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時間の流れ

「これ全部お前の使い魔か?」


「使い魔じゃないよ。妖怪の里に住んでるやつら。呼んで無いのに出てきたんだ」


「ガーハッハッハ、俺が声掛けてやったんだ。宴会は大勢の方が楽しいだろうが」


ユキメも呼んだのはサカキか。


「この数どうすんだよ?砂婆だけじゃ手が足りんだろが」


「式出せばいいじゃねぇか」


「はぁ、お前ら式神をなんだと思ってるんだ」


といいつつセイは10体程の式神を出して砂婆の手伝いをさせる。


「おい、今何をやったんだ」


家事と書かれたお面を被った者達が現れてテキパキと砂婆の指示に従って準備を手伝う。


「式神っていってね、俺の分身みたいなもんだよ」


「そんな事も出来るのかお前」


「これぐらいの単純作業なら良いけどもっと複雑に動かしたら疲れるんだよ」


「しかしお前・・・」


「セイにまた新しい女が女が女が女がががががが」


リタを見て嫉妬に燃えるユキメ。


「ユキメやめろっ。リタは仕事を斡旋してくれる人だ。攻撃すんなよ」


「リ、リタです。セイさんにはお世話になってます・・・」


ヒョォォォォと冷気が漂い始めるなかそう挨拶をしたリタ。


「セイよ、そのユキメってのは随分と美人な人だな。お前のいい人か?」


色々と違うぞギルマス。ユキメはいい人どころか人ですらない。


「えっ、いい人に見える?私がセイのいい人に見えるの?やだぁ、もうっ」


ギルマスの一言で機嫌を直すユキメ。俺との馴れ初めというか出会いからギルマスに嬉しそうに話し出したのでそのままギルマスに任せておく。


宴会の肉は大量にある。野菜は皆が里から持ってきた。あとは海が近いから海鮮も欲しいところだ。


「おいキュウタロウ、魚とかエビ、貝とか捕ってこれるか?」


カッパのキュウタロウにそう聞いてみる。


「ヌシ様、任しておくんない。アッシが見事に捕って来やすぜ」


キュウタロウは砂浜からドボンと海に飛び込んで行った。こっちの魚はどんなのがいるか楽しみだな。


「キュエェぇぇぇぇ」


海に飛び込んだキュウタロウが変な声を上げて叫び出した。


「どうした?なんかに噛まれたのか?」


「ヒリヒリするでヤンスっ ヒリヒリするでヤンスっ」


慌てて海から出てくるキュウタロウ。


「ヌシ様、ここ塩水じゃないっスか」


「海だからな。お前もしかして塩水だめなのか?」


「かっ、身体がヒリヒリするでヤンスっ」


そうか、お前ナメクジ体質だったんだな。初めて知ったわ。


濡れ女を呼んでキュウタロウを洗い流して貰った。


「悪かったよ。お前が塩水ダメだとは知らなくてさ」


キュウタロウを回復させるのに妖力を注いでやったからもう大丈夫だろう。


「ヌシ様、酷いっスよ」


「すまんすまん。次は川か湖の時にお願いするわ」


えーっと、他に海に潜れそうな奴は・・・


海坊主しかおらんな。


セイが住んでいたところに海は無いので海関係の妖怪は里にほとんど住んでいないのだ。


「海坊主、お前魚とか捕って来れるか?」


コクコクと頷いて海の中に消えていく海坊主。


暫くして戻って来て頭をフルフルと横に振った。どうやらこのあたりには魚がほとんどいないらしい。


「リタ、ここの海は魚とかいないのか?」


「昔はたくさん捕れたんですけどここ数年不漁続きみたいですね」


ギルマス曰く、魔物が悪さしてるんじゃないかと言う。


「海坊主、なんか変なのはいたか?」


フルフルと首を横に振る。海坊主は俺に何かを伝えたいみたいだがこいつは話せないからよくわからん。


「魔物では無いみたいだよ。海は海流の加減とか色々あるみたいだから原因は別にあるのかもね」


「漁師達もかなり沖まで出ないと魚が捕れずに苦労してるみたいだから原因がわかればいいんだがな。せっかく海が荒れなくなって喜んでたのによ」


「海が荒れなくなったり暴風が吹かなくなったのはいつ頃から?」


「そうだな。もう10年近くなるんじゃねーか?」


ウェンディが俺の所に来たのはつい最近だ。それまで加護の風を10年くらい吹かせずにサボってたのが降格理由なんだろうか?


「おーい、ウェンディ。食ってばっかいないでちょっとこっちに来てくれ」


フガフガと肉を食いまくってるウェンディを呼び寄せる。


「用があるならそっちが来ればいいでしょ。私は忙しいのっ」


口の周りを焼肉のタレだらけにして何が忙しいだ。


こっちにくる気配が無いので仕方がなくウェンディの所に行く。


「お前、降格したのはいつだ?」


「こっ、こんな大勢の前で降格したなんて言わないでよっ」


ベチっ


肉投げんなっ。


「もうみんな知ってるだろうが。それよりいつだ?」


「あんたを呼びに行った時よ」


やはり降格してすぐに来たのか。


「その前の10年間くらい風吹かすのサボってたか?」


「サボってなんかないわよ」


ガツガツガツガツ。


おかしいな。暴風が無くなって10年近く経つとギルマスは言った。ウェンディはサボってないと言う。


もしかして元の世界とこっちの世界の時間の流れが違うのか?


