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炙り出し

こいつは・・・


「ヘスティアっ俺を殴ってくれっ」


「なっ、何だよ急に」


「どうぞ皆様こちらへ」


セイはヘスティアを殴れと言ったが意味が分からず躊躇すると紳士は別室にどうぞと案内した。目の光が飛んだセイは言われるがままに付いていく。


「お、おいセイっ」


「お嬢様方もこちらへどうぞ」


そして別室に入ってもセイは目の光が消えたままだった。


「おっと、動くな」


ひょうたんからサカキ、ぬーちゃん、クラマ、タマモが出てくる。


「セイに何をした?お前はバンパイヤだな?」


「ハイ。仰るとおりです。お話をしたくてチャームをかけましたがそれ以上何もする気はございません」


パチンと指を鳴らすとセイの目に光が点った。


「あれ?ここは?サカキ達はいつ出てきた?」


「お前、油断し過ぎなんだよっ。またチャームにやられたんだよ」


サカキ達はセイに異常を感じて出てきたがバンパイヤだと認めた紳士からは敵意を感じないので臨戦態勢を解いた。


「すまん。俺はまたやられたのか?」


「そうだ。気をつけろまったく」


サカキにそう呆れられた。


「で、バンパイヤがセイに何の用だ?」


「お話を聞きたくてお招き致しました。あなた方が倒されたバンパイヤに付いて」



セイは最後まで悪意を消さなかったバンパイヤを討伐した話をする。


「そうでしたか。ここへは私を討伐しにこられたのですか?」


「いや、単にアーパスのステンドグラスを見に来ただけ」


「あの絵をご覧になられていたのはなぜですか?」


「あの絵から妙な波長を感じたから気になったんだよ。あれを描いたのはお前か?」


「いえ、人間です。あの絵の裏には悪魔召喚の方法と魔法陣の描き方が書かれております」


「なんだとっ?」


「悪魔召喚の方法はこうして広まっていったのです。そして極一部の人間がその事を知っていてあの絵を探しているのですよ」


「あれは悪魔召喚をするかもしれない者を炙り出す為のものか?」


「はい」


「炙り出してどうするんだ?」


「その手の人間は何を言おうとも召喚を行おうと致します。私はこの世界に仲間が来るのは反対なのですよ」


「召喚を試みるような人間を殺しているのか?」


「いいえ。単に血を少し吸って操ります。これで召喚をしようとはしなくなりますし、この絵の事も他の者へ教えなくなるのです」


「なぜ仲間が来ることに反対なんだ?」


「単にこの世界はバンパイヤにとって生きづらいからですよ。とは言っても魔界は退屈な所でございましてね。何もない世界でただ生きているだけなのです。もっと上のアークデモンクラスなら違うのかもしれませんけど」


「ならこっちの世界の方が刺激があって面白いんじゃないのか?」


「初めはそうでしたね。しかし、飽きるのですよ。刺激も続けば飽きます。飽きるとより強い刺激を求めるようになり、そして敵が増えてやがて滅びます。結局は魔界で退屈だといいながら暮らしているほうが良いのではないかと思うのです」


「なるほどね。で、お前は人間を殺してないんだな?」


「大昔は殺したというか死に至らしめていましたよ。人間の血を糧としていましたから」


「今は?」


「ただここの館長として生きているだけでございます」


「魔界に帰れる方法があればどうする?」


「そうでね。帰るかもしれませんし帰らないかもしれません。退屈なのは同じですから」


「あの絵はどうやって手に入れた?」


「あの絵の中の小さな魔法陣は有効というか魔界に繋がっています。小さくて誰も通れませんが。私はあなたと同じく魔界からの波長を感じたので持っていた人間を襲って奪い取りました」 


「出処はわかるか?」


「神無し国出身だとしかわかりませんでした」


「最後に、なぜ人の血を吸わなくなった?」


「あのステンドグラスです」


「ステンドグラス?」


「はい。あのような美しい方がいるのであればいつか会えるのではと思った次第です。それにあのステンドグラスを作ったのも人間。もし私が死に至らしめた人間もあのような物を作れたかもしれないと思うと血を吸うのを躊躇うようになりました」


「そうか。もう血を吸いたい衝動はないんだな?」


「いえ、ありますよ。ありますがそれを抑えて耐えるのもまた刺激なのです」


「抑えきれなくなったらどうする?」


「ステンドグラスがあれば大丈夫なのです」


「そうか。なら正直に話した褒美に刺激を一つやろう。気にいるかどうかはわからんがな」


セイは砂婆にトマトと濾すための布を持ってきてもらった。ウラウドで飲んだトマトジュースを作ってもらうために。


トマトジュースを丁寧に濾して館長に飲ませてみた。


「これは・・・。とても美味しいですね」


「ある人に教えてもらったものだ。気に入ったなら自分で作れ」


「はい。ありがとうございます。休館日にあのステンドグラスを眺めながらこれを飲む楽しみが出来ました」


「そうか。もう悪さしていないようだから俺たちも何もしないけど、悪さしたら討伐するからな」


「その刺激もいいかもしれませんね」


そうニヤッと笑った。


「それとな、お前も神が見えるぐらいまで精進したらあの女神に会えるかもしれんぞ」


「えっ?」


「今ここにあの女神がいる。精進が足りないお前には見えないだけでな」


「ま、まさか・・・」


アーパスも今のトマトジュースを飲みたいと言ったので飲ませてみる。


グラスが宙に浮いてトマトジュースが消えていく。


「美味しい」


「ま、バンパイヤの寿命がどれぐらいあるのか知らんが精進を続けたら見えるようになるかもな。アーパスもお前が気に入ったトマトジュースをいま美味そうに飲んだぞ」


「それはこれから生きていく糧としてはとても甘美。ありがとうございます。どのような精進かはわかりませんがお会い出来る可能性があると言うことがわかっただけでも僥倖です」


