組織に馴染めない
今日はギルドで待ち合わせがあるのにヘスティアもウェンディも起きないのでタマモに見ててもらってぬーちゃんと二人でギルドに向かった。アーパスは天界に帰り、ウンディーネはバスタブにいるのかどうかすらわからなかった。
「おはよーございます」
セイの二日酔いは万能薬で解決しているので元気だ。
「おはようございます。ギルマスが部屋でお待ちです」
と、部屋に案内されると他にも人がいた。
「あの・・・」
「座ってくれ。皆を紹介する」
ここはアクアギルド本部、東西南北の門に近い所にもギルドがあるのはアネモスと同じらしい。
東西南北のギルマスを順に紹介される。そしてもう一人は本部長と呼ばれる人だった。
「私はアクアギルド本部の本部長をしているコームと言う」
「ご丁寧にどうも」
「クーロンが手に入れたポーションは非常によく効き、ローンホイム家のお嬢様も無事に回復なされた事をお礼申し上げる」
あー、出処を内緒にできなかったのか。
ローンホイム家とは王家にも繋がる名家でそこのお嬢さんが病で死線をさまよっていたらしい。
「助かってよかったですね。他にポーションが効かない人はいないのですか?」
「今のところはな。で、このポーションはなんだ?」
と、ケースを開けて残りのポーションを見せられる。
「これは秘密です」
「なぜ隠す?これは画期的なポーションではないのか?」
「ある人との約束で入手方法は秘密なんですよ」
「いいか、私はここのギルマス達とは立場が違うことを理解しろ。総本部から直接派遣された本部長なのだぞ。特別ランクだといってもギルドの命令は絶対なのだ。早く入手方法を言え」
「ギルマス、こうなるから出処を黙っててと言ったのに」
「スマン」
まぁ、組織の上からこんなふうに圧力かけられたら逆らえんわな。
「なんなら、お前のランクを剥奪しても良いのだぞ?」
「ならご勝手に。別にランクなんてどうでもいいですから。それにこんな権力を傘にきて偉そうにされるならそのお偉いさんのお嬢さんを見捨てたほうがよかったですね。じゃ、フィッシャーズと待ち合わせしてしてたけど、俺は帰ったとお伝え下さい。はいこれ冒険者証」
と冒険者証を本部長に投げた。
ガイアに魔物図鑑のアップデートをしに行こうかと思ってたけどもういいわ。これは個人的に趣味として収集しよう。どうせガイヤの教会にも情報はろくなものがないだろうし。
「なっ、貴様。この特別ランクの身分を捨てるのかっ」
「初めは生活費を稼ぐのに冒険者になりましたけどもうお金には困ってませんし、やることがあるんでもういいよ。じゃあな」
「待ってくれ」
「なにギルマス?」
「この薬はあとどれぐらいある?」
「それ聞いてどうすんの?」
「ポーションを買えない子供らが死にかけてる」
「庶民?」
「孤児院の子供たちだ。集団感染して死にかけている子供が大勢いる」
「わかった。そこに連れていって。孤児院はいくつあるの?」
「4つだ」
「了解。全部見て回るよ」
「待て貴様っ」
「うるさいっ。お前みたいな現場の苦労も知らないやつに偉そうにされてたまるかっ。これからアクアはどんどん強い魔物が出るから覚悟してやがれ」
「どういうことだっ」
「そんなことも知らない奴が本部長とか笑わせんな。魔物の事を何も知らないくせに人に命令すんな。自分でハンドレッドレッグを討伐出来るようになってから口をききやがれ」
そう捨て台詞を吐いてギルマスとギルドを後にした。
「本当にスマン」
「いや、上役に無理矢理言わされたんでしょ。俺がここに来た情報も上がってるだろうしバレるとは思ってたけど、本部長があんなアホウとは知らなかったよ」
「現場を知らない奴らだからな」
「あー、それアネモスの知人からも言われたよ」
ぬーちゃんに乗って孤児院に行くと本当に死にそうな子供達がゴロゴロいた。
孤児院の職員さんにもポーションを渡して子供達に飲ませていく。30人位はいるだろうか?
「しばらくしたら病気も体力も回復すると思いますから、これでも食べさせてあげて下さい」
と肉の塊を2つ渡しておく。ろくな貯蔵施設もないだろうからこれ以上渡しても無駄になるだろう。食べ切れない分は塩漬けにすればいい。
「これは・・・」
「黒豚。ブラックオークってやつだよ。たくさん持ってるから気にしないで。あとこれは寄付」
と金貨10枚渡しておいた。
しかし、子供たちは風呂に入れて無いのか汚いな。
「おい、ウンディーネ。この子たち綺麗にしてやれるか?」
「いいわよ」
ウンディーネは子供を一人一人包み込んで綺麗にしていく。戦いにおいてはイフリートの方が強いだろうけど、生活に密着した能力はウンディーネが最強かもしれん。汚いのも嫌がらずにやってくれるし。
「セ、セイ。お前は何をしているんだ・・・」
「アーパスの眷属にウンディーネって大精霊がいてね、いま子供達を洗ってくれている」
そして職員さんに寄付したお金で子供達の清潔を守れるようにお願いしておいた。
「じゃ、次に行こうか。一人でも感染してたらここと同じようになるから」
と全部の孤児院をまわった。初めの所が一番酷く、他は感染した子供がまだ少なかった。後で発症するかもしれないのでポーションを常備薬として渡しておいた。
「さ、これで終わりだね。ギルマスには予備を渡しておくよ」
「お前は一体何者なんだ・・・?」
「飯食いながら話す?」
昼過ぎになったので軽く飯を食いながら話することに。ウンディーネは各孤児の汚れを取ったあと纏わりついていたのでお礼に妖力を少し流しておく。
「俺は風の神様ウェンディの加護を受けたパーティなんだよ。というか仲間にウェンディと火の神様ヘスティアがいる」
「は?神が仲間?」
「そう。元々はウェンディの力が落ちて、その力を取戻すために冒険者になってね、そこにヘスティアが加わったんだ」
「さっきのウンディーネってのは?」
「この国の神様の眷属の大精霊。今も俺に纏わりついてるよ。ここに来るときに仲良くなったんだ」
「意味がさっぱりわからんぞ」
「皆に見えないから理解出来ないだろうね。でもね、アクアはこれから強い魔物が増えるかもしれない」
「なぜだ?」
「アーパスが拗ねてるから」
「拗ねてる?」
「神の加護ってどんなのか知ってる?」
「作物を実らす雨降らしてくれてるんだろ?」
「正しくはそうじゃないんだ。神の加護は魔物を弱くするとか人間が勝てないような魔物を出なくするためのものなんだよ。アネモスは風で、ボッケーノは火山の噴火、アクアは雨でね。やり方はそれぞれ違うけど目的は同じ。ガイアはまだ行ってないからなにが神の加護なのかはしらない。アクアの後に行くつもりだったけどもういいや」
「もういいとは?」
「総本部に顔を出してくれと言われてたんだよ。魔物図鑑のアップデートも頼まれてたし」
と、今までスケッチしたものやメモを見せる。
「こ、これを個人でやってるのか。しかもこんな詳細に・・・」
「まぁ、個人というか仲間たちにやってもらってるんだけどね。もう冒険者じゃ無くなったから総本部に行く必要もなくなったし、頼まれていた素材が揃ったら帰るよ」
「本当に冒険者をやめるのか?」
「別になりたくてなったわけじゃないから。身分証明書代わりに便利だなってぐらい。あんな奴が上でのさばっているような組織ならどうでもいいよ」
「特別ランクなんだぞっ」
「ここに入るときに特別ランクの恩恵を受けたけどまぁなくても問題ないよ。Cランクでもバンパイヤ討伐とかやらされたから。結局ランクなんて目安でしょ?」
「そりゃそうかもしれんが・・・」
「ま、帰ったらアネモスかボッケーノで住民登録するからそれで身分証明もなんとかなるだろうし。魔物図鑑は趣味でやっていくよ」
「ダメだ。お前は冒険者をやめちゃいかん」
「冒険者でなくても困ってたら討伐は受けるよ。それにおれ、組織に入ってなんかやったことないから上手く立ち回れないんだよね。上から物を言われたらすぐにカッとなっちゃうし。権力とか身分をかざしてやられたらなおさらね」
「そうか・・・」
「でもギルマスみたいに現場や困ってる人を助けたいと思ってる人は好きだよ。孤児院で集団感染が出てるとかよく知ってたね」
「俺も孤児院出身だからな。飯もろくに食えない。冬は寒さに皆で身を寄せ合ってなんとか生きていく。病気になったやつから死んでいく、孤児院はそんな場所だ。国営の孤児院はそこまで酷くはないが民間の有志で出来た孤児院はそんなもんだ」
「ボッケーノもそんな感じだったよ。俺も幾ばくかの寄付は出来てもみんなの人生は背負ってやれないからね。でもボッケーノは孤児院に肉の配給依頼が常駐で掛かっててね、冒険者達もポイント多めに貰えるからに肉を持って行ってるよ」
「アクアは肉の取れる魔物が少ないからな。農家から余った野菜の寄付とかはあるが肉は売り物でなかなかな難しくてな」
なるほど。地域性もあるんだな。
「あとよ、強い魔物が出だすとはどういうことだ?」
「あ、それね。アネモスは神を捨てたの知ってる?」
「なんとなく聞いたことはあるな」
「ウェンディの加護は風でね、魔物を弱体化させる程の風は暴風になって街にも被害が出るんだよ。だから加護の事を知らないアネモスの国民はウェンディを疫病神呼ばわりして信仰をやめたのが10年くらい前なんだよね。で、最近急激に強い魔物が出始めている。それまで弱い魔物しか出なかった国だから冒険者もさほど強くなくて多分これから大変になると思う」
「風の神様はアネモスを見捨てたのか?」
「国民がウェンディを見捨てたんだよ。加護が無くなって被害が大きくなって初めて神に祈りを捧げるんじゃないかな?手遅れかもしれないけど・・・」
そこまで言ったセイはギルマスやリタやラームの両親の顔が浮かんだ。やはりウェンディはちゃんと神に戻さないといけないと思うのであった。