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アネモスとボッケーノの様子

セイ達は上を目指して出発しようかと準備を始めていた。



ーアネモス近くの森ー


「ほらっそこっ。さっさと起き上がらないと死ぬよっ」


アネモスの冒険者達がグリンディルにしごかれている。街の近くでオークどころかミノタウロスが出始めているのだ。


セイの言ってた事は正しかったわね。これちょっとまずいんじゃないかしら?毒キノコも出始めてるし。


アネモス周辺は魔物の数が増え、そして強い魔物が多くなった。オークくらいまでならここの冒険者達でなんとかなるけど、ミノタウロスまでいくと苦戦する。単発で出ているからなんとかなっているようなものの、これが群れで出始めたらもうここの冒険者達では難しいだろう。


グリンディルはCランク冒険者達に連携や立ち回り方を教えながら不安を覚えていた。アネモスの他のギルドも同じような状況だからだ。


グリンディルはギルドに戻ってマモンと話す。


「これさ、他のギルドに応援頼めないの?ミノタウロスクラスを倒せるやつらを。あと毒消しポーションも増やしといた方がいいわよ」


「ボッケーノギルドに応援を頼むしかないな。しかし、一時しのぎにしかならんだろう」


「一時しのぎが出来たらいいわ。冬になれば魔物も減るからね。後はセイ達が帰って来てくれるまで持てばいい」


「セイ達が本当に1年で帰ってくるならな。あちこちで面倒事に巻き込まれてたらもっと遅くなるかもしれんぞ」


「その時はマモンも冒険者復活ね。ここのギルマス代理は本部の奴がやればいいわよ。マモンは朝とか走り込みしておいた方がいいわね」


「そうだな」


マモンは自分がグリンディルとパーティを組んで自ら討伐に出る予感は当たるだろうなと覚悟を決めていた。



ーアネモス王室ー


「軍の準備は進んでおるのか?」


「はっ、有事に備えての本格的訓練に切り替えて行っております」


「あやつから使者が次に来るのは来年の春か夏前か。それからはまだ読めぬな」


「はい。大型船用の港があるところは最悪自ら破壊せねばならぬやもしれません」


「それで防げるなら構わぬ。領主にその準備をさせておけ。理由はまだ公表してはならぬぞ」



ーアネモス予算会議ー


「この秋の収穫不足が深刻です。このままでは税収どころか国民の食料が不足致します」


今年の夏は猛暑が続き、雨も降らず野菜類が建国してから最悪の状態を迎えていた。


「このままでは冬野菜も厳しくなるでしょう」


「ええい、もう予算は割けぬ。水魔法使いを総動員して麦の栽培はなんとしても例年並みに確保せねばならん。水魔法使いは冒険者どもからも徴集せよ」


宰相と予算議会のやり取りを聞いていたリーゼロイはセイの言った通りになって来ているのを実感していた。やはり、神の加護が無くなるとこんなにも人間の国は脆いのかと。



ーボッケーノ王室ー


「お祖母様、今日は天気がいいのじゃ」


「マリー、姫自ら車椅子を押さなくていいのよ」


「いや、自分でお祖母様の車椅子を押したいのじゃ」


先代王妃のモリーナは万能薬を飲んで体調が戻り、寝たきりであった身体のリハビリを行っていた。


復調したのは日頃の治癒魔法の成果だとしており、万能薬の存在は秘匿されたままだった。


万能薬を1つ飲むと一ヶ月程度は元気になるがまた徐々に悪くなるので、毎月万能薬を飲むようになっていく。


マリーと爺の分を合わせて20粒ある万能薬。これが無くなる前にセイが戻って来てくれる事を願うビスクマリアなのであった。



ーポーション研究所ー


「うーむ、さっぱりわからん。出来たポーションを混ぜてもダメなのは今までの研究でも明らか。原材料を混ぜておいてもダメ。これは根本的に素材の組み合わせから見直せねばならんのか?」


ティンクルはまた髪の毛をボサボサにして風呂にも入らずに研究に没頭していた。



ーカントハウスー


「返してっ 返してよーーっ」


「へっへーん。返して欲しかったらここまでおいでーっ」


一人でこっそりとドラゴンの涙を眺めていた所を悪ガキに見つかり無理矢理取られてしまったラーラ。必死で取り返そうとするも相手は自分より大きな男の子が数人。まるで歯が立たない。