「ウェンディ、俺の居た世界とここは時間の流れは違うのか?」


「知らないわよそんなの」


ガツガツガツガツ


こいつに聞いた俺がバカだった。


セイは一つの仮定を考える。もし元の世界がここに取って竜宮城みたいな感じだったら向こうの時間の流れは遅く、こっちは早い。あいつが俺の所に来てゴチャゴチャしていた時間が小一時間程度だとして、それがこっちの10年間だとしたら・・・


サァーと青ざめるセイ。


これ、ここで歳食うまで過ごして帰ったらどんな事になるんだ?玉手箱を開けなくてもいきなりジジイとかになるんじゃ・・・


「何よ青い顔して」


「い、いや。何でもない」


この仮説が正しいとすると考えようによってはチャンスでもある。例えば1年間ここにいたとしても元の世界は数分しか経っていないことになるからな。これはとっととこいつを神に戻して何事もなかったように元の世界へ・・・・


ガツガツ肉を食い、白飯をほうばるウェンディを見てそんな日が来るのだろうかと尚青ざめるセイなのであった。



「お肉はもちろんですけど、このタレめちゃくちゃ美味しいですね。こんなのどこに売ってるんですか?」


リタが褒めたタレは砂婆特製の焼肉のタレ。味噌と醤油をベースに作ってある。サカキ達が狩った鹿肉やイノシシを食べるのに開発してくれたものだ。


「これは砂婆が俺の為に作ってくれたタレだから売ってないよ。あっさりした方が好きならポン酢もあるよ」


「ポン酢?」


セイは砂婆に頼んでポン酢と醤油、ワサビを貰った。


「これはポン酢。焼肉より鍋に使うことが多い。こっちは醤油とワサビ。脂の多い肉はワサビを付けて食べると口の中がさっぱりするからね」


ギルマスは興味深そうにワサビを付けて食べてみる。


「グワッ、何だこいつはっ」


「そんなに一気に付けるからだよ。少しだけ付けて食べてみてよ」


と、手本を見せる。


「おっ、こいつは悪くねぇな」


「だろ?魚の刺し身にはこれは必需品だけど肉にも合うんだよ」


「このポン酢ってソースも美味しいです」


リタはポン酢を気にいったようだ。


「これ売れよ。金になるぞ」


「砂婆が俺の為に作ってくれてるものだから売るほどないよ」


「そうなのか。もったいねぇな」


「ここで食べる分くらいはあるからそれで十分だよ。ずっとここにいるわけでもないしね」


「セイさんどっかに行っちゃうんですか?」


「役目が終わったらね。まぁ、それより先に借金返さないとダメなんだけど」


ギルマスとリタと楽しそうに話すセイを見るタマモ達。



「サカキ、皆を呼ぶのはいいけどユキメを焚きつけるのはやめておきな」


「なんでだよ。セイもあれだけ惚れられてんだから嫁に貰ってやればいいじゃねぇかよ」


「セイにその気はないだろう?」


「その気になりゃいいじゃねぇか」


「ユキメとセイは体質が違い過ぎるじゃない。後で娘さん暑いところがダメでもう熱出して引っ込んじまっただろ。それに・・・」


「確かにセイもこの前も氷漬けにされて死にかけてたからな」


「だから余計な事をするんじゃないよ。ユキメを近付けたらそのうち氷漬けにして独り占めしようとしてもおかしくないんだから」


タマモに言われてサカキは氷漬けのセイを持って帰ろうとしたユキメを思い出した。あれはユキメの愛情表現の一種であるが。


「それに見てみなよ。セイがあたしら妖怪以外と楽しそうにしているじゃないか」


「おぅ、人間とあんなに楽しそうに話すセイは初めて見るな」


「この世界はみんなあたしらの事が見えるし、怖がりもしない。セイが幽霊が見えても気味悪がったりしない。ここはセイにとっては住みやすい世界なんじゃないのかねぇ」


「そうかもしれんの。それにセイはあの小娘の事も憎からず思うておるんじゃないのか?」


「ジジィ、セイがあいつに惚れたとでも言うのか?」


「そこまではわからん。が、あのダンジョンとやらで小娘庇うて戦いよったじゃろ」


「あぁ、そうだな」


「セイがあの小娘をねぇ」


「ジジィ、お前ダンジョンってとこで出てこなかったのは気を使ったのか?」


「ワシとあの小娘は相性が悪いでの。喧嘩してたらセイに怒られるわい」


「相性が悪いと言うより似た者同士なんじゃないかしら?昔のクラマとそっくりよ」


「やかましいっ。ワシはあんなに雑に風を出したりせんわいっ・・・。しかし、小娘が秘めとる力はやはり神じゃというのは本当のようじゃの」


「それほどか?」


「あやつは自分の力がよくわからんのじゃろ。見習いにされたのはその修行をさせられておるのではないかの」


「セイは信仰心を集めたら神に戻るとか言ってたぞ」


「それは結果じゃ。小娘は自分の力を理解して使い方を覚えて自在に扱えるようになれば自然と人間にも信仰心も宿るじゃろうて」


「そんなもんかねぇ」


口の周りをタレとご飯粒だらけにしたウェンディを見てサカキはクラマの言った事を信じられないのであった。



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[良い点] 面白く、読みやすいです。 新作ありがとうございます。 作者さんと水木しげる先生に感謝
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