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羨望の眼差し

朝飯は焼魚定食。ウェンディもヘスティアもちゃんと起きてくるようになった。


朝から良い匂いをさせて飯を食ってると。


「あんた達、今晩からちゃんと風呂に入んなさいよねっ」


ツバスは朝からお冠だ。


「どうしたの?」


「昨日の夜中に馬が寝に来たのかと思ったわよ」


「今までも風呂に何日も入らなかったことあったじゃねーかよっ」


「みんなが風呂に入ってなければあんまりわかんないけど、自分達だけが入ったらわかるのっ」


確かにそういうもんかもしれん。しかし馬が入ってきたとか酷い言われようだ。


「朝風呂入る?」


「い、いや大丈夫だ・・・」


臭いと言われてショックを受ける男達。着替えもしてないしな。



そしてまた街道を走り、休息をして野営ポイントに到着。次の野営ポイントが中間ポイントになるらしい。ここはそこから一つアクア寄りでここまでがアクアの領地。中間ポイントはどちらの領地でもなく、その向こうの休息ポイントからガイアになるらしい。


「事件はこの辺りで発生してるんだよね?」


「ほとんどが中間ポイントだな。どちらの国でもないから事件解決が遅れているというのもある」


「冒険者ギルドは本来国とは関係ないんだよね?」


「そうらしいが実際は国とくっついてるのと変わらんよ。一角幻獣の事は良くわかっていないし、事件解決だけの報酬は安いからな」


「事件解決の報酬が安い?」


「何度か起きている事件は仲間同士で争った形跡が残ってたんだ。これが賊なら討伐報酬も奴隷に売る代金ももらえるが、この街道で賊は出ないからな」


「仲間割れ?」


「という可能性もあるってこった。剣で切りあった形跡と食われた形跡もあったんだ。仲間割れして死んだ後に動物に食われたのかもしれないけどな」


「仲間割れって結構あるの?」


「いや、なかった。喧嘩ぐらいはするだろうが殺し合うまでやることなんて何回もおると思うか?」


「ないよね」


「で、可能性としてはツバスが言っていた麻薬キノコだ」


「麻薬キノコって、幻覚を見せるとかの攻撃をしてくるの?」


「そうだ。麻薬と呼ばれる粉を出す。倒したらアイテムもその粉だ。ちなみにそれ無許可で持ってたら捕まるからな。アイテムとして入手したら入国の際に申請する必要がある。何に使うかしつこく聞かれるし、正当な理由がなければ没収される。それに売れるものでもないから通常は採取しない」


「へぇ、売れないんだね」


「売買が禁止されているんだ。だからギルドも買い取りはしない」


「使い道はあるの?」


「病気や怪我でもうダメな人の苦痛の緩和に使われる。治療院から依頼を受けた時だけ採取するもんなんだよ」


終末ケアってやつか。常人に使うと簡単に入手出来る麻薬ってことになる。悪用されたらヤバそうだよな。


「私はこそっと手に入れて持ってたのを使ったんじゃ無いかと思うんだけど、シーバスは違うんじゃ無いかと言うのよ」


「今の時期なら俺も麻薬キノコに襲われたとか思うけどな、あれ春先だったろ?自分達で使う為に麻薬の粉をずっと持ってるとかリスクの方が高いと思うんだよな。しかも一組だけでじゃないしよ」