「こらっ、お前らっ。それはラーラのだぞっ。返しやがれっ」


それを見つけた兄のケビンが悪ガキ共に突っ込んでいく。


「ケビンの野郎、ナイフを手に入れたからって調子に乗ってやがんだぜ。やっちまえっ」


ケビンは父親から絶対に人にナイフを向けるなとキツく言われていたのでナイフを抜くことはない。素手で悪ガキ共に立ち向かっていった。


そして乱闘になり、多対1での戦いになる。


「やめてよーっ」


泣き叫ぶラーラ。


しかし、ケビンはなんとか勝利し、ドラゴンの涙のペンダントを取り戻した。


「覚えてやがれっ」


と、負け犬の捨て台詞を吐いた悪ガキが走り去ろうとする。


ドンッ


「危ねぇな。クソガキ」


悪ガキは柄の悪い男にぶつかって蹴り飛ばされた。


グフッ


子供の喧嘩とは違う大人の蹴りに悶絶する悪ガキ。


「やめろっ」


そしてケビンは悪ガキ達を庇うように男に立ち向かう。


「ガキのくせにナイフ持ったぐらいでいきがんなよ」


男は剣の鞘でケビンを殴った。


ガハッ


口から血を出して吹き飛ぶケビン。


「おにーちゃんっ」


ラーラがケビンの元に駆け寄ると、取り返したばっかりのドラゴンの涙のペンダントを男に掴まれる。


「へぇ、ガラス玉にしちゃ綺麗だな。こいつは詫び料として貰っておいてやるぜ」


「いやーーっ。これはラーラのっ」


「うるせえっ」


ドンッ


ラーラの事も容赦なく蹴り飛ばす男。


そして尻もちをついたラーラに男の手が伸びる。


ガダガタガタ


あまりの痛さと恐怖に震えるラーラ。


「ラーラ逃げろ・・・」


鞘で思いっきり殴られたケビンも動けず逃げろと声を出すのが精一杯だった。悪ガキ共は蹴られた奴を連れケビン達を見捨てて逃げて行ってしまった。


「へっ、大人しくよこしな」


「いやぁーーーーっ」


ラーラは恐怖のあまり自身も知らない力をドラゴンの涙に注いだ。


ゴオぅぅぅぅっ


その時、ドラゴンの涙から放たれたドラゴンブレスがその男を飲み込み灰燼と化したのであった。


幸いな事にラーラはその光景を見ることなく気を失った。


「い、今のは一体・・・」


ケビンは男が炎に飲まれて消えた事が信じられなかった。


なんとか動けるようになったケビンはラーラを背負って家に帰る。


「あらあら、喧嘩でもしたの?」


「母さん、ラーラが・・・」


そしてケビンはさっきの出来事を母親に報告するのであった。


「わかったわ。お父さんが帰ってきたら母さんから話はするわ。これを飲んで休んでいなさい」


母親のディアはいつものほんわかした雰囲気が消えポーションを渡した後、静かにケビンにそういったのであった。



カントが帰宅して子供達が就寝した後。


「なんだと?」


「セイくんのくれたドラゴンの涙はとんでもない代物かもしれないの。それにラーラは私に似ちゃったのかもしれないわ」


「魔法が使えるのか?」


「そうとしか考えられないの。ちょっと私、試してくるわね」


「人に見られんなよ」


「わかってるわよ」


ディアは人目の付かない所で羽を出し、森の奥へと飛んでいく。


そしてそこでドラゴンの涙に魔力を込めてみた。


ゴォオオオオオオウッ


こ、これはドラゴンブレス・・・・


ドラゴンの涙は魔力を込めると魔力をドラゴンブレスに変換するという物であった。


こんなブレスを人間が食らったら灰も残らないわね。さて、ケビンにはなんて説明しようかしら?しかし、セイくんもとんでもないものをさらっとくれたわね。この事知っているのかしら?



ディアは家に戻ってカントとその話をする。


「ドラゴンブレスを吐く玉だと?」


「そう。こんなものがあるなんて驚きね。このまま持たせておくと危ないからラーラは特訓するわ。貴方はケビンに剣を教えてあげてね」


「こいつらには普通の仕事を・・・」


「もういいじゃない。今からちゃんと訓練してあげたら冒険者として成功するわよ。なんせ、ドラゴンに守られているようなものですもの」


「ドラゴンに守られているか・・・」


「そう。二人が成人したらセイくんのパーティに入れてもらったら?」


「ダメだ。あいつはいい意味で常識が無いからな」


「それかラーラが成人したらセイくんがお嫁さんに貰ってくれないかしら。そうすれば一生安泰よ」


「やめてくれっ。ラーラはまだ10歳にもなってねぇんだぞ。それにあいつには女神様がいるだろうが」


「女神とは結婚なんてできないでしょ?ラーラにもチャンスがあると思うのよねぇ」


「やめてくれっ」


カントは本当に娘が嫁に行ってしまいそうでプリプリと怒っていたのであった。



カントの奥さん、ディアは上位魔族という種族を隠して人間と生活をしていたのであった。


そう、奥様は魔族だったのです。


そうだ、特訓以外にラーラに特性ベーコンとハムの作り方を教えなきゃ。ラーラをお嫁さんにしたらいつでも好きなベーコンが食べられると知ったらチャンス到来ね。


プリプリと機嫌の悪いカントとは裏腹にディアはルンルンだったのである。

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