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いらぬことを言いたくなる

「どこに行きたいんだよ?」


「こっち」


と連れて行かれたのはパン屋のようだ。人が並んでいるから人気店なのだろう。


「なんでパン屋なんだ?」


「教会にお供えしてくれたことがあるけど見ているだけだったから」


「それ、食べたらダメなのか?」


「試したけどダメだった。でもセイがいると食べられるから」


ん?


「ヘスティア、お前は俺のとこに来る前に外界の食べ物食べようとしたことあるか?」


「ねぇよ」


「ウェンディは?」


「ないわよ」


「アーパスは食べようとしたんだよな?」


「そう。でも触ることも出来なかった」


それが俺といると食えるようになるのがとても不思議だ。


そしてパン屋の列に並び中に入るととても美味しそうなパンが並んでいた。


「どれが食べたいんだ?」


「これ」


小さめのバゲットになんか挟んである。アーパスがこれといったので、4本取り、他のも取っていく。俺はソーセージのやつとか選ぶとウェンディとヘスティアがもりもりと勝手にとっていた。まだ並んでいる人もいるので買い占めると迷惑が掛かるからそれ以上取るなとやめさせた。


なぜパン屋で銀貨2枚とかになるのだ?


フレッシュジュースを売っている屋台でジュースを買って公園で食べる事に。ここも噴水があるからそこそこ涼しい。


「肉の食べるー」


首からぬーちゃんも元に戻って肉が乗っているパンを選んで食う。


「ぬーちゃん、ここ蚊がいるから弱い毒を撒いて」


と殺虫剤代わりに撒いてもらった。プィーンプィーン鬱陶しいのだ。


アーパスが食べたいといったのはイチジクみたいな物を甘く煮たやつとクリームチーズが挟んであった。パンもパリッと香ばしくて美味しい。


「美味しい」


「だね。人が並ぶだけの事はあるよ。どのパンも美味しいや」


ソーセージが乗ったパンも美味かった。昨日の飯屋も美味かったし、ケーキも生クリームのケーキでアネモスのよりずっと美味しかった。


「アクアは食べ物美味しいね」


「他は美味しくないの?」


「いや、不味くはないけどここは別格に旨いよ。作物が豊富ということは家畜も豊富に飼えるだろうからね」


アクア近くになってからはオークやミノタウロスとかほとんど見かけなかった。虫の魔物ばかりなのだ。


「それとスパイス関係が充実しているのかな?」


塩胡椒以外の風味もたくさんするからそういうものの違いなのかもしれない。肉そのものは黒豚、角有りの方が旨いけど味付けはこちらの方が上だな。


ウンディーネも混じって食べているのでもりもりと買ったパンは綺麗に平らげられたのであった。


そして食ったばかりなのに夜は何を食べるかとなり街の中を散策する。


「これなに?」


「へー、ピザ屋なんてあるんだね。晩飯はここで食べようか?」


ということになり、一応予約を入れておいたのであった。あと酒を大量に飲むと思うから蒸留酒を樽で仕入れといてと先にその分の金を払っておく。


その後は観光用のゴンドラに乗ってあちこちを案内してもらった。ウェンディとヘスティアは俺にもたれて寝てたけどね。


「お客さん、ここの美術館は見ておいた方がいいかもな」


「なんかあるの?」


「最奥にあるアーパス様のステンドグラスが見事でな。今からならちょうど夕日が差し込むから一番綺麗に見えるんだ。そりゃあ神々しいんだぜ」


「へぇ。なら見ておこうかな」


「あとな、絵もたくさん展示されてるんだがよ、どれかの絵に秘密が隠されているって噂もあってな。むかーしからその秘密を探りに来ている奴も多いんだ」


「何の秘密?」

 

「お宝の在り処を示した地図や暗号とか言われてるけどな、それが何なのかすらわかってない。ただ秘密が隠されるって噂だ」


「へぇ。面白いね」


とは言ったもののそれは客寄せの為の噂だなのかもしれないな。


神々しいステンドグラスにはちょっと興味があるので美術館前で降ろしてもらった。


見えてるヘスティアを抱っこするわけにはいかないのでペシペシする。


でも起きない。これやっぱり異常だよな?


「もー、うちの嫁さん達は仕方が無いなぁ」


下手くそな一人芝居を打ってヘスティアを抱っこして紐を掛けてからウェンディをおんぶした。


「だ、大丈夫か?」


「うちの嫁さんはいつもこんなんだから慣れてるよ」


もう二人を嫁さんと言うしかない。そうしないとこんな事をしているのはおかしすぎるのだ。


ヘスティアも軽いとはいえ普通に重みがあるから前後合わせて80kgぐらいの重りと同じだ。それを背負ってゴンドラから降りるのが怖い。


「手伝ってあげる」


スザザザザっと水路の水が盛り上がってセイ達をゴンドラ降り場へとウンディーネが運んでくれた。


「あ、あんちゃん。それは魔法か?」


「そ、そうそう。おっちゃんありがとうね」


女性二人を抱っことおんぶなんて人目を引きすぎる。早く降ろさなければとすぐそこのベンチに置いた。


「起きないの?」


「こいつら寝たらこんなんなんだよ」


任せてとウンディーネが二人の顔を包み込む。


ガボボボボボっ


「なにしやがんでいっ」


ヘスティアは溺れかけて目覚め、ウェンディもゲッホゲッホして起きた。


「ウンディーネ、君は素晴らしい」


「エヘヘへへ」


そう言うと嬉しそうに纏わりついてくる。まるでぬーちゃんの精霊バージョンだな。




美術館に入る前にコンコンとウェンディに絵とかに触るなよと念を押しておく。


入場料を払って中に入ると人も結構いてそれぞれ気になる絵をじっくりと見ているようだ。絵に興味があるのか秘密を探っているのかはわからないけど。


「絵なんて見てどうすんだよ?」


「芸術だよ芸術。こういうのは美の感性を育ててくれるんだぞ」


と適当な事を言っておいた。


お目当ては最奥のステンドグラス。夕日が差し込む神々しいアーパスとはどんなのか見ておきたいのだ。


他の客もそれを知っているのか夕日が指し込む時間にあわせて見に行くようだ。


「おーっ、スッゲー」


想像していたより遥かに大きなステンドグラスにアーパス像が型どられているというか描かれているというかステンドグラスになっている。とても色とりどりで美しい。


「セイ」


「なんだよ?」


ウェンディがステンドグラスを見てセイの袖を引っ張る。


「わたしのも作って」


は?


「何言ってんだ?」


「アネモスにわたしのも作って」


「俺がこんなの作れるわけがないだろうが」


「わたしも神々しく祀られたいのっ」


「神々しくも何もお前は祀られてないだろうが」


「キィーーーーッ」


またいらぬことを言ったセイはウェンディに癇癪を起こされ、美術館の中で騒ぐから睨まれてしまった。


こんなところでバカップルをすんなという目だ。 


「セイ、俺様のも作ってくれよ」


「落ちこぼれには必要ない」


また突然隣にいるアーパス。気配を感じさせないのは忍びなみだな。


落ちこぼれといわれたヘスティアは怒って熱を発しているけどハニーフラッシュしたらここの皆に見られるぞと忠告しておく。


「アーパス、お前こんなにちゃんと祀られてんじゃないか」


「これは私であって私じゃない。こんなに背も高くないし胸も無い。髪型も違うし似ても似つかない。どうせ私はぶつぶつぶつ」


ネガティブモードに入るアーパス。ウェンディと違って自分の事をよく理解しているようだ。


昨日と同じく浴衣姿のアーパスはステンドグラスみたいな美女ではないがとても可愛いらしい。


「俺はこのステンドグラスのアーパスより本物のアーパスの方が可愛くて好きだぞ」


「本当?」


「本当。その髪型もよく似合ってる」


「嬉しい」


と手を繋いでくる。


「けっ、お前、女神なら誰でもいいのかよ」


ハニーフラッシュしかけたヘスティアが拗ねてそういう。

女神ならなんでもとか失礼な。別に女神だからというわけでもない。アーパスはスズちゃんみたいで可愛いのだ。でも拗ねたヘスティアへのフォローも必要だ。


「ヘスティアはヘスティア像より美人だろ?拗ねんな」


「やっ、やめろよ〜」


チョロい。チョロ火だ。


「わっ、わたしはっ?わたしはどうなのよ?」


「ウェンディ、ちゃんと前向いて話せ。後ろ向いて話しかけるとか失礼だぞ」


「キィーーーーッ」


またいらぬことを言ったセイをポカポカと殴るウェンディ。


「ごほんっ」


前の人に睨まれて咳払いをされてしまった。どうやら俺たちには美術館は向いていないようだ。神々しいステンドグラスも見たのでそそくさと退散することに。


絵の事はよくわからないのでザーッと見て帰る。


「ん?」


なにやら妙な波長を感じたセイ。


ハガキサイズでいくつも雑に並んで飾られている隅の絵からその波長は出ていた。


その中の絵をじっと見てみる。


「あっ」


「その絵がどうした?」


本当に、本当に小さくではあるが絵の中に召喚の魔法陣らしきものが描かれている。なんだよこれ・・・


その絵は魔法使いらしき者が儀式のような事をしている姿が描かれていた。大きな壺のような所から人の手足がみえ、壺の中は血で満たされたような赤。魔法陣の周りには人や獣の頭蓋骨と蝋燭がおかれ、魔法使いは自らの血を流してその血で魔法陣を描いていた。


「おや?何か気になる絵がございましたか?」


食い入るようにその絵を見ていると美術館の人らしき紳士に声をかけられた。


「いえ、グロテスクな絵だなと思いまして・・・」


お気に召されたならお譲りいたしますよ。金貨100枚と少々高額ではございますが。


セイはその紳士の目を見てしまったと思ったのであった。



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