麻薬キノコの粉は極少量だと恍惚感みたいな物を得られたりするらしい。それに依存性もあるから法律で禁止されているのはアクアもガイアも同じだそうだ。


「ま、セイ達がいるなら一角幻獣だったとしても何とかなるんじゃないかって思ってるんだ」


「名前からして幻覚を見せる魔物なんだよね?」


「という記録しか残ってなくてな、姿も一本角の魔物ということしかわかってない」


「だから、そんなの本当にいるかどうか分かんないじゃないって私は言ってんだけどね。俺の勘を信じろってしつこいのよ」


勘とは人生の経験値から来ることもあるし、霊的な感覚からくるのもある。単なる思い込みというのも多いけど馬鹿にしてはいけないのだ。


「シーバスがそう感じたならそうかもしれないね」


「セイは俺の言うことを信じてくれんのか?」


「修行をちゃんとしてきた人の勘って馬鹿に出来ないんだよ。自分では気付かない裏付けがあったりとかするから」


「へへっ、なんか嬉しいぜ」


虫系の魔物の事もフィッシャーズは本当によく知っていた。パーティの戦い方も連携がとてもよく取れている。ちゃんとそれぞれが修行して力を付けて信頼しあっているパーティなのだ。そのリーダーが言うのだから多分当たっているだろう。問題はその魔物の情報がほとんどないということだ。



「今日の野営は森の中でしようか?」


「ここでいいんじゃんかよ」


「飯食ってたら視線が痛いし、馬とかの臭いがね」


と、いうとシーバス達は頭を掻いた。自分達が臭いと言われていると思ったのかもしれない。


「セイ、ご飯食べてるときに皆が羨ましそうに見られてるの嫌なの?」


「落ち着きはしないね」


「えーっ、あれがいいんじゃない。ほらもっと羨ましがれって」


ツバスよ、あんたシーバスをドSとか言ってたけど自分もじゃないか。


「セイ、冒険者どもが上のランクをなぜ目指すと思う?」


「人それぞれじゃない?」


「いや、夢があるからだ」


「夢?」


「そう。何かを成す為に強くなるやつはランクなんてどうでもいいかもしれんがそんな奴は少ない。大半がいい生活をするためだ。冒険者は人生一発逆転の可能性を秘めてるからな。夢があるというのはそういうことだ。だから俺達みたいな上のランクは羨ましがられるのも仕事のうちなんだよ。ほかの奴らに夢を見させるためにな」


なんか芸人の世界みたいだな。


「わかった。じゃ、ここで野営しよう。羨ましがられる飯って何?焼肉は昨日食べたから無しね」


「なら揚げ物とかいいんじゃねぇか?」


「唐揚げとかカツとかだね。了解。砂婆にここで作ってもらうよ」


ウェンディも揚げ物大好きだから喜ぶだろう。


砂婆を呼んで晩飯をリクエストする。


「砂婆、唐揚げとカツ、俺はキスと鯛の大葉巻天ぷらが食べたいな」


「ほうか、なら油を分けんといかんな」


「ん?油って使い分けてるの?」


「別に一緒でも構わんが分けた方が旨いんじゃぞ」


唐揚げやカツは黒豚の脂を使って、天ぷらは植物由来の油で揚げてくれていたらしい。全然知らなかった。


ジャガイモを揚げて食べ比べてみるといいぞと言われたのでそれもお願いした。


下ごしらえは式神にも手伝わせる。これにはフィッシャーズも驚いていた。


ここも続々と野営しに来る人達が増えて来た。飯食って飲んだらまた風呂に入らなくなるかもしれないので先に風呂に入れと皆に伝える。俺は飯の後にゆっくりと入ろう。



先に風呂に行ったツバスとパールフが頭をタオルで包みホコホコして風呂から出て大きな声で


「温かいお風呂気持ちよかったぁっ。風呂上がりに私は冷えたシャンパン頂戴っ」


「私はワインね」


湯上がりの一杯を皆の視線を集めながら美味しそうに飲んでいく。他の女冒険者達は羨望の眼差しで見ている。


「ウェンディ、お前らも風呂に入ってこい。まだ料理は出来んからな」


同じように大きな声で風呂に入れと伝える。歯ぎしりする他の女冒険者達。


シーバス達も風呂から出て来た。


「かぁーーっ、このビールよく冷えてやがんぜ。風呂の後の一杯はたまらんよな」


瓶ビールを氷に浸けてあったからキンキンに冷えているだろう。次は男冒険者たちからの歯ぎしりが聞こえてくる。サカキ達もカァー旨えと追い打ちだ。


そして、しょわわっと揚げ出した音が聞こえて、揚げ物の匂いが漂い出すと商人達も自分たちが用意しているスープを悲しそうに見つめていた。


匂いに釣られるが如く女神ズも風呂から上がってきたので食事開始。


「ブラックオークのカツうめぇっ。カーっ、ビールとこのカツの組み合わせがたまらんっ」


「この唐揚げも何でこんなに香ばしいのっ。おいしーっ」


もうやりたい放題だ。


俺は天ぷらを食べる。キス天ぷらうめぇっ。鯛の大葉巻もたまらんね。ウマウマ。


「一人で何違うもの食べてんの?」


唐揚げを飲み込んだウェンディが聞いてくる。


「天ぷらだよ。お前、天ぷらより唐揚げとかカツの方が好きだろ?」


「天ぷらはわかってるわよ。なんの天ぷらか聞いてんのよ」


「食べる?」


と、一口サイズの鯛の大葉巻天ぷらに少し塩を付けて口に入れてやる。こいつに食べていいよと言ったら全部いかれるからな。


「おいひい」


「良かったな。じゃ、唐揚げ食ってこい」


「そっちのは何?」


「これはキス」


とこれは一口でいけなさそうなので半分に割って食べさせる。


「フワフワ」


「だろ?俺、これ好きなんだよね」


と、残り半分を食べるとまだ食べたそうにしているので、順番代わりに食べていく。


「私もそれ食べたい」


「わぁぁぁっ。だからアーパス、気配を消して来るなよ」


「そんなことしてない」


仕方がないのでアーパスにも食べさせて天ぷらは終わりだ。


一つ残してあるかき揚げは天茶にして食べよう。


出汁を掛けて食べるとめっちゃ旨い。


また二人とも物欲しそうに見るのでスプーンで食べさせる。


「これカツより美味しかった。ズルい」


「なら次からはアーパスも天ぷらにしてもらってやるよ。今からジャガイモを油違いで揚げてもらうからそれを食べろ」


そしてそれぞれを食べ比べてみる。ガッツリした味はラード、あっさりとしたのはサラダ油だな。甲乙付けられんわ。でも食後のオヤツとしてはサラダ油の方がいいな。


ウェンディはラード、アーパスはサラダ油の方を好んで食べていた。


「よぉ、何で俺様だけ仲間外れなんだよ?」


「向こうで酒飲んで一緒に騒いでたじゃないか」


「気が付いたら二人共いなかったんだよ。俺様も呼べよ」


「呼べよったって、どっかに行ったわけじゃないだろ?」


「そうだけどよぉ」


そしてヘスティアもこっちでポテトを食べだした。向こうにもあるのに。


ヘスティアの話ではサカキとクラマは普通に飲んでるがシーバス達はビールのあと、極薄い蒸留酒を少し飲んでいるだけとのこと。外では戦えなくなるまで飲まないんだなとセイは関心した。


セイは風呂に入ってくるからと言ってウンディーネと風呂に行く。そしてぬーちゃんも付いてきた。唯一ウェンディ達から離れる瞬間を狙って甘えに来たのだろう。


ぬーちゃんと一緒にゴボゴボされて二人共満足して寝ることに。ポテトを食べながらねむねむになったウェンディを連れて就寝。


そして頭や手より首を掴んで妖力を流すと流れる量が増えるのを発見したので首の下に手をやって流していこうとすると隙間があくので手を上げてないとダメだった。ウェンディの首に当たるぐらいまで手を入れていくと腕枕みたいな感じになる。ヘスティアがこうして寝てたりするのは自然とわかってたのかもしれないな。


こうしてセイはウェンディに腕枕をしながら寝るようになっていったのであった。




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