夜は砂場で宴会
ブラックオーク、すなわち黒豚をサカキが喜々として爪で引き裂いていく。こういう戦闘において右に出るものがいない大妖怪だから豚ごとき相手にならんな。
「セイ、こいつを焼いてくれ」
「ここで食うのかよ」
「どれくらい味が違うか早く試してぇじゃねぇか」
他の冒険者達は死にものぐるいで戦ってるんだぞ?
早くしろとせかしやがるのでサカキにある程度肉をスライスさせてから狐火でゆっくりと焼いていく。
「今だっ、やれっ」
「うぉぉぉぉっ」
ブラックオークと必死に戦っている冒険者がいる中で肉を焼くセイ。
「ねぇ、まだぁ?」
ウェンディは相変わらずだ。もう怒る気にもならん。
「ねぇ、もう焼けたんじゃない?」
「結構分厚いけど齧れるのか?」
「へーき、へーき」
「おっ、もうそろそろ焼けるか。酒取ってくるわ」
「じゃ、塩もってくるー」
「お、おいお前らっ」
なんてこったい。サカキもぬーちゃんもひょうたんの中に入りやがった。
「おい、ウェンディ。さっきのかまいたちの技をやれっ。豚がこっち来てんぞ」
「そんなすぐにできないわよっ」
「いいから早くっ」
ブォーっと風を出すウィンディ。しかし突風にしかならずゴツい黒豚共は切り刻まれずに突進してきた。
「キャァァァァ」
さっきまで必死に戦ってた冒険者達はザマァねえやみたいな顔で見ている。
「ちっ、ウェンディ俺の後ろに回れっ」
ウェンディの手を引っ張り自分の背中側にかばうセイ。
「ブゴォォォォ」
二人に襲い掛かる黒豚。
セイは腰を落とし両手手首と手首をくっつけたような構えをヘソの前でした。
「フンッ」
ボスっっ
セイの出した一撃を腹に食らった黒豚はその場で崩れ落ちて肉になった。
「な、何よ今のは?」
「発勁という奴だ。これやんの集中力いるから面倒なんだよ」
「あんた戦えたの?」
「サカキが武術の師匠だからな。剣術はクラマのじっちゃんだ。妖怪相手なら妖力込めて攻撃したらもっと効くんだが今のは物理攻撃だ」
素手で黒豚を倒した俺を先程の冒険者達があんぐりして見ているけど無視だ。
「ウェンディ、お前のさっきの風とかコカトリスの時の風は幽霊吹き飛ばした時と同じ風か?」
「知らないわよそんなの」
こいつが無意識に使い分けてるのか俺の気のせいかどっちだろうな?
「試しにあそこの黒豚を幽霊だと思って吹き飛ばしてみてくれ。強さはさっきくらいでいいから」
ウェンディは風を出すが黒豚を吹き飛ばす事も死ぬこともない。やっぱり気のせいか?
風に怒った黒豚がこっちに来たので今度は水面蹴りで転ばせた所を喉に手刀を放って絶命させた。
「お、やっとやる気になったか」
すでに酒を飲みながら出てきたサカキ。ぬーちゃんは塩と胡椒を持ってきてくれた。
「二人共いなくなるからだろ。手に嫌な感触残るから嫌なんだよ」
「せっかく非力なお前でも戦えるように仕込んでやったのにちゃんと戦えよ。魔物相手なら情けも掛けずに済むだろが」
「そりゃそうだけどさぁ」
別に俺はバトルジャンキーではない。身を守る為に仕方がなくやってるのだ。
「あまーい」
先に食い始めたぬーちゃん。
「肉が甘いのか?」
「この肉の脂甘くておいしー」
ウェンディは無言でガツガツ食ってやがる。
セイとサカキも肉に食らいつくと適当に焼いたのにも関わらず柔らかくて旨い。ぬーちゃんの言った通り脂も甘いのだ。
「セイ、狩り尽くすぞ」
ブラックオーク恐るべし旨さ。こりゃ需要あるはずだ。帰ったらトンカツと角煮にしてもらおう。
せっせと狩るサカキとぬーちゃん。肉を回収するセイ。まだ食ってるウェンディ。
「よし、全部狩ったな。また出てくるの待つか?」
「いや、牛も狩らないとダメだろ。普通の牛はすっとばして角有りを狩りに行こう。豚でこれだけ違うなら牛も違うだろ」
「よし、なら10階までかっ飛ぶぜ」
というなりひょうたんに入るサカキ。
「ぬーちゃん、最上階まで走って」
「はーい」
セイとウェンディを乗せたぬーちゃんは狭い洞窟を疾走する。頭を天井にぶつけそうでめっちゃ怖い。
最上階まで到着すると冒険者達はいない。角有りの肉は中々入荷しないといってたからな。
「お、うじゃうじゃいやがるぜ。しかしあいつら牛頭にそっくりじゃねーか」
「本当だな。念の為ちょっと話し掛けてから狩れよ」
「あいつがこんな所にいるわきゃねーだろ。地獄で働いてんだからよ」
「念の為だよ念の為」
「ゴズって何?」
「元の世界にいた鬼の一種であいつらにそっくりなんだよ。馬の顔をした馬頭ってのもいるぞ」
「へぇ。オークはいないの?」
「オークはいなかった・・・」
ん?猪八戒ってオークなのか?
「帰ったらタマモに聞いてみるよ。あいつ物知りだからさ」
そんな話をしている間にサカキとぬーちゃんは狩り始めたのであいつらは牛頭では無かったようだ。
狩り尽くしてリポップするまで角有りの肉を焼いてみる。
「こいつぁ、旨ぇわ」
サカキもぬーちゃんもご満悦だ。確かに黒豚と甲乙付けがたい旨さ。
そしてもう一回狩り尽くした後にセイ達はダンジョンを後にするのであった。
外に出るともう真っ暗だ。
一応ギルドに寄ってみると受付業務は終わり酒場が盛り上がっていた。
「よう、ダンジョンはどうだったんだ?」
ギルマスも飲んでて声を掛けられた。
「10階まで行ったよ。肉っていくらで引き取ってくれんの?」
「角有りは品薄だから高値が付くぞ。1体当たり銀貨50枚だ」
ということは100匹近く狩ったから借金返せるじゃん。
「じゃあ買い取って」
「えー、売っちゃうのー?」
「借金返さないとダメだろ。今日食べる分だけ残して、また狩りに行けばいいじゃん」
そうぬーちゃんを説得してドサドサと肉を出していく。
「おいおいおい、一体いくつ狩って来たんだお前ら」
「角有りとブラックオークが100ずつくらい。ピンクオークは10くらいかな」
「よし、角有りとブラックオークを10ずつ買い取ろう」
「え?全部買い取ってくれるんじゃないの?」
「生モンをそんなに一気に買い取れるか」
なんだよぬか喜びさせやがって。
合計金貨8枚の買い取り。しかしお金を受取る事なく借金から差し引かれてしまった。
「これさ、どれぐらいの間隔で買い取ってくれんの?」
「月一でこれぐらいの数なら買い取ってやれるぞ」
ということは残り4ヶ月で金貨32枚稼げる計算になるな。あと金貨10枚ぐらい別に稼いだらなんとかなりそうだ。
少し返済の目処が付いて来たので心が落ち着くセイ。
屋敷に戻ったら飯だ。今日はトンカツ。
「焼肉じゃねぇのかよ」
「せっかくだからさ、焼肉はギルマスとリタも呼ぼうと思って砂浜でやろうぜ」
「おー、それもいいかもな。なら早く日にちを決めろ」
翌日ギルドでギルマスとリタを焼肉パーティに誘ってみる。
「えっ?角有りミノタウロスとブラックオークの焼肉に誘ってくれるんですか」
「たくさん狩ったからね。どうする?」
「行きますっ。いつですかっ いつですかっ」
めっちゃグイグイくるリタ。
「い、い、いいつでもいいけど」
「じゃあ、明後日、明後日でお願いします。明後日と次の日が連休なんですっ」
「ギルマスもそれでいい?」
「おー、借金持ちに食わせてもらうのも気が引けるからよ、酒は俺が持っていくわ」
ギルマスが持ってくる量なんてサカキ達には足らないとは思うけどね。
焼肉パーティ当日、呼んでないのに様々な妖怪達が出てきて参加しやがる。
「セイ〜、やっぱり私がいなくて寂しかったんでしょ〜」
誰だユキメを呼んだのは?
「お前まだ気温高いのに大丈夫なのかよ?」
「氷纏ってるから平気なの ウフっ」
ウフっじゃねぇ。隣に来たら寒いだろが。
夏のクソ暑いときは呼んでも出てこないくせに。
「ま、魔物だらけ・・・」
今到着したリタはこの様子を見て驚く。
「魔物じゃないよ、妖怪だ。俺がいたら悪さしないから大丈夫だよ。ギルマスは?」
「もうすぐ来ますけど・・・」
そしてこの光景を目の当たりにしたギルマスは酒の樽を砂浜にドサっと落としたのであった。