そしてバンパイヤの館長はこれからも召喚に興味を示した奴を炙りだすそうなのでそいつの情報を細かく調べておいてくれと頼んだのであった。




「セイ、いいのかよ?」


美術館をでたらヘスティアがそう聞いてくる。


「ま、もう悪さしないならいいんじゃない?それにここはアクアだからアーパスが気に食わないなら神の浄化でも食らわしてやればいい」


「私の勝手な偶像に惚れるとは哀れで何もする気が起きない」


「らしいぞ。さ、日も暮れたし飯食いに行こうぜ。もう酒も樽で頼んであるからな」


「よーし、飲むぜぇ。つまみはなんだ?」


「ピザだよ。食ったことないだろ?」


「おう、酒に合うなら何でもいいぜ」



と予約していたピザ屋に行く。中は老若男女問わず人がたくさんいて賑わっていた。予約しておいて正解だ。


アーパスとウンディーネも参加しているので予約していた席が足りない。他の席も満席だ。


「アーパス、膝に座れ」


食べるふりアゲインだ。ウンディーネも纏わりついているからなんとかなるだろう。周りから見えにくい位置に座りサカキとクラマの影に隠れるようにした。


そしてじゃんじゃん頼んでいく。


「あっちーっ」


ヘスティアは串切りトマトにやられたようだ。


セイは両手で持ってアーパス、ウンディーネ、自分とローテーションして食べていく。そして甘口のシャンパンも。


「ふふふふっ」


「うっひゃっひゃっひゃ。やめろっ」


ウンディーネが耳元でふふふと笑うのがくすぐったい。息をかけられているわけでもないのにくすぐったいのだ。


「だって楽しーの」


「うん、美味しいし楽しい」


ウンディーネもアーパスもこうして皆で食べて飲んで嬉しいようだった。


樽で頼んでいた酒も飲み干し、ピザメニューも制覇したセイ一行はお腹パンパンになって宿に帰る。サカキ達はとっくにひょうたんの中だ。


寝てしまったのがウェンディだけなのが幸いだった。


「ウェンディは甘えん坊」


「こいつは飯食ったらすぐに寝るんだよ」


セイはウェンディをおんぶして歩く。


ヘスティアは酔ってご機嫌なのか水路の手すりに乗って、よっ、ほっ、とか綱渡りみたいにして遊んでいる。


「ヘスティア、落っこちるぞ」


「へーき へーき」


ツルン


「うわっ」


ヘスティアが足を滑らせて落ちかけた。


「なーんてな」


ヘスティアは宙に浮いて落ちなかった。


ブッ


それを見ていた周りの人が驚く。


「ほ、ほらっ。こんな所で魔法を使うなよ」


慌てて誤魔化すが浮遊魔法というのも凄いものらしく余計に騒ぎになってしまった。


ヘスティアはただでさえ人目を引く。美人でもあるが燃える様な赤い髪は目立つのだ。俺は黒だしウェンディは青。なんせ人目を引く。サーカスの宣伝をするちんどん屋みたいなものだ。


ねーちゃん浮遊魔法の使い手とかすげぇなとか人が寄ってきてしまった。


「おっ、そんなにすげぇか?こんな事も出来るぞ」


と空中で一回転する。


わぁぁぁっと拍手が起きるので調子に乗ったヘスティアは空中パフォーマンスをやりやがった。


あーあー、どうすんだよこれ?


しかし・・・


「ヘスティア、さっきからパンチラしてんぞ」


「え?」


「お前、スカートなの忘れてるだろ?さっきから丸見えだ」


見えてるのは神服のホットパンツなのだがスカートから見えるとパンツと変わらん。


「見るなぁぁぁぁっ」


恥ずかしくなったヘスティアはハニーフラッシュしやがった。


ボッと赤いワンピースが一瞬で燃え尽き、炎のビキニとホットパンツにロングブーツ姿になった。


「おーっ!いいぞねーちゃんっ」


「うるせぇっ!見んなっ」


セイは赤いマントを投げてヘスティアに渡したらそそくさとそれを着て前を閉めた。


「はい、終わり終わり。解散解散」


なぜかたくさんのおひねりをもらって宿に帰った。ヘスティアはまだ熱を発している。熱いからやめろ。


「みっ、見ただろ?」


「お前のいつもの格好だろうが」


「な、なんか恥ずかしくなったんだよっ」


「ならこれからもちゃんと服を着てろ。人前でハニーフラッシュすんな」


下に神服を着てなかったらどうなってたと思うんだ。


そして部屋に入ってベッドにウェンディを寝かそうと思ったら耳にふーしやがった。


「やめろっ。いつ起きてたんだお前は?」


クスクスクスクス


だめだ酔ってやがる。


ヘスティアも恥ずかしいのを誤魔化す為に部屋の酒をグッグッと飲みだしたし、セイにくだを巻きはじめた。


「だいたいセイは浮気もんなんだよぉ」


何が浮気なのか誰に浮気しているのかさっぱりわからない。


「聞いてんのかおいっ」


「ぬーちゃん、助けて。絡まれてるんだ」


「眠いからやー」


酷ぇ、ぬーちゃんが俺を見捨てやがった。この面倒臭そうな状況を察知したに違いない。


ウェンディも酔って何回もフーフーして来やがるし、アーパスとウンディーネまで酔おうとしてやがる。


くそっ、


セイも負けじと飲んで対抗するのであった。


その後、かなり大騒ぎしたようで、翌朝宿の人にクドクドと怒られたのであった。





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