二人は対峙していた。
「パールフをどうしたっ」
「お前こそダーツをどこへやったのよっ」
お互いがお互いを解っていない。二人を捕縛するもパールフは詠唱を始める。
「ごめん」
ドンっ とセイはパールフの腹を殴って気絶させた。これで気を失ってくれて助かった。ダーツも暴れているが魔法使いではないのでそのままにする。
その頃、ウェンディ達を護衛するぬーちゃんとタマモの所にツバスがやってきた。
「あんた達があの娘を連れて来なければ・・・」
「あんた、正気を保ってないね。悪いけどウェンディ達には手を出させないよ。鵺、噛んで眠らせな」
「わかった」
ぬーちゃんは素早くツバスの後ろに回り込み尻尾で噛んだ。
「ウガッ・・・・」
鵺の毒を受けてその場で崩れ落ちるツバス。
「今はこれ以上手加減が出来ん。死なぬとは思うが・・・」
元の姿に戻っているぬーちゃんは強めの痺れ毒でツバスを弱らせた。
「ちょっとヤバいんじゃないのかい?痙攣しちまってるじゃないか」
「うむ、まずいかもしれぬ」
「あんた、セイを呼んできな。ここはわたしが見ておいてやるから」
「わかった」
「おっ、霧が晴れて来やがったな。ジジイ、時間が掛かりすぎなんだよまったく」
クラマの浄化の風がようやく霧を晴らしていく。
そして離れた所にセイが魔物と対峙しているのが見えた。
「セイッ 大丈夫かっ」
サカキが大声をあげた。魔物と対峙しているセイは腹から血を流していたのであった